【短編】アーマードコア6 SIX inspired【非公認】 作:あきてくと
《私はね、全ての物質には意識が宿ると思ってるの。
それは今私たちが感じているのような自意識じゃなくて、それはもっと局所的で単純な、コンピュータのようにONとOFFで構成された情報伝達ネットワークで。
重要なのはその規模よ。ネットワークの
細胞密度が高い人間はその代表ね。人間は860億個もの脳細胞によって意識が形づくられ、感覚器官が接続されることで外界を認識し、私を私であると認識するでしょ。それと同じように、動植物はもちろん、水であろうと土であろうと意識を宿すの。もちろん微生物やコンピュータも。
惑星も同じ。私たちの意識では認識できなレベルで思考しているんだわ。あんたが今いる、惑星ルビコン3で昔起こった『バーニングスターシステム』も、これと同じだと思うんだ。
質量が大きければ大きいほど、細胞の密度が高ければ高いほど意識のネットワークも大きくなるの。惑星もの大質量体、もしくはその一部が脳だと仮定したら、いったいどれほどの規模の意識ネットワークになると思う?
その大規模ネットワークは、駆動に際して熱を発し、地場を発生させる。たぶん、ルビコン3を飲み込んだバーニングスターシステムの炎のようなものは、惑星の思考が発した熱だと思うんだ。ときおり乳幼児が起こす
だって、ルビコン3周辺の観測員だったウチのおばあちゃんが言ってたもの。監視衛星から見たバーニングスターシステムの起爆の瞬間に宇宙空間に広がった放電現象は、まるで脳細胞のようだったって。それと同時に整った電磁場波形が観測されて、それを音声データに変換したら赤ちゃんの産声のようだったって。
きっと『バーニングスターシステム』は、まだ幼い惑星のルビコン3にニューロンネットワークが形成されて意識を宿した瞬間の出来事だったのよ!
───って、ねえ。ちょっと、もしもーし。ちゃんと聞いてンの?》
「ん、ああ。聞いてるよ」
嘘だ。まったく聞いていなかった。もっとも、真面目に聞いたところでルイスという幼なじみの女がいつものように話す、いつものぶっ飛んだ空想話はまったく理解できそうにない。俺はいつものように空返事で誤魔化した。
「ていうか、そろそろ通信切ってもいいか? 俺、今レイヴンの仕事で忙しいんだけど」
《嘘おっしゃい。仕事っても椅子に座って、ぎっこんぎっこんやって、ゴミ漁りしてるだけじゃない。
そういわれてはぐうの音も出ない。とはいえ、忙しいのは本当だ。俺は今、全高5m超の巨大人型兵器
「悪い。特別緊急事態が特別発生だ。通信切るぞ」
《ああん、待って。まだ大切な話が……》
俺は強制的にルイスとの通信を切る。大事な話なら先に言え。どうせいつもの碌でもない話だろう。さてと、邪魔者が消えたところで、
被ったヘルメット内側に設えられたモニタには外界の様子が鮮明に映し出されている。とはいえ眼前に広がる景色は、いつもと変わり映えしない。
一面、雪と氷、灰と瓦礫に埋もれた大地。凍った海。朽ち果てた建造物群。空は常に厚い暗雲が立ちこめ、ちらちらと雪が舞い落ちる。恒星から地表に届く光は弱く、時折雲の隙間に見えるオーロラかホログラムのような鮮やかな光は、強力な電磁放射の影響だ。
この場所も大きな都市だったのだろう。しかし小さな建物は跡形もなく吹き飛ばされ、倒壊しかけた大型建造物だけが鉄骨をむき出し、内部構造を露出させて佇んでいた。建築物の破損は総じて一定方向だけが激しく損傷を起こしている。
HUDに記された方位計では、破損個所はすべて真東の海の向こうに面していた。その遥か先にあるのが
この辺境惑星ルビコン3は惑星資源に恵まれた豊かな星だった。しかしおよそ半世紀前、ルビコン3で原因不明の大爆発があった。いや、爆発かどうかすら定かではない。突如、惑星の一部から膨大なエネルギー放射が発生した。その現象は『バーニングスターシステム』と呼ばれている。
