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「銃の使い方とかまで問題あったんだ…」
ヒフミと以前の模試の見直しをしていると、覗き込んできたハリカが苦々しげな声を漏らした。
「そういえば、この辺りはハリカちゃんにはお願いしてませんでしたね。アズサちゃんはむしろ得意みたいですし…ハリカちゃん、ひょっとして苦手なんですか?」
「そう…うん、そうなんだよ。シャーレに所属しておいてお恥ずかしい限りなんだけど、正直見分けもつかなくて…この際聞いておきたいんだけど、アズサちゃんのそれってサブマシンガン?」
「いや、
「違った…!ユウカの銃に似てるからそうかと…」
背中に担いだ相棒を下ろして見せたら、ハリカはばたりとテーブルに伏せた。ユウカ、という名前はハリカが来た日に出てきたな…ミレニアム、というところの生徒だったか。それにしても、まさか
「あら、銃の話ですか?」
「そうですハナコちゃん…」
「ああ…ハリカは銃に関しては弱いらしい」
「あ、あはは…えっと、私とアズサちゃんとハナコちゃんがARで、コハルちゃんは
「たしかにコハルちゃんのだけ長いのはわかる…あ~でもムツキちゃんのそういう形だけどマシンガンだったような…だめだ全っ然わけがわからない…」
「ムツキ…?」
知らない名前に思わずヒフミと顔を見合わせたけど、ハナコの「シャーレの部員さんですか?」という問いに頷いたのを見て、ひとまず納得した。ハリカや先生の仲間ということらしい。
「確か、シャーレにはどこの生徒も制限なく加入させられるんでしたよね?」
「そうだねぇ、まあ近頃は実質推薦制にもなりつつあるけど」
「正直応募制も考えたんだけどね、そうしたらたぶんもっと忙しくなるって意見が多くて」
「っ…そういえば先生いるんでした…すみません忘れてて」
先生がいきなり会話に割り込んできて、ハリカの肩がびくりと跳ねた。…急な事象への対応力はそれほど高くないらしい。先生は「いやまあ、しばらく無言だったからね」と申し訳なさそうにしていたけれど…ハリカはあまり気にしていないふうに、無言で笑顔に切り替えていた。
「ところで先生、シャーレの新入部員受け入れがこんなタイミングになってしまった件についてなんですが」
「ああ…えっと、ツバキとイコイだっけ。どうだった?」
「どうだったって…ツバキちゃんがすぐ寝落ちするタイプなのに目を
気がつけばみんな*1勉強の手は止まっていて、シャーレの二人の間で交わされる会話を眺める時間になっていた。…すぐ寝落ちするのはかなり致命的じゃないか?目を瞑っていいのか?
「いっそ手伝いに呼びます?少なくともイコイちゃんは来てくれると思いますよ」
「あら、そうなんですか?」
「宅配のバイトやってるから、ある程度いろんな場所の土地勘があるんだってさ」
「うーん…でもわざわざ百鬼夜行からここまで来てもらうのは、ちょっと申し訳ないような…」
「…や、やっぱり一度はシャーレの様子を見に戻った方がいいのでは…?」
腕組みをして真剣な表情の先生に、ヒフミがおずおずと手を挙げた。確かに、先生はシャーレと補習授業部の間で揺らいでいるらしい。
迷いがあっては高いパフォーマンスを発揮することなどできようもない。それなら一度発散しておくべきだろう。今回の件においては、それは難しいことではないようだし。だから、私もヒフミに同意する旨を首肯で示した。
「あぁ…やっぱり?」
「ええ。そういう交わり、触れ合いは大事にした方がいいと思いますよ?」
「ま゜っ…交わりとか触れ合いとか、じゃなくてもっと他の言い方があるでしょ変態!?」
「正直、大事だと思いますよ私も。縁あって…とも言いますし」
「なんだっけ…あれでしょ?ええっと、"
「っ、」
「"
「ちょ…ちょっと言い間違えただけだもん!」
ハナコから指摘を受けて顔を赤くするコハル。その様子に苦笑するヒフミと先生。補習授業部ではよく見る光景。
「ハリカ?」
だからこそ、浮いて見えた一人が気になった。虚を突かれたと言うのか、そんな様子で固まったハリカが。…声をかければ、かちりと視線がぶつかる。
「いや…シスターさんがいるような学校で耳にするとは思わなくて、ちょっと驚いただけ」
「ふふ、そうですね。語源までは普段あまり気にしませんから」
視線はすぐに逸らされ、虚空を見つめながら返事がもたらされる。同調するハナコをよそに、私は妙な引っ掛かりを覚えていた。あんな反応をすることだろうか。
いや…私は未熟で知らないことが多い。ハリカのこともまだ詳しくは知らない。…きっとハリカにとってはそうなのだろう、としか言えないか。
