【短編】アーマードコア6 SIX inspired【非公認】   作:あきてくと

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#2 Fighting fever(闘争熱)

 決して晴れることのない灰色の曇天。見渡す限り雪と灰に覆われた平原。天地のコントラストが曖昧になった荒廃した大地を、俺はブースターとジャンプを使って目的地へ向かってひた進む。その頭上を、物々しい外観をした真っ黒な大型輸送ヘリが隊列を組んで通り過ぎて行く。輸送にヘリを多用するのはイクイヴ・ユニオンの軍勢だ。

 

 目指す場所は同じ。今回の企業抗争の舞台となる作戦エリアは、名銃カラサワのジャンクを拾った場所から南東へ約100km移動した場所だ。そこはかつてのルビコン3に存在していたなかで、もっとも大きな企業が運営していた大規模な最深度地下採掘施設の跡地だった。

 

 遠目に見えてきた地上施設周辺とその上空は断続的に発光し、爆炎と思わしき赤い光が無数に灯る。定刻前だというのにすでに戦闘は開始されているようだ。雪か霞のせいか、はたまた爆発で巻き上げられた灰のせいか、それら光の輪郭は限りなく不明瞭に映る。

 

 作戦エリアに到達するまで、あと10分はかかるだろう。作戦開始予定時刻をわずかに過ぎそうだった。だから俺は遅刻の際の減算報酬について言及されていないイクイヴ・ユニオン側の依頼を請けることに決めていた。

 

 上空を飛行するイクイヴ・ユニオンのヘリ編隊は、地上からの対空ミサイル攻撃を警戒して常時疑似熱源(フレア)を捲きながら、曇天の下を鳥の群のように連なって進軍する。こちらは依頼受諾および参戦表明はまだ行っていないため、向こうから見た現在の俺は中立的立場だ。もし早々に対立企業側の依頼を受けることを表明し、レイリーQビットの識別信号を発していたなら今頃、頭上を通るイクイヴ・ユニオンのヘリから爆撃でも受けていたかもしれない。

 

 戦闘準備は万全だったが、さすがに取得物を詰め込んだ背嚢(はいのう)を背負ったままでは戦えない。本来であればこの一帯のクロウが拠点とする『Hub(ハブ)』と呼ばれる街のような所に一度戻って荷物を処分し、戦闘準備を整えてから作戦に臨むのが順当だ。

 

 ハブに駐在している『運び屋(ヘクター)』に取得物を売却すれば手ぶらになり、拾った荷物はこの惑星系にある企業の工場へと定期便で運ばれ、俺たちが使うリプロダクトAC( R A C )の部品として再利用される。RACの整備と弾薬補充、カスタムアセンブル全般を受け持つ『修理屋(ドクター)』に頼んで機体を仕上げてもらえば、より万全な状態で戦闘に望めた。

 

 だが、作戦開始時刻が迫っていたためハブへ戻る時間はなかった。だから俺は運良く手に入れたカラサワのジャンクを含む今日の拾得物を、そこら辺の構造物の瓦礫の下に穴を掘って隠すことにした。これが俺が作戦に遅刻しそうな顛末だ。隠した荷物は後で回収する。

 

 弾薬は損耗していないし、予備弾倉も携帯してあった。今回のようにゴミ漁り中の唐突な企業からの依頼は別段珍しいことではない。RAC搭乗時は、いついかなるときも臨戦態勢。それが独立傭兵の心得だ。

 

 企業間抗争は、投入できる戦力が物を言う。両企業が保有する戦力はほぼ互角といっていいだろう。勝負の行方を大きく左右するのは、この一帯にいるどれだけのクロウがどちらの企業に加担できるかだ。

 

 依頼のビデオメッセージには企業側の投入部隊数などの作戦情報も添付されているが、クロウが相手側に情報を売ることを警戒して、正確な戦力が事前に提示されることはまずない。作戦前の数値上の戦力だけならいつも両軍が申し合わせたように同じで、どちらに加担すべきかを判断する材料にはならなかった。一番の判断基準のとなるのは報酬額だ。

 

 今回、企業から提示された報酬総額は、レイリーQビットが15,000コーム。イクイヴ・ユニオンが12,000コーム。当然、普通は報酬が高い方を選ぶ。ただしこの『総額』ってのがくせ者だ。報酬が総額で提示されるということは、参加する人数次第で受け取れる成功報酬が増減するということだ。

 

 参加するクロウの数が多いほど、勝てる確率が上がるため報酬を得られる可能性も高くなる。ただしそのぶん、支払われる報酬も少なくなる。独立傭兵の元締め(ネスト)のデータベースにアクセスすれば参戦表明をしたクロウのデータをリアルタイムで確認できるため、より多くのクロウが加担する方を選べば、それだけ報酬が得られる確率は高くなる。

 

 この仕組みを利用すればクロウ同士で裏口を合わせて片方の企業を確実に勝たせ、確実に報酬を得ることも可能だ。しかし、事はそう単純ではない。

 

