巫女転生 -異世界行っても呪われてる-   作:水葬楽

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半年ぶりの投稿。
オリ主の視点ってどう書くんだっけ?というのを思い出すのに苦労しました。



四七 可哀想は可愛い

 アルスルたちと別れ、オルステッドの待つ村外れの森へ向かう。

 事前にアイシャにオルステッドのことは伝えている。

 これから会う人をとても怖く感じるかもしれないけれど、それは呪いのせいで、本当は良い人なのだと教えた。

 しつこいくらいに教えた。

 私はアイシャもオルステッドも好きだ。

 好きな人と好きな人が仲良しだったら嬉しいと思う。

 呪いのことがあるから、それが難しいことはわかっている。

 でも、アイシャがオルステッドを怖がったり嫌ったりしたら、やっぱりすこし残念だし、悲しい。

 

 アイシャは「お姉ちゃんは心配びょうだよー」とケラケラ笑っていた。ちなみに心配()と言いたかったらしい。

 私も、アイシャならもしかしたら、と思っていた。

 生みの母こそ違うが、父様は私と同じなアイシャなら、オルステッドを怖がらなくて済むかもしれない。

 そんな期待を背負い、オルステッドと対面することになったアイシャである。

 彼女はいざオルステッドを目の当たりにした瞬間、

 

「……きゅう」

 

 静かに失神してしまった。

 本当に怖い思いをしたとき、人は悲鳴をあげないらしい。

 

「アイシャ!」

 

 後ろにひっくり返ったアイシャのからだを支えて嘆く。

 ひどい。誰がこんなことを。

 こんなに(ちい)ちゃなアイシャに!

 

「やさしく抱っこしてね」

 

 ひとり小芝居をやめ、妹をオルステッドに任せる。

 意識がある時ならまだしも、気絶している間ならアイシャが怯えて泣くこともない。

 

「うぅ……いやぁ……」

 

 ……あら? 魘されてる?

 私がおんぶして連れていきたいと提案したものの、オルステッドに却下された。

 きっとアイシャがかわいいからだ。オルステッドもアイシャを抱っこしたいのだろう。

 うむうむ。

 ならば仕方ない。

 

「自分の力量を弁えろ」

 

 違ったみたい。

 私がアイシャをおんぶできないほど弱いと思われているみたいだ。

 そのくらいできるやい。きっと。

 

「リーリャさんのお願いでね、アイシャをオーガスタさんとフルートさんの家に連れていきたいの」

「ふむ、リーリャの故郷か。それは構わんが……」

 

 くったりとしたアイシャを抱っこしたオルステッドは、「こいつだけか」と私に確認した。

 抱っこした体の小ささを実感して、本来ならそばにいるべき母親がいないことに引っかかりを憶えているのだろう。

 そうなのだ。

 リーリャは来ていない。連れてくることができなかった。

 

「……」

 

 パックスにされた嫌がらせの数々を思い出し、私の気持ちは沈んでいく。

 彼の苛烈な罰のせいで、親切にしてくれた少年の父は片輪になり、母は死んだ。

 彼の私欲のせいで、リーリャが決闘裁判で苦しめられた。

 いやなことを思い出した私の顔は、むすっとしていただろう。

 

「パックス殿下が逃がしてくれなかったの」

「そうか。パックス・シーローンを殺してないだろうな」

「ちゃんと生きてるのよ。ザノバ殿下に頭を、こうね、片手で掴んで持ち上げられてたの。死んじゃうんじゃないかって、私不安になってね……。だってオルステッドは殺すなって言ってたもの。あ、ザノバ殿下は怪力の神子なのよ。お姉ちゃんは首を引っこ抜いたりしないよね? って、アイシャに心配されちゃった」

「……パックスは生きているという事でいいんだな?」

 

 オルステッドが、詳しい解説を促すようにナナホシを振り返った。

 仮面をつけっぱなしのナナホシは、「私はその場にはいなかったから、後で人から聞いた話になるけど――」と説明し始める。

 

 ……。

 

 私が話すのよりうんとわかりやすい。

 理路整然とはこのことか。

 

「ジェイド……?」

「私たちによくしてくれた人よ。オルステッドの知ってる人?」

 

