【短編】アーマードコア6 SIX inspired【非公認】   作:あきてくと

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#5 Relapsing fever(回帰熱)

プライムAC(PAC)』は、汎用人型兵器として開発されたアーマードコアの第一世代機群。全高は10mほどで俺たちクロウが扱う第二世代機群『リプロダクトAC(RAC)』の2倍近くも大型だ。

 

 PACには、考え得るあらゆる状況を想定して、過剰気味の性能が与えられている。外寸が2倍程度であっても、ジェネレーターの発電量やブースター出力、各部アクチュエーターのスピードやトルクを始めとする、その他諸々のスペックは単純に2倍にはとどまらない。

 

 機体を構成する各部品の精度からフレームや装甲の強度、搭載するセンサなど至る所が異なっている。扱える武器も大型で高威力。とくにRACには扱えない高出力のエネルギー兵器を扱える事が特徴だ。先刻、俺が拾った名銃カラサワがそれを物語る。

 

 その過剰性能機を扱えるのは選ばれた者のみ。『PAC』とその搭乗者である『レイヴン』は、加担した勢力へと確実に勝利をもたらすゲームチェンジャー。半世紀前まで当たり前に行われていたレイヴン同士の戦いは壮絶なものだと聞き及んでいる。

 

 現在、ルビコン3の地表にはその残骸が残るばかりだ。『PAC』と『レイヴン』は半ば伝説のような扱いになっていた。

 

 とはいえ、PACは別段に珍しいものではない。博物館に行けばデッドストックが飾ってある。パーツが廃盤になっているうえ、保守できる人員も技術も、操縦できる人間もすでに失われているため、誰も使わないだけだ。いわばただの骨董品。

 

 ただし、PACとRACが戦ったらどうなるか、これまで試した奴はいない。後発なだけあってRACの方がサイズおよび重量対出力比での効率は優れている。だがその他のすべてが劣っていた。RACは所詮、PACのデチューン版もしくは廉価版でしかない。

 

「あれは、本当にプライムAC(PAC)、なのか?」

 

 奥から大型の人形兵器が迫ってくる。RAC1体が通るには広すぎ、2体並んで通るには狭すぎる中途半端な設計の通路を、まるでそこにいるのが当然のような調和を生んでいた。

 

 劣勢に陥ったレイリーQビットが、この後に及んでPACを投入したのだろうか。しかし敵味方識別信号(IFF)はレイリーQビットはおろか、イクイヴ・ユニオンにも属していない。

 

 PACとレイヴンは、このルビコン3の企業間抗争にまとめて駆り出され、半世紀前に起こった『バーニングスターシステム』ですべて失われたはずだ。俺が知る限りでは、それ以降どこの惑星系でもレイヴンが独立傭兵として参戦したという記録はない。

 

 なによりも、生命の生存が危ぶまれるこの惑星で、PACが動いている事実が異様なのだ。そう思える理由は、PACにはもうひとつRACと決定的に違う点があるからだ。

 

 巨体の背面がら光が溢れて通路の壁面を照らす。PACが狭い通路からカタパルトのごとくブースターを吹かして躍り出てくる。

 

 あれだけの速度では、この狭い区画内で満足な機動戦はできまい。天井は奴の全高の2倍程度しかない。大柄なPACに対して地の利を活かす。閉所での機動性はこちらが上のはずだ。俺は先程の軽四脚と戦った狭い区画で敵機を迎え撃つために後退する。

 

 ところが敵機は速度を緩める気配すらない。この閉鎖空間で高速戦闘機でも飛ばすかのような狂った速度で迫ってくる。その様は鳥を思わせた。しかし、その際に相手が発するプレッシャーはカラスなんて生やさしいものじゃない。それは獲物を狙う猛禽類の獰猛さだ。うねるような機動で赤黒いカラーリングの機体が押し寄せてくる。

 

 今では部品を集めることさえ難しいというのに、高速で迫ってくるPACの外観は、ロールアウトしたばかり新品みたいに綺麗だった。背面にはミサイルランチャーと折り畳み式のキヤノンらしき武装。左腕は何やら得体の知れないデカいものがついていた。

