【短編】アーマードコア6 SIX inspired【非公認】 作:あきてくと
言うだけあって、MR.ブラウンの腕は大したものだ。獲得報酬ランクNo.2の肩書きは伊達ではない。正確な射撃で相手の動く方向を制限する。防御に難がある相手の軽四脚はエネルギーシールドを展開させつつ、ライフルで応戦しながらも、おもしろいようにこちらが望む閉所区画へ誘導されていく。
正直、俺はやることがない。下手に手出しをしてもNo.2の邪魔をするだけだと気づいてからは、ただただ後ろをついていくだけだ。もし俺がレイリーQビット側の依頼を受諾していれば、あの所属不明の軽四脚型RACと共同で、このNo2が駆る重四脚機を相手にしなくてはならなかった。正直、想像しただけでゾッとする。
不意に敵の軽四脚が前面にかまえたシールドを解き、左腕を振り上げた。あの得体の知れない武器が搭載された左腕だ。前を行くMR.ブラウンの重四脚型RACブルーマウンテンは横に回避する。俺もそれにならって動く。
左腕が振り払われると、その平面延長上にあった天井と壁面、床が爆発する。破壊力は大したものだが、落ち着いて観察すればなんてことはない。目視では捉えづらい無数の小型爆雷をシールドから散水するかのようにばらまいているのだ。ネタがわかってしまえば、もう手品は通じない。
MR.ブラウンは相変わらず正確な射撃で軽四脚を目的の通路奥へと追い込んでいく。この通路の先は機動戦をするには少々難しい広さの閉鎖された区画らしい。軽四脚は細かな回避と射撃を狭みつつ後退しながら通路奥に退避するも、その先は袋の鼠ならぬ鼠の袋小路だ。
《さあ、やれ。相手は余所者だ。遠慮はいらんぞ》
MR.ブラウンは重四脚の巨体を一カ所しかないこの区画の通路出入り口に陣取らせ、相手の逃げ道を塞ぐ。お膳立てはしてやったから、あとは任せると言わんばかりに動く気配がない。ずいぶん簡単に言ってくれる。射程が皆無に近いパイルを、動きが速い相手に当てるのは難しいんだぞ。
狭く薄暗い区画内で、俺は改めて相手の軽四脚と対峙する。お互いがライフルを構えて仕掛けるタイミングを伺う。敵からのプレッシャーに加え、後ろにいるNo.2からのプレッシャーものし掛かる。隙がない。こいつが野良クロウか隣接エリアのクロウかは知らない。だが手練れであることは確かだ。
クロウはエリア外の余所者には厳しい。無法地帯ともいえるこの惑星に明確な領域境界はないが、それゆえにクロウ同士の領地争いはある。占有できる土地の大きさは、回収できる取得物の上限量を指す。それはつまり、俺たちクロウの内職であるジャンクパーツ漁りの潜在的資源埋蔵量だ。
新たな施設や手つかずの発掘場所が発見されれば、その土地を奪おうとする動きもある。今いるこの大規模な最深度採掘施設があるこの場所も、隣接クロウと大規模な戦闘の果てに勝ち取ったものらしい。俺がこの星で仕事を始める以前の出来事らしいが。そういった確執があるせいで、隣接エリアのクロウ同士はとくに仲が悪かった。
発砲音。それを契機に両機が同時に横へ動きながら射撃戦を始めた。とはいえ閉所だから派手には動けない。かすかに見える相手の銃口の向きから着弾位置を予測し、リロードタイミングを図りながらながら回避を試みる。しかし至近距離から亜音速で迫る銃弾など回避しきれるものではない。着弾の度に爆音が轟き、装甲には幾つもの弾痕が刻まれていく。
戦いの号砲を発したのは、動こうとしない俺たちにしびれを切らしたMR.ブラウンだ。この野郎。余計なことを。
強引にも戦端が開かれた。幾度なく位置を入れ替え、床や壁面に機体をこすり、交差戦を繰り返した果てに、軽四脚を壁際の隅に追い込むことに成功する。一瞬だけできた奴の隙めがけて俺は左腕のパイルを撃ち放つ。しかし素早い反応と動きでかわされた。高い瞬発で高威力を誇るぶん、パイルバンカーは攻撃後の隙も大きい。
早く旋回して回避と再捕捉を。意識は敵機に向きながらも、機体は操作を受け付けない。焦る気持ちとは裏腹に、そのとき視界に映り込んだ異変に気を取られ、今度は俺自信の身体が硬直する。
機体の正面の壁面に設えられたキャットウォークに小さく動く物体があった。暗がりであるうえ、保護色となる灰色の物体。やもすれば見落としそうではあったが、それは全身を防護服に身を包んだ紛れもなくヒトだ。大型の形態武器もしくは撮影機器のようなものを手にしたままのヒトが、尻餅をついた姿勢でこちらを見上げている。透明のバイザーの内側には顔があった。視線が合った気がした。