 相手はオルステッドを知らないけれど、オルステッドは相手のことを知っている、という状況はよくある。

 今回もそうかな、と思ったのだけれど。

 

「いや。知らんな」

 

 オルステッドは否定した。

 なぜだろう。ちょっと嘘っぽい。

 

 まあいいかと気を取り直し、ラタキアで過ごした数日間の出来事をオルステッドに喋る。

 ただしパックスに体でのもてなしを強要されたことは伏せた。恥ずかしいからだ。

 彼を除けば、私たちに親切にしてくれた人たちばかりだ。

 

「お前は巧みに人の懐に入り込む」

 

 と、オルステッドは私を見て言った。

 

「守護者がいなくてはまともに生きられん弱さが編み出した、お前なりの処世術だろう。見事なものだ」

「私、うまく生きてる?」

 

 そういうことよね。

 弱いって言われたけれど、たぶん褒められているのだ。

 呪殺が成功した時以外で、彼が私を褒めるのは珍しい。

 

「うふ」

 

 嬉しくなった私は「知りたい?」と訊ねてみた。

 旅の先々で、つねに私には優しくしてくれる人がいた。

 見合う対価を持っているとわからぬうちから、世話を焼いてくれる人がいた。

 

「みんながどうして優しくしてくれるのか、知りたい?」

「子供だからだろう」

「それじゃ足りないのよ」

 

 私とオルステッドは歩幅が異なる。異なるから、すぐに引き離されそうになってしまう。

 ちょっと早足になって追いつく。

 

 巧みに人の懐に入り込む、と。

 そうしようと意識して動いているわけではない。

 でも、この旅路で会う人会う人がやさしい理由は、もうとっくにわかっている。

 

「可愛いってね、好きな子に言う言葉だけど、かわいそうな子にも言うの」

 

 こちらを見下ろすオルステッドの目には疑問の色があった。

 かわいそう? と、訊き返されているようだ。

 

 小さいからかわいい。

 無害だからかわいい。

 可哀想だからかわいい。

 

 面と言われなくても、自分がどう思われているかは、なんとなくわかる。

 転移の後、救貧院にいる時だったろうか、それともオルステッドが目の前に現れた瞬間だったろうか。

 私は、これから先、(ゆかり)のない人々に助けられなければ生きていけないのだ、と心の深いところで理解したのだ。

 そのためには何が必要か、色んな人と関われば、自ずとわかってくる。

 

「母様とも父様とも離ればなれで、家もなくなった私は、かわいそうなの。かわいそうな子は、かわいいってね、みんな思うの。するとね、人はやさしい気持ちになれるのよ」

 

 ナナホシも境遇は同じだ。

 しかしあまり可哀想だと感じないのは、彼女が賢くて、しっかりしているからだろう。

 騙されるのを警戒して、見知らぬ人にはぶっきらぼうに接するようにもなってしまったし。

 両親がいなくて、定住する家を持たない。

 これに当てはまるのは、オルステッドも同じだ。

 

「オルステッドも、人に優しくされたいの?」

「……」

 

 たぶん、何か言おうとしたのだと思う。

 魔大陸で話したあの日以来、オルステッドは私と喋るとき、こちらに顔を向けてくれるようになった。

 オルステッドのいつも鋭い目が私を見下ろしたまま、口が開きかけて、沈黙。続く言葉はないようだ。

 

 答えにくい質問だったみたい。

 考えてみれば、オルステッドは嫌われる呪い持ちである。

 人に優しくされたいと思っていても、思うようにはいかないはずだ。

 

 アイシャを抱えていないほうの空いた手。

 父様みたいに大きな手の甲をとんとん叩いて、指をぎゅっと握る。

 

「オルステッドが可哀想じゃなくて可愛くなくても、私は、オルステッドに優しくするからね。オルステッドのこと好きだもの」

「……」

「ほんとよ、私たち、ずっといっしょにいるでしょ。だからもう、家族とおなじくらい好き」

 

