Ep.1、下書きは出揃った(ここからが長そうだけども)
「はぁ…はぁ…っ」
「いや~キリがないねぇこれは…」
さっきまでの地点に比べれば、辺りはちょっと開けてきた。けれど倒せど倒せど湧いてくる兵士。私はまだやれるけど、セリカとハリカが見るからにへとへとだ。
『…せい!聞こえますか、包囲網を抜け……また、…………が不安て…』
「あれ?アヤネちゃん?」
「ここに来て電波状況が…」
『早く、退却し……が接近……』
「接近?接近って…」
「…みんな。包囲されちゃったみたい」
ハリカの言葉にふと見回すと、どこを見てもカイザーの兵士。…そんな中、大柄な人物が近づいてくるのが見えた。
「…侵入者とは聞いていたが、アビドスだったとはな」
周囲の兵士たちの反応を見るに、序列の高い人物だとはわかる。でも、誰だろう…警戒する私たちをよそに、ホシノ先輩がスッと一歩踏み出した。
「あんたは、あの時の…」
「ん?確か、例のゲマトリアが狙っていた生徒会長…いや、副会長だったか?」
「…?」
何…?いきなり知らない単語が出てきた。いや、それより…狙われてる?ホシノ先輩が?それに
「…ふむ、面白いアイデアが浮かんだ。便利屋やヘルメット団を使うよりも良さそうだ」
「便利屋…何言ってるの?」
「…あなたたちは誰なんですか?」
「…まさか私のことを知らないとは。アビドスの君たちならよく知っている相手だと思うのだがね……私は、カイザーコーポレーションの理事を務める者だ。そして君たちアビドス高等学校が借金をしている相手でもある」
「っ、」
明かされた正体に、息が詰まった。
「私たちはアビドスのどこかに埋められているという宝物を探しているのだ」
カイザー理事は、ここにカイザーが勢力を広げている理由をそう話した。…けれど、
「…そんな出任せ、信じるわけないでしょ!?」
セリカが叫ぶ通り、到底納得できる答えじゃない。
「もしそうだとしても、これだけの兵力が集まっていることの説明がつかない。この兵力は、私たちの自治区を武力で制圧するため。違う?」
「遠慮ないな二人とも…!?」
…少しばかりの無言の睨み合い。破ったのは、カイザー理事のため息だった。
「…数百両もの戦車、数百名もの選ばれし兵士たち、数百トンもの火薬に弾薬。たった五人しかいない学校のために、これほどの用意をするとでも?あくまでもこれは、どこかの集団に宝探しの妨害をされたときの為のもの。…君たち程度、いつでもどうとでもできるのだよ。こういう風にな」
「…?」
どこかへ手短に電話をかけたカイザー理事。…次に聞こえたのは、アヤネのすっとんきょうな叫び声だった。
【シロコ⇒ハリカ】
「悪い大人の本気…見たくなかったなぁ~…」
帰ってきましたアビドス高校。深い深いため息を、なんとなく廊下の窓から吐くことにした。振り返れば教室の中はちょっと荒れ気味。
カイザーの理事だというあの恰幅のいいロボット(!?)はかなり強かった。…権力と弁舌が。不法侵入の一点張りだけでなく、あろうことか利子の額を9000万まで吊り上げられ、さらに保証金として3億円を請求され、それができないなら転校すればいいとまで
何なんだ3000%って…3億円って…!日常生活で見られない数字なんだよ!感性がおかしすぎる…
「ほらほらみんな落ち着いて~?頭から湯気が出てるよ~」
そんな最中、ホシノさんが大きいけれど穏やかな声で制止を入れた。アヤネちゃんやノノミちゃんまでも声を張っていたのが、それだけで一気に落ち着いた。
教室に戻ると、ホシノさんはシロコちゃんをなだめているところ。…こんな時でもすごい先輩だ。
「まあ、とりあえず今日はこの辺にしとこう。解散解散~。一回頭を冷やして、また明日集まることにしようよ」
「…そうだね。とりあえずみんな、一旦帰ろう」
…ありゃ、解散するところでしたか。
「どうしたの~?ハリカちゃん、そんな暗い顔して」
みんなが帰路に着いて、先生も出ていって、私とホシノさんの二人きり。たまたまなった状況だけど、ホシノさんはすかさずそんな風に話しかけてきた。
暗い顔…してたのか。まあ…アビドス砂漠での一連の出来事に立ち会っていたから、
「…すみません、力になれなくて…私、みんなと一緒にいたのに」
