【完結】アリス・イン・ワンダーランド 〜ルッキング・グラス〜   作:さくらのみや・K

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Track-18 チェリーブロッサム・イン・ザ・スカイ

季節外れの大雪は、辺りを白く染めていた。

夢明希くんとの思い出を、塗りつぶすように。

 

家の前に停められたお兄さまの車まで、手を引かれゆっくり歩く。

お兄さまは車の前まで来ると、助手席のドアを開けた。

「さあ」

ここに座れば、もう二度と戻れない。

 

夢明希くんとも、もう二度と______

 

「うぅ……ぐす……」

また、涙が溢れてくる。

体が、車に乗り込むのを拒んでいた。

 

お兄さまが、背中にそっと手を添えてきた。

「慧梨主……」

「やっぱり……やだ……怖いです……」

そんなことを言う権利なんかない。

 

でも、それでも……!

 

「大丈夫だよ。僕が、傍にいるから」

優しく、お兄さまが声をかける。

でも、私は願ってしまう。

 

逃げ出したい、

助かりたい、

もう一度……せめてもう一度……

 

会いたいよ……

夢明希くん……!

 

 

「「!?」」

 

 

その刹那______

 

 

けたたましいクラクションの音が、暗く静かな住宅街に響き渡る。

 

両目の涙を拭い、顔を上げる。

「……っ」

降り注ぐ雪を突き抜けるようなヘッドライトの眩しさに、思わず顔を覆った。

近づいてくるその車はスピードを落とし、地面の雪でスリップしながら、お兄さまの車の後ろに停まった。

 

「あ……」

 

目の醒めるような黄色いその車は、この世界で何よりも見慣れている。

 

「ああ……っ」

 

夢明希くん______

 

「なっ……」

お兄さまは、驚きと困惑の表情を浮かべる。

 

見間違えるはずなんかない______

 

その黄色いスイフトは、夢明希くんの愛車だった……!

 

 

 


 

 

 

降りしきる雪の向こうに、見覚えのある白いフォルクスワーゲン ゴルフと、二人の人影が見えた。

「あのバカ来やがった!」

予報より早く積もり始めたため、夏用タイヤのせいで滑るスイスポを何とか走らせてたどり着いた先に現れた、新たな障害。

俺は、そう言わざるを得なかった。

 

すかさず、ステアリングボスを叩きつけてホーンを鳴らす。

路肩に寄せ、ブレーキを踏んだ。

滑りながらも、スイスポはゴルフの後ろに停止する。

目にも止まらぬ速さでシフトレバーをニュートラルに戻し、猛スピードでサイドブレーキを引き上げると、俺は外へ飛び出した。

 

「慧梨主ちゃん!!」

 

そこには、目に涙を浮かべた慧梨主と、手を引く彼の姿があった。

「夢明希くん……」

力なく、自分の名を呼ぶ慧梨主。

 

俺は全てを察した。

慧梨主は、つらい記憶を引っ張り出され、全て思い出したのだ。

 

「どうして……」

彼は、困惑した表情を浮かべる。

「どうして、来てしまったんだ……」

「な……?」

その表情は、本当に悔しそうな表情だった。

「まさか慧梨主に……自首させようと……?」

俺の問いに、彼は頷いた。

「君のためにも、このまま内緒で……当事者である僕らだけで、全てを終わらせようと思ったのに」

悲しみと、苛立ちの混じった表情で、俺を見る。

 

お兄さまにも、彼なりの決意があったのだろう。

一度は闇の中へ閉じ込め、何もかも捨てたはずの記憶。

それが眠るこの街へ戻り、今は慧梨主の手を引いている。

かつて自分を愛し、恋人として関係を重ねた者の人生を終わらせてしまう行為。

それを、生半可に決断したとは思えない。

 

だが彼は、人がどう傷つき、どう悲しむのか。

それを理解できず、そしてその自覚が一切ない。

今も心のどこかで、今の自分は正しい行為をしていると信じて疑っていないだろう。

怒りを通り越して、哀れみしか感じられなかった。

 

いずれにせよ、この状況が慧梨主にとって危機的なのは明らかだった。

「まあいいや、そんなことより慧梨主ちゃん!」

俺は努めて、笑顔を絶やさないようにした。

「な……なんですか……?」

涙を拭いながら、顔を上げる。

 