 こう言われて、オルステッドは喜ぶだろうか。

 顔が険しいから、鬱陶しいと思われてしまっただろうか。

 私も伝えるのはほんのり恥ずかしかった。鬱陶しがられるなら、言わなければよかったかもしれない。

 でも、と、私は兄を思い出す。「いつもありがとう」も「あなたが大切」も、家にいた頃の兄は人にまっすぐ伝えていた。

 シルフィに対しては思わせぶりな態度をとって彼女の反応をみて楽しんでいる節もあったが、それはまあ、ご愛嬌だ。

 人間関係にはまめな兄であった。まるで失敗することを恐れているみたいに。

 

 女の子への態度はともかく、兄の長所は私も見習いたいものだ。

 オルステッドを見上げる。

 

「今までされなかったぶんも、私が優しくするね」

「くだらん。やめろ」

「あら……」

 

 掴んだ手は軽く払われ、おまけにスッパリ拒絶された。

 お前の優しさなど要らぬ、俺は一人でも生きていける、と、そういう事だろうか。

 孤高も過ぎれば孤独と私の目には映る。

 それは心配なので、これからはオルステッドにいっそう優しくなろう。

 やめろと言われてしまったけれど、やるのだ。

 

「あ、ナナホシのことも、とっても好きよ」

「何よ、もののついでみたいに。ま、いいけど……」

 

 歩く速度を緩めて、ナナホシにぴょんと飛びつくと、ナナホシは仮面を外し、紺色のローブの中に私を包みこんだ。

 

「ナナホシは私のことどれくらい好き?」

「ん? うーん、そうね、シンシアが私の妹だったらいいのに、って思うくらいかしら」

 

 オルステッドにふられた心がナナホシによって癒される。

 アイシャのお姉ちゃんは私である。そこは譲れないが、私だけでもナナホシのことをお姉ちゃんと呼ぶべきか。

 そう提案すると、ナナホシは呆れ半分、微笑ましさ半分という感じでフッと笑った。

 

「おままごとと家族ごっこは、もう卒業する歳じゃないの?」

「まだするもん」

 

 してたもん。

 ブエナ村の女の子たちも、八歳頃まではおままごとをして遊んで……は、なかった。そういえば。

 立派に恋の話とかしていた。みんなおませさんだったのだ。

 

「……よかったわね、シンシアは、家族に会えて」

「うん、オルステッドとナナホシと、アルスルとジェイドさんのおかげ」

 

 そうそう、ジェイドだ。

 オルステッドはジェイドのことを知っていたみたいだけれど、結局、仔細を明かしてくれることはなく、私たちの先を歩いている。

 行き先はリーリャの実家である。

 一年越しに、リーリャの両親、オーガスタさんとフルートさんに会うことになる。

 救貧院に残してきた子供たちは元気にしているだろうか。

 みんな小さかったから、中には里親に引き取られた子もいるだろう。

 

「そうだ、言っておくが、俺はしばらくお前たちの傍から離れる」

 

 オルステッドは振り返ってそう言った。

 兄流の言葉を使うなら、しょっく。あるいは、がーん。

 そんなまぬけな響きが放つ悲哀に、私は腰くらいまで浸かってしまった。

 

「好きって言われたの、そんなにいや?」

 

 いいもん。知らんもん。

 次からはオルステッドのいない所で言うから。

 

「む? ……いや、違う。アイシャ・グレイラットだ」

「ん……?」

 

 オルステッドに抱えられたアイシャ。失神直後は強ばっていた体も、だんだんと穏やかに緩み、今はすやすや寝ている。

 アイシャがどうしたのだろう、とちょっと考え、そうして思い至った。

 アイシャはオルステッドに怯えることが、さっき確定したばかりではないか。

 彼女の意識があるときに、私たちが四人で行動することは叶わないのだ。

 まさかずっと寝かせてはいられないし。怖がらせっぱなしにしておくなんて酷いことはできない。

 

「冒険者をまた雇わなくちゃね」

 

 と、億劫そうに言ったナナホシに頷く。

 オルステッドがいない間は、人を雇って守ってもらわなくてはいけない。女と子供だけでいると、何かと危ないのだ。

 

 シーローン王国のラタキアから、アスラ王国のウィシル領へ。

 ふつうならば何ヶ月もかかる旅路であるが、例のごとく転移魔法陣を使って短縮する。

 各町に転移魔法陣があるわけではないので、それでも何週間はかかるのだろうが。

 