「…気にすることないよ。先生だって何もできない状況だったんだし」
「……そう、ですね」
でも、と言おうとしてやめた。ただでさえ慣れない長距離砂漠行で疲れていたのもあった。それに外から…あの世界から来た私だけにできることは確かにある。でもそれは
「…私、本当にここにいていいのかわからなくて……あ。すみません、こんな」
頭をよぎった不安が、即座に口から出てしまっていた。はたと顔を上げて、謝罪を述べ…ようとした口に、人差し指が当てられた。
「もしハリカちゃんが来なかったら…私たちが先生を受け入れるのにはもっと時間がかかったかも。もちろんそれだけじゃないよ~?誰よりも率先して先生を守ってくれるし、それに…銃の扱いは不慣れだって言ってたのに、わざわざ前線まで出向いてくれたでしょ?」
「…はい」
「だから、大丈夫。できれば先生と一緒に、みんなを支えてほしい。…うへ~こんなの柄じゃないんだけどなぁ~」
あはは、と照れ笑いするホシノさん…ふふ、と私も笑みが浮かんだ。やっぱりいい先輩だなぁ…そう思っていたところで、がらりとドアが開いて、先生と…シロコちゃんも戻ってきた。
「あれ、シロコちゃんはまだ何かやることがある感じ?」
「先輩、ちょっといい?」
「うへ~おじさんと話したいことがあるの?照れるな~」
「僕もだ。ハリカもここにいて」
「?…はい」
「先生も?うへ~おじさんモテモテだ~…でもさ、今日は色々なことがあって疲れたじゃん?また明日話そうよ」
…なんだろう?私は何も聞かされていない。なんだか頷き合ってるけど、そちらお二人だけでいったい何を…?あ、シロコちゃんは帰っちゃうんだ??
「先生…?」
「うへ~先生やるねぇ。私の可愛いシロコちゃんと、いつの間に目と目で意志疎通ができる仲になったんだ~?いやいややっぱり侮れない大人だなぁ。おじさんさっぱりついていけなくて、なんだか寂しいよ~?」
「…ホシノ、聞いてもいい?」
「ん~?何を?」
饒舌なホシノさんに対し、先生は静かに一枚の紙…あの退会届けを見せた。
「っ…!!」
「うぇ、いつの間に…これ、盗ったのはきっとシロコちゃんだよね?まったく…いくらなんでも先輩の鞄を漁るのはダメでしょ~。先生、ちゃんとシロコちゃんを叱っといてよ?あのままじゃとんでもない大悪党になってもおかしくないって」
「うん、それはまた今度ね。今は、この退部届けについて聞きたいんだ」
「……そっかぁ…その静かさ、ハリカちゃんも知ってたね?」
「…すみません」
…正直忘れてました。その、悪い大人の本気があまりにも強烈すぎて…。
「んー…逃がしてくれそうには…ないよね~。はぁ。仕方ないなぁ……面と向かってってのもあれだし、ちょっとその辺一緒に歩かない?」
その辺というのは本当にその辺で…三人で廊下を歩く。外はすっかり暗くなった…どころか、いつの間にやらもう星が見える時刻。友人の居残りに付き合ったことはあったけど、ここまで暗い時間帯の学校にいたことはなくてちょっとワクワク…しそうなものだけど、靴底のざりざりという音でなんだか台無し。
「…砂、多いですね」
「うん、まあしょうがないんだけどね~。掃除しようにも、人数に対して建物の規模が大きすぎて…せめて砂嵐が減ってくれればいいんだけど。うへ~せっかくの高校生活が全部砂色なんて、ちょっとやるせないと思わない?」
「ホシノは、本当にこの学校のことが好きなんだね」
「今の話の流れでそう思う?うへ、やっぱり先生は変な人だね~」
にやりと笑みを浮かべた…と思えばホシノ先輩は立ち止まって、寂しげな目で窓の外を見やった。
「…砂漠化が進む前、アビドスはかなり大きくて力のある学校だったって言われてるけど…そんな記憶も実感も、おじさんには全然ないんだよねぇ…最初からめちゃくちゃで、ちゃんとしたものなんて何一つない学校だった…おじさんが入学したとき、アビドス本館はもう砂に埋もれちゃってたし、当時の先輩たちだってもうみんないなくなった。今いるここは、砂漠化を避けて何度も引っ越した…ただの別館」
「…言ってましたね。確かアヤネちゃんが」