そのエネルギーは星を燃やし、隣接する惑星までを飲み込んだ。ルイスが言うように、それがもし惑星の知恵熱───生後半年ほどで発生する原因不明の発熱症状であったとしたなら、それが惑星にとってはわずかな体温上昇であっても、そこに住む人間には未曾有の大災害へと変わる。
発生した熱波は海を焼き、森を飲み込み、都市を吹き飛ばし、有機生命体を跡形も残らず蒸発させる。そこで培われていた多様な文明も文化も無慈悲なまでに一瞬で崩壊させた。それ以降、ルビコン3は生命活動さえ危ぶまれる生存圏外惑星に変わった。
惑星ルビコン3が赤ん坊だとしたなら、バーニングスターシステムは星の歴史の幕開けとなる記念すべき瞬間だったのかもしれない。けれど、そこに住む動植物にとっては終わりの瞬間だ。また、星にとっての知恵熱はほんの一瞬の出来事だったのかもしれない。けれど人間にとってその影響は永遠に等しいほど長く続く。
半世紀経っても、未だ復興の兆しはない。再生すべき根元がないのだから。ましてや、そのような環境でもないのだから。弱小生命の観点では、すべての拠り所となる星は死んだのだ。ルビコン3は、今ではただのゴミ惑星に変わり果てている。
豊かな地下資源に支えられて繁栄していたかつてのルビコン3は、同時に資源を巡る争いの激戦区でもあった。利権を独占しようとする複数の企業体がこの惑星に押し寄せ、大量の独立傭兵と当時最新の人型兵器
多様な惑星・地形環境で運用できる人型兵器は使いやすい。複雑な構造はデメリットではあるものの、ACは各部位が交換可能で状況に応じて最適な仕様に変更できる。故障しても各部位を交換するだけですぐに出撃できた。
今では『プライムAC』と呼ばれているそれら旧型ACには、オーバースペックともいえる高品質な鋼材や高性能な電子部品が多数使用されていた。ルビコン3の地表にはその部品がたくさん残っている。とはいえそれらは全て壊れて動作しないただのガラクタだ。しかしそれらも大切な資源だ。それらを回収し、業者に販売するのも俺たちクロウの仕事のひとつだった。
構造物の残骸やら、生活家電や産業機械やら、ACの部品やらが散乱する瓦礫の絨毯の上を、俺はカメラを下に向けながら物色しつつ歩く。
ここらに散らばっているのは、再利用すらできないただのゴミばかりだ。ここ半年あまりで、めぼしいものはすべて回収しつくされているため、このなかから価値あるゴミを見つけだすのは困難だ。金に換えられそうなものを見つけられる確率は限りなく低いが、無駄な時間を過ごすよりはいい。
地表に散乱するガラクタは雪と灰が覆い被さって識別は難しい。しかし、輪郭から価値がありそうなジャンクパーツは何となく見分けられる。コツはあせらず広い視野で視界全体をぼんやりと眺めることだ。その直感だけを頼りに、これまでいくつか掘り出し物を引き当てている。俺は運が良いほうだという自負がなんとなくあった。
違和感を覚えた。ACのアームの間接のような構造が、瓦礫の隙間に見えた気がした。俺はその場所へ機体を進ませ、ACのマニュピレーターを操作して周囲の瓦礫をよせて発掘作業に取りかかる。現れたのは、紛れもなくACの腕部だった。それも右腕まるごと1本。
「キャロル。型番と売却価格の照合」俺は機体と連動した
《碗部パーツ、型番AL-44-EAS。売却予想価格は0.2コーム。ちなみに当時の新品価格は28,000コームです》
「くそっ、そんなもんかぁ」
1コームはおおよそ一般労働者の日給くらい。機体の背中に担いだ
数ヶ月前までは拾得物だけでもそれなりに稼げたが、拾えるジャンクパーツにも当然限りがある。近頃の稼ぎは微々たるものだ。この辺はもうダメかもしれないな。そろそろ拠点を移さなくてはいけないかもしれない。
