鈍色の銃は射抜かない   作:諸喰梟夜

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さて、筆者はオリキャラの誘惑に対しあまりにも貧弱でした。以上です。
登場はまだだけどね



能ある鷹

 

 

「えっと…コハルちゃん?その、正義実現委員会の活動中に差し押さえた品をうっかり入れたままにしてたとか、そういう感じなんですよね?」

 同じ階のほぼ反対側に位置する部屋で、すんすんとすすり泣くコハルちゃんを見つけました。なだめるつもりでそう聞いてみたら、コハルちゃんはこくこくとうなずいて、押収品の管理を任されていてうっかり入れっぱなしだった…という旨を話してくれました。

「であれば、押収品ってできるだけ早く返してしまったほうがいい気がするんですが、どうしましょう?」

「数が合わなくて騒ぎになる前に、返しに行ったほうがいいかもしれませんね…」

「今のうちにこっそり行って、バレないように正義実現委員会のところへ戻してくれば大丈夫じゃありませんか?」

「えっ、今?」

 …という流れで、コハルちゃんと先生が出ていったあと…

 

「先生出てったんだ?じゃあ入れ違いか…」

 5分ほど経って、ハリカちゃんが宣言通りにまた来てくれました。

 

「そういえば、と思って取ってきたものがあるんだけどさ」

 ハリカちゃんは体をよじって、背負っていた紫のナップサックを机に下ろしました。ドスン、と結構重たそうな音。そして手早く袋の口を緩めると、中から数冊のノートを取り出しました。

「これって…ハリカちゃんの?」

「そうそう、私もヒフミちゃんハナコちゃんと同い年な訳だし、役に立つかなって」

「…これはまた、ずいぶんと工夫が凝らされていますね」

 ハナコちゃんはさっそくノートを開いて見ていて、私も一冊手にとってパラパラとめくってみました。教科は物理。…ハリカちゃんのノートには色分け下線を引くといったよくある工夫だけでなく、簡単な図やイラストまで散りばめられていて。

「あっこれ、すごく分かりやすいです…!」

「論理的といいますか、理屈さえわかれば…っていうところがしっかり図解されてるのが良いですね」

「そう言われると嬉しいな。私も前は大概教える側になってたからね、こういうとき図解は正義だよ」

 

 …ただ一人、アズサちゃんだけは難しい顔をしていましたが。

「すごい…のは、わかるけど、内容がわからない…」

「あぁそっか…内容はだいたい二年生のだから…」

「あら、これとかアズサちゃんたちのお勉強にも良さそうですよ?」

「これは…まさか、年表を丸写ししたのか?」

「わわっ!?こ、こんなの見たことないです…成績がよかったとは聞いてましたけど、ここまで…?」

「あーまあ、ちょっと気合いが入っちゃったというか…だけどこれはこれで、試験の範囲と照らし合わせるのがちょっと大変だね…」

「そうですねぇ…これ、三年の範囲まで入っちゃってますし」

「えっ!?」

「え、気づかなかった」

「気づっ…!?」

 

 その後しばらくして戻ってきた先生とコハルちゃんも加わって、夕食の時間まで勉強会が続きました。…戻ってきたとき、先生がなんとも言えない表情を浮かべていたのが、少し気になりますけど…。

 

 

 

【ヒフミ⇒ハリカ】

 

 先生不在二日目に突入したシャーレ。昨日はそこそこ忙しかったけど、今日は割と平和だった。現場に出向かなきゃいけないのが二回あったけど、なにぶんこちらは戦闘力の高い三人(スズミちゃん・アスナさん・チサキちゃん)支援能力の高い二人(フユコちゃん・ハレちゃん)なので呆気ないものだった。そして、用事もあらかた片付いた頃。

 …少し思うところあって、私はもう一度トリニティ別館に戻ってきた。まあ他にもっと明白な目的はあるけど。

 

 玄関を開けて入るも反応がない…いや、そういえば夜間だからか妙に()(しつけ)な視線に晒されるのが気になって、久方ぶりの『拡散』を発動したんだった。声がする部屋を探して、そこかな、と当たりをつけたとき。

バカバカバカバカ考えちゃダメ想像しちゃダメそういうのはダメ!!アズサを変な風に染めるな!トリニティの変態はあんた一人で充分だから!!

