至高の夢は終わらない(リメイク版)   作:ゲオザーグ

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行けども行けども

「ウルベルトさんって、あんな禍々しい感じの好きじゃありません?」

 

「だから単騎で相手しろって?願い下げだよ」

 

 空を見上げてぼそりと漏らすたっち・みーに対し、即刻ノーを突き付けるウルベルト。全盛期ならここから言い争いに発展したものだったが、現在は状況がそれどころではないため、たっち・みーも「いえ、そこまでは……」と濁しただけで、それ以上ウルベルトに余計なことをいう様子はない。

 主任を撃破した後にモモンガ達と合流し、メンバーが揃ったアインズ・ウール・ゴウンの面々が、眼球を思わせる球状の本体から複数の触手を伸ばす兵器――『AMMON』を始めとする各種兵器を払い除けながら進んだ先に着いたのは、すぐ後ろの炎上崩壊する市街地から一転して広がる、荒れ果てた大地。先に何があるのかも分からないが、それ以上に今不安を煽るのは、相変わらず現実(リアル)を思い出させる雲に覆われた赤い空を背景に浮かび、湾曲したフレームに胸部と思わしき個所から溢れる青い光が禍々しさを演出する、『EXUSIA(エクスシア)』――能天使の名を冠しながら悪魔を思わせる風貌の兵器。

 その機体から聞こえるのは、先程撃破した後に通った地下通路で再度出現し、再度倒したと思った矢先、今度は胸の大穴を始め各所破損した状態で倒壊した柱から引き抜いた鉄骨を右腕にまとわせ、殴りかかってきたところを再度撃破したはずの主任の声だが、先程までの鬱陶しいほどに扇情的な様子から一転し、今は不気味なほど落ち着き、まるで見定めるような発言をしてくる。

 

「しかし『戦いこそが人間の可能性』とは、かなり歪な考え方だな……」

 

「抗わなければ何も変わらないって意味なら、まさに現実(リアル)に対する皮肉としては、ピッタリなんでしょうかね。尤も抗ったところで、結局は踏み潰されて終わりそうでもありますが……」

 

『証明して見せよう。貴様になら、それが出来る筈だ』

 

 主任らしき対峙者の出した結論――『戦いこそが人間の可能性』と語るその思考を歪と評する死獣天朱雀に対し、ベルリバーは複雑な様子でネガティブな意見を出すが、他のメンバーが論争に混ざる前に、戦闘準備を済ませた『主任』が翼を光らせながら突撃を繰り出す。

 

「『魔法最強化(マキシマイズマジック)』!『魔法位階上昇化(ブーステッドマジック)』!『骸骨壁(ウォール・オブ・スケルトン)』!でもって総員散開ぃ!」

 

 とっさにモモンガが骸骨(スケルトン)達の埋め込まれた防壁を発動させるが、直後散開を指示したように、予想通り防壁は容易く突き崩され、足止めにもならなかった。

 

「何つー威力だ!あれじゃ茶釜さんでも防ぎきれんぞ!」

 

 アインズ・ウール・ゴウン最強の魔法詠唱者(マジックキャスター)と言えば、世界級職業(ワールドクラス)の1つ、『ワールドディザスター』を持つウルベルトだが、ギルド長のモモンガも最強とまではいかないまでも、単純な習得数もあって、魔法担当としては十分強力な部類に入る。その彼が発動させた『骸骨壁(ウォール・オブ・スケルトン)』はまず生半可な攻撃は通さず、下手に接近しようなら埋め込まれた骸骨(スケルトン)達の反撃を食らう。

 それを可能な限り強化したはずなのに、まるで豆腐に正拳突きでも打ち込んだかの如く一瞬で粉砕された様子に、思わず声を荒げたのは獣王メコン川だけだったが、誰もが同様に驚愕し、その意見に共感した。

 実質防御(ガード)が意味を成さない以上、わざわざ身を挺してまで守り通す必要もないだろうが、いくらやられても時間経過で完全復活できるからと言っても、そのポイントはおそらく相当前――下手をすれば1つ下の『自然領域』からやり直さなければならない。