「ベガリットの砂漠を経由するルートもあるが、それはアイシャの体力が持たんな。迂回路にはなるが、夏前には到着するだろう」

「アイシャを送ったら、次はどこに行くの?」

「ウェンポートの群島だ。お前の力で試したいことがある。……構わんか?」

「いいよ」

 

 オルステッドの袖を引く。

 

「夜に、アイシャが寝てる時に、会いにきてね。わたし、おそくまで起きてるから」

「ああ」

 

 旅はまだ続きそうだ。

 

 

 


 

 

 

 町の周壁が見えてきた。

 開けた快適な土地に壁に囲まれた都があり、周囲には豊かな農地がある。

 中央大陸西部ではありふれた、しかし恵まれた光景である。

 

 ウィシル領の辺境都市マナにそろそろ到着するのだ。

 エウロス・グレイラット家当主の世俗支配のもとにある町のひとつである。

 

 オルステッドが教えてくれたことによると、アスラ王国ではほとんどの領地が世俗支配なのだそうだ。

 そもそも世俗支配とは? というのが顔に出ていたのか、それも教えてくれた。

 簡単にいうと、聖職者に特権を与えない仕組みがあるらしい。

 反対にミリス神聖国は聖職者支配である。

 子供のうちからミリス教がそばにある事になるノルンはともかく、父様は窮屈な思いをしていないだろうか。

 

「この国の領主って、みんなグレイラット……じゃないよね?」

 

 ナナホシに訊ねると、そんな当たり前のことを訊かれるとは思わなかったという顔をされた。

 私の不勉強がバレた瞬間である。

 村の外の成り立ちや仕組みについて、父様や母様から、もっとちゃんと聞いていればよかった。

 世間がブエナ村で完結していたので、外にはあまり興味を持っていなかったのだ。

 

 グレイラット家ではない領主が統治する領地も、アスラ王国には点在している。

 しかし王領の次に主要な四つの領地をおさめるのは、いずれもグレイラット家であり、故にグレイラット家は強い権力を持つ。

 

「ただし、風神の名を冠する家だけよ」と、ナナホシが解説した。

 

「グレイラットを名乗る傍流貴族は多いんですって」

「なんで? あたしみたいに、お妾さんの子がたくさんいるから?」

 

 アイシャが口を挟み、私たちの護衛を頼んでいる冒険者がくすくす笑う。

 彼らとはマナに着くまでの契約だ。町についたら、冒険者ギルドに行って、また新しい冒険者を雇うのだ。ナナホシが。

 交渉も財布もいまや彼女任せである。齢でいえば、それが順当ではあるのだろうけれど。

 言葉を流暢に喋れるようになったナナホシは、やや皮肉交じりに言った。

 

「あなた、本当に賢いわね」

「よく言われるよー」

 

 アイシャにとって「賢い」はもはや浴びて当たり前の言葉である。

 小さい(いまも小さいけれど)頃にみんなでそう言ってたくさん褒めたせいか。

 アイシャがじーっと私の顔を見てきたので、私は胸を張って告げた。

 

「お父さんは、お母さんもリーリャさんも、二人とも大事にしてるよ。私もアイシャとノルンを同じだけ大好きよ」

「あたしもお姉ちゃん大好き!」

 

 アイシャはにぱっと笑い、お仕着せの黒いワンピースの裾をひるがえして駆けた。

 

 

  あたしたち、野原で花になる

  兄さん、あんたは黄色い花に

  あたしは白い花になる

 

 

 先を行くアイシャがくるくると回りながら歌う。

 ご機嫌に歌い出したくなるのもわかる快晴、心地よい陽気である。

 お誂えむきに、道の横には、匂薺の白い花だ。黄色の花はないが。

 

 メヘテルハーネ(軍楽隊)がね、とアイシャは明るく語る。

 シーローンの王宮に抑留されていた日々、それでもリーリャと一緒ならば楽しかった記憶を。

 

 