 

 その右腕に握られている大型のレーザーライフルと思わしき武器には見覚えがあった。先刻、俺が拾ったのと同じ武器。名銃『MWGーKARASAWA(カラサワ)』。

 

 眼前で激しく光が瞬いた。秒速30万kmで押し寄せるレーザーは回避不可能だ。ひたすら射線に捉えられないようにするか、装甲温度が融点に達する前に射線上から逃れるしかない。

 

 俺は右へ回避行動をとる。すぐさま装甲温度上昇のアラートが鳴り響くが、幸い被害は少ない。突進しながら放たれた高出力レーザーライフルの1発目は何とか回避に成功したものの、後方の壁面には大穴が空き、外光が差し込む。先刻、MR.ブラウンが葬られた際に通信機から聞こえた高周波音はカラサワのレーザー照射音だ。

 

 敵機は狭い区画を小さく旋回して再びこちらに迫った。こちらも右腕ライフルで迎撃するも、弾幕の合間を縫うようにことごとく回避される。再びフラッシュ。可視できるほどの極太の高出力レーザーが右側面をかすめて壁面に別の大穴を穿つ。装甲温度が危険域に達したことを警告するアラートも鳴り止まない。

 

 俺は区画の中央付近で回避に徹せられ、右往左往するだけだ。ライフルでは歯が立たない。なら誘導ミサイルは。連続発射された4発のミサイルが煙を吹き出して高速飛行する敵機に向かう。

 

 しかし、ミサイルの速力と誘導性能をもってしても追従しきれず、すべて高速移動する敵機の脇をかすめるだけにとどまった。行き場を失ったミサイル弾頭が壁面に当たって炸裂し区画内を揺らす。ミサイルの回避先を狙ってフルオートで放ったライフルの一発が運良く命中した。その衝撃でバランスを崩したかと思われたが、錐揉みしながら体勢を立て直し、すぐさまこちらに肉薄する。

 

 今度は奴の左腕部から光が延び、それは青白い輝きを放って剣状を形成する。刀身全体が超高温のプラズマで構成されるレーザーブレード。急接近しながら、すれ違いざまにそれが振るわれる。

 

 機体を捻りつつ左へ回避したが、かわし損ねたらしい右前腕がライフルもろとも一瞬で蒸発し消えてなくなった。俺は舌を鳴らして毒づく。

 

「くそっ。キャロル、ラグいぞ。機体の通信パラは」

 

《通信パラメータ、異常なし。あの敵機の反応が速すぎるのです》

 

 すぐさま旋回し、ブレードを振るった後の隙めがけてミサイルを放ったが、それらはすべて容易に振り切られ、奴はそのまま自らがレーザーで空けた外壁の穴から外へ飛び出していった。逃げた訳ではあるまいが一息つける。俺は警戒しながら大きく息を吐き出し、こわばった身体を強制的に緩めるよう意識する。

 

 潤沢なエネルギー供給によって可能になる高出力のレーザーライフル。発生させたプラズマを強力な磁力線で閉じこめて形成する超高温のレーザーブレードも膨大なエネルギーを消費する。PACのオーバースペックぶりに改めて舌を巻く。

 

 それに対してこちらは、たった数度の交錯で主武装であるライフルは右腕ごと失っている。ミサイルの残弾は心許ない。頼れる武装はスタンパルサーと左腕のパイルバンカーのみ。しかし、あの素早い動きに、こちらから接近してパイルを当てるのは困難だ。なら、レーザーブレードを何とかかわしてスタンパルサーで動きを止め、カウンターでパイルバンカーを当てるしか勝ち目はない。

 

 大推力のブースターが備わるとはいえ、あんなに速く動けるものなのか。それに速いだけじゃない。反応速度、身のこなし、機体制御OS(オペレーションシステム)の基本構想自体が異なるような。それに───。

 

「あれは、どう見ても有人機の動きだろ」

 

《いいえ。この惑星に生存している人間はいません。ただの正体不明機(unknown)です》

 

 ぼそりとつぶやいた俺にキャロルが律儀に答える。なら、あのPACはどこから来た。そして誰が動かしている。PACは有人機のみしか製造されていないはずだ。

 