 

いつかその瞳から、深い深い闇の奥からあふれる涙を、一滴残らず消し去りたい。

それだけを願って、ここまで来た。

 

俺は、スイスポの後部座席のドアをノックした。

 

慧梨主のことをずっと好きだった俺の、小学生の頃からの夢。

それを叶えてくれた恩返し。

何より、大好きな恋人の、本当の笑顔を観たいという、人なら誰しもが抱く願い。

 

きっといつか三人で______

 

「さ、出番だよ」

 

慧梨主の夢を、

そして俺の夢を、叶えるために______

 

スイフトスポーツの、チャンピオンイエローの後部ドアがゆっくりと開く。

長い黒のブーツが、湿り雪の上に降り立つ。

 

「え……」

「な……」

慧梨主と少年が、目を白黒させる。

 

ゆっくりと立ち上がり、ポニーテールでまとめたブラウンヘアが、雪と共に風に舞う。

 

その髪色も、

薄暗い空の下でも輝くサファイアブルーの瞳も、

可憐さと幼さが混じる顔立ちも、

 

それは慧梨主と同じもの______

 

「あ……あぁっ……!」

 

慧梨主が両手で口元を抑えた。

 

「そんな……嘘だ……!」

 

お兄さまは、後ずさりする。

 

「お帰り」

俺は、車を挟んでこちらをチラと見やる“彼女”に、そう言った。

 

 

二人の前に現れた一人の少女。

それは幽霊でも、誰かの別人格でも何でもない。

 

 

「お姉さま______」

 

 

正真正銘、本物の……

 

桜ノ宮 亜梨主が、そこにいた______

 

 

 


 

 

 

 

幼い頃から、私とお姉さまは常に一緒。

お父さまもお母さまも、周りのお友達も、私達自身も、仲の良い姉妹だと思っていた。

外見も、髪型で分けないといけないくらいそっくり。

大好きなお姉さまと同じ姿で生まれて来れたことが、うれしかった。

 

ずっと隣にいて、

ずっと手を繋いで、

片時も離れず、私達はずっとずっと一緒だった。

『ぜったい、だれにもわたさないからね!』

『はいっ!お姉さま!』

小さい頃はいつもそんなやり取りをしていた。

 

でも、私と違ってお姉さまの周りには、沢山のお友達が集まった。

いつも人の輪の中心にいるお姉さま。

そんなお姉さまに、私の姿は映らない。

 

だって私には、お姉さまのように魅力もないし、社交性もない。

人見知りを直せず、いつも一人。

だから、正反対の光の世界にいるお姉さまには近づけなかった。

 

どんどん離れていく。

きっといつか、ずっと繋いできた手が離される時がくる。

 

幼い私は、それを恐れて泣いていた。

でも幼い頃の私は、自分の本当の気持ちに気づけなかった。

 

ただただ怖くて、つらくて、どうしてお姉さまにばかり……という想いだけが胸の中で大きくなる。

その言葉の本質は、嫉妬とは全く違うもの。

でもあの頃は……いや、何もかも失うまでは、私は気づくことはできなかった。

 

中学校に上がり、お父さまとお母さまが亡くなった。

私は悲しみに暮れ、この世で頼れる人はお姉さましかいなくなる。

 

その歳になると、“恋愛”という言葉が大きな意味を持ち始め、その渦中にお姉さまはいた。

私の中で大きくなりつつあった、コンプレックスという仮面を被った寂しさは、色々な心の闇と共に混ざり合う。

 

何をしてでも、お姉さまと並びたい。

光の世界に立つことができれば、またお姉さまと手を繋ぐことができるかも知れない。

 

その頃から、私は声をかけてきた男の人を、無条件で受け入れるようになった。

恋人ができれば、私もお姉さまと同じところへ立てるかも知れない。

心の奥で、そんな淡い期待を抱いていた。

 

だけどその人たちはみんな、お姉さまを好きになる。

 

お姉さまの友達が増える度、

私からお姉さまが離れていく______

 

寂しかった。

悲しかった。

 