 町は、近づいてみると、周壁のほかに堀に守られていて、大きな木の橋がひとつ架かっていた。

 橋は人の往来で雑踏をきわめている。

 ここはアスラ王国と南の国々の交通路にあたるので、商いをする人々には格好の地である。

 だから生え抜きの人のほかに、自分の故郷を捨てて当地に住みついている分限者の商人も大勢いる。

 たしかオルステッドがそんな感じのことも教えてくれたな、と思っていると、「ねえ」と、頭上からアイシャの声がした。

 往来する人や馬車に踏まれないように冒険者に肩車されたアイシャである。

 

「ここ、ロアとおんなじだね」

「え?」

「ほら、壁のうえに、屋根」

 

 町の周壁の上の回廊はどこもぐるりに屋根がついている。

 日照りでも雨でも、見張り役が警備しやすいようにだ。

 

 ロアというと、兄が奉公に行っていた城塞都市である。

 むかし一度だけ見た町の外観を、がんばって思い出す。

 ええと、同じだったかしら……?

 

 視ようにも、ロアは現在すでに更地である。

 

「そうね、同じね」

 

 適当に調子を合わせると、アイシャにはじとっとした目で見られた。

 というか、兄の誕生日を祝いに訪れた町の、その周壁まで憶えているほうがすごいのだ。まして、あのときアイシャは三歳。

 記憶なんてあやふやな時期ではないか。

 私は前世があるおかげか、まだはっきりと憶えていられるけれど。

 ……ノルンに忘れられていたらどうしよう。

 

「あたしのおばあちゃんとおじいちゃんがいるの、この中?」

「ううん、ここにはいないよ、次に行く町にいるの。二人とも、アイシャを待ってるよ」

「ふーん……」

「お姉ちゃんは少ししかいなかったけど、いいところだったよ。冬でも雪は少なくて、陽射しがあたたかいの」

 

 オーガスタさんもフルートさんも、アイシャが来ることは知らない。待っているというのは方便だ。

 しかし孫であるアイシャに会いたいという気持ちは、間違いなくあるはず。

 

 ワーシカ兄も、イブ姉もいるよ。憶えてる? よく遊んでたでしょ。

 そう言おうとして、やめた。

 アイシャのいちばんの遊び相手はノルンだったのだ。ぽやんとしているノルンをアイシャが連れ回す形が多かったが、二人とも楽しそうだった。

 ブエナ村を回想するとき、アイシャの記憶には必ずノルンがいるだろう。

 むやみに思い出させて、寂しがる顔はみたくない。

 

「お姉ちゃんはどこに行くの?」

「? どこにも行かないよ。まだアイシャといっしょよ」

「そうじゃなくて……」

 

 アイシャは浮かない顔をしていたが、町の広場にしつらえられた噴水を見ると機嫌は回復。

 手を浸してみるだけのつもりが、気づけば私とアイシャの上半身はびしょびしょに濡れていた。

 今が春で助かった、冷たくないから大丈夫(セーフ)! と、ナナホシに訴えると、「アウトよ」と宿で着替えさせられたのだった。

 

 町ではアイシャの服も新調した。

 アイシャはリーリャが用意したお仕着せ(メイド服)が気に入っている……というよりは、それを着なくなることで、リーリャとの繋がりが断たれると思っている節があった。

 まったくそんなことはない。そんなことはないけれど、アイシャにとっては心の拠り所なのだ。

 リーリャが拵えたエプロンも、その端切れで作った小さな頭飾りも、アイシャが着たがるうちはそのままにしておこう。

 

 こんなに可愛いよ? かわいい服をかわいいアイシャが着てるところがみたいな、と新しい服を広げてみると、チラチラと気にしていたので、いずれこっちも着てくれるだろう。

 

 

 そうして、辺境都市マナで過ごして三日目。

 リーリャの生家がある町──私が少しのあいだ過ごした町でもある──まで護送してくれる冒険者が見つかった。

 彼らの名前は〈カウンターアロー〉

 C級のパーティである。ゾルダートさんやその周囲を思えば、等級は低く感じる。

 しかし転移魔法最寄りの村からマナまで雇っていた冒険者もランクはCだった。

 このあたりの土地は、魔大陸やベガリット大陸ほど腕っぷしの強さが必要とされることはないし、道案内や夜の番をしてくれるなら等級は何でも構わないのだ。

 

 強さより、人柄の方が重要だ。しばらく共に過ごすのだから。

 どんな人たちなのだろう。優しい人だといいな。

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