 とはいえ、コックピット周りにどれほど優れたGアブソーバーを搭載していたとしても、生身の人間があれだけの機動で発生する慣性加速度に耐えられるはずがない。おまけに搭乗しているのが、もし半世紀前のレイヴンだったとしたなら、とっくジジイになってもおかしくない年齢だぞ。

 

《直上。高熱源発生。回避してください》視界外からの攻撃に対してキャロルが警告を発した。

 

 天井の一部が赤熱化し、とたんに機体のすぐ脇をあの青白い光条が上から下に駆ける。続けてもう一射。屋外へ飛び出した奴は上空から建物物の屋根などおかまいなしにレーザーライフルを撃ってきているようだ。逃げ延びるチャンスと思い立ち、区画の出口通路に向かうが、飛び込もうとした瞬間に通路そのものが高出力レーザーによって溶解した。

 

「くそっ、袋の鼠ってか」

 

《『鳥かご』の方が、より適切な表現です》

 

「やかましいっ」俺はキャロルに当たる。

 

 直上からのレーザーがさらに数射。さながら衛星軌道上からレーザーを放たれているようだ。そのうちの一発が先ほど倒した軽四脚型のRACを飲み込み、機体が赤熱した飛沫を散らして跡形もなく溶け消え失せた。天井の至るところには大穴が空き外光が差し込む。巻き上げられた粉塵と灰によって乱反射し、木の漏れ日のように光柱が立ち上っている。

 

 次の瞬間、ミサイルの被ロックオンアラートアラートが鳴った。続いて発射音。迫るロケットエンジンの推進音。そして回避を促す警告音。ミサイルが着弾した天井で爆発が起こり。区画内に瓦礫が降り注ぐ。

 

 それらを回避しつつ、落ちた天井と爆炎の隙間から奴の姿を伺い見ると左肩の長物を構える様子を捉えた。直後、大きな発破音。別の飛来物。おそらく、グレネードランチャー。まずい。俺は空いた近場の穴から、這う這うの体で屋外へ飛び出す。

 

 強烈な爆発で眼前がフラッシュオーバーした。大気が激しく振動し、その衝撃波は辺りの空気もろとも俺の機体を弾き飛ばす。そしてすぐさま真空状態になった空間を埋めるべく空気が注ぎ込み、その逆風に機体が煽られた。

 

 爆炎が晴れると、あたりの様子は一変していた。さっきまでいた区画は跡形もなく消え去り、周辺の建造物も外壁が吹き飛び、骨格をひしゃげさせ、すでにボロボロだった建物はただの巨大な瓦礫へと変わっていた。

 

 俺は機体を起きあがらせ、すぐさま敵機の位置を探る。しかしそうするまでもなく、奴は目と鼻の先にいた。100mほど離れた位置にいるPACが、こちらに通信で呼びかけているようで、通信機が変調しながらノイズを発している。自動でチューニングが完了すると敵機からの鮮明な声がこちらに届く。

 

《すばしっこい小鼠め。貴様等余所者に、あれ(・・)は渡さんよ》

 

 通信機から聞こえたのは意外なほど若い男の声だった。余所者とは。それはエリア外を指すのか、それとも惑星外を指すのか。そして『あれ』とは。一体全体、あのPACのパイロットが何を言いたいのか理解できない。

 

《我々とこの星の住人たちはずっと、地下深くに籠もって助けを求めていた。だが貴様等は半世紀にも渡って、それを無視し続けた。我々を勝手に死んだものとして、あげくの果てに無断でこの惑星を闊歩し、星の資源をむさぼり尽くす気か》

 

 怨言とともにPACの左腕からレーザーブレードが伸びる。その膨大な熱量に周囲の気温が一気に上昇し、辺りの空気が揺らぐ。ブレードで止めを指すつもりなら願ったりだ。パイルでの一発逆転を狙う好機。それと同時に絶体絶命の危機。

 

