貞操逆転男性希少世界性癖屈折美少年   作:黒山羊

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5癖目 冗談はよしこちゃんだぜ(震え声)

 私立錫鉾学院高等学校1-Aにおける陰キャ界の女王、ガリガリボサボサ髪ギョロ目歯並びガタガタ青白肌貧乏女子こと諸葛芳子女史を、最強無敵性癖屈折超絶美少年こと皇塚桔梗少年が白昼堂々拉致する事案からしばらく。

 

 宇宙を背景に呆然とする猫が脳裏を占めていた芳子ちゃんがどうにか再起動を果たした頃には、彼女は何やら高級そうなマンションの最上階で、素人目にも高級品とわかる調度品に囲まれながら、ソファーに座らされていた。

 

 目の前にはティーポットとカップ。驚くほど繊細な絵付けと金細工が施されたそれもまた高級品だが、問題なのはそのカップが2つ並んでいる事だろう。

 

「どうしたの芳子ちゃん、冷めちゃうよ?」

「ひぇ……」

 

 情け無い声で怯えてしまう芳子ちゃん。だが、それも無理もない。

 

 リビングらしきこの空間にはいくつかソファが並べられているというのに、あろう事か自分の隣で肩を寄せてくる美少年。

 

 彼こそが今この部屋へと諸葛芳子を拉致した張本人、皇塚桔梗なのだから。

 

 滅茶苦茶良い匂いがする、睫毛もあり得ないほど長い、その容姿にケチをつける場所が一点もない程の凶悪なまでの美貌の持ち主。正直に言えば、芳子ちゃんの中の女子マインドはときめいているし、興奮している。

 

 女子など全員性欲モンスターでセックスの事しか考えていないのだから、彼女の思考に先程からエッチな妄想がチラつくのは無理も無い事なのだ。

 

 

 ————だがそれ以上に、彼への『恐怖』が優っている。

 

 

「大丈夫、取って食うわけじゃ……いや、君を怪我させようとかじゃ無いから」*1

 

 そう告げてニコニコと微笑むその笑みの裏側が、芳子にはさっぱりわからないのだ。

 

 何故、自分なのか? そんな問いばかりが彼女の脳裏を占め、怯えながら味のしないお茶を口元に運ぶ事で、桔梗少年から目を逸らす。

 

 背中に滝のような冷や汗。温かいお茶を飲んでいるはずなのに震える手足。

 

 このまま殺されてしまう未来すら幻視する芳子の脳は、圧倒的な恐怖の中『どうしてこうなった』とばかり考え続けていた。

 

 ————正直、芳子は自分の価値の無さを正確に自覚している。

 

 これが100年前なら臓器売買などというのもあり得たのだろうが、今や臓器は生体3Dプリンターで作れる時代だ。人工血液もとっくに実用化されているので、売血の線もない。

 

 ————ならば何故? 

 

 そう考える彼女の脳は、自身の身の上を振り返り始める。

 

 彼女は端的に言えば孤児だ。精子バンクによる人工授精で彼女を産んだ母親が自動車事故で若くして世を去って以来、交通遺児支援金と母の遺産をやりくりしてどうにかこうにか生きて来ただけのド貧乏系女子なのだ。

 

 そも、彼女の母自身が人工授精の産物なので頼れる身寄りという物もなく、正真正銘の天涯孤独。中学校の担任や進路指導の先生が親身になって勉強を教えてくれた事で、どうにか特待枠で高校に入学した彼女は、ようやくバイトをして生計を上向かせられるかどうか、というところだったのである。

 

 故に、彼女を捕まえたところで一銭の得にもならない。多分、カブトムシの方が子供に百円で売れそうな分価値があるレベルだ。

 

 と、そこまで考えた辺りで何やら悲しくなってきたが、それでもやはり、何故自分が拐われたのかという謎については、とんと見当も付かない。

 

 何しろこの思考は先程からループしているのだから当然だ。その度に宇宙と猫を幻視している彼女の脳だが、流石にそろそろ痺れが切れたらしい。

 

 つまり、行き詰まった命題の答えを自身の隣に座る少年に訊く覚悟を決めたのだ。だが覚悟を決めたとて、恐怖が消える訳ではない。

 

 この質問によって少年の機嫌を損ねれば、諸葛芳子という生命はその場で消えてしまうかもしれないと、彼女は真面目にそう考えているのだ。

 

 故に、心臓はバクバクと狂った様に脈打ち、冷や汗はもはや止まるところを知らず、ストレスで目の前がチカチカと明滅する。

 

 そんな中でもなけなしの勇気を振り絞った彼女は窒息しそうな喉から無理やり言葉を捻り出し、どうにか少年に真意を問う。

 

「ゔぁ、あの、その、すいません。えっと、どうして私を、その、連れて来たんですか?」

 

 決死の覚悟で放たれた問い。それを聞いても、少年は笑顔を崩さなかった。だが、その頬には少しばかり赤みが差し、何かを堪えているのか、迷っているのか、その指先はクルクルと手遊びを始め、ねっとりとした粘着質な視線が芳子の瞳をじっと捉えて離さない。

 

 

 ————怒らせた? 