「人間!?」
驚いた俺は思わず声に出す。その隙にライフルを撃ち込まれ、着弾の衝撃で視界がぶれる。今度は思わず舌打ちをしていた。馬鹿が。撃つな。人がいる。俺はとっさに盾になるよう機体を操ると、軽四脚機が放ったもう一発が正面から肩装甲を直撃した。瞬間ダメージアラートが回避を促すべく警告音を発する。
俺はかまわず、そのままの位置に陣取ったまま、再び後方モニタで先ほどのヒトがいた場所をちらりと伺い見る。しかし、そこにはすでに誰もいなかった。見間違いや幻覚などではないはずだ。動揺しながらも、俺はようやく機体を横に滑らせ、次に放たれた銃弾を辛くも回避し、気を取り直してすぐさま反撃を行う。
そのまま移動を続け、ヒトらしきものがいた壁面近辺から大きく距離を取ると同時に、さっきのヒトが退避できるだけの時間を稼ぐ。その間もこちらの動きを追うように何発ものライフル弾が放たれ、足下の床面にや背後の壁面に弾痕が刻まれる。
移動しながら連絡通路の前に鎮座し続けるNo.2の目の前をパス。彼は無言であったが、機体ごしにでも「何をしている」と言わんばかりの視線を感じた。敵の軽四脚はライフルを放ち続けながら、俺たち2人をまとめて葬り去ろうと、あの特殊爆雷が仕込まれた左腕を持ち上げる素振りを見せた。
その瞬間、見かねたNo.2が業を煮やしたかのごとくミサイルを放った。上位ランカーからの無言のプレッシャーを受けとった俺は一瞬で覚悟を決め、確実に敵機を仕留めにかかる。
放たれた援護のミサイルを追うように突進。それと同時に操縦桿脇のコンソールのいくつかを叩くとシステムがHUD上に背面ハッチの展開状況を伝えてくる。できれば奥の手は使いたくなかったが、もはや形振り構ってはいられない。とっておきの方法で確実に仕留めてやる。
見慣れない左腕の特殊爆雷とはいえ、さすがにこの短時間に3度も見せられては突破口も見えてくる。あの手品のような左腕の特殊爆雷を放つまでには、構えてから発射パネルの展開後とストッパー解除までわずかにタイムラグがある。腕を振る向きとタイミングにさえ気を払えば回避は難しくない。功を焦ってか、使う距離が近すぎだ。近距離で動く相手に当てるのはパイルバンカーと同じくらいに難しいはずだ。
爆雷を放てばMR.ブラウンが放った眼前のミサイルが誘爆する。エネルギーシールドを展開すれば俺がパイルバンカーで
敵の正面に青白い光が浮かび上がる。軽四脚はエネルギーシールドによる防御を選んだ。同時にミサイルと俺の突進を回避すべく、四脚を用いた瞬発力とブースターで横に飛び去ろうとする。
しかし半球状に展開されたシールドの端っこで炸裂したミサイルの爆風でわずかに動きを鈍らせた。その隙に俺は奴の動きに機体を追従させる。発破したミサイルから発せられた金属片がこちらの装甲をも叩くが、俺は構わず間合いに捉えた軽四脚に必殺の左腕部を繰り出す。
発破音とともに、ダイヤモンドコーティングされた炭化タングステン・チタン鋼製の杭が光の幕に突き刺さる。しかし、いつもの硬質な反発ではなく、返されるのはゴムでも突き刺したかのような軟質な手応えだ。同時に腕の突き出し速度もわずかに殺された。展開されたエネルギーシールドを突き破るも、パイル先端は胴部を捻って避けられ、撃破どころか損傷さえ与えられていない。
ほぼ組み合った密着状態のまま。敵機は右腕のライフルをこちらに突きつけようと腕部を繰る。が、それより早く両機体をアーク放電が包んだ。出所は俺の機体の背面。これが俺の奥の手だ。
周囲の気体が絶縁破壊を起こし、青白い高輝度光を発するプラズマが視界を縦横無尽に駆け巡る。放電の強まりに応じて敵機は徐々に動きを鈍らせていき、ピークに達すると両機の間でスパークが瞬いた。激しいフラッシュを起こすも、こちらはアイカメラのシャッタが自動で降りてセンサは保護されており、眼前にいる敵機の様子がはっきりと見て取れる。
敵機はホワイトアウトで視界を失うどころか、ゼロ距離射撃を行うべく俺の頭部に銃口を向けかけた所で動きを止めていた。機体の稼働を示す単眼のアイカメラからも完全に光が失われると、糸が切れた操り人形のごとく手足はだらりと垂れ下がり、4本の脚からもすべての力が抜けたようにその場へ鎮座する。