 コハルちゃんの悲鳴に近い絶叫に熱烈なお出迎えを受けて、

「そういえばコハルちゃんも全裸で泳ぎたい派ですよね?」

 ハナコちゃんの爆弾発言にフリーズした。

 

脈絡全無視!?無敵なの!?そ、そんなこと言ってないから!!プールでは普通に水着、それが正義なの!あんただって昨日はちゃんと着てたじゃん!!」

 あっ違うのね?タチの悪い冗談なのね?…昨日、というのは私が去ったあとのプール掃除のことだろう。先生からざっくりとは聞いた。

「あら…よく思い出してみてくださいコハルちゃん?昨日、私がプールで着ていたものを……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 …!?

 

「ッ!!?…み、水着じゃなかったら何なのよ…?」

「最近の水着はデザインがずいぶん充実していますし、一目で水着かどうか見分けるのは難しいと思いませんか?それに、ボディペイントという線も…♡」

「ッッ!!?…え、うそ?…って、いうことは…」

「あら、どうしたんですかコハルちゃん?あれが水着じゃなかったとして、何かが変わってしまうんでしょうか?」

「っえ、だ、だって」

「例えば、水着と下着の違い…それはなんでしょう?防水機能?お肌の保護?デザイン?露出の範囲?コハルちゃんは見た目でわからなかったですよね?あの場、あのときは"水着"だと信じられていましたよね?…もしあれが下着だったとして、その真実かもしれない何かは、どうすれば証明できるのでしょう?()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そう思いませんか?」

 

 …あれ、軽くフリーズしてるうちになんか難しい話になってる?どうしたのハナコちゃん…

「な、何言ってるのかわかんない!結局どういうこと!?」

「あの水着可愛かったですよね、というお話です♡」

「はぁ!?全部冗談…っ!?」

 わたしはくずれおちました*1。くずれおちた拍子に床と膝とで結構な音が鳴って、それでようやく私は存在に気づかれたわけで。

 

「は、ハリカちゃん!?いつから!?」

「いやまだついさっきだけど…入りづらいってこの雰囲気…」

 室内にはツヤツヤで上機嫌そうなハナコちゃんと、赤面しつつもげっそりしてるコハルちゃん。この構図よく見るな。そして苦笑してる先生と目を白黒させてるヒフミちゃん…

「なるほど…五つ目の()()か」

 …そんな中で、至って通常運転な一人(アズサちゃん)がぽつりとそう呟いた。

「五つ目?」

「えっと、アズサちゃん?なんのお話ですか?」

「ただの聞いた話だけど、キヴォトスに古くから伝わる"七つの古則"。確か、そのうちの五つ目だったはず。…『楽園に辿り着きし者の真実を、証明することはできるのか』…そんな感じだった気がする。残りは知らないけれど…」

「えっと…いわゆる、"楽園証明のパラドックス"ってやつ?楽園からわざわざ出てくる人はいないはずだから、外からは本当に楽園なのかどうか知ることができない…っていう。脈絡がよくわからないけど」

「ああ。つまり、誰も証明できない楽園は存在しうるのか…そんな禅問答みたいなものだったと記憶している」

 確認したらそうらしい。脈絡がよくわからないけど*2。もっとも、外の世界との繋がりに固執する変わり者がいれば話は変わってくるだろうけど…という感じで題材にした短編を『私』は読んだことがあって、印象に残っていたのだ。

 …ところで、ハナコちゃんはどうして急にそんな本気(ガチ)の顔をしてるのかな。私初めて見た気がするんだけど…?

 

「アズサちゃん、どうしてそれを…?その話を知ってるのは……もしかして、セイアちゃんに会ったことがあるんですか?」

「…」

「セイア?」

「それって、ティーパーティーのセイア様のことですか?」

 …なんて思っていたら、ハナコちゃんの口から知らない名前が飛び出した。ティーパーティー…この学校(トリニティ)の生徒会の一員らしい。そういえばティーパーティーの皆様にはまだ会ったことがないな…先生はちょっと驚いたような顔をしてるから知ってるのか。

 それでハナコちゃんが驚いてるのは…人前には滅多に現れないとかかな。なんかありそうだよねそういうの。九島老師みたいな。

 そんな中、静かに目を閉じたままのアズサちゃんは…

「…わからない。この話はただ、どこかで聞いた記憶があるだけで」

「…そうですか。そういえば、アズサちゃんは転校生でしたね。…"vanitas vanitatum"、ということは…」

「…?」

「…いえ、なんでもありません。もう遅い時間ですし、そろそろ寝た方が良さそうですね」

 では、今日も一日お疲れさまでした。すっかりいつもの笑顔に戻ったハナコちゃんの言葉でその場はお開きになった。…なんか、何かをはぐらかすように切り上げられた気がする。というか何?たかだか補修でこんなシリアスな空気感になることある?私の気のせいかな…?