 合流まで時間がかかるだけでなく、引き続き連続での戦闘が想定される以上、ここでメンバー最強の防御役(タンク)たるぶくぶく茶釜を喪失するのは、あまりにもリスクが大きすぎる。故に死に戻り(リスポーン)するなら安全地帯(セーフポイント)を発見してからとの考えから、せめてこの場だけでも凌ぎ切りたいと思いながら分散したメンバーのうち、真っ先に反撃に転じたのは、先程驚愕の声を上げた獣王メコン川と、彼の両脇に手を通して運んでいたグランディス・ブラック。EXUSIAの頭上に回り込み、再度突進を放ちビルに引っかかって動きが止まった隙に、獣王メコン川から手を離して降ろし、同時に自分も戦斧(バトルアックス)を右手に構え、左手には音声操作画面で用意した、発動準備万全の電撃が(ほとばし)っている。

 

「食らいやがれえぇッ!!」

 

「『魔法連射(ラピッドファイアマジック)』、『魔法最強化(マキシマイズマジック)』、『魔法位階上昇化(ブーステッドマジック)』、『万雷の撃滅(コール・グレーター・サンダー)』ァ!」

 

 グランディス・ブラックがEXUSIAの無防備な背中に、獣王メコン川の戦槌(ウォーハンマー)共々戦斧(バトルアックス)を叩きつけると同時に、魔法を発動させた左手で殴りつけると、巨大な豪雷がいくつも連続で発動し、EXUSIAを貫く。響き渡る轟音と目を眩ます雷光、立ち昇る煙に反しダメージを感じさせないが、対照的に大質量を有する武器を叩きつけられた装甲は、大きく歪みが生じ、僅かながら亀裂も見えるなど明らかに破損している。どうやら魔法防御に比べ、物理防御はそこまで高くないらしい。

 

「さっきもそうでしたけど、魔法より打撃のが効果的みたいです!ただ柱ぶん回してた時と違ってビルぶち抜いたりまではしないみたいなんで、引き続き可能な限りタゲ取してますから、近接職のたっちさん達は一緒に攻撃参加して、魔法職のモモさん達は物陰から援護に徹してください!」

 

「わかりましたー!無理しないでくださいねー!」

 

 瞬時にグランディス・ブラックが判明した情報を周囲に伝えると同時に指示を飛ばし、それにモモンガが返事をしながら、ウルベルトや支援(バフ)魔法を発動させていた死獣天朱雀、「後は任せたぞー」と激励を送るタブラやウィッシュⅢを連れて避難する。すでに『万雷の撃滅(コール・グレーター・サンダー)』を放った左手には、戦斧(バトルアックス)同様に武骨で、見るからに破壊力のありそうな突撃槍(ランス)を握っており、それでいて同様に常時発動技能(パッシブスキル)でデフォルトの飛行能力を持つたっち・みーやメグに比べても、器用に空中を泳ぐかのごとく動き回りながら、ミサイルやレーザーキャノンなどの飛び道具を回避しつつ、先程のように突撃を放って動きを止めるや否や、他のメンバーが攻撃しやすいよう、確実に機動力を奪うべく翼を狙い、両手の武器で攻撃していく。

 そうして何度も攻撃していくうち、遂に右の翼から爆発が起き、EXUSIAの動きが止まる。そうなれば最早こちらのものと言わんばかりに、それまで攻撃の激しさと機動力の高さから、戦闘に参加できなかった弐式炎雷と武人建御雷、初撃以来なかなかチャンスがなかった獣王メコン川も攻撃に加われば、間もなくなす術なく叩かれ続けたEXUSIAも力尽き、爆発を繰り返した末に跡形もなく消滅した。

 

「やっと終わったか……にしてもいくら拠点(ギルドホーム)ダンジョンだからって、ここまで連戦が頻発すると、いい加減安全地帯(セーフポイント)が欲しくなってくるわ……」

 

「全くだな。確か始まったのが昼の11時で、今……もうすぐ1時半か。早いんだか遅いんだかわからんし、警告も出てないからまだ大丈夫だと思うが、そろそろいったんナノマシーン注入した方がいいんじゃないか?」

 

「ですね。にしても弾代かかるからあんま使ってなかったけど、今後もあんなのが出てくるんだったら、秘蔵の重量級火器装甲(ヘビーメタルアーマー)も装備しなきゃならんかな……」

 

 装備の選別に悩むグランディス・ブラックを放置して、弐式炎雷と武人建御雷が気にしだしたのは、『ユグドラシル』へのネットワーク接続を行うために必要なナノマシーンの残量。ナノマシーンは新陳代謝に伴い徐々に体外へ排出されていき、脳内の濃度が15%以下にまで低下するとネットワークに接続不能となり、強制的にログアウトされてしまうため、その前に無痛注射器で注入する必要がある。