 腕に覚えがあるクロウは、あえて劣勢側に加担して報酬の独占を狙うこともある。実際、上位のクロウはチームを組んで参戦し、劣勢だった戦況を大きくひっくり返すことさえあった。そういったことがあるため、他のクロウに意図を悟られないよう依頼受諾と参戦表明は作戦開始時刻間際に行うのがお決まりになっている。

 

 その結果、クロウが加担する企業の偏りは抑えられ、戦場がワンサイドゲームになることは少なかった。だから、俺みたいな孤立したクロウは、どちらの企業を選んでも大きな問題にはなりづらい。だからこそ、どちらの依頼を受けるか余計に悩む。

 

 企業の方も事前準備が必要な大規模作戦を除き、企業側も作戦開始の1時間前くらいにならなければ依頼内容を明かさないのが当たり前になっていた。作戦開始と移動を含めて1時間程度で準備できる事といえば、戦闘エリアの情報収集とRACの武装およびシステム周りの変更くらいのものだ。

 

 仮に戦闘エリアや参戦するクロウが事前にわかったとしても各部位を交換するようなアセンブルを行うのには時間がかかるため、機体構成を丸々変え、万全な状態で作戦に臨むことは不可能といっていい。

 

 おまけに整備ガレージは数に限りがあり、作戦前には整備依頼が殺到する。またガレージをブッキングするにも金が要る。柔軟に任務遂行できるよう予備機を持つ奴もいるが保管庫を借りるのにも金がかかる。なかにはガレージ代をケチって、RACのマニュピレータで強引に部位交換を行い、トラブルで早々に戦線を離脱した奴も知っている。

 

 整備会社(ドクター)運送会社(ヘクター)も、金を払ってくれる奴にだけ愛想がよく、クロウ同士は、昨日談笑して過ごした気のいい奴であっても、今日は銃口を向け合わなければならない。それに強いクロウほど金を持ち、あらゆる面で大きな影響力を有している。そして、企業連中はそういったこちらの習性をよく知っていた。

 

 金。金。金。駆け引き。駆け引き。駆け引き。うまく調和がとれているように見えるのは互いに暗黙の了解があるからだ。根っこの部分では、他の奴らはクロウを信用していないし、こちらも他の奴らを信用していない。ゲーム理論を駆使したマネーゲーム。それが独立傭兵クロウの本質だ。クロウ個々人のなかでは平時からすでに闘争が始まっているのだ。

 

 ここにいる奴らは全員狂ってる。けれど、しがらみも忖度もないこの環境が俺は好きだった。きっと、俺もとっくに狂っているのだろう。

 

《まもなく作戦領域に突入します。───イクイヴ・ユニオンの司令部にアクセス。こちらNo.009456。御社からの依頼を受諾、ならびに識別信号の付与を要求します》

 

 作戦エリアに近づくとパーソナルAIの個体名キャロルがイクイヴ・ユニオンの司令部にアクセスして自動で作戦参加手続きをしてくれる。

 

 もうすぐそこまで迫った最深度採掘施設跡の周辺では、イクイヴ・ユニオンの地上戦力が、レイリーQビットの航空戦力に対して対空放火を巻き上げ、レイリーQビットの航空戦力が空からミサイルやら機銃やら爆雷やらをばらまき、発破とともに地上に爆炎を立ち上らせる。

 

 地面に積もった瓦礫と灰が爆発の衝撃波で巻き上げられ、辺りはうっすら霧がかかったようになっていて視界は良好とはいえない。俺はシステムを戦闘モードに切り替え、最大戦速を保ったまま乱戦状態の戦場に突入する。

 

《イクイヴ・ユニオンおよびネストから依頼契約を承認。暗号鍵を受信。敵味方識別信号( IFF )、発信します》

 

 依頼受諾が承認され、IFFが付与された。こちらがイクイヴ・ユニオンの識別信号を発したとたん、レイリーQビットの航空戦力がカメラセンサを赤く点灯させ、一斉に機首をこちらに向けて攻撃を仕掛けてくる。攻撃優先目標がクロウ()に上書きされたようだ。機銃とミサイルと爆雷の雨をかいくぐりながら、上空を見上げつつ俺は迎撃行動に移る。

 

 両企業の戦力はほぼすべてが人工知能による自律制御だ。企業が投入する兵器には様々な形態がある。イクイヴ・ユニオンの無限機動に大口径のガトリングガンを備えた移動砲台や、レイリーQビットの航空機に脚が生えたような準人型機。これらは産業機械や既存兵器から発展した『MT(マッスル・トレーサー)』と呼ばれる補助兵力だ。

 

 それに対して、人型でRACに近い性能のMTもある。各部が規格化され、着脱可能なRACとは異なり、アセンブル機構をオミットする代わりに設計自由度が高められた、いわば対RAC用となる『レインフォースドMT( R M T )』が企業の主力兵器だった。

 

 戦線にはずんぐりした格好で装甲が厚さが特徴のイクイヴ・ユニオンのRMTと、それとは対象的にシャープな造形で機動力に優れたレイリーQビットのRMTも数体づつ確認された。

 

