大変長らくお待たせしました…このまま話を進めていく上での懸念点とか色々考えてたらひと月超えちまった…
そして書きためもあまりないのでまたお待たせする感じになると思われ…
流石ハイライトにしてハイカロリーな3章…まあ楽しいので頑張りますとも……
「お待たせしました!皆さん早かったですね?」
「アウトーーーーー!!」
トリニティ総合学園の別館に、コハルちゃん渾身の叫びが響き渡った。一方で叫ばれたハナコちゃんは「あら?」と軽く首をかしげている……一人だけ水着姿で。
合宿を始める前に大掃除をしよう、という提案を受けて、まず汚れてもいい服層に着替えようという運びで今に至るんだけど…提案した本人……
「なんで掃除するのに水着なの!?バカなの?バカなんでしょバーカ!!」
「ですが動きやすいですし、何かで汚されても大丈夫ですし、洗い流すのも簡単で」
「そういう問題じゃないでしょ水着はプールで着るものなの!!っていうかだっ、誰かに見られたらどうするの!?」
「誰かも何も、ここには私たち以外いませんよ?」
ぎゃんぎゃん吠えかかるコハルちゃんに対して、ハナコちゃんはふんわりと笑顔を浮かべたまま、まるで効いてる様子がない。
「先生…これ、止めに行った方が…?」
「いや…コハルとハナコはだいたいあの調子なんだよね…」
先生もあきれたカオしてる…ちょっと赤面してるけど。まあハナコちゃんはなかなか暴力的なプロポーションしてるからそれは仕方ない。少しの間ヒフミちゃんと苦笑し合う時間になった。アズサちゃんはきょとんとしてる。
さて、コハルちゃんに背中を押されて戻っていったあと、ハナコちゃんはしっかり体操服に着替えてきた。…なんかほんと、突拍子もないことする子だと思ってたけど、ヒフミちゃんいわくハナコちゃんは校内をあの格好で徘徊して正義実現委員会に
「ところで、ハリカさんは着替えなくてもよろしいのですか?」
まず屋外の掃除から、ということで移動する最中、当のとんでもない問題児がにこやかに問いかけてきた。確かに私は来たときと同じ真っ白な四高制服のまま。けれど、ここは私もにこやかに答えさせてもらう。
「知ってるハナコちゃん、私ここに教師役で呼ばれたんだよ」
「まあそれも知らずに来てたけどね」
「それは言わなくていいですから…」
…だって仕方ないでしょう数十分前までは平和ダナーなんて言いながら散歩してたんだから…背中のナップサックに余裕はあるけど、そこに着替えを入れる習慣なんてないんですぅー…誰にともなく心の中でそんな言い訳をした。余計な口を挟んでくる先生をひと睨みしつつ。あと先生も普段通りの装いだし…。
「要するに先生側ってことです。まあ、汚れすぎない程度に手伝いますよ。どうせ一度は砂で真っ黄色になった服ですし」
「砂…アビドスですか」
「そうそう。叩いても叩いても出てくるから、さすがにクリーニングのお世話になったよ」
いやはや砂漠地帯というのは恐ろしい。服を叩けば際限なく出るわ出るわ…カイザーがこんな感じかとは思ったけど言わなかった。それだけでなく生身で砂嵐に巻き込まれたりしていたから髪の間から砂粒が出てきたりもして大変だったけれど。まあ今その話はいいか。
そんなこんなでまず外の雑草駆除を終え、それからいよいよ建物内の掃除へ移ることとなった。…外の雑草駆除からすでに六人でやる分量じゃないと思うんだけどなー。ここからはある程度手分けして作業する感じになるらしい。
まあ、私にとっては悪い知らせじゃない。なにげに立ち座りの動作が多い雑草駆除がこの中で一番大変な作業だっただろうし、それに…。
「私、食堂と簡易キッチンの方行ってくるよ」
「ハリカちゃん、一人でですか?」
「うん、他とは勝手が違うだろうし、割と慣れてるから任せて」
わちゃわちゃしてる面々から離れて、一階のひときわ大きな空間に向かう。掃除に必要なものは…まあ向こうに置いてあるだろう。さっきも言った通り勝手が違うだろうし…無かったらその時か。
「うわっと!?」
「あ!?…先生、すみません」
長テーブルを魔法で一気に滑らせていたら、がらりと開いたドアの向こうから悲鳴が聞こえて驚いた。
けどその声の主が先生で、そして特に怪我もしていないようだとわかって、ほっとして肩をすくめた。
「何かあったんですか?」
「あぁいや、何も…ずいぶん綺麗にしてくれたねハリカ」
