豪運すぎるシーフ 作:不幸運児
「あのさ、草川くん。私にゲームについて教えてくれない?」
「……は?」
俺が部活終わりにその少女に話しかけられたのはその時が初めてだった。仲のいいクラスメイトの女子に校舎裏に呼び出され俺が首を傾げ向かった先で真っ先に言われたことだった。そして俺はこういうことは珍しくない。アニメ同好会を設立させたというけど表では相談部として活躍している俺は表の方も人気で話せないことなど日中でも上級生からも依頼が来ることが多いのだ。
「どうしたんだよ。急に。」
「実はね。私ね、お兄ちゃんがいるんだけど、昔は仲が良かったの。私って剣道やっているでしょ?元々はお兄ちゃんと仲が良かったんだけど。」
「そういえば兄がいるって言ってたな桐ヶ谷さん。えっと。確か一つ上だったよな?」
「うん。よく知ってるね。」
まぁ、相談とかされることから一応クラス関係者の学校内での情報は大体分かるしうわさも入る。
「まぁこういうことは頭に入っているから。……まぁ俺に聞いてきたってことはSAOのことだよな?」
「SAO?」
「ソードアートオンラインのこと。女子である水谷じゃなくて、俺に話してきたのはSAOのβ版の体験者だからだろ?」
ソードアートオンライン。通称SAOは世界初であるバーチャルマッシブリー・マルチプレイヤー・オンラインゲームを実現したゲームで、多種多様の技術や国家から注目されているゲームだ。
「……あはは。やっぱり分かる?」
「まぁ、SAOのベータテスターに当選する。それも同じ学校なら尚更有名になるだろ。仕方ない気もするけどなぁ。世界初めてのVRMMOのベータテスターに当選したら。俺もハマりかけてるし。」
どちらかといえばアニメやライトノベルで こういうオンラインゲームに関しては殆ど初めての俺すらかなり面白いと感じるほどなのだ。ネットに精通している人なら俺以上に感銘を受けた。
「って内容はそこじゃないな。それで依頼は?」
「草川くんもそのゲーム持ってるんだよね?お兄ちゃん最近そればっかりで。」
「あー。もしかして桐ヶ谷さんのお兄さんってネットゲーマーか?」
「うん。そうだけど。」
「戻らないよな。ネットどころかゲーマーではない俺ですら興味を持つくらいなんだから。その答えは色々あるけど、一番多いのは理想の自分になることができるんだから。」
「理想の自分?」
「そう。まぁ桐ヶ谷さんのお兄さんは当てはまらないかもしれないけど、オンライン上では努力は報われるんだよ。ほとんどの人は。」
「どういうこと?」
分からないか。まぁゲームをしていないであろう人は分からないであろう。
俺はスマホに入れていたRPGを見せる。
「例えばさ、このモンスターはレベルが1だから技も一つしかないし全然攻撃力とかないだろ?でもね。レベルをあげると新たに技を覚えたり、その能力が上がるんだよ。それが時間をかければもっと強くなる。だからこそ努力にかけた時間は報われる。やればやるほどレベルは上がったり新たな技を覚える。そしてなによりも認めてもらえるっていうことが多い。本当のガチ勢とかになるとそのゲームでも自分が目指すところで最強を求める。そのところで誰よりも強くなりたいとか、強くなって女性プレイヤーと褒められたいとか目的は様々だけど、そのゲームでは自分が輝ける場所なのだから。」
自分の思う理想像がそこにはあるんだから。例えオンラインゲームでもそこにいるのは俺は例え名前が違うとはいえその人の特徴がそこに詰まっているんだと思っている。だからこそゲームはもう一つの人生って人もいるんだよ。リアルでは上手く行かないけどオンラインなら認めてもらえるって思う人が多いからな。
「お兄ちゃんもそうなのかな?」
「分からない。でも、ゲームにハマるのは理由はない人だっている。でも、β版の知っている人によればそういう人も多いらしい。何が目的って答えても面白いからって理由でやっている人もいるだろうけど、オンラインゲームは自分の理想の人物を演じることを目的としている人も多い。まぁロールプレイングっていうくらいだからな。そういう人がいるってこと。もし気になるなら、やってみるか?」
「えっ?」
驚く桐ヶ谷さんに俺は小さく苦笑してしまう。
実は俺の家にはもう一台SAOがあるのだ。
「実はさ、俺がβ版でやっているやつ以外でも親父もβ版で当選したんだけどさ、親父どうもVRMMOが合わずに酔ってしまってな。だから一個余っているんだよ。もし良かったらやってみるか?」
「いいの?」
「いいよ。知り合いがいたら楽しみ増えるし、部活仲間にあげようとすると喧嘩になるから、貸し出すって形にしようって思ってたけど、桐ヶ谷さんにあげるよ。一度お兄さんと話してやってみたら?」
「うん。でも、どうやってやるの?」
「……そこはそこらへんは説明書見てくれ。とりあえずナーヴギアでログインするから。軽くレクチャーはするから。ついでにsoraって名前でログインするから。」
「安直じゃない?」
ソラって名前は俺の本名である空、本名であるがそれじゃあ桐ヶ谷さんは分からないだろう。それにβ版でも俺は名前がソラだったし一日くらいはソラで大丈夫だと思う。
「ニックネームにしたら桐ヶ谷さんわかるの?それにβ版でやらかしたから今更だよ。……一日くらいネットリテラシーも大丈夫だと思うし。流石に本名で特に女子は参加するのは危ないから。それに俺のニックネームは恐らくドイツ語になるから読めないだろうし。」
「うん。確か正式サービスが明日だよね?」
「そだな。休みだしゲームできるからなぁ。三時間ほどやろうとは思ってるけど。」
「それなら明日草川くんの家行っていいかな?そっち側の方が合流しやすいだろうし。」
こいつに貞操は考えてないのかと思ったがぐっとこらえる。まぁ何かするってわけではないけど。
「……別にいいけど、それなら少し早めに来て欲しいかな?Wi-Fi繋げるから。」
「うん。分かったそれじゃあ10時に草川くんの家にいくね。」
「了解。って俺の家分かってるのか?」
「もしかして家が隣ってこと気づいてなかった?」
そうなのか?全く知らないんだけど。
「……そうなのか?」
「うん。まぁいつも妹さんが出るからね。草川くんは。」
あっ。本当に俺の親を知ってるのか。俺の二人目の母親を妹と勘違いするのも当然だろう。
「あ〜それ母親だぞ。」
「…へ?」
「あれでも30超えてるんだよ。」
「うそー!?」
俺が答えると絶叫する桐ヶ谷さん。身長が141cmと小柄なので仕方がない。まぁ、俺も153cmと小柄な方だけど。
そして明日の予定を話す。そしてそのおかげでそしてその時は知らなかった。この少女と明日から地獄のデスゲームに巻き込まれることになるとは。
そして今後この少女と二年間パートナーとして桐ヶ谷さんのお兄さんと出会った後も付き合いが続いていくことも。