【完結】アリス・イン・ワンダーランド 〜ルッキング・グラス〜 作:さくらのみや・K
Track-1 プロローグ
私は耐えられなかった______
悲しみを、
虚しさを、
そして怒りと憎しみを______
『なっ…それおもちゃでしょ?仕舞いなさいよ、そんな危ないもの!!』
『大事なものを奪われた時ってね、心がとってもズキズキするんです…』
鞘から引き抜いたナイフの刃に、自分の虚ろな瞳が映る。
何もかも奪われた。奪われ続けた。
友達も、
恋人も、
思い描いていた未来も___
だけど、だけど…!
お姉さまは私のたった一つの自慢。
私の憧れだから。
だから_____
『私を裏切るようなことは絶対にしない!お前はお姉さまじゃない!!』
『お願い慧梨主!アタシの言うことを聞いて!』
焦りと恐怖の懇願が、悲鳴となって部屋に響き渡る。
それが私に残った最後の記憶。
『あんたなんか…この世界から、消えてよぉおおおおおおおおおおおおお!!!!』
私はナイフを振り下ろした____
………………
……………
…………
………
……
…
私の一日は、スマートフォンのアラームの音で始まる。
画面に表示された停止ボタンをタッチし、駄々をこねる身体を無理矢理起こす。
午前5時。
外はまだうっすらとオレンジがかっている。
この家の家事は私の担当。
朝ごはんも私が作る。
正直、朝ごはんくらいコンビニで済ませても良いのだけれど、やっぱり手作りの方が健康には良い。
と言っても、毎度栄養バランスを考慮した料理を作れるわけでもなく、メニューはトーストに目玉焼き、それにコーンフレークかスープ。
至って平凡な朝食を、家族分作るのだ。
「いただきます」
紺色の制服を身につけ、その上にグレーのコートを羽織る。
教科書類が入ったカバンを手に、私は外へ出た。
玄関の鍵をかけ、学校へ向かって歩き出す。
歩いておよそ30分。
私が通っているのは、進学がメインの公立の普通高校だ。
1年生の2学期から転校した。
いつも早めに登校し、静かな教室で読書や友達とお喋りしている。
7時ぐらいに家を出るのが一番良い。
大体道の中程で、いつもの友達に会う。
「おはよう慧梨主ちゃん!」
「おはよう、綾瀬ちゃん」
綾瀬ちゃんとは3年間同じクラス。
転校してきた時、真っ先に声をかけて色々助けてくれた。
それ以来、お互いの事を話し合う親友になった。
「今日から3年生かー。慧梨主ちゃん、なんか勉強してる?受験の」
「ううん…あ、でも参考書は買ったよ」
「えらいじゃない!で、やってみた?」
首を横に振る。
「…まだ袋に入ったままなの」
綾瀬ちゃんはそれを聞くと、大口を開けて笑った。
「分かるな〜それ。私もね、特に親が買ってきたやつなんてほとんどやってない。分かんないし」
「うーん、参考書ってやたら難しいよね」
こうやって楽しくお話しながら、私は毎朝登校している。
こういう他愛のない時間が、とても楽しいし何にも代えられない幸せだ。
私がこうやって仲の良い友人を作れるようになったのは、何もかもお姉さまのお陰だ。
お姉さまはとっても外向的な性格で、気さくで友達もたくさんいた。
それに勉強も運動も得意だし、誰にも好かれる人気者だった。
大人しくて引っ込み思案な性格の私に、お姉さまは友達の作り方を教えてくれた。
それだけじゃない。
勉強も、運動も、係や委員会の仕事を上手くこなす方法も、全て教えてくれた。
怒る時のお姉さまはちょっと怖いけど、私をここまで明るくしてくれた。
「お互い頑張ろうね、慧梨主ちゃん」
「うん、頑張ろう」
お姉さまは、私のたったひとつの自慢。
私の憧れ。
私もいつか、
お姉さまのようになりたい______