 『暁の君臨者(エオ・ラグナンテス・クリプター)』の面々が、どれほどの長期戦を見越してこの拠点(ギルドホーム)を構想したのかは不明だが、それこそあれ程大見得切って大々的に宣言しておきながら、強制ログアウトで全滅させるようなセコい手を使う気がないのなら、大規模な連戦を繰り返す以上疲弊するプレイヤーが続出することは明白であり、どこかしらでそうした休憩をはさむための安全地帯(セーフポイント)か、そのための時間を用意しておくはず。少なくともかつて傭兵プレイヤー、NPCも含めた総勢1500人の大討伐隊がナザリックを襲撃した時、階層守護者(フロアボス)担当NPCが撃破された時点でその周辺は安全となったため、そうした軽い休憩のために1時的なログアウトをする余裕はあった。

 

「今んとこマズい人はいなそうですけど、さすがにこの調子じゃもちませんでしょうね。装備の方も余裕があるうちに何とかしときたいですが、そのためにわざわざ一回死ぬってのも……」

 

 撃破を確認して、新たな敵が出現する様子もないことから、安全と判断して戻ってきたモモンガも同意する。仕様が分からない以上迂闊な行動がとれないため、果たしてどうすれば正解なのか。下手にログアウトしたら、そのまま締め出されるなんて事態も、ないとは言い切れない。などと悩んでいるアインズ・ウール・ゴウンのメンバーの耳に、「ピンポンパンポーン」と唐突な電子音が届く。先程『自然領域』にて、『令嬢(フロイライン)』と名乗る『暁の君臨者(エオ・ラグナンテス・クリプター)』のギルド長が、この音の後に説明をしていたことから、おそらく何かしらの報告があるのだろう。

 

『只今1時半から2時までの30分、ナノマシーン補充等のための休憩時間とするわ。その間戦闘は発生しないし、ログアウトしても現在地から再スタートできるから、安心して離席なさい。それと、現時点で攻略最深部の『傭兵領域』にいるプレイヤー達は、2時になったら特別ボーナスとして、その場で装備の損傷含むダメージを全快状態にしてあげる。ただし、その時点でログインしてないとすっぽかされるから、遅れず戻ってくること。それじゃ、引き続き頑張ってね~』

 

 『天の声』とでも呼ぶべきか、『令嬢(フロイライン)』のぞんざいな宣告が下されるとともに、周囲の風の音や、天高く流れる雲の動きが止まる。試しにぷにっと萌えが、付近で巻き上がったまま宙に浮く小石をつまんでみるが、完全にその場で固定されており、便乗したペロロンチーノが力を込めて引っ張ってみても、動く様子はない。

 

「まるで時間停止だなこりゃ。とりあえず、今のうちにログアウトしちゃいましょうか」

 

「そうですね。それじゃあ各員休憩して、今後の戦いに備えましょうか」

 

「さんせー、んじゃまた後程な」

 

 おそらく(トラップ)の発動やNPCの攻撃などに関するシステム類を全て停止したのだろうが、そのせいで異様な空間となったことに紅白鰐合戦がうめくも、ひとまず休憩のめどが立ったことに安堵したモモンガの号令に合わせ返事をしたウルベルトを皮切りに姿を消していき、ナザリックに親族を残してきたたっち・みーとメグ、やまいこは伝言(メッセージ)で連絡してからログアウトする。

 

 

 

 

 

 

「いやー2時間半もかけて半分も終わってないとか、向こうは大激戦みたいだね……」

 

 既に現実(リアル)では大気汚染で生じたスモッグに空が覆われ、とうに見ることのできなくなった満天の星空の下、こちらも地上から姿を消して久しい木々が鬱蒼(うっそう)と茂る、ここが地下深くとは到底思えないような空間。

 ナザリック地下大墳墓の第六階層、『大森林』でも一際大きい――というよりも太いと表現した方が適切そうな巨大樹のふもとにて、覆面で顔を隠し、人型のカニを背負ったようにも見える姿をしているのは、たっち・みーの旧知でもあるアインズ・ウール・ゴウンの鍛冶師、あまのまひとつ。