 イクイヴ・ユニオンは地表に基地を持っている。ルビコン3の潤沢な資源を使った大規模な生産工場を保有しているため戦力も多い。だがヘリを使った輸送や既存技術の延長線上の兵器設計など、根本的な思想はやや前時代的だ。

 

 対するレイリーQビットの方の企業理念等々は総じて前衛的であり、衛星軌道上に基地を持っているため地表のどこにでも奇襲をかけられる。ただし降下部隊の装備は限定されるから、兵器単体で見た場合の驚異度は低い。

 

 常に相手の頭の上をとっているレイリーQビットが戦略上は有利であるものの、イクイヴ・ユニオン側でも衛星軌道上に攻撃設備を有しているため、宇宙から相手の基地や拠点に直接攻撃などという強行手段に出れば、ただでは済まない。

 

 それに衛星兵器の類による地上攻撃は企業連合条約で禁止されている。もし使ったら最後。企業連合の依頼を受けた俺達クロウが総手で違反企業に制裁を加えることになる。互いが互いを睨み合う複雑な三角関係って奴だ。これがこの星での戦争のルール。やはり狂っているとしか思えない。

 

 俺は敵機を照準にとらえては右腕のライフルを放つ。あるいは複数の機体を同時にロックオンして左背面のミサイルを撃ち放つ。上空を旋回しながら攻撃を加えてくる準人型航空機は、ミサイル誘導を検知してチャフやらフレアやらをばらまきながら機敏に回避機動を取るが、所詮は機械だ。セオリー通りの機動しかしないため動きが読みやすい。

 

 回避と機動演算に手間取っている間に機首の前方に狙いを付けてライフルを打ち込めば、主翼に大穴をあけて黒煙を吐き出しながら着地姿勢もとれずに地面に激突する。低空に回避した別の1機にライフルを打ち込むと、バランスを失い地面を滑った後に爆散した。

 

「キャロル。ここまで何機落とした」

 

《これまでの撃墜数はMTが8機。RMTが3機です》

 

 となると撃破数に応じた追加報酬の稼ぎは、おおよそ3,000コームってところか。ゴミ漁りなんかより、企業の依頼を受けた方が効率的に稼げる。ただしリスクはつきものだが。

 

 金勘定に気を取られた隙にレイリーQビットのRMTが肉薄してくる。とっさにライフルで迎撃するが、素早い動きでこちらが放った銃弾をかいくぐり、目と鼻の先まで接近された。敵RMTは左腕に仕込まれた小振り実体剣を展開。刃の部分だけ鋭いレーザー光を放つ特殊短刀が振るわれる。

 

 俺は動じず、機体にバックステップを踏ませながら左腕の近接兵装を構える。左肘を引かせると前腕を覆っていたパネルが展開し、鋭く長い突起が露出した。タイミングを見計らって左のトリガーを引くと発破音とともに内部の炸薬が破裂し、勢いよく左腕が前方に繰り出される。その勢いは、腕の慣性だけで機体全体が前方に引っ張られるほどだ。操縦桿には、手がしびれるほどの強い反発が返ってきた。

 

 左腕部に仕込まれたの突起先端は、こちらに斬りかかろうと眼前まで迫っていたレイリーQビットのRMTに突き刺さり胴部に大穴を穿つ。それだけにとどまらず、爆発的な初速を保ったまま繰り出された左腕部が敵機に衝突し、もっとも頑丈なはずの胸部装甲をいとも簡単にひしゃげさせ、なおかつ総重量10tはくだらないRMTを軽々と吹き飛ばす。

 

「これで、さらに500コーム、ゲットだぜ」

 

 俺の視界モニターには、胸部が完膚なきまでに叩き潰され手足が取れかけた機械人形と、撃ち放ったままの姿勢でいる自機の左腕部が映っている。鋭い突起の先端には、黒っぽい作動油か潤滑油かがべったりと張り付き、それが灰色の地面に滴り落ちる。

 

 この左腕に備わった『パイルバンカー』は、俺のお守りだ。こいつを装備していれば、クロウ達は警戒して迂闊に近寄ろうとはしないし、状況認識判断が甘い企業の無人機はホイホイと近寄ってくる。おまけに弾薬費も最安値。そして、こいつを防げる装甲の機動兵器はそうそうない。重装甲だけが取り柄のイクイヴ・ユニオンのRMTであっても、一発で鉄くずに変えてやれる。

 

《外部の敵勢力はおおむね駆逐しました。引き続き、施設内部で敵勢力の殲滅にあたるよう指示が出ています》

 

 キャロルがイクイヴ・ユニオン司令部からのメッセージを俺に伝えた。同時に、広大な採掘施設の反対端の空に幾筋もの光が走り、雲を突き破って地上へ降り注ぐ。レイリーQビットの衛星軌道基地から降下した増援の部隊だ。劣勢に陥ったレイリーQビットの軍勢は施設の向こう側に部隊を集結させ、施設内部制圧を主軸に切り替えたようだ。

 

「了解」と応え、俺は機体の損傷状態を確認しつつ施設内に侵入する。

 

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