【短編】アーマードコア6 SIX inspired【非公認】 作:あきてくと
《現時点でこの作戦に参加しているクロウは2名です。イクイヴ・ユニオン側には重四脚型RAC『ブルーマウンテン』に搭乗する『MR.ブラウン』。彼は、我々ユーコンエリアの獲得報酬ランクNo.2の実力者です。
レイリーQビット側には機体名『マクファーソンストラット』を駆る『アクスルシャフト』の1名が加担しています。ただし、このクロウの詳細データは公開されていません》
採掘施設の中央部へ向かって機体を進める俺に、作戦情報にアクセスしたパーソナルAIのキャロルが報告してくれる。施設内部の通路上には自律稼働で動いているイクイヴ・ユニオンの
イクイヴ・ユニオンとレイリーQビットの両企業の戦力比はほぼ同じ。だから、どちらの企業にどれだけのクロウが加担するかが勝負の分かれ道となる。参戦しているクロウは、相手側が1機に対してこちらが俺を含めて2機。それにNo.2がこちら側にいるのは心強い。戦況はこちらが圧倒的に有利だ。
しかし、施設内部での戦闘であることを加味すれば余裕綽々とはしていられない。閉所での戦闘はこちらも機動力を削がれる。そのうえ、単機でいるときに建造物の陰や死角から奇襲をかけられれば、あっという間に戦線離脱を迫られるだろう。
そして、相手方に加担するクロウの詳細が知れない点が最大の不安材料だ。相手のデータがないという事実は3つの可能性が考えられる。ひとつ目の可能性は、クロウになりたてでデータが未登録。2つ目は特定の拠点を持たず各地を転々とする野良カラス。もうひとつはこのユーコンエリア外に所属するクロウである可能性だ。両者は屋外にいなかったため、すでに施設内に進入していると見ていい。早くMR.ブラウンと合流して共同戦線を張るのが得策だ。
獲得報酬ランクNo.2であるMR.ブラウンの名前はよく知っていた。ただし直接の面識はない。ユーコンエリアの
俺から見た彼は、名前を知っている有名人といった存在だ。対して向こうは、ランキングの中間あたりをうろうろしている俺の名前を知っているかどうかさえ怪しい。上位ランカーとの共闘にあたっての思慮をしながら俺は施設内を進む。
施設内部はいくつもの大きな区画が整然と並び、それぞれが狭い連結通路で繋がれていた。とはいえ、この星の他の構造物と同じように天井も外壁も半壊していてほとんど野外といっていいい。鉄骨をむき出しにし、床には瓦礫と灰と雪が散乱している。ここは半世紀前に廃墟と化した差し渡し10kmにもおよぶ超巨大な最深度採掘施設跡だ。
以前は、ここでも多くの労働者たちが働いていたのだろう。その労働者達にも家族がいて、人の営みがあったのだろう。しかし現在はその痕跡すら残ってはいない。この惑星で起こった『バーニングスターシステム』がすべてを壊した。
幼なじみのルイスが言うように、それがもし惑星の知恵熱だったとしたなら、なんと残酷なことだろう。惑星の単なる生理現象が未曾有の大災害になり、惑星のほんの無邪気で気まぐれとも思える行為がそこに住まう人々をまとめて死に至らしめる。惑星にとっての人類とは、自らの皮膚の上に勝手に住み着いた虫か鼠か雑菌のようなもので、まったくもって取るに足らない存在なのだ。
母星である地球から外宇宙に進出した人類は、数世紀にわたって惑星を開拓し続け、巨大な宇宙コロニーまでを建造して生活圏を大きく広げたが、惑星のこうした振る舞いには為す術もない。
かといって安住できる平穏な惑星では、必ずといっていいほど人類は戦争を始める。今もどこかの惑星系のどこかの星では企業間や民族間で戦争をしている。そして、その度にクロウが駆り出される。どうやら人間という生き物は暇が嫌いらしい。常に何かしていなければ気が済まないようだ。おかげで俺も仕事にありつけているわけだが。
施設の中央部が近づいてくると、断続的に起こる発破音と振動がいよいよ大きくなってきた。RAC2機がなんとか並んで通れる幅の連結通路を抜けるとひときわ広大な空間に出る。
そこではイクイヴ・ユニオンのRMT部隊が爆炎の向こうにいる敵に向けて銃撃を行っていた。爆炎と黒煙でよく見えないが、向こう側にいるレイリーQビットの部隊と交戦しているのだろう。どうやらここが最前線らしい。素早い敵を相手にしているようで、各RMTは機体の向きと腕部をせわしなく動かしている。