そういえば、ここは被災地なんだな…。天候操作とかいう夢物語は頻繁に語られるけど、いつだって自然はアンコントロールで、こっちの都合なんか聞いちゃくれないわけで…『事象を情報と捉えて書き換える』なんて考え方が普及したって、天候は相変わらずカオスの領域だったね。
「でもここに来てシロコちゃんやアヤネちゃん、ノノミちゃんにセリカちゃんと出会えたから…やっぱりここが好きなのかもしれないな~」
「…正直に話すよ。私は二年前から、変な奴らから提案を受けてた」
"カイザーコーポレーションからスカウトを受けている"。それが、真面目な顔で向き直ったホシノさんが教えてくれた、彼女の隠し事だった。
「…アビドスに入学した直後からずっと、何回もね。ついこの間もあったなぁ…"私たちの企業に所属すれば、借金の半分近くを補填する"ってさ」
狙われていたのはホシノさんだった…ってことなのか?それにしても
「当時は私がいなくなったらアビドス高校が崩壊するって思ってたからこそ、ずっと断ってたけど…あいつら、PMCで使える人材を集めてるみたい」
「その相手って…何者なんだい?」
「私も、あいつの正体はわからない。ただ、私は『黒服』って呼んでる」
「黒服…」
「何となくゾッとするやつで…キヴォトス広しと言っても、あんなタイプのやつには会ったことがなかったし…怪しいやつだけど、特段問題は起こしてなかった」
「得体の知れない存在か…」
「なんなんだろうね…あのカイザーの理事でさえ、黒服のことは恐れてる感じだったし」
「…それで、この退部届けは?」
「うへ」
…あ、怪しいやつの話から強制的に引き戻した。強気の力業。まあ目下の問題は今ホシノさんの手にあるそれだものね。ホシノさんは気まずそうに頬を掻いて、視線をさ迷わせている。
「…まあ、1ミリも悩んでなかったって言ったら嘘だし…ちょっとした気の迷いというか…うん、もう捨てちゃうか」
目の前で一枚の書類が、ビリビリと音を立てて左右に分かたれた。
「いやぁ、余計な誤解を招いてごめんね。でもこんな話をみんなにしたところで、心配させるだけでいいことも何もなさそうだったからさ~」
「それは…確かに…」
「でもまあ、可愛い後輩にいつまでも隠し事ってのも良くないし。明日、みんなにちゃんと話すよ。困らせちゃうだけだと思うけど、隠し事なんてないに越したことないだろうし。……実際のところ、あの提案を受ける以外の方法は思い付いてないんだけどね」
ここに来て、ホシノさんの暗い顔を初めて見たように思う。時にムードメーカーとしてのんびりと、時にリーダーとして気丈に振る舞ってたけど、それはあくまでも、先輩としての…
「…きっと何か、方法があるよ」
「…そうだね~奇跡でも起きてくれたらいいんだけどさ~」
冗談めかした笑顔を浮かべたホシノさんの提案で、三人きりの散歩はそこでお開きに…
「ホシノ!」
呼び止めた先生の大声にビクッとした。…いや、先生が大声出すこと自体滅多にないからつい…。見れば、ホシノさんも驚いた顔でこちらを向いている。
「僕が、大人としてどうにかする。だから…!」
「…うへへ、私そんなに元気無さそうだったかな?……ありがとう、先生。それじゃね」
照れくさそうにそれだけ言って、ホシノ先輩は去っていく。…その背中を、先生は複雑な表情で見つめていた。
そして翌日。
…対策委員会の机に…予備があったらしい、破かれたはずのあの退会届けと、みんなに宛てた手紙が置かれていて。
ホシノさんは、学校に来なかった。
・ハリカ
悪い大人の本気にげんなり。ここまで派手に権力を振りかざす大人を見るのは初めてで…
力になりたくてここにいるけど、ちゃんとなれているのか不安になった
私の魔法は四角四面ですから…起こせる奇跡には限界があります
・シロコ
知っている戦い方では太刀打ちできなかった。むぅ…
退部届けの件は先生に任せた
・セリカ
もう実力行使しかない!
・アヤネ
先に借金を何とかしませんと!
・ノノミ
右往左往
そういえばブラックカードの域はさすがに越えたのだろうか…?
・先生
▼つよい しめいかん を おぼえた!
ハリカを立ち会わせることが多いのは同じ少女としての見解や共感があるかもと考えるから。もちろん住む世界が違ったことは承知の上
・ホシノ
シャーレの二人だけに隠し事を打ち明けた。けれど
…奇跡、かぁ…