でもそれは、お姉さまに取られて悲しかったわけじゃない。

お姉さまが憎いはずがない。

 

私はただ、お姉さまが離れていくのが怖かったんだ。

 

だって、私はこの世界で一番……誰よりも、

 

お姉さまを愛しているから______

 

 

 


 

 

 

慧梨主と彼は、この世にいるはずの無い少女の姿に、目を見開いて固まっていた。

 

殺してしまったはずの亜梨主が、

殺されたと思い込んでいたはずの亜梨主が、

目の前で、地に足を付けて立っている。

 

沈黙が流れる。

 

「あー……」

俺は慧梨主達と亜梨主を交互に見やると、たまらず口を開いた。

「大丈夫、お化けじゃないよ」

その言葉に、亜梨主はため息を吐きながらこちらを見る。

「アンタねえ、他に言うことあるでしょ」

「いやー」

 

「お姉さま!!」

 

慧梨主の声が、辺りに響いた。

引いていた彼の手を振り払い、亜梨主の元へ駆け出す。

 

「慧梨主……」

亜梨主もスイスポのドアを閉め、慧梨主の方へ足を踏み出す。

 

 

「お姉さま!!」

「慧梨主……慧梨主!!」

 

 

お互いに駆け寄った二人は、2台の車の間で抱き合った。

固く、お互いの温もりを確かめるように。

これは夢でも、幻覚でもない。

 

「お姉さま!ごめんなさい!私……私……っ!!」

「良いのよ、慧梨主……アタシの方こそ……」

溢れ出る感情を止められず、二人は大粒の涙を流しながら、互いの身体を抱き寄せている。

 

「私……お姉さまに、ぐすっ……あんな……酷いこと言って……お……お姉さまを…………」

「ううん……アタシこそ……ううっ……ずっと、慧梨主のこと、傷つけて……」

「ずっと……ずっとずっとずっと!私、会いたかった!もう一度……お姉さまに……」

「アタシもよ……慧梨主!また一緒に……一緒にこうやって、話せる日が、来ますようにって……!」

 

同じ日に生を受け、様々な運命や苦難の果てに引き裂かれた双子の姉妹。

その関係を、俺みたいな何の苦労も知らない奴に直せるのか……

慧梨主の気持ちは理解しているつもりだったし、亜梨主にも半殺しにされかけながら説得し続けた。

ようやく今日という日を迎えたけれど、正直……今の今まで、不安でいっぱいだった。

 

もし失敗すれば、俺は何もかもを失ってしまう。

今度こそ、血が流れるかも知れない。

 

だが、それは杞憂に終わった。

実際に今、二人は互いの再会を喜び、溢れ出る感情を分かち合っている。

 

 

「大好き……お姉さま……!」

「慧梨主……っ」

 

 

 

私……お姉さまの妹で、

 

幸せです_________

 

 

 

その言葉が、全てだった。

 

再会を喜ぶ二人の姿を見て、身体の力が抜ける。

「ふう……」

よろめく身体を、スイスポの車体にあずける。

 

 

これで一件落着……

 

 

「ま……待ってくれっ!!」

 

その声に、俺と抱き合っていた二人は顔を上げた。

 

彼は、慧梨主の元へ必死に駆け寄ろうとしていた。

その目には、焦りが浮かんでいた。

ここまで彼を突き動かしたものは、ただ自分の勘違いと早とちりだった。

 

それでも、彼はあきらめきれなかった。

「待ってくれよ……僕は、僕はまだ……」

散々遠回りをして、ようやくたどり着いた自分の本心を。

 

「……慧梨主、もう一度……」

 

だが、彼の方へと振り向いた慧梨主の瞳が、彼の言葉の続きを消し去った。

 

「お兄さま……」

 

慧梨主は、かつての想い人の前に立つ。

俺と亜梨主は、固唾を飲んでただ見守るしかできなかった。

 

「私はずっと……小さい時から、お兄さまのことが好きでした。ずっと憧れで、お兄さまにこの想いを伝えたかった」

 

その瞳は、俺が今まで見たことのない色をしていた。

光を湛え、希望と意思の強さに輝きを増している。

 