 かつて九人の自殺点(ナインズ・オウン・ゴール)結成からしばらくは、自己防衛のためにある程度戦闘可能なビルドを組んでいたが、メンバーが充実し、この拠点(ギルドホーム)を獲得してからは戦闘から解放され、生産特化に組み直していた。

 その時の影響か、再登録の際も似たような職業(クラス)構成にしてしまい、またそもそも戦闘自体が得意ではなかったので、こうしてかつての拠点(ギルドホーム)で留守番がてら思い出に浸り、そのついでに九人の自殺点(ナインズ・オウン・ゴール)結成の際、変身系ヒーローネタがきっかけで仲良くなったたっち・みーから、娘のユカリを預けられたので、彼女にたっち・みーの過去を始め、自分達の活躍を語っていた。

 

「俺としてはあちらさんが作った『自然領域』が気になってきちゃいましたよ。ここもここで悪くないし、力作とあって思い出も豊富で感慨深いけど、あっちもあっちで様々な自然環境が詰め込まれたって聞いたら、どうしてもね……同行しなかったのは失敗だったかな……」

 

 それに返事をするのは、彼の付近に並ぶ、幼げな2人の闇妖精(ダークエルフ)――ではなく、一見付近の木と区別は付かないが、よく見ると幹の途中から二股に分かれた根が脚、葉のない左右の枝が腕になった巨木人(トレント)のブルー・プラネット。

 頭上に広がる星空を始め、現実(リアル)では目にすることができなくなってしまった自然を求めたのが『ユグドラシル』を始めるきっかけだっただけあって、この光景が今日を最後に消滅してしまうことが惜しいのも事実だが、意図はともかく同様に自然を再現した者がいると聞いて興味が湧いたことも、否定はできない。

 悩むブルー・プラネットを見て苦笑するあまのまひとつだったが、新たな来訪者の声を聴き、そちらに向き直る。

 

「お2人さんお待たせー。ペス達連れてきたよー」

 

「おー、ありがとうございます。しかしあけみちゃんからも可愛いって好評でしたけど、ユカリちゃんも初対面だったのに相当懐いてましたっけねぇ。やっぱりその姿って、女の子にはウケがいいんでしょうかね?」

 

 複数人のメイドを引き連れ先頭を歩くのは、腹部や手足の先は白く、首元にブロンドも混じってはいる他は、ほぼ全身を灰色のフワフワした毛に包んだ垂れ耳のウサギに似るが、右耳の根元には、タンポポの花でできた小さな花輪が飾られ、然程広くない額には、その種族――カーバンクルの象徴ともいうべき赤い柘榴石(ガーネット)が輝く。

 彼女の名は餡ころもっちもち。かつて性別を偽っていたタブラを含めても、アインズ・ウール・ゴウンには8人しかいない女性メンバーの1人で、以前はぶくぶく茶釜ややまいこ、時折その妹のあけみもまじえて「女子会」を楽しんでいたのだが、今回はどちらも暁の君臨者(エオ・ラグナンテス・クリプター)への殴り込みに参加してこの場におらず、「所属していたギルドはとうに解散して、誘いに乗るほどの熱意もないから」とナザリックに残っていたあけみも、先程(やまいこ)に合わせてログアウトしてしまったので、代わりに同じく残った2人をお茶に誘い、ぶくぶく茶釜が生み出した階層守護者(フロアボス)担当NPC、闇妖精(ダークエルフ)の『アウラ・ベラ・フィオーラ』と『マーレ・ベロ・フィオーレ』を呼んで、待ってもらっていた。

 餡ころもっちもちが操作画面(コンソール)を操作し、アイテムボックスからテーブルと椅子を取り出し用意すると、美女揃いの中で唯一犬の頭を持ち、異彩を放つメイド――彼女が長年飼っていた愛犬をモデルに生み出したNPC、『ペストーニャ・(ショートケーキ)・ワンコ』を始め、連れてきたメイド達がその上に茶器や菓子類を並べ、準備を整える。席は餡ころもっちもちの左右にアウラとマーレが座り、ゲストとでも呼ぶべきあまのまひとつとブルー・プラネットはその逆隣――餡ころもっちもちの斜め向かいの席に座る。

 

「こんな席に呼ばれるなんて、ちょっと自分でも違和感湧いちゃったりするんですが、今更ながら『ユグドラシル』としてはこうした楽しみ方もアリなんでしょうね」

 