「…まあ、そうだね。時間を見つけて一度戻ろうかな。今すぐは難しいけど」
「私もそこまでの無理は言いませんよ…シフトと突き合わせると明後日辺りですかねぇ」
「突き合っ…!?」
「え、どうしたのコハルちゃん」
「な、なんでもない」
気づけば先生とハリカの話には結論が出ていた。その時間帯だけハリカが滞在する運びになったらしい。
「さて、勉強に戻りましょうか」
「そうだな」
【アズサ⇒ 】
『あの…先生、ちょっとお話が…あとでお部屋に行ってもいいですか?その、ハナコちゃんのことで』
就寝時間になって解散するとき、ヒフミからそう言われていた。だから、ノックの音を聞いて、はいと返事をしながらドアを開けた。んだけど…
「こんばんは、先生」
「………」
…水着姿のハナコがいて、思わず閉めてしまった。
「あら、先生?どうして閉めるんです?」
「…ハナコ?どうしてここに…いや、まずなんで水着か聞いてもいい?」
「ああ、これについてはお気になさらず。パジャマですので」
「何を言ってるの?」
「うふふ♡それより先生、ちょっと相談したいことがありまして。そろそろ開けてくださいませんか?」
「ああ、うん」
改めてドアを開けてもハナコはやっぱり水着姿で、それにしてもあんなに簡単に開けちゃうなんて、不用心ですね♡と言いながら部屋に入ってきた。
「えっと、それで相談したいことって?」
「そうですね、実は…アズサちゃんのことなんですが」
「アズサ?」
ハナコが口にしたのはあまり予想していなかった名前で、思わず
「し、失礼します…先生、いらっしゃいますか?昨日より遅い時間になってしまっ…て……えっ………?」
「あら」
…本来の相談相手が来てしまって、部屋の雰囲気はたちどころに気まずいものになってしまった。
何やら勘違いしたらしく動転して出ていこうとするヒフミと、何やら勘繰ったらしく「昨日より遅い時間」について掘り下げようとするハナコの二人を落ち着かせて誤解を解くのに十数分を要し、なんとか三人腰を据えて話せるようになった*2。とはいえ、落ち着いたと言えるかは若干微妙だけれど。
「で、ですがどうして水着で来るんですか!?水着がパジャマって、どういうことですか!?」
「心が落ち着くんですよね♡ですので私は、礼拝堂での授業にも水着で参加しましたよ?一度もっと、色々柔らかく考えてみましょう♪︎」
「あうぅ…」
「…ハナコ、さっきの話の続きは今じゃない方がいい?」
ヒフミにすがるような眼差しを向けられたけど僕にもわからないので、白旗代わりに話題を元に戻すことにした。ハナコが相談しようとしていた、アズサについてのこと。
「そうですね…大丈夫です。ヒフミちゃんも、一緒に聞いていただければと思います。実はアズサちゃん…毎晩のように、どこかへ出掛けては夜明けごろまで戻ってこないことが続いていて」
「そう、だったんですか…?」
「はい。最初は慣れない環境で寝付けないのかと思ったのですが、そうではないようです。…私は、アズサちゃんが夜にちゃんと眠っているところをほとんど見ていません」
「確かに私も…アズサちゃんはいつも先に起きてますし、私より早く寝ていることもなかったような…」
…アズサは夜、ほとんど寝ていないらしい。言われてみれば…夜は就寝時刻を過ぎればこの部屋を出ないからわからないけど、朝は誰よりも早く起きて活動している印象がある。
とはいえ勉強中に眠そうにしていることもあまりないから、ショートスリーパーと言われればそれまでかもしれないけれど…
「アズサちゃんが一体何をしているのかはわかりません。ですがそろそろ、多少無理矢理にでも寝かせてあげないといけないのでは、と。なんだかアズサちゃん…どこか、すっごく不安そうで…その不安を少しでも軽減してあげたくて」
伏し目がちになったハナコは本当に不安げだ。この数日間で見てきた彼女にしては珍しい…と思っていたら「先生とヒフミちゃんも、ですよ?しっかり寝ないとダメです」と水を向けられて背筋が伸びた。
「確かに試験も大切ですが、ただ落第というだけです。身体の健康と比べられるようなものではないと思いませんか?」
「…普通だったら、そうかもしれません。ですが、
うーん正論…などと考えていたら、かっとなった様子のヒフミがカミングアウトをしてしまっていた。…ショックが大きいだろうからまだ言わない、そう決めていたことを中途で思い出したらしく口を押さえている。
「…
一方でハナコはやっぱり動揺しているようだったけれど、ぱちり、と僕と視線が合うと動きが止まった。
「…連邦生徒会の権限を借りれば、あるいは?いや、まさか……先生、詳しくお聞かせ願えますか?」
