鈍色の銃は射抜かない   作:諸喰梟夜

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主人公……………まあしょうがないな………



クリアとリザルト

 

「ヴェリタスまで『鏡』を届けました…クエストクリアです!」

「よぉっし!あとは部室に帰るだけ!」

 ヴェリタスの部室から廊下に出て、モモイたちと喜びを分かち合いました。今回のクエストは難しいものでしたが、こうして力を合わせ、クリアすることができて…大きな達成感を覚えました。これまでのどのゲームも及ばないかもしれません。

 …ただ…

 

「家に帰るまでが、遠足…ってやつね…はぁ…はぁ…っ」

 …ひとつ気になるのは、ハリカが苦しそうにしていることです。言葉には出していませんが顔は青白く、足取りもよろよろと不安定です。ここまでずっと仲間として一緒にいてくれただけに、どうしても…不安です。

「ハリカ…大丈夫?」

「いえ、大丈夫、です…私のことは、いい…から……っ」

「うぇ!?ちょっ…」

「ハリカ先輩!?」

 先生が話しかけると、ハリカは…そのままふらついて、ばたりと倒れてしまいました。黒髪が床に広がるのと一緒にパチンと音がして、ヘイローが…

「えっ!?」

「ハ、ハリカ先輩!?ヘイローが…!」

 …ヘイローは、こんなふうに外れるものだったでしょうか?

 

 

「…キヴォトスの外から来た人?」

「うん。経緯は違うけど、僕と同じだよ」

「えぇ!?そんなの聞いてないよ!?」

「言うタイミングがなくてね…」

 無事に戻ることができたゲーム開発部の部室で、先生はハリカの秘密を明かしてくれました。…正しくは秘密にしていたわけではないそうですが。

 ちなみにハリカ本人は、まだ先生に背負われたまま…眠っているようです。

「連邦生徒会の人だとばっかり…」

「肩書きはそうなってるけどね。だから、ヘイローはもともとないんだよ」

 先生の手には、ハリカが倒れたときに落とした髪飾り…アリスの手にも収まりそうな小さなものですが、側面の小さなスイッチを押せば、先ほどまでハリカの頭上に浮かんでいた、灰色の花のようなヘイローが中空に映し出されました。

「ホログラム…?しかもこんなコンパクトなのって…」

「…エンカウント時、ハリカは『エンジニア部のお世話になった』と言っていました。この髪飾りのことでしょうか?」

「そうだろうね。僕は大人だから分かりやすいけど…ハリカはみんなと年格好が変わらないから、ヘイローがないのをやたら気にされて悩んでたみたい」

「あぁ…」

「私も、それは聞いちゃってたかも…」

 

 つまりハリカがヘイローを()()していたのは、周囲と馴染むため…アリスが学生証や『光の剣:スーパーノヴァ』をもらったのと同じようなことでしょうか。

 …と、少し考え込んでいた様子のミドリが「あれ?」と言いました。

「ミドリ?」

「…でもハリカ先輩、戦闘に参加してたよね?」

「そういえば確かに…それって危ないんじゃ…!?」

「あーっと…ハリカ、そこは僕ともまた違うみたい。体質というか…とにかく丈夫なんだって」

「丈夫って…」

「耐久値が高い?でも私たちとも違う…?」

「…それはもしかして、()()()()()()()()()()()()()()()と関係しますか?」

 それは、アリスの計算に基づいた推測でした。しかしそれを言うと先生どころか、モモイやミドリ、ユズまでも目を丸くして黙ってしまいました。

「…あ、あの…?アリス、何かまずいことを言ってしまいましたか…?」

「…青い光って…ミドリは?見えた?」

「そんなの全然…ユズも?あ、先生は?」

「…僕にも見えないよ」

「あ、アリスにしか、見えていないのですか?」

 今、先生に背負われているハリカには見えませんが…クエスト中のハリカはずっと、ぼんやりとした、けれど綺麗な青い光に包まれていました。そればかりか、差押品保管所でネル先輩とエンカウントしかかったとき、その光はアリス、モモイ、ミドリ、先生までみんなを、優しく包み込んでいました。…単なる(機体)の異常とは、とても思えません。

 