「待ってる間にブルー・プラネットさんから聞いた話じゃ、昔はそうでもなかったみたいですけど、こうして森林浴しながらお茶を飲むなんて、現実(リアル)じゃそれこそ支配層の富豪でもないとできない贅沢ですよ。俺も『グルメ鍛冶師』なんて呼ばれてましたけど、お茶なんて現実(リアル)じゃ最後に飲んだのがいつだったかだって思い出せないですし……」

 

 背負ったカニ部分から伸びるハサミで、器用に持ち手をつまんだティーカップを、覆面で隠れた顔に持っていくあまのまひとつ。彼は現役時代、鍛冶作業の前にゲン担ぎとして、支援(バフ)効果のある食事を食べていた。『グルメ鍛冶師』の異名は、その行動故に付けられたものなのだが、自然環境と共に社会体制も崩壊した現実(リアル)では、食事だけでも貧困層ならゼリーやスティック状の合成栄養食品か、錠剤やドリンクなどのサプリメントが定番で、それこそ新鮮な食材を使った、一昔前ならごく普通だった料理でさえまず手が出ないものと成り果てている。

 過去にメンバー同士集まって、オフ会を開いたこともあったが、その時の会計だって割り勘などしようものなら、モモンガやウルベルトのような貧困層に属する者は足が出るどころでなくなるため、たっち・みーややまいこのような経済的に余裕のあるメンバーがある程度負担しなければ、碌な店を選べなかったのだから、規制の関係で味覚などは感じれないものの、ゲーム内でもこうして口にできるだけで、2人が幸福を感じるのも無理はない話だろう。

 

「正直言っちゃうと、私も現実(リアル)じゃあんまり経験ないんだよねー。お茶の淹れ方とかサッパリだから、結構この子(メイド)達任せな部分もあるしー」

 

 語尾を伸ばす、独特な緩さを感じさせるしゃべり方をする餡ころもっちもちだが、彼女もまたペットを飼えるだけあって貧困とまではいかないものの、かといってお世辞にも富裕とまでは言えない身。なのでペストーニャの設定(テキスト)文に『お茶の淹れ方がうまい』などと入力はしたものの、苦し紛れに近いイメージに過ぎず、肝心の細かい部分は生みの親たる自分がサッパリなので、それ以上の入力しようがなかったのが本音だった。

 

「なんか折角のお茶会なのに暗い感じになってきちゃったな……っても現実(リアル)の近況報告とかしてもあんまり面白くなさそうだし、このメンバーで昔の話しても……」

 

 空気を察して何とかブルー・プラネットが話題の変換を考えていると、タイミングよく電子音が鳴り、虚空に新たな訪問者が現れたと表示される。

 訪問者の名は『ホワイトブリム』。餡ころもっちもちがペストーニャと共に連れきた数人を始め、かつての仲間と同じく41人いるメイド達のデザインを担当したイラストレーターで、『ガチを通り越して最早病気』と評される程にメイド服への入れ込みぶりを持つ人物だった。

 

「おぉホワイトブリムさんお久しぶりです!今餡ころもっちもちさんと第六階層の巨大樹付近でお茶会してるとこなんですが、よろしければ一緒にどうですか?」

 

『どうもお久です~。おぉ、いいですね!じゃあ復帰した際モモンガさんから『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』返してもらってるんで、今行きますね』

 

 『伝言(メッセージ)』でブルー・プラネットに誘われ、ホワイトブリムは即座に了承すると共に姿を現す。『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』とは『アインズ・ウール・ゴウン』の一員(メンバー)たる証ともいうべき指輪で、基本順当にしか移動できないナザリック内部を、一瞬かつ自在に移動できる。

 その姿はブルー・プラネットと同様に、腕の役割をする木の枝が焦げ茶のコートの裾から覗き、同じ色の帽子と、深緑のマフラーに包まれた顔は、目や鼻が木炭の欠片(かけら)で表現され、一見すると綿のようにモコモコしているが、近くで見ると、無数の雪の結晶が集まったものだと分かる。彼の種族は『雪精霊(ジャックフロスト)』と呼ばれる精霊で、見た目通り氷属性の魔法に優れ、寒さに強いが、熱に弱い性質を持つ。

 

「ほぉほぉ、インクリメントとエトワルに、デクリメント、フィースが一緒だったか……っと、失礼失礼。改めて皆さんお久です」

 

「えーっと……あ、本当だー。全部当たってる」

 

