時は流れ放課後。校門で待っていて欲しいと桔梗少年に託けられ1人恋人を待つ撫子は、その目つきの悪さを塗り潰すほどの『幸せオーラ』的な何かを放ち、衆目を集めていた。
背景にお花畑が幻視できそうな程の『ぽややん』とした幸せそうな雰囲気は、校門を通って下校しようとする帰宅部達を『何だコイツ』と思わせ、一瞬足を止めさせるに十分。
そして、足を止めているものがチラホラいれば人の流れは悪くなり、校門付近がゴチャゴチャと混み始める。
そんな中、群衆全てがその視線を向けざるを得ない巨大なマシンが、意外な程小さい駆動音と共に現れた。
AI制御を前提とした大型電動バイク『YAMADA Thunderbolt』。最高時速300km、満充電での最大航続距離1500km、モーター最大出力200kw/8000RPM、全電装系とモーターに室温超電動配線および室温超伝導コイルを採用し、電気抵抗による熱的ロスを極減。更に大容量リチウム空気バッテリーを搭載する事で飛躍的に航続距離と駆動時間を伸ばしたそのマシンは、言わずもがな超高級車。
もちろん1台600万円のお値段は伊達ではなく、高性能AIによる姿勢制御と高品質スタビライザー、そして倒立フォークのフロントサスペンションとリザーバータンク付きモノショック型リアサスペンションといった足回り装備により操作性と乗り心地は上々な逸品だ。加えてフルカーボンフレームにより大型車ながら車体は軽くなっており、その辺りも乗り心地に大いに寄与している。
そんな、特撮ヒーローが乗っていてもおかしく無いレベルのモンスターマシンを駆るのは当然ながら、皇塚桔梗少年。校門前に滑らかに駐輪してフルフェイスヘルメットを脱ぐその姿は、ドラマの撮影のように様になっている。
パールホワイトをベースに要所要所に金色をあしらったバイクのカラーリングも相まって、まさに白馬の王子様*1と言ったところだろうか。
そんな彼が、メットインから新たなメットを取り出して歩み寄れば、校門前の人集りが黄色い悲鳴をあげるのも無理はない。
この場にいる全ての乙女はこの瞬間、彼の背に縋り、風を切るバイクに跨って旅立つ己を夢想したのだ。だが、悲しいかな、その栄誉に与るのは、犇めく美少女達ではなく、校門前に立つ目つきの悪い地味な女の子である。
「やあ、撫子ちゃん。お待たせ」
そんな言葉と共に手渡されるヘルメットは、この空間においては婚約指輪に等しい代物。選ばれた乙女の姿を己と比較し、彼我の容姿差に『納得出来ぬ』と脳が悶える乙女達は数知れず。
だが、そんな彼らの怨嗟すら気にならない程に、今の撫子はテンションが上がっている。
「早速だけど行こうか撫子ちゃん。ネズミー楽しみだね」
「うん!」
なんて会話で無自覚に周囲の嫉妬心を爆発させてもどこ吹く風。今の撫子のメンタルは限り無く無敵に近いのだ。
だが、そんな彼女でも、『ベルトで己と桔梗少年を固定する*2』という行動には流石に動揺を覚えたのは事実。挙句に『背中が撫子ちゃんであったかいね』なんて言われれば、体温が余計に上がってしまうというものだ。
だがそれでもしっかりと、蕩け切った顔で桔梗少年の背に抱き付く撫子。彼女はこの瞬間己が世界で1番幸せな女の子だと確信し、動き始めたマシンの加速度に怯える事もなく、ただこのひと時を全力で楽しむばかり。
風を切って走りつつ、フェロモンの甘い残り香を残していく桔梗少年の運転は、高校1年生には到底思えぬ軽妙なもの。交通法規は厳守しつつ、それでいて最短最速で駆けるそのドライブは撫子への気遣いに溢れており、彼女にはまるで疲労も負担もなく、一陣の風になったかの様な清々しい感覚と桔梗少年の温もりを存分に満喫することが出来ている。
そうして楽しんで居たからか、それなりに長かった筈のバイク移動は体感時間数分*3で終わり、愛し合う恋人達は無事に目的地へと到着した。
白亜の巨城が聳える夢の国。あらゆる女性が一度は『彼氏とネズミーデート』などという叶わぬ夢を夢想するこの場所で、やることといえばただ一つ。
「さて、それじゃあ目一杯楽しもうか! 何から乗る?」
「えっと、タワーオブホラー乗りたいんだけど、桔梗くんは恐怖系って大丈夫?」
「もちろん! でも怖かったら抱きついちゃうかもね?」
「そ、その時は、うん、是非?」
アトラクションに、パレードに、パーク内グルメや土産物屋。ナイトパスでは本来回り切れぬほどのその場所はしかし、『男性特権』の適用範囲。『VIPパス』なるチートアイテムを交付された桔梗少年と彼の『お連れ様』である撫子は一般待機列を横目に見ながら特別レーンで誘導され、衆目を集めつつも思う存分パークを楽しむことが出来たのだった。
ただ、その際に一般客からスマホを向けて撮影され*4、『ネズミーにカンパニュラ君*5居たんだけど!』という投稿が無限に出回ったせいでSNSのトレンドを『ネズミー』『カンパニュラ』『あの女』『女誰』などのワードが席巻する事となり、撫子は肝を大層冷やすことになったのだが、それはまた後の話である。
好きなキャラクター
-
皇塚桔梗
-
粟草紀子
-
尾花茅子
-
河原撫子
-
袴田藤子
-
萩原久仁子
-
諸葛芳子