 ————怒らせてない? 

 ————怒ってる? 

 

 ————どうしよう。

 

 ————————私。死。

 

 

 そんな思考が駆け巡る芳子の脳内。その絶望に応じて全身から血の気が失せていく感覚と共に、彼女は意識を再び手放し掛けて————その寸前、目の前の少年から放たれた怒涛の言葉の洪水により、思考の一切を漂白された。

 

「僕が此処に芳子ちゃんを連れてきたのは他の人に取られる前に僕のモノにしたかったからなんだよね。だってほら、芳子ちゃん可愛いでしょ? 全然美容院いってなさそうなこの髪とか、週一ぐらいしかシャンプーしてなさそうですっごいエロい匂いだし、ギロギロしてるお目目も可愛すぎて舐めまわしたいし、ガサガサの肌もそうだよ。というか舐めて良い? 良いよね? うん美味しい。芳子ちゃんの味覚えたからね♡ でもまだキスは気が早いかな? 早く芳子ちゃんのささくれ唇をプルプルになるまで舐めたいけど付き合う前にちゅーはダメだもんね♡ 付き合ったらいっぱいちゅーしようね、そのガタガタの歯並び絶対舐め回すって決めてるんだから僕以外にちゅーしちゃダメだよ? そうそう、さっき抱っこして思ったんだけど芳子ちゃんアバラ浮いてない? このあと一緒にお風呂入る時、芳子ちゃんの肋骨でボディソープ泡立てて良いかな? というか身体同士で洗いっこしようよ♡ 芳子ちゃんの身体を全身で感じたいからさ。あ、着替えの服は気にしないで、昨日下校したあと6パターンぐらい買っといたから。もちろん気に入ってくれたら全部あげるね♡ でも芳子ちゃんが今着てる服は僕の枕に詰めるから貰うね♡ そうそう、下履きも新しいの買ってあげる♡ あの靴多分何年かずっと履いてるやつでしょ? 処分は僕の方でしとくね♡ とりあえずクロッグシューズ*2買っといたから買い物に行く時はそっちを使ってね。あ、そうだそうだ。買い物終わったらご飯食べに行こうよ。芳子ちゃんは今のスリムなままでも可愛いけど、子供の為にも栄養つけとかなきゃ♡ ってごめんね、気が早くって。でも将来の事って大事だと思うんだ。僕は子供はラグビーチーム組めるぐらい*3欲しいんだけど芳子ちゃんは何人欲しい? もっと多くても良いよ♡ そうだ、芳子ちゃんの引越し準備もしなきゃ。とりあえず僕の方で業者は手配するから後で日程決めようよ。住むのは今日から住んでくれて全然良いから急がないけどね。大丈夫、お金の事は心配しないで。ちょっと投資とか色々やって小金稼いでるから見かけよりお金持ちなんだよ僕。どう? 優良物件だと思わない? 今時逆玉*4だって不思議じゃないしさ。あ! そういえば婚約指輪も観に行かなきゃね。給料3ヶ月分だし90万ぐらいのやつで良いかな? でもまずは婚約より先に交際かな? というわけで僕の彼女になってほしいんだけど良いよね?」

 

 一切の息継ぎもなく、妙に恍惚とした様子でそう告げた桔梗少年。そのブラックホール並の重圧に屈し、内容が全く頭に入らぬまま、恐怖心から首をガクガクと縦に振ってしまった哀れな芳子ちゃんは、斯くして皇塚桔梗少年の『彼女』にされてしまった。

 

 半ば、というか完全に強要される形で始まったその関係性について、彼女が冷静な視点で振り返る事が出来るようになるのは、ここから随分先の話である。

*1
正直美味しく頂きたいので言い直した

*2
クロックス的なサンダルシューズ

*3
15人

*4
この世界では裕福な女性に男が婿入りするのが玉の輿

好きなキャラクター

  • 皇塚桔梗
  • 粟草紀子
  • 尾花茅子
  • 河原撫子
  • 袴田藤子
  • 萩原久仁子
  • 諸葛芳子
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