鈍色の銃は射抜かない   作:諸喰梟夜

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物々しく章作ったけど二話だけになったよ


秘密と去就

 

 引き金を引くと、カチリと音が鳴る。……けれど、それだけ。

「……………何も起きませんね?」

「今度こそ弾切れ、なのか…?」

 聞いていた突風は起こらず、仮の的にした木も無風の外気の中で静止したまま。後輩二人の声を背に、手の中で鈍色に光る銃に目をやった。…例の少女が持っていた異様に平たい銃。性能を試すつもりで使ってみたけど結果はこの通り。持ち主に聞くのが早いけれど、当人は別室で今も眠っている。

 

 あのあと逃げ出した少女をチナツが見つけたが、ヘルメット団に追い回されたらしい少女は疲弊しきっており、抱き止めたらすぐに眠ってしまったらしい。それで、ひとまずここ、ゲヘナ学園風紀委員会本部まで連れて帰ってきたのだ。

「一応、シャーレの先生には伝えておきました」

「わかった。…本当にこの銃なのよね?」

「そのはずだけど…他にそれらしい持ち物もなかったし」

 少女はナップサックを背負っていたが、中身はタブレット大の謎の機器と財布、筆記用具とほとんど真っ白なメモ帳のみ。あとはこの見慣れない銃と、ポケットにハンカチと携帯端末。持ち物はこれで全部だった。ハンカチやブラウスの裏にあった刺繍から"ハリカ"という名前はわかったものの…

「ヘイローがない以上、キヴォトスの中を調べても出てくる可能性は低いですね…」

「…アコ」

 思考の続きを接がれて少し動揺した。「ところで委員長、私もその銃を見たいのですがよろしいですか?」というアコに、まだ未知のものだから気を付けるようにと伝えて渡しておく。

「…弾丸が入るような厚みすら無し、撃鉄の部分は…ボタン?これ、ほんとに銃なんですか?形だけのおもちゃにしか見えませんけど…」

「でも、実際にそれでヘルメット団