「ええまあ、使用人さんのお手伝いをしてた頃から掃除は好きなので」
「そうなんだ…使用人さん?」
先生の声を聞いて駆けつけたらしいヒフミちゃんを見て、こっそりブレスレット(型CAD)の電源を落としておく。ヒフミちゃんはすぐに戻っていったけど…もう大きなものの移動はないから別にいいや。ちなみに簡易キッチンは優先的に手をつけて完璧に綺麗にしておいた。別に汚かったわけではないけどつい慣れで。
私はあの広大な屋敷にいた頃もそうだけど、進学を期に一人暮らしに移行していたから、掃除のみならずそれなりに生活能力が高い自負はある…そもそも『私』が一人暮らししてたのかも。よく覚えてないけど。だから正直、これくらいは大したことじゃない。まあ、褒められて悪い気はしないけど。
「もしかして…魔法、使ってた?」
「ええまあ、そのための単独行動でしたし…あ、あとは並べ直すだけなのでお気になさらず」
「そんな。手伝うよ」
「そう言いつつ他のみんなのことも気にしてますよね先生?私の優先度は下げてもらってもいいですよ?」
「わかった。でも、今はハリカといようかな」
「こっぱずかしいこと言いますよねぇ…」
呆れつつ先生の手から椅子を奪って並べていく。…地道な作業は無心にできていいけど、やっぱり広いからもうちょっと使うかな。
ブレスレットに再び光が灯ると、それを見ていたらしい先生がおもむろに口を開いたのがわかった。
「…ハリカはあまり魔法のこと、大っぴらにしたくないんだっけ」
「そうですけど…急にどうしました?」
「そういえば、はっきりと理由を聞いたことはなかったなって…正直、意外と大丈夫じゃないかなと思ったりもしててさ」
…確かにまあ、強靭な肉体には目を瞑るとしても妙な現象を起こす生徒はいるにはいる。イズナちゃんとか「忍法!」ってまじで何かできちゃってるし…
…でもなぁ………
「…先生は、未知のものって怖くないですか?」
「未知のもの?」
「魔法は本当にいろんなことができるもの…それはつまり、
「韻を踏んだね」
「踏みましたけど。…ここまではまだいいです。結局は使い方、って言うのはなんでも同じですから…問題は、
例えば魔法を好き勝手撃ちまくるテロリストが現れたとして、対処法はあるだろうか?同じ魔法師なら、力量は問われるけどそれなりに対処法がある…いわゆる対抗魔法というやつが。対象物の今の状態を上書きする情報強化や、ある一定の領域の情報改編を許さない領域干渉、あとは…ちょっと力業になるけど、魔法式を吹っ飛ばしてしまう
けれどそれは
「でも、ハリカはしないでしょ?悪用は」
ぎ、と動きが止まった。思わず。見ればにこにこ笑顔の先生。…うん。こういう人だった。知ってた。こちらも苦笑いで返すほかない。
「そりゃまあ…先生は、そう言うでしょうけど…みんながみんなそうはいかないだろうっていうのが、第一の理由です」
「第一の、ってことは他にもあるんだ」
「はい。それに…
「あぁ…」
その単語を口にすれば、先生の表情が少し固くなった。まあ、そういうことだ。
「少なくともああいう大人がいることはわかりましたから。生徒にもいる可能性は拭えませんし…まあ、用は実験台に縛り付けられるようなことがないようにってことです」
…ホシノさんが捕らわれていた場所。外との明度差がありすぎたのもあって詳しくは見てないけど、ああいう場所に私が、と思うとゾッとする。被験体番号で呼ばれるのは避けたいよね…。
…こうして考えると、アビドスでの一件は意外と私に影響を与えていたらしい。…今度また行こうかな。だからってわけじゃないけど。
「その…結構容赦ない言い方するねハリカ」
「こんなところで容赦しても意味ないでしょう」
「それじゃあ行こっか。みんなもそろそろ終わる頃だろうし」
「そうですね…ん?…あっ」
さて。綺麗に整った食堂を出ようとしたところで、ポケットから振動を感じた。取り出した端末の電源を入れると、通知のポップアップが表示されている…そうだ、リマインダーを設定していたんだった。
「ハリカ?」
「…すみません先生、ちょっと…」
「さてと、こんなところかな?」
集合場所に指定していた正面玄関に来ると、全員が揃っていた。…確かに、来たときとは見違えたように見える。もちろんここに来るまでの廊下も含めて。
「いいんじゃない?ずいぶんキレイになった気がする」
「うん、悪くない」