 耳元ではPACからの通信とともに、やかましいアラート鳴り続いている。右腕は失われ、脚部のアクチュエーターも負荷限界。機体異常を示すアラートの不協和音が鳴り止まず、もはやどの音が何を表しているのかわからない。とにかく、どこもかしこも異常だらけだ。果たしてまともに動かせられるか。

 

《そしてなにより、我々レイヴンをこの星へ集めて謀殺しようとした貴様等を、断じて許すわけにはいかない》

 

 敵機の背面にブースター光が瞬く。その鋭い前加速に合わせて、俺は残ったミサイルをすべて放って迎撃。奴は自らの高い推力によって回避行動を取れないはずだ。しかし奴はレーザーブレードを振るって、押し寄せる数発のミサイルをたったひと振りで叩き斬り蒸発させる。そのまま、あのうねるような機動で突進してくる。

 

 タイミングを図り、その突進に合せてカウンターパイル(置きパイル)を狙う。同時に動きを封じるためのスタンパルサーを起動。背面から放電が始まる。アイカメラのシャッターが降り、視界画面が若干明度を下げる。彼我との間で激しいスパークが瞬く。

 

 強力な電磁放射によって機体制御が抑制され、奴の加速と動きが鈍る。ブースターの推力が失われ、振るわれたレーザーブレードも同じく欠き消えた。赤黒い塗装色のPACが隙だらけのまま慣性だけで突進してくる。そこへ目掛け、俺は虎の子のパイルバンカーを叩き込むべく左手のトリガーを引く。

 

 敵機のアイカメラが何度か点滅し、完全に光を失った。無防備状態になった敵機にパイル先端が爆発的な勢いで向かう。かと思った矢先、奴のカメラアイが再び赤く、強く輝き出す。

 

「効かねぇのかよっ」

 

 繰り出したパイルバンカーはその場で胴部を捻ってかわされる。突進は右腕の大型のレーザーライフルに押さえつけられ阻まれた。軽いとはいってもRACだって10tを優に越える。大質量体同士が衝突するが、向こうはびくともしない。機体質量が違いすぎる。

 

 その組み合った姿勢のまま前方に加速されると、俺の機体は大推力によって押し戻され、そのままの格好で背面にあった建造物の外壁に機体が叩きつけられた。

 

 PACとRACは何から何まで違う。武器の威力、サイズ、出力、機体速度、身のこなし。とくに際だっているのは反応速度。時々こちらの予想を大きく上回る動きをする。

 

 RACの操作システムの根幹をなしている『Telle pass(テレパス)(Tele Extremely Low Latency Exactitude Parallel Advanced Sender System)』は、量子情報通信を利用した新世代通信システムだ。量子もつれを利用した情報伝送技術で、送信方向の座標さえ分かれば宇宙のどこにいても大容量低遅延の情報伝達を可能とする。

 

 ただし、量子通信とはいえ遅延はゼロにはならない。電子情報から量子情報への変換作業や暗号化に加え、位置座標の測位において数度の量子通信を繰り返さなければならないため、最小理論遅延値は15ms。実際の遅延時間は平均で0.1秒ほどにもなる。

 

 奴がもし本当にレイヴンだとして、実際に機体に搭乗してPACを操縦しているのであれば、向こうの行動に対して、俺が行う操作は総じて約0.1秒遅れていることになる。奴とは0.1秒違う時間軸のなかで戦っているのだ。操縦技術や機体性能以前に、時間という絶対的な壁を前にして勝てるわけがない。

 

 左腕から再び極太のレーザーブレードが発振される。強烈な熱波が発生し、視界が陽炎のように揺らぐ。それだけで機体装甲の表面温度が急上昇してアラートが鳴り響いた。その至近距離で構えた淡く光る剣は、まるで惑星上から見た衛星の反射光のようだ。肘を引き、その先端がこちらに向けられる。

 

《逝ね。小鼠》

 

 腕が突き出されると、眼前が光に包まれた。何の音もしなかった。誰かの悲鳴らしき叫び声だけが遠くで聞こえている。眼前がわずかなモニターノイズを残して暗転した。

 

 真っ暗闇。

 

 

 

 

 

 

 それから数秒後、文字が表われる。

 

 『ーーSignal Out(シグナルアウト)ーー』と。

 

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