とりあえず章は作っておく企画~
完全オリジナル回だよ
最前線って原則複数形なんだね…
The frontiers of science
「そうだユウカ、今度ミレニアムまで案内頼んでいい?」
「え?」
シャーレにて業務が一段落ついた休憩中、テーブルにコーヒーの紙コップを置いたハリカがしれっとそんなことを言い出して驚いた。
「案内くらいはいいけど、どうして急に?そもそも、よその学校に入るときは手続きが要るけど」
「前さ、ヘイローがないと色々ややこしいって話したでしょ?」
「…ええ、したわね」
ちょっと前、作業の合間に雑談でこぼしていたことだ。驚かれたり不思議がられたり、とにかくヘイローがないことに反応されるのがさすがに鬱陶しく思えてきたらしい。これがキヴォトスの外から来たこと、すなわち私たちとは違って肉体が脆弱であることを何より雄弁に示すことは重々承知しているけれど、先生と違って魔法があるから守られるほど弱くもない…とかなんとか。でも、その話がどうしてここで…?
「あれ、コタマさんにも話してたんだけどさ…なんか、エンジニア部ってところまで話が行ったみたいで」
「………なるほどね」
おおかた察して、思わず顔を覆ってしゃがみこんでしまった。コタマ先輩は、セミナー非公認のハッカー集団『ヴェリタス』の一員…いや、確かに私は先生にシャーレ加入メンツについて相談を受けて…ものすごく、ものすごく躊躇しつつ副部長たるチヒロ先輩を紹介したけど!私はチヒロ先輩本人を紹介したつもりだったのにどうして!?
…いけない、取り乱してしまった。ともあれそんなコタマ先輩なのだけど、実はハリカはこの先輩にも魔法について明かしているのだ。理由は先輩の
「というか、コタマ先輩とそんなに仲良かった…?」
「あの人モモトークではけっこうよく喋るから…さすがにここまでは予想外だったけど」
「…まさか、ね」
「どうかした?」
「いや…なんでもない」
もしやとは思ったけど、ヴェリタスに私一人が狙われる道理はない…はず……可能性は限りなく低いだろう。なら単純に仲がいいだけか…よその交友関係まではさすがに把握してないし。
「それから手続きの件だけど…先生が言うには私はしなくても大丈夫って。特別部員になったから」
「特別部員…って…」
「連邦捜査部の。それで学校への入構手続きはパスできるようになったし、一人で外回りもできるようになったの」
「負担軽減策ってこと…?けど、その言いぐさだと事前に聞いてなかったんでしょ?いいの?」
「うん。私、常識が違いすぎてどこにも所属できないからさ…これは負担軽減と同時に、先生なりのご厚意なんだろうと思うよ」
「あぁ…そういう…」
…こうして一緒に何気ない話をしていたら忘れてしまいそうになるけど、ハリカはキヴォトスの外から来た存在、それも先生みたいな大人じゃない、一応連邦生徒会の末端に名前を置く生徒。…ハリカは連邦生徒会に所属してるつもりはないみたいだけど、その辺りどうなってるのかしら…考えてみれば、学生登録どうこうの話を私は聞いてないし。
ともかく、ハリカはにこにこ笑顔で言ってるけどこっちは全然笑えない…重いって……。
「それに、これで心置きなく活動範囲を広げられるからね!聞くところによるとミレニアムってめちゃくちゃ広いらしいし楽しみ!」
「…全部歩いて回るのはオススメできないわよ。学校の中だけでモノレールの駅が3つあるんだから」
「そんなに!?」
珍しく目を輝かせたかと思えば、私の言葉に目を丸くして叫ぶ。そんなハリカの様子に思わずふ、と笑いがこぼれた。すると、ハリカが不意に顔を覗き込んできて。
「…ユウカ、なんかお疲れっぽいね?」
「…そう?」
「今日あんまり笑ってない…というか、表情があんまり変わってない。ふだん面白いくらい百面相してるのに」
「ナチュラルに一言多いわね」
「あとだいたいそういうときに出してる
…まさか見抜かれるとは思わなかった。演技力に自信があるわけじゃないけれど、それなりに繕ってはいるつもりだった。…私のこれは今、シャーレとは関係のないことだから。
「うーん…その…ハリカ。ミレニアムサイエンススクールについて、今どれくらい知ってる?」
「え?…その名の通り
「そうよ。私はミレニアム生徒会『セミナー』の会計」
「会計…あ~察した。要するに"プロは妥協を許さない"的な話ね?」
「…ええ、そう…ハリカ、時々すごく察しがいいわよね?」
「論理パズルは得意だと思ってるからね」
一足飛びに結論を提示されて、ちょっと動揺してしまった。…ハリカが指摘した通り。例えば前述したエンジニア部なんかはかなり予算遣いが荒い。あそこはそれでいてちゃんと結果を出してくるけど。
「…それだけじゃなくて後始末とかもあるけど、まあそういうこと…」
「財務は大変だね…大丈夫?先生の家計管理までやってて」
「大丈夫よ、私がやるって決めたことだから。それにしても先生はほんとに…」
…そうして結局、その日の30分ほどの休憩時間の多くは愚痴に費やされていった。
「ここが、キヴォトスの科学の
数日後、果たして私はハリカにミレニアムサイエンススクールを案内していた。ハリカはやっぱり目を輝かせてる。そんな大袈裟な…って言うところかもしれないけど、まぎれもない事実だから胸を張っておく。