「さすがホワイトブリムさん。ってか、41人もいてよく覚えてられましたね……」

 

 ホワイトブリムが「生みの親なら当然」とばかりに、着いて早々その場にいたメイド達を一目見ただけで名前を当てる。その姿に驚く仲間達に改めて挨拶をするが、連れてきた餡ころもっちもちが設定(テキスト)を確認しているように、他のメンバーにしてみれば「41人いるのメイドの何人か」程度の認識だったので、「やっぱこの人すげぇ」とあまのまひとつが驚愕を露にしてしまっている。

 

「そりゃあ今でもパソコンの背景画像(バック)はこの子達にしてますし、漫画に登場させる際は、毎回保存しといた設定(テキスト)見直してますからね。あ、そうだ。『ユグドラシル』が終わっちゃうってんで、今度セバスも含めて『プレアデス』の面々も出したいと思ってるんだけど、作った人達って今日来てますか?」

 

 ホワイトブリムは現在漫画家をしており、メイドを主人公とするその作品に、度々『ユグドラシル(こちら)』で生み出した41人のメイド達を登場させている。彼にとって彼女達は、活躍の場を変えて、今も共にいる存在と言えるのだろう。

 ついでに説明すると、彼が名を挙げた『プレアデス』は、ペストーニャを含むこの場にいるメイド達とは違い、戦闘を担当する特別な6人のメイド達のことであり、普段は別行動となっている7人目の末妹が加わることで、『プレイアデス』と呼び名を変える。セバスこと『セバス・チャン』はその指揮をする執事で、この場にいないたっち・みーが作り出している。

 

「ああ、たっちさんとやまいこさんと、メコンさんと弐式さんはタワー(あっち)に行ってて、今休憩時間中らしくていったんログアウトしたとこらしい。ガーネットさんと源次郎さんはまだ来てないけど、問題はヘロヘロさんだろうな。モモンガさんの話じゃ、アカウント自体は俺達と違って残ったままだそうだけど、随分忙しいらしくて、もう長いことログインしてないらしいからねぇ……」

 

「うっわ、それは参ったなぁ……ヘロヘロさんにはク・ドゥ・グラースさんと合わせて連絡とって、許可もらった際に『よかったらソリュシャンも出してやってください』って言われたけど、折角だし、この子達にお別れする余裕くらいあってほしいんだけど、厳しそうだなぁ……」

 

 ブルー・プラネットが名前を呼んだメンバーのうち、ホワイトブリムが反応した『ヘロヘロ』は、5人のプログラマー仲間達と共にメイド達の行動AIを作り上げた人物。度重なる激務で以前から何かと健康面に不安がある旨を語っており、「健康診断がレッドすぎて逆にグリーン」などとジョークを飛ばして、笑うよりも先に心配されたこともある。話の様子から、確認できる限りでは幸い存命はしているようだが、今の時世的に、何かの拍子で体調を崩して、そのまま世を去ってしまうことも多々あるため、心配は尽きない。

 もう1人のク・ドゥ・グラースは、ホワイトブリムが描き起こしたイラストを元に、NPCとしてネット世界に生み出した外装(グラフィック)制作担当で、あまりに緻密デザインに何度も悲鳴を上げ、その都度泣きつくように簡略化を懇願しては、妥協を許さないホワイトブリムから逆に頼み込まれ、結局断り切れずに完遂して見せた、陰の最大功労者とも呼べる人物。しかしあまりの過酷さから、当の本人はメイド達の完成披露後、労うメンバー達に「(しばら)くメイド服は見たくない」と漏らしており、「俺のことは恨んでも構いませんから、メイド達のことは嫌わないでやってください」と別れ際に頼んだホワイトブリムが、漫画にメイド達出そうと思った時、許可を求めて連絡を取った際も「出すのは構わないけど、あの作業思い出して倒れそうになるから、多分見ないと思うよ?」と答えており、完全にトラウマと化してしまったらしい。

 

「うーん話題がどんどん暗く……どうすりゃいいのかなぁ……」

 

 せっかく新しくホワイトブリムが加わったのに、話は弾まずむしろ余計に重くなるばかり。感情(エモーション)アイコンはあっても、アバターそのものは基本表情の変化がない旧仕様なため、姿形の異なる4名が無表情で一様に落ち込む、ある種異様な光景は、少しでも改善をと願うそれぞれの試行錯誤と共に、もうしばらく続くことになる。()

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