「そして、お兄さまとお付き合いできたときは、本当に嬉しかったんです。夢が叶ったと、思いました……」

 

季節外れの冷たい雪は、変わらず降り注いでいる。

もう辺りは真っ白だった。

分厚い雲の向こうで、太陽はとっくに沈んでいる。

スイスポのフォグランプだけが、慧梨主と彼を照らしている。

 

「でも……私、何もかも失って気づきました。私はただ……お姉さまに、認めてもらいたかっただけだって……」

「慧梨主……」

「お兄さまとお付き合いできれば……夢を叶えれば、私は変われる。弱い自分を変えることができれば、お姉さまは私を認めてくれるって……」

 

慧梨主の言葉を、亜梨主はぽろぽろと涙を流して聞いていた。

愛する妹はずっと、自分のことを考えてくれていた。

 

「だから……私が悲しかったのは、お兄さまを奪われたからじゃない。お姉さまの心が、どんどん離れていく……ただそれが怖くて、つらくて、でもその気持ちに気づけなくて……気が付けば、私の周りには……誰も居なかったんです……」

 

恋人を奪われた憎しみか、

愛する家族の心が離れていく寂しさか______

 

自分は、誰を愛していたのか______

 

何もかも失って、慧梨主はやっと気が付いた。

 

「お姉さまがいれば、私はそれでよかったんです!それなのに!私は気づくのが遅すぎて、みんなを……傷つけてしまった……!」

 

慧梨主の眼から、堰を切ったように涙があふれ出す。

彼女の告白を聞き、後ろで亜梨主も抑えきれずに泣き出した。

 

二人とも今日は……いや、今日までどれほどの涙を流してきたのだろう。

俺みたいに、恵まれた平和で明るい世界からは見えないほどの暗闇で。

 

深い闇の底で、どれほどの涙が波打っているのだろう。

 

「う……うぅ……こんな……ひぐっ……こんな身勝手な女で……ごめんなさい……!」

 

あの時、

お兄さまが慧梨主や亜梨主と仲良くなって、光り輝く青春を夢見たように。

慧梨主もまた、お兄さまと付き合って亜梨主の心を自分に向けようとした。

 

そして亜梨主も、同じような想いからお兄さまに手を出した。

 

「でも……でも、夢明希くんは違うんです!夢明希くんは、お兄さまもお姉さまもいない……ひとりぼっちになって、初めて好きになった人なんです。お姉さまは関係ない……純粋な気持ちで好きになれたし、純粋な気持ちで愛してくれた」

急に自分の名前が出て、場も弁えずに俺は後ろ頭をかいた。

 

慧梨主は涙を拭うと、力強い輝きを放つサファイアブルーの瞳を彼に向けた。

「お兄さま」

「慧梨主……」

「今の私の心には、お姉さまと、夢明希くんしか……もういません」

もうそこに、かつて双子の姉の陰に隠れるように過ごす、気弱な少女はいなかった。

 

 

 

さようなら______

 

お兄さま______

 

 

 

 


 

 

 

 

 

夢が、終わった。

 

慧梨主と、亜梨主の。

 

いつの間にか始まっていた崩壊から続いた、暗くて、つらくて、痛くて、大切なものがバラバラに砕け散る。

 

その悪夢は終わりを告げ、彼女達は夢から覚める。

 

夢から覚めた後、そこには元通りの姉妹と、フラれた少年が一人いるだけだった。

 

 

「早く帰った方がいいっすよ」

慧梨主と亜梨主は、再び抱き合って再会を喜び合っている。

俺は二人を横目に、彼にそう言った。

「邪魔者は、早く消えろってかい?」

その表情に、不思議と苛立ちなんかは感じなかった。

嫌味のない、爽やかな笑顔だった。

 

自分の意思の弱さが招いた、惨劇に対する罪の意識。

それは自分自身の呪いとなって、彼を苛み続けたのだろう。

今日の出来事も、逃れたい一心だったのかもしれない。

彼もまた、その悪夢から解き放たれたのだ。

 