「ええ、そうよ。…魔法とか言うからには、科学と相性悪いのかと思っちゃうけれど」
「中身はちゃんと科学だからねぇ。CADも科学技術の賜物だし…」
「はいはいそうやって軽々しく出さない」
ポケットから軽率に平たい小銃を取り出すのを慌てて制止。この『スターリィ・ストリーム』というらしいハリカの銃は本当によくわからない。口径とか装填とかの概念が崩壊してるし、ハリカも「ユウカぐらい頭よかったら分かりそうだけど…」とか言いつつ濁してばかりいる。知られたくないのなら、誰が見てるかわからない場所で出すなんてなおさらダメでしょう。
「そうでした…それにしても、ここが四高に一番近いかもなぁ…まだ一部の学校しか見てないけど、元いた日常の気分になれそう」
「…私はその日常を思いっきり乱されたんだけど?」
「それはホントにごめんて」
だいぶ反応に困ることを言われたけど嫌味で返しておいた。…"今度"とは言われていたものの、モモトークで急に「今からミレニアム行くね!」って来たから思わず大声出してセミナーの同僚を驚かせてしまったのだ。本当に反省してほしい。
ちなみに、ハリカの入構は本当に顔パスと言っていい早さだった。先生がどこかに入構するのを直接見たことはまだないけど、たぶんあんな感じなんだろうと思う。
「それで、製品そのものはホログラムでヘイローを投影する髪留め、ってことよね?」
「そうそう。見かけだけでも取り繕っておきたいな~って」
「ふぅん…行き先はエンジニア部の部室?一番近い駅で降りたけど」
「んー…とりあえずそう、だけど相談先の本人に会えれば話が早くていいな」
「…念のため聞いておくけど誰?」
「1年のヒビキちゃんだって。年下に依頼するのは意外だったけど、なんか一番安全な選択肢とか言われてて…」
「…そうね、一番安全な選択肢よ」
むしろその名前を聞いて安心した私がいる。これで部長だったら全力で止めてたわ。ハリカの後頭部で爆発が起きる事態はなんとしても避けないと。…というか、
「…いるわね、そこに」
【ユウカ⇒ハリカ】
「…ほんとにヘイローがないんだね。昨日来た先生みたい」
「あ、昨日先生来たんだ?」
「うん、ゲーム開発部と一緒に。ハリカ先輩もシャーレから来たんだよね?」
モモトークで聞いていたエンジニア部のヒビキちゃんは、犬っぽい耳と尻尾、そして網タイツが目を引くクールそうな女の子だった。服装のせいかひとつ下とは思えない。
ちなみにユウカちゃんは用事があるからと言ってどこかへ走っていった。道は覚えてるから、でなくてもモノレールの駅を探すのは割と簡単だからいいけど。
そして、ヒビキちゃんは左手に抱えていたアタッシェケースを置いて開くと、中から手のひらサイズの小箱を取り出した。
「とりあえず髪型も聞いて、クリップにしておいた」
「あ、ありがとう…まさかすぐに出てくるとは」
箱の中には、黒一色の簡素な髪留めがひとつ。凄い、ちょうど思い描いてたくらいのサイズだ…意図的かはわからないけどシンプルなデザインも好みだし。
「直接会って渡す方が効率がいい。本当に簡単なものだから、対価とかも気にしなくていい」
「えっいや…無償はさすがに悪いよ」
「…ほんとは、ヴェリタスのコタマ先輩からもうもらってる。うっかり無断で話遠しちゃったから、って」
「あぁ…コタマ先輩…」
お詫びの方向性よ…まあいいけど。ありがとうございます本当に。側面のスイッチを押せばヘイローが出せるという言葉通りにすると、淡く光る模様が中空に浮かび上がった…けど。
「これかぁ~…」
灰色の、四つ葉のクローバーみたいなシルエット、その真ん中に白い十字の線があると思えば、よく見ると紫の✕印も重なっている…めちゃくちゃ四高の校章だった。今私の左胸に同じものがある。
「その服についてる柄を参考にさせてもらったけど…マズかった?」
「いやマズくはないけど…まぁ…いいかな。ありがとう」
あるとはいえきっかり45度傾いてるし、そもそも気休め程度にあったらいいなというほどのものだ。その気休め程度にこんな完成度の高いものを作ってくれたヒビキちゃんには脱帽してしまう。しかも本当に簡単なものって言ってたねさっき…ホログラムって灰色出せるんだってところから驚いたよ…?
「礼を言われるほどのことじゃない…けど、役に立ってくれたら何よりだよ」
ヒビキちゃんはふ、と微笑んでそう言う。ほんとに第一印象そのままにクールな子って感じだな…尻尾がとても正直だけど。
「あとそのヘアクリップ、Bluetoothも搭載してて」
「どういうこと???」
・ハリカ
ふしぎなヘアクリップ を てにいれた!
実はだいぶややこしいタイミングで来訪していた
・ユウカ
何気に一番ハリカから色々と開示されてる生徒だと思う。正直すまん忙しいのに
数字を多用するのは知ってるんだけど難しいね…
ハリカがヒビキと話していた頃、彼女はゲーム開発部に突撃しており、
・ヒビキ
若き天才マイスター(※ただし何にでもBluetoothを搭載する女)
この程度もはや片手間だと思う
・コタマ
先手を打つ形で魔法云々を明かされた盗聴少女
たわいない愚痴からひらめいて行動に移した。チヒロ辺りは経由してるかも
・先生
実はミレニアムに来ている。また次回