しかし、発掘した腕部には武器らしきものが握られており、その先はまだ地中の瓦礫に埋もれたままだ。わずかな期待を胸に、俺はそれも掘り出す。やっとこさ現れたのは破損が少ない大型のレーザーライフルだった。こいつはまさか。
「キャ、キャロル。これの型番を」
《95%の確率で『MWGーKARASAWA』と思われます》
「い、い、ぃやったー!!」思わず叫んでいた。そして、嬉さのあまり無意味に機体背面のブースターを吹かして俺は辺りを飛び跳ね回る。
『MWGー
俺は意気揚々とACのマニュピレーターに拾い上げた大型のハイレーザーライフルを握らせ、射撃姿勢を取らせてみる。そして、遠方にある構造物の一角に照準をつけて躊躇なくトリガーを引き絞った。
───もちろん故障しているため光条が発振されることはなく、駆動音すらしない。もっとも、故障していなかったとしても今俺が搭乗しているACでは扱えない代物だ。そもそも運用規格が違うし、ジェネレーターからの供給エネルギー量も不足しているだろう。
「キャロル。こいつはいくらになる?」
《現在、一般資料では価格情報が公開されていません。パーツリストの対象年代範囲を拡大して再検索します。少々お待ちください》
この名銃を扱えるのは、惑星内外の紛争に独立傭兵が投入された初期に台頭した第一世代機群の『
これらは『
ただし、RACは後発なだけに技術進歩による世代優越性はある。武装の多様さと軽さを活かした機動性、動作の精密さではRACの方が勝っており、特にアクチュエーター系の進化は著しく、より精密な動作が可能になっている。操作次第では、ロープを結ぶような細かい動作も可能だそうだが、俺にはまだできない。
かつてPACで数多の戦場を駆けた独立傭兵はワタリガラスを意味する『
バールとひっかけて『
半世紀前にルビコン3の惑星内紛に一斉に駆り出され、『バーニングスターシステム』で絶滅したとされるレイヴンより、クロウは一段低い立場で見られている。同じ組織が元締めをしている独立傭兵なのだから、俺たちも『レイヴン』と呼ばれていいはずだ。
けれど、俺たちクロウが『レイヴン』を名乗ると、ルイスに言われたように周囲からバッシングを受ける。それは半世紀経った今でもレイヴンという存在が特別視されていることの現れだった。レイヴンになるには厳しい適正試験のようなものを受ける必要があったが、クロウは機体さえ自前で準備して機関に登録すれば誰でもなれるのだから、仕方がないか。
それでも、やっていることはレイヴンもクロウも変わらない。同じ独立傭兵として惑星内外の紛争に介入するのが本来の仕事だ。ルビコン3では半年前から地下資源を巡って企業間対立が激化している。ゴミ漁りは内職のようなもので、俺たちはその企業の戦力不足を補完するフリーの助っ人として、この惑星に降り立った。つまりルビコン3が、俺の新たなゲームステージってわけだ。
なにせ俺は、
《『MWGーKARASAWA』の照会結果が出ました。売却予想価格は30コームです。当時の売買価格は時価88,000コーム以上でした》
「え、そんなもんなの? キャロルさん、もうちょっとなんとかならないの?」
《私に申し上げられても困ります》
想像していた値段より遥かに安い。ああ、運が尽きたか。伝説の名銃とはいえ所詮ガラクタだもんな。オークションにでもかけるか。マニアのなかに欲しがる奴がいるだろう。とはいえ、今日はここ最近では一番の稼ぎだ。今晩の夕食は久しぶりに豪勢に行こうか。俺はウキウキ気分で
そのさなか突如、警告音が鳴リ響いた。これは企業からの作戦依頼を示すアラートだ。HUD内にそれを示すアイコンがポップアップし、すぐさまキャロルが説明してくれる。俺は瞬時に意識を切り替え、武装と残弾の確認、システムから機体細部の状態をチェックしながら聞く。