「あ…っとみんな、ちょっといい?」
コハルちゃんもアズサちゃんも満足そう…にしているところ悪いけれど。控えめに手を挙げたらみんなの視線が集まってくる。大丈夫、ダメ出しとかじゃないよ。
「私、このあとちょっと別の用事があるからもう行かなきゃなんだ…ごめんね」
「あら、そうなんですか…謝ることではないと思いますよ?」
「ああ、ハリカはシャーレから通うんだろう?」
「いやぁ…家庭教師役として来たのに、全然できてないの申し訳ないなって…」
「そんな、大掃除を手伝ってくれただけでも十分ですよ!助かりました!」
ちょっと主目的の教鞭が執れなかったので肩を落としていたけど、嬉しいことを言われて背筋を伸ばした。…もじもじしてるコハルちゃんからは気持ちだけ受け取っておくことにした。素直じゃない子は微笑ましいね。あんまり身近にはいなかったけど。
そんなわけで…私は所用で百鬼夜行に向かうため、トリニティの別館()をあとにした。…しかし方角としては本校舎の反対側、ちょっと行くのが大変だな…頑張るしかないか。フユコちゃんをこんな場所まで呼び出すのはさすがに迷惑だろうし。
「じゃあ僕らも、これで大掃除は終了にする?」
「そうですね、お疲れさまでした!」
「あ、でも皆さん、まだ一箇所だけ残ってますよ?」
「あれ、そうでしたっけ?」
【ハリカ⇒ 】
「そういえば、水を入れるのは結構時間がかかるものでしたね…すみません、失念していました」
「謝ることはない。十分楽しかった」
「綺麗…」
「そうですね…真夜中のプールなんて、なかなか見られない景色で」
ハリカが帰ったあと、ハナコの提案でプール掃除をすることになった。濡れてもいい格好で、と言った本人が制服を着たままでひと悶着あったりしたけど、みんな楽しそうにプール掃除を進めて、終わらせて…
…けれど、プールに水を張るのに予想外に時間がかかって今に至る。あたりはすっかり日が暮れて、澄みわたる空には星が瞬き始めている。
「あら…コハルちゃん、おねむですか?」
「そ、そんなことないもん…でも、ちょっとつかれた…」
「確かに、今日は朝から大掃除でバタバタでしたもんね…では、そろそろお部屋に戻って休むとしましょうか。明日からは本格的に勉強合宿が始まってしまいますし、そろそろ寝ないと明日に支障が出てしまうかもしれません」
「そうですね。では、今日はこれくらいで」
「?…どうぞ、入って」
お疲れさま、おやすみなさい、また明日。補習授業部のみんなとそう挨拶を交わしたあと。自分一人だけ別にしておいた部屋に戻って考え事――ナギサの真意について――をしていると、コンコン、と控えめなノックの音が聞こえた。
「失礼します…その、夜中にすみません…」
入室を促すと、開いたドアの向こうには申し訳なさそうな顔のヒフミがいた。
「ヒフミ、どうしたの?」
「その、眠れないといいますか…あれこれ考えていたら、その…あうぅ…」
…どうやら、ヒフミは心配事で眠れなくなっていたらしい。あまり誉められたことじゃないけど、少し夜更かしに付き合うことにした。
「今日はお疲れ様でした、先生」
「うん、ヒフミもお疲れ様」
「まあ、本格的な強化合宿は明日からですけどね…ハリカさんもせっかく来てくれたのに、ちょっと申し訳ないような…」
「ハリカも楽しんではいたと思うよ?掃除自体は結構好きみたいだし」
「そうなんですか?」
「今はシャーレビルに住んでるけど、一人暮らしの経験があるんだって」
以前、洗濯や掃除についてやけに詳しいのが気になって聞いてみたら得られた答え。普段あまり自分のことを話そうとしないハリカが珍しく話してくれたことでもある。一人立ちのきっかけについては濁されてしまったけど。
「明日からも来てくれるらしいから、大丈夫だよ」
「明日…」
…ヒフミの表情は晴れない。不安を打ち明けるか迷っているよう。
ここは無理に話させないで、本人のタイミングに任せるほうがいいな…そう思っていたら、ヒフミはためらいがちに口を開いた。
「先生…その、明日から、本格的な合宿…なのですが……私たち、このままで大丈夫なんでしょうか…?」
「もし、一週間後の2次試験に落ちてしまったら、3次試験…万が一、それにも落ちてしまったら…」
「…全員、退学」
「…やっぱり、先生も知っていたんですね…」