「ああでも…なんか、アリスちゃんにしか見えないものがあるのかな?」

「アリスにしか…?」

「あそっか、確かに!名簿の検索とかできるんだってビックリしたし、その辺も何か違うのかもね」

「なるほど!アリスの機能のひとつ、ということですね。そうかもしれません!」

 …確かに、そう考えれば謎は解けます。どういったものかは不明ですが、まだ自分では把握していない機能があるのかもしれません。

 …先生のどこか複雑そうな表情が、少し気になりましたが。

 

 

 

 

 

 翌朝、マキがプレゼントと言って持ってきたのは、モモイがヴェリタスに預けていたゲームガールズアドバンス。…新たな武器(『鏡』)によって、ついにG.Bibleの封印が解かれたのです。一緒に正体不明のファイルが入っていたそうですが、そちらはまたヴェリタスが挑戦するとのこと。

 そうして今、明らかになったG.Bibleの正体を目の前にして…

 

 …ゲーム開発部は、いつもとはかけ離れた静けさに包まれていました。

「あ…あの、モモイ?」

「ふふ…ふへへ…全部終わった…!おしまいだぁ……!」

 モモイはうつろな目で椅子にもたれ掛かっていて、

「ミ…ミドリ?その、大丈夫ですか?」

「…アリスちゃんごめん…今は何も話したくない気分なの…」

 ミドリは逆に、うつむいて頭を抱えていて、

「…えっと……ユズ…」

…怒り…破滅…腐食…絶望…虚脱……世界は今、破滅に向かって…

 ふらふらとロッカーに閉じこもったユズとは、会話ができる気配がありません。

 

「…あ、あの!私はあまり理解ができてないのですが…もしかしてこの状況は、G.Bibleのせい…ですか?」

 …返事はかえってきませんが、"沈黙は肯定"ということでいいのでしょうか。しかし…

「えっと…G.Bibleは、嘘は言っていないと思うのですが…」

「そういう問題じゃない!!」

 突然の大きな声に機体が震えました。さっきまで脱力しきっていたモモイはいまや体を起こし、椅子をぐるりと回転させてアリスをまっすぐと見ています。

「いや、いっそのこと嘘って言ってくれた方がまだマシ!!…うわぁぁん終わった!もう廃部なんだぁ!!」

 …と思えば、わんわんと泣き出してしまいました。ど、どうすればいいのでしょう…?画面をうかがえば、そこにはまだG.Bibleが開かれています。

 

 [ ゲームを愛しなさい ]

 

 …この一文こそ、G.Bibleがアリスたちに伝えたかったことのようです。しかし、ずっと求めていたG.Bibleを読めたというのに…モモイもミドリも、正気がログアウトしたみたいになってしまいました。これでは…

「仕方ないじゃん!最後の手段だったのに!!それがあんな誰でも知ってるような言葉ひとつ入ってるだけだなんて、釣りにもほどがある!!」

「ごめんねアリスちゃん…私たちは…"G.Bible"無しじゃ、良いゲームが作れない…」

「…いいえ。否定します。…アリスは、『テイルズ・サガ・クロニクル』をやるたびに思います。あのゲームは、面白いです」

「…えっ?」

「感じられるのです。モモイが、ミドリが、ユズが、このゲームをどれだけを愛しているのかを…そんなたくさんの想いが込められたあの世界で旅をすると、胸が高鳴ります。仲間と一緒に楽しい世界を旅するあの感覚は…()()()()とはどういうことなのか。その感覚を、アリスに教えてくれました」

「…」

「だから、待望のエンディングに近づくほどに…あんなに苦しんだのに、思ってしまうのです。この夢が覚めなければいいのに…と」

「アリス…」

 …思いをまっすぐに伝えれば、モモイも、ミドリも顔を上げて、ユズもロッカーから出てきてくれました。…ミドリは今ユズに気づいたみたいです。

「…作ろう」

 そして、ユズは静かに話し始めました。ユズの思いを、まっすぐに。

 

 

「私の夢は、私が作ったゲームを、みんなに面白いって言ってもらうこと…でも、私がはじめて作った『テイルズ・サガ・クロニクル』のプロトタイプは…四桁以上の低評価コメントと、冷やかしだけで終わっちゃって…それが辛くて、ゲーム開発部にこもってたとき…二人が訪ねてきてくれた」

 