俺の機体背面ハッチ内に備わる機器は『スタンパルサー』といい、高周波高電圧で相手の電子回路にダメージを与えて一時的に動きを制限する。多重の保護機構が備わるRACであっても、特殊な対策が施されていない機体であればこの通り。MTやRMT程度の相手なら電子回路を完全に破壊できる。
俺は相手の軽四脚型が再起動を果たす前に、パイルバンカーを胸部へと叩き込んで完全に沈黙させた。動かない相手に攻撃を加えるのは後味が悪いが、背に腹は変えられない。
《まさか、そんなものまで用意しているとはな。君とは敵でなくて良かった。私の重い機体では、接近されれば無事では済まなかっただろう》
MR.ブラウンから通信が入り、思いがけず労いの言葉がかけられる。
《思うところは多々あるが、
MR.ブラウンの重四脚は重々しい足取りで機体を旋回させると、早々にこの区画から出て行く。横柄な態度は相変わらずだ。それより気になる事があった。
「キャロル、さっきの見たか?」
《お見事。さすがです。素晴らしい戦いぶりでした。惚れ惚れします》
キャロルのプログラムには過剰に褒めるアルゴリズムも組み込まれている。そうじゃなくて。
「そうじゃなくて、人がいた」
《この惑星に人間はいません》
キャロルは俺の言葉を即座に否定する。パーソナルAIのキャロルのネットワークは機体のカメラにも接続されており、人間はもちろん犬と猫の種別を見分けるだけの認識能力もしっかりと備わっている。それなのに、人を見落とすなどということはあり得ない。
「俺は確かに見たぞ」
《いいえ。この惑星に人間など存在しません》
「生き残りが、いたのか」
《いいえ。この惑星に人間は誰一人として存在しません。幻覚症状の疑いがあります。脳波や血流に異常は見られませんが、念のためこの作戦が終わりましたら医師の診断を受けることを強くおすすめします。予約を取ります。何時がよろしいでしょうか》
「いい加減にしろ。何か知っていて隠しているのか」
《隠し事とは一体何のことでしょう。おっしゃっている意味がよくわかりません───あ、MR.ブラウンから通信です。迅速にお繋ぎします》
このAI、話をはぐらかしやがった。スピーカーからは、すでにこの場にはいないMR.ブラウンの野太い声が届いた。
《忘れていた。君をフレンドリストに登録しておきたい。承諾を頼む。何か困ったことがあったら連絡するといい。もっとも次に合うときは敵か味方かはわからんが。できることならコーヒーでも飲み交わしながら語らいたいと思ったところだ》
「フレンドリストは承諾する。ただし、あいにく苦いものは嫌いだ」キャロルの対応に苛立っていた俺は、素っ気ない態度で応えてしまう。
《そうなのか。私の煎れたコーヒーは美味いぞ。コーヒー嫌いでもきっと好きに───何だこれは───》
戦闘中は常に冷静だったNo.2の、初めて聞く驚愕した声音。その直後、聞き慣れない大音量の高周波音が通信機と外界から同時に耳をつんざき、思わず顔をしかめる。HUD上にも音波波形モニタがポップアップするが、類似するデータがないため《Unknown》とだけ表示されていた。それきりMR.ブラウンの威圧感のある野太い声も聞こえなくなる。
《通信および機体反応をロスト。MR.ブラウン、戦闘不能です》
キャロルが伝える。そんなはずはない。あのNo.2だぞ。軽四脚のクロウを倒した今、レイリーQビット側の戦力には自律制御のMTかRMTしか存在しないはずだ。間違っても、奴が簡単に落とされるとは思えない。
俺はMR.ブラウンの消息を確かめようと、この区画に1本しかない出入り口通路へと足を踏み入れる。通路の奥に人影があった。MR.ブラウンかと思った違う。そのシルエットは二脚型のものだった。それに、明らかにRACより巨大な影だった。
同時に激しい違和と妙な調和を感じとる。違和感の正体は明確だ。通路奥から迫ってくる機体は、イクイヴ・ユニオンやレイリーQビットはおろか、現存する企業のどのインダストリアルデザインにも似ていない。
そして、このRAC1体が通るには広すぎ、2体並んで通るには狭すぎる中途半端な通路設計は、あの正体不明機に合わせてつくられているような気がした。俺はひとつの仮説にたどり着く。しかし、それを即座に否定した。正体不明機はその間にも一歩づつ、こちらに近づいてくる。
半世紀も前にすべて失われたとされる。
かつてのレイヴン達が操った。
俺達が扱うRACの原型ともいえる。
戦果だけが追求され、採算を度外視した
「あれは、本当に
俺は誰に尋ねるでもなく、思わず口に出す。