 

 

 

「ハリカちゃん、大丈夫ですか?シャーレに戻るんじゃ…」

「いや、ちょっと思うところあってわざと夜に来たから。今日は空き部屋借りて泊まって、朝イチで戻る」

「思うところ…って?」

「なんとなくだけど、一緒なんじゃない?ハナコちゃんのことでしょ?」

「っ!」

 …さて。みんなは寝静まった(と思う)けど、私たちはまだ眠れない。場所は移って先生が泊まってる部屋。先生、ヒフミちゃん、私の三人による深夜の密会だ。

 …思うところあるとはいえ、同じ学校に所属するヒフミちゃんの方が情報は多いだろうから私は本当に顔を出してるだけになるだろうけど。

 

「…模範解答を集めているとき、なぜか束になって保管されていたんです。珍しいことだから保管されていたのか、理由はわかりませんが…昨年の試験、一年生から三年生までの全ての試験における回答用紙がまとまっていました。どういうわけか、その全てを回答していた方がいたようでして…」

「…それが」

「はい、ハナコちゃんでした。…昨日見た一年生の時の成績に続けてまた盗み見る形になってしまったんですが…ハナコちゃんは去年の一年生の段階で、三年生の秀才クラスでも難しいとされる課程も含めて、()()()()()()()()を出しています…本当に、完膚なきまでに秀才といえるレベルです」

「…」

 開いた口が塞がらない、というのはまさにこのことだ。いやもうホント額面通りに。一年の時点で三年の試験まで満点だなんて、あまりにも格が違う。それこそこっち(魔法科)の某兄妹だってそこまでは…なかっ、た…よね?うん、そこまでいくかは怪しいと思う。

「一年生の分の試験結果を見て、ハナコちゃんはきっと今年になって急に成績が落ちてしまったんだと思っていました…でも、この結果を見る限り…」

「去年の段階で、もう全部解けてしまうはず…」

「…つまりハナコちゃんは、()()()()()()()()()()、か…」

 ハナコちゃんにずっと覚えていた違和感は、突き詰めればそういうことになる。私もこの事について相談するためにここまで来たわけで。

「ハリカも同じ意見だったんだね」

「だってずっと教える側にばっかりいて点数は一桁のまんまとか、いくらなんでも無理があるでしょうよ…人に教えることによる学習効果は馬鹿にできないっていうのに。それでいて家庭教師役で呼ばれたはずの私が豆知識を追加される始末だし。で、決定打はあれです。歴史のノート」

「あぁ…三年の範囲」

「私も気づかなかったのに、なんでわかっちゃうんだろうって思ったけど…そんな桁違いの秀才だったって言われたら納得しかないね」

「ハナコちゃん、どうして…」

「…まあ、私も提示できる解決策とかまでは用意できてないんですけど…本人に聞いてみるのが一番早いでしょうね。明日にでも」

 たぶん心因的な何かではあるんじゃないかな…天才の思うことはというか、結局は他人のことだからわかりようもないけど。…ただ、二人は妙に深刻な表情をしているような気がした。

 

 

 

 

 

 

*1
デジャヴ

*2
大事なことなので二回





・ハリカ
ちょっとかわいそうになってくるくらいのミリしら。またしても何も知らないハリカちゃん(16)
やっと呼ばれた当初の目的らしくなってきた
試験範囲との照合は自分でやるつもり

・ヒフミ
多難な部長
ハリカのノートにびっくり、ハナコの事実にもやもや

・アズサ
わけあって範囲が違う転校生
ハナコの本領発揮()の中でも平常運転

・ハナコ
実は格の違う秀才
本領発揮()延長戦、からの意味深ムーブ発動。ある意味こっちも本領発揮…なのか…?

・コハル
現状いじられ役
えっちな本を返しに行った先でハスミと出くわし…何か、内輪の話をする

・先生
生徒のために動いてる大人
今回は比較的影薄めかも
断片的にしか聞こえなかったけど、コハルとハスミは何の話してたんだろう…



・既に何度か描写してて超今更ですが本作のシャーレは複数人当番スタイルを採用しています。現状は実質来れたら来るに近い状態ですが。
・しばらく勘違いしてたけど"古則"って"古人が残した法則"であって規則みたいな意味ではないのね…あと一発で変換しようとすると「姑息」しか出ないのが難儀。
・ちなみに「楽園のパラドックス」では全然別件が出てくるから気を付けようね
・それはそうと"良い感じに誤魔化す。"で笑っちゃったな…
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