「…一緒に『テイルズ・サガ・クロニクル』を作って…今年のクソゲーランキング一位になっちゃったけど……」

 

「そのあと、アリスちゃんが訪ねてきてくれて…面白いって、言ってくれた。それで、私の夢は叶ったの。…心の通じ合う仲間たちと一緒に、ゲームを作って、それを面白いって言ってもらう…ずっと一人で思い描いてただけだった、その夢が」

 

「…これ以上は、欲張りかもしれないけど…叶うなら、私はこの夢が…この先も、終わらないでほしい」

 

 

「ユズちゃん…」

「…ねえ、今からミレニアムプライスまで時間どれくらい残ってる?」

「6日と4時間38分です!」

 いつもの顔色を取り戻したモモイが立ち上がりました。カレンダーを参照して答えれば、モモイは少し思考を巡らせた様子で。

「それだけあれば十分!さあ、ゲーム開発部一同!『テイルズ・サガ・クロニクル2』の製作、始めよう!」

 

 

 

【アリス⇒ハリカ】

 

「本っ当に、勘弁してよ…」

 シャーレビル内、カフェスペースにて。私は目の前に浮かぶ立体的な黒い輪っかを眺めていた。何かというと、机に突っ伏したユウカのヘイローだ。冒頭の台詞もユウカのもの。

 こんな状況になっているのは、今の私の格好が原因。グレーのパーカーを羽織り、例のヘアクリップをつけた…ミレニアムタワー侵入時の格好だ。いつまでも黙っているのは忍びなくて、結局明かすことにした。その結果がこれ。

 

「ヘアピンとか…私そんなの聞いてないんだけど?」

「ヴェリタスしか経由してなかったみたいだから…というか、もしかして…気づいてなかった?」

「…悪い?」

 ユウカちゃんがジト目で睨み付けてくるけど、妙に覇気がない。セキュリティも警備も全部突破されるとかいう大敗を喫したわけだし、そりゃそうなるか…まあ、今突っ伏してるのは違う理由だけど。

「ハリカはその格好で、あの場にいたってことよね?先生と…ゲーム開発部と一緒に」

「そうだね…」

「それじゃ、()()()()()()C()()C()()()()()()()ことになるじゃない…!」

 …そう、ユウカが凹んでいるのはこれ。別にユウカは知らなかったわけだし、差し向けた人がどうとかも私はどうでもいいと思ってるけど…実際カリンさんの対物狙撃には命の危険を感じたし、結果としては想子(サイオン)枯渇で倒れちゃったからなぁ。

 

「…ユウカが悪いわけじゃないよ。私も…反省してるし」

「…じゃあ、前線に立つのやめてくれる?」

「それは無理かも」

「でも、つい昨日まで寝込んでたじゃない」

「そ…れは、そうなんだけどさ」

 ユウカほんと的確に痛いところを突いてくる…あの日はさすがに魔法の使いすぎで想子枯渇を起こしてしまい、廊下の途中で倒れてしまった。目を覚ましたらシャーレの仮眠室。先生がここまで送ってくれたらしい。

 そこまではいい。想子はいつも通り休養をとれば戻ったんだけど…心労が祟ってか、しばらく熱を出して寝込むはめになってしまった。やっぱり不慣れなことはするべきじゃないね…これからゆっくり慣れていかなきゃいかないかもしれないけど。

とにかく、ユウカは私を本気で心配してくれているらしい。それはよくわかる。…けど。

 

「…悪いけど、やっぱり安全地帯に居続けるのは無理。大っぴらにはしたくなくても、黙って見てなんかいられないから…ノブレス・オブリージュ、とはまた違うけど…私は引き金を引くのをやめられないよ。ユウカのお願いでも…ごめん」

「…いいわよ、あんたはそう言うと思ってた。きっと、ハリカをちゃんと止められるのは先生しかいない。そこはもうほとんど諦めてるけど…確認したいことがあって」

「確認したいこと?」

「ハリカ、あのとき何を倒れるほど使ってたの?」

「…えっと、それは…魔法について知りたい…ってこと?」

 