緑の瞳にまっすぐ見据えられ、僕は補習授業部について知っていることを全て話すことにした。こうなった以上、伏せておく必要もないだろうと思って。
「なるほど。すべて不合格なら、退学…この仕組み自体がそもそもおかしいですが、やはり『
情報を開示したあと、ハナコは口元に手を当てて静止してしまった。…片鱗は何度か見え隠れしていたけど、やっぱりハナコには思慮深い一面があったらしい。
「ハナコちゃん…そ、そういえば、ホントは成績いいんですよね?1年生の時にはもう、3年生の試験まで全部満点だったんですよね!?」
「…」
「あの、ごめんなさい…模試のために昔の試験を見返してたとき、見つけてしまって……どうして今は、あんな点数を?その…わざと、なんですよね…?」
「ごめんなさい、知らなかったんです。失敗したら全員が退学だなんて…いえ、知らなかったからで済まされることではありませんね。皆さんには申し訳ないことをしてしまいました…ごめんなさい」
「いえ、その、ええっと…」
「…じゃあ、本当に?」
ヒフミが急にしおらしくなったハナコにたじろいでいる傍ら、確認のように問えばハナコはこくりとうなずいた。
「…はい。ヒフミちゃんの言った通り、私のあの点数はわざとです」
「や、やっぱり…ハナコちゃん、どうしてそんなことを…?」
「…ごめんなさい、言えません。私のすごく個人的な理由なので…ですが、それで皆さんが被害を受けてしまうのは望むところではありません。なので安心してください、最低限皆さんが退学にはならないよう、今後の試験は頑張りますので」
「ありがとう、ハナコ」
「いえ…先生にそこまで感謝していただくようなことでは…むしろ私が感謝するべきことです、裸で手をつくだけで足りますでしょうか…♡」
「むしろ過剰だからそれはやめてね?」
「そ、そうです…!今後頑張ってくださると聞けただけで、私は安心しましたから」
裾に手を掛けたハナコを慌てて制止。…まあ表情も柔和なものになって、やっと普段のハナコに戻ったみたいだ。普段の、コハルを赤面させるハナコに。
「そうですか、ありがとうございます♡…ところで、この事実を知っているのはヒフミちゃんと先生だけですか?」
「そう…あ、でもハリカちゃんは」
「いや、ハリカにも伝えてないよ。シャーレを任せてしまってる以上、巻き込むわけにもいかないから」
「なるほど…となると、アズサちゃんの不安は試験のことではなさそうですね。何かまだ私の知らないことがある、と……いえ、それ以上に今は
「存在そのもの…?」
「ミカさん…は無理でしょうし、まあこんなことを企むのはナギサさんでしょうか。ですがどうしてエデン条約を目前にしてこんな……いえ、むしろ目前にしているからこそ………?」
さらりと出てきたナギサの名前に、思わずヒフミと顔を見合わせた。…どうやらハナコは思慮深いだけでなく、とんでもなく鋭いらしい。試験結果に現れていた規格外の聡明さがなせる技だろうか…ひょっとするとこのまま、あっけなく真実に辿り着いてしまうかも
「…なるほど。つまりこの補習授業部は、
…あっけなく辿り着いてしまった。
・ハリカ
いまだに銃種に弱く、見た目だけではわからないものが多い。筆者と同じ
ちなみにアズサの
後半パートはお休み。いまだ何も知らないハリカちゃん(16)
・アズサ
初語り部チャレンジ(難しい)。キャラを掴めている自信がないでござる
ろくに寝てないことが判明した。天性のショートスリーパーはきわめて稀なのだそうだが果たして…あ、そういう問題じゃない?
・ヒフミ
先生の寝室での想定外の光景に当惑し、ハナコの推理力に驚き、このあとハナコによるナギサの「狡猾な猫ちゃん」呼びに目を白黒させる
・ハナコ
深夜の密会にログイン。推理力が冴え渡る
なおわざと悪い点数をとっていた理由は謎のまま
まとめて処理してしまった方が効率的…なんだか私たち、まるで洗濯物みたいな扱いですね。
・コハル
Chu!全然出せてなくてごめん
どうやら夜ちゃんと寝てるのは彼女だけであった模様です
もっともこのあとトイレに起きて鉢合わせするわけですが
・先生
生徒を信じて動く大人
ハナコの冴え渡る頭脳に舌を巻く
"洗濯物"よりも過激な表現を聞いたような…。
原作とはほんのちょーっとだけ展開を変えてるところがある。たぶん問題は起きないと思う程度。
(あっけなく辿り着いてしまうのはガチです念の為)
「あの…」
「ん?」
「すみません、たぶんそこ私の席です」
「え?…あっホントだごめん!うわぁ、私教卓ど真ん前じゃん…」
「それはちょっと、お気の毒としか…」
「意外にハッキリ言うね?えっと……いね…」
「あ、
「玻璃花ちゃん?じゃあ~…ハリーって呼ぼっかな!