つられて、俺も表情が緩んだ。

「あ、いやいやいや。ただ北の方からだんだん高速止まってますからね。さっさと帰んないと下道走ることんなりますよ」

道中にラジオで聞いた、高速道路の通行止め情報の話をする。

「そっか、そうだよな。怖いなあ、この雪じゃ」

「いや大丈夫っすよ、まだ スタッドレスタイヤ(冬タイヤ)でしょ?こっちは夏タイヤでも走れたから」

「いやいや、だめだよ。危ないなあ」

少しの間、俺達は談笑していた。

 

なんだかんだ言って、お互い同じ人を好きになった者同士。

やらかした内容はともかく、彼自身に嫌悪はなかった。

 

それに______

 

「それじゃ……」

「あの……っ」

ゴルフの運転席のドアを開けた彼に、俺は切り出した。

「なんだい?」

 

「あの……ありがとうございました」

 

あの日、俺が全てを知った日。

最後に語られたのは、もし亜梨主が生きているのなら、引き取られているであろう家の場所だった。

 

 

事件の後、生きていた亜梨主は、以前から彼女を贔屓していた母方の親戚の家に保護されていた。

さすがに、慧梨主が亜梨主を刺し殺そうとしたのは知らないそうだが、壊滅的な関係に陥り、憔悴した亜梨主のみをあずかることにしたのだ。

そして今日まで、亜梨主はそこで世間から隠れるように過ごしてきた。

 

彼が最後に教えてくれたその家の住所は、まさにパンドラの匣に残された最後の希望だった。

俺は、その一縷の望みに縋ったのだった。

 

 

思いがけない言葉に、一瞬動きが止まる。

だが、すぐに微笑んで頷いた。

 

「お幸せに______」

「そっちも、気を付けて」

 

彼は運転席に乗り込んでドアを閉めた。

2Lのディーゼルエンジンが始動し、LEDのテールランプが灯ると、積もった雪の上をゆっくり走り出す。

やがて降り注ぐ雪にテールランプだけが残り、それも右折して消え去った。

「どーしよ、今日は車で帰れないや」

積もった雪の上に残った、ゴルフのタイヤの轍を眺めながら、俺はぽつりと呟いた。

 

 

「夢明希くん」

振り返ると、慧梨主と亜梨主が手を繋いで立っていた。

「ありがとうございます。夢を……私達の夢を、叶えてくれて」

「必死だっただけだよ。その……慧梨主の喜ぶ顔が見たくて」

「まさかアンタに、救われる日が来るなんて……ね」

そこには、笑顔で並び立つ姉妹の姿があった。

 

結局、なぜ間一髪で亜梨主が助かったのは分からなかった。

慧梨主の亜梨主への愛が押しとどめたのか、

亜梨主の必死の抵抗が実ったのか、

二人の記憶からすっぽり抜け落ちてしまった以上、真実は二人が抜け出した闇の中に取り残された。

 

「さあ、中に入りましょう?このままじゃ風邪を引いてしまいますよ?」

「ええ。久しぶりの我が家ね」

「うふふ、お帰りなさい」

「……ただいま」

慧梨主に手を引かれ、亜梨主は約二年振りの桜ノ宮家に入っていく。

 

ズタズタに引き裂かれた姉妹の絆は、今再び結ばれた。

きっとこれから、二人は失われた時間を取り戻すだろう。

その一助になれたことが、少し誇らしかった。

 

「そうだ、晩御飯はどうしましょうか」

ふと慧梨主が言った。

もう夕方の6時を回っていた。

「本当は買い物に行くつもりだったので、何も用意がないんです」

「アタシは、何でも大丈夫よ?」

「でも、せっかくお姉さまが帰ってきたのに……」

慧梨主は少し考えて、

「夢明希くんは、何が食べたいですか?」

その問いに、俺は答えた。

「ピザ、頼もうよ。でっかいの」

その解答に、慧梨主はにっこり微笑んだ。

「はい!さ、夢明希くんも早く入りましょ」

慧梨主に促され、俺は小走りで慧梨主達に追いついた。

 

 

天気予報では、夜中には雪が止み、明日から一気に暖かくなるという。

 

 

 

 

 

この街でももうすぐ、

 

桜の花びらが空を舞う______

 

 

 

 

 

 

 

FIN_________

 




最後まで読んでくれた皆さん、心から感謝申し上げます。
本当にありがとうございました!
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