 顔を寄せてきたユウカの質問に、そっと周囲をうかがいながら確認をとった。…今、ここには私たちしかいないから、話せないことはないけど…

「私ならわかりそうって言ってたじゃない」

「そうだけど…いいの?ユウカ忙しそうだし…あんまりこう、抱えるもの増やしちゃうのもさ」

「今更でしょうそんなの。それに、私があなた…あの場における五人目に気づいたのは現場に出てからだった。ミレニアムタワーの監視カメラにはちゃんと人を、その顔まで識別できる機能がついてるのに…それをほとんど突破されて、気にならないわけないでしょ」

「えっそんなに?ちょっと嬉しい…」

 も、もしかして私、ミレニアムの科学を越えちゃいました?…"極致"に及ばないただの『拡散』だったんだけど、パーカーで色を合わせにかかったのが効いたかな…。思わず口が緩んだらすごく睨まれた。ごめん。

 えー…どこから話したものか。イデアエイドス想子のくだりは独特の概念だからかっ飛ばすとして。

 

「要点だけ言えば…私が得意なのは"密度"を扱う種類の魔法。あのときは身のまわりの光の分布を平均化して、景色に溶け込んでた、ってとこ」

「光の…分布…?」

「あー難しいよね…なんて言うか…」

「…解像度を下げると、画素(ピクセル)は多数派の色になる」

「「っ!!?」…えっ、ま、まあそういうことですけど…いつの間に…?」

 突然割り込んできた声に顔を上げると、テーブル横にコタマさんが立っていた。完全に気配が消えてましたよ…そんな色々と身に付けてるのに……?

 いやでもよかった。声でわかるとはいえ、明かしてない他の人だったらどうしようかと。

「タワーの監視カメラの話辺りから…珍しいね、魔法の話は」

「えっと、まあ種明かしというか、お詫びというか…」

「…なんとなくわかった」

「なるほど、『中身は科学』ね…どちらかと言えば物理学?そんなことができるだなんて…」

 

 気づけばユウカはいつもの真面目な顔に戻っていた。話を振ったのはユウカの方だけど、気が(まぎ)れたみたいでよかった。

「…何よ?そんなニヤニヤして」

「別に~?いつものユウカが戻ってきたなあって。じゃ、そろそろ戻る?」

「………そうね。どうせ先生は忙しくしてるだろうし」

「私はしばらくここにいるから…いってらっしゃい」

 コタマさんに見送られながら、足早に先生がいるオフィスへ向かうユウカを追いかける。…コタマさん、たぶんまた盗聴器を仕掛けに来たんだろうな…一応先生に言っておくべきか。どうせならヴェリタスのみんなも何か言ってくれればと思うけどあの感じ、共犯になってるかもしれないね…。

 

 …そういえばヴェリタスで思い出したけど、私は熱を出して寝込んでいたからあのあとの顛末をよく知らない。ゲーム開発部のみんなはどうしてるだろう…今ごろ、部活の名前通りの活動に取りかかってるところか。気になるけど今のユウカに聞くのはあまりにも酷だし、また見に行こうかな。

 

 

 

 

 

 





・ハリカ 〔ヘイロー落下〕
久々の想子枯渇で倒れた。比較的使い慣れてない『拡散』を乱用したのが敗因。倒れた拍子にヘアクリップが外れたが、説明の猶予もなく失神
そして熱を出して寝込むはめになっていた。無茶はするべきでない。まあハリカはしちゃうけど
そんなわけであとの顛末を知らない
このあとアリスの件を知らされる

・アリス
今回の語り手チャレンジ
The純真無垢…。いいこと言うのでついつい長台詞になりがち
そしておやおや

・モモイ
G.Bible…そんな……と意気消沈するも、アリスとユズの言葉で復帰
頑張るぞーっ!!

・ミドリ
一回おめめからハイライトが消えた。怖い
アリスちゃん、ユズちゃんのためにも!

・ユズ
▼ゆうき を みにつけた!
もしかして:ヒロイン

・先生
倒れたハリカに代わって説明係
ハリカの高い耐久性の説明に悩む。先生も詳しくは知らないし

・ユウカ
真相を知りました。SAN値チェックです
説得を諦めた分、別角度から踏み込んでみることにした模様
ほんとはコタマとのやりとりを書きたかったけど呼称表の必要性を強く感じたということで…

・コタマ
無表情だけど実は魔法に興味津々だったりする
ちなみに当番で来てたわけではなかった。盗聴器はこのあと探し出された



まだ一話あるんじゃよ…


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