中断された言葉を接いだら、ヒフミは目を丸くした。まあ、ヒフミはナギサから部長に任命された身の上、そこまではまず聞かされているだろうとは思っていた。それが眠れないほどの不安の種になってしまっているようだけれど。
「まだ誰にも言っていませんが、そもそも言っていいことなのかどうかもわからなくて…学力試験なのに、どうしてこういう"全員一斉に"みたいな評価システムなのかもよくわかりませんし、試験のためだけにわざわざ合宿施設を提供してくれるなんて……それに……」
不安が堰をきって流れ出したような様子のヒフミは、そこまで言ってふと口をつぐんだ。目が泳いで、口許に伸びた手が所在なさげにさまよっている…何か、気まずそうな。
「…ヒフミ、他にもナギサから何か言われたりした?」
「いえ、そ、その…ナギサ様からは、えっと………『誰にも言わないように』と言われていたのですが、…私の手に負えるような話では、なくって……なんと言えばいいのか……」
「…『
「っ!?…先生も、そう言われたってこと、ですよね…?」
『ヒフミさん。補習授業部にいる
『正直なところ、今回の補習授業部について、試験の成果など特に気にしてはいません。試験に合格できなければ退学というのは、つまるところ最終手段…ヒフミさん、できる限り彼女たちの情報を集めて、できる限り早く、裏切り者を見つけていただけませんか』
『…他に選択肢はないのです。それにやむを得なかったとはいえ、失敗してしまった場合はヒフミさんも同じことになってしまうのですよ?』
…そんな脅迫じみたことを、ヒフミはナギサから言われていたらしい。私だけでなくヒフミにも話していたのは、彼女がシャーレと繋がりを持っていたからだという。シャーレという第三勢力がついている限り、裏切り者は下手な動きができないから…と。
「裏切り者だなんて、そんな話…みんな、同じ学校の生徒じゃないですか…今日だって、みんなでお掃除をして、一緒にご飯を食べて……これで、誰が裏切り者なのか探れだなんて、そんな…そんなこと……私には………」
「…ヒフミは、優しいね」
正直に思ったことを口にしたら、本人は目を丸くしてうろたえ出したけど…ヒフミは優しい。他人を思いやって親身になれる子だ。…優しいからこそ、この案件はヒフミに背負わせるべきじゃない。
「その件は私に任せて。私がどうにか解決するから、ヒフミは気にしなくて大丈夫」
「先生…?」
「ヒフミは、ヒフミにできることを頑張ってほしい」
「…分かりました。えっと、私に何ができるのかはまだわかりませんが、ちょっと考えてみようと思います!」
なんだか心が軽くなった、と頭を下げて出ていくヒフミを見送って、僕はまた思考を巡らせる。
「そもそも補習授業部は生徒を退学させるためのもの」…ナギサは僕にそう話した。"エデン条約"――長きにわたる対立があるトリニティとゲヘナの間で結ばれる不可侵条約――の締結を目前に、「条約締結の阻止を目論む裏切り者」がいる疑惑が持ち上がり、調査の果てにその容疑者を集めたのが補習授業部であると。そして、「裏切り者を探し出してほしい」と僕に持ちかけてきた。
でも、僕は断った。先生として、生徒を信じ、生徒と信頼を築き合う大人として、彼女とは違うやり方で対処していくと決めたのだ。…それにナギサもきっと、ヒフミを…
…そろそろ寝ないと明日が辛くなるとわかっていても、すっかり目が冴えてしまっていた。でも仕方がない。補習授業部のみんなのためにも、本気で向き合わないと。
・ハリカ
結局家庭教師役できなくてなんか申し訳ない…と思いつつ一日目を終えた
お察しの通りエデン条約ミリしら勢です。よろしくお願いします
魔法の使用についてこの機会に一度明文化してみた。状況的にはチートだけど、それを楽しめるタチではない
・ヒフミ
重たいものを抱え込まされていた部長
なお次回
・ハナコ
頭も舌も回る問題児。これから先の執筆もなかなか苦労しそうです(澄んだ瞳)
・コハル
ことあるごとに赤面してる最年少。今のところ最年少が一番キレッキレのツッコミしてるよここ…
・アズサ
まだ淡々としてる印象が強い転校生。なんか全然出せてなくてごめん
・先生
生徒みんなに平等に接する。もちろんハリカも生徒だよ?あまり個を出さないようにはしつつもガチめの聖人設定になってる
ナギサの思惑について思考を巡らせる
・ナギサ
ゴミ呼ばわり怖すぎわろた(真顔)