《『レイリーQビット』と『イクイヴ・ユニオン』の両企業がら、この地域一帯のクロウに向けて一斉依頼が発信されています。ビデオメッセージを再生します。まずはレイリーQビットから》
* * *
at12:44 From:<rayleigh-qubit.> mode:voice
『こちらレイリーQビット作戦管理部です。このメールは、一帯にいるクロウのみなさまに一斉送信しています。ユーコン地区でまもなくイクイヴ・ユニオンとの戦闘が始まります。開戦予定時刻はルビコン3標準時14:00。成功報酬総額は15,000コーム。撃墜数に応じて報酬の上乗せを約束しましょう。作戦開始に間に合わなかった場合には、報酬から遅延1分あたり0.1%を減算します。功労者は我々と専属契約を結ぶチャンスも巡ってくかもしれませんよ。さあ、稼ぐチャンスです。我々レイリーQビットは、みなさまの働きに期待します。以上です』---END---
* * *
《続いて、イクイヴ・ユニオンからのビデオメッセージです》
* * *
at12:44 From:<equiv-union.> mode:voice
『こちらイクイヴ・ユニオン。幸運なる周辺のクローバー諸君に告ぐ。現在。ユーコン地区周辺にいる者は、クソみたいなゴミ拾いなどさしおいて、戦闘に参加してくれ。開戦予定時刻は14:00だ。今日こそレイリーQビットの奴らに目にものをみせてやる。成功報酬総額は12,000コーム支払う。もちろん敵機の撃墜数に応じて報酬は上乗せする。より多い戦力の参加を期待する。以上だ』---END---
* * *
《以上、レイリーQビットとイクイヴ・ユニオンの両企業からの一斉依頼内容です。どちらを受諾しますか?》
さて、どちらにしようか。いつも羽振りがよいのはレイリーQビットの方だ。けれど金勘定もしっかりしているから、時間に遅れた分はきっちり報酬から差し引かれる。
イクイヴ・ユニオンの方は大ざっぱだけど、気分次第でたまにボーナスをくれるんだよな。その代わり、戦果が見合わなければ報酬をまるごとカットされることもあった。どちらの企業も、こちらの足下を見ているのだけは確かだ。
うーん。いつものことだが悩む。「キャロルの判断は?」
《ここから作戦地域までの移動時間を計算しますと、到着予想時刻は作戦開始時刻の5分から10分前となります。イレギュラーな遅延の可能性に配慮して、参加時間に制限を設けていないイクイヴ・ユニオンの依頼を受諾することをおすすめします。
ただしイクイヴ・ユニオンはこれまで、事前に言及されなかったのにもかかわらず、遅刻を理由に報酬の一部をカットした経緯が過去に3度あります。また、分配後の報酬額面は参加するクロウの数に応じます。現時点で作戦参加を表明しているクロウはまだいません》
「サンキュー、キャロル」とはいえ、未だにどちら側の勢力に加担すべきか決めきれない。とりあえず移動しながら考えるか。
《それと、20分前に受信した差出人ルイス様からのテキストメールを保留しています》
「ルイスから? 読み上げてくれ」
《了解しました。ルイス様のメールテキストを読み上げます。
* * *
at12:25 From:<louise@xxxnest.net> mode:text
『ちょっと、なによ。いきなり通信切るなんて。もうすぐ企業の作戦が始まるって教えてあげようと思ったのに。この恩知らず! 早く金返せ。バカ(゚Д゚)凸』---END---
* * *
ルイス様からのメッセージは以上です》
はぁ。1時間もべらべらと一人で話しておいて、それはないだろ。だったら、最初に言えよ。「ったく、これだから女は」と、思わずごちる。
でも、おかげで緊張がわずかに緩み、程良いメンタルに落ち着いたようだ。それからパイロットシートに座ったまま手足を延ばして、身体の強ばりを取り除いてフィジカルコンディションを整える。
さあ、行くか。