助太刀に入ろうと、機体を進ませようとした瞬間、腹に響く重低音と鼓膜に突き刺さる高音が特徴の独特な音を捉えると同時に、HUD上に音波波形モニターがポップアップした。こいつはRACのブースター稼働音だ。その音が徐々に大きくなってくる。
直近で起きた大きな爆発とともに、横に広く展開するイクイヴ・ユニオンのRMT部隊の頭上を何かが飛び越えて来た。放物軌道の頂点付近で加速度が弱まった瞬間にだけ、はっきりとそのディテールが捉えられる。それはブーストジャンプで部隊の背面を奪おうとする四脚型のRACだった。
自立制御されたRMTは頭上に向かって砲火を巻き上げるが、青白い光の幕で覆われた四脚型RACにダメージは通っていないように見える。難なくRMT部隊の頭上を飛び越えた敵RACの4本脚が、着地の衝撃をしなやかな動きで吸収しつつも、接地面が硬質な床面をえぐる。その反発動作で床面を蹴り、素早く旋回動作をすると床の破片が周囲にばらまかれた。
展開したイクイヴ・ユニオンのRMTと俺がいる位置の間に突如として降り立った四脚型RACは、その左腕部を高らかに上げる。展開していたエネルギーシールドの青白い光が失われ、その左腕が振り払われると、その瞬間、横並びになっていたイクイヴ・ユニオン部隊のRMT5機が、回避も回頭もできずにまとめて爆散した。俺は異様な光景に目を疑う。その様は魔法のようにさえ見えた。一体何をした。奴の左腕。俺の知らない武器だ。
《レイリーQビット側勢力。アクスルシャフトの軽四脚型RAC。機体名マクファーソンストラットです。相手方はパーソナルAI間での情報交換を拒否》
すでに俺の存在にも気づいていたであろう敵側の軽四脚機は、すぐさま前方の片脚を軸にして後脚部を蹴り上げ、こちらに向きな直りながら後退する。彼我の距離は約200m。同時に敵は右腕のライフルを構え、その銃口をこちらに向ける。
問答無用ってか。クロウは雑多な事務処理等々を簡略化するため必ずパーソナルAIを使用しているはずだ。そのAI同士はそれぞれの間で独立して通信を行い、登録名や所属エリアなどの情報を事前に設定した範囲で開示する仕組みになっている。
だがそれは先方に拒否された。それに奴の動きは、少なくともクロウになり立ての動きではなくベテランのそれだ。となると野良か、隣接エリアの余所者か。
敵機に備わった単眼のカメラアイが焦点を合わせたかのように赤く発光し、こちらを睨む。不意に機体全体が大きく沈み込んだ。その様に俺は身を固くする。来る。
こちらもすでに右腕のライフルを構え、照準を合わせていた。迎撃しようとトリガーにかけた右手人差し指に力を込めた瞬間、横合いから轟音とともに飛翔体が高速で押し寄せ、俺の脇を通り過ぎ、軽四脚に迫る。突然の出来事に、俺は出鼻をくじかれる。それ以上に動揺したのは奴の方だろう。
踏み込みのために身構えていた敵四脚型RACではあったが回避ではなく、とっさに左腕のエネルギーシールドを再展開した。光の幕が障壁となり、衝突して起爆したミサイルとおもわしき爆風と飛び散る破片を防いだものの、予期していなかった攻撃に再度後退して距離を取らせる。
《味方機。MR.ブラウン。機体名ブルーマウンテンから通信入ります》
キャロルの報告の直後、通信機から男の野太い声が聞こえた。同時に外部マイクが重々しいブースト稼働音を捉えて耳に伝える。俺が来た通路の横合いにあった別の通路から、もったいぶったように重武装の四脚型が姿を現した。
《こちらMR.ブラウンだ。ライフルにミサイルはともかく、パイルバンカーとはな。その貧相な装備でこの規模の戦闘に臨むとは。貴様、戦場を舐めているのか》
闖入してきた重四脚型RAC───このエリアの獲得報酬ランクNo.2のMR.ブラウンが、上位ランカーらしい傲慢な口調で、半ばあきれながら俺に向かって言い放つ。
《───ふむ。とはいえ、まあ、それなりに実績はあるようだ。難しいパイルを好んで扱うくらいならよほどの自信とみえる》
話しぶりから、俺の過去の戦歴をパーソナルAIに呼び出させているのだろう。その間も敵の軽四脚に向けたライフルの照準は外すことなく決して隙は見せない。
《よし、貴様。この先に狭い工場区画がある。そこへ奴を追い込んで、その左腕の
発破音が轟く。MR.ブラウンはこちらの返答を聞くまでもなく、すでに攻撃を開始していた。ったく、いきなり現れて命令すんなよ。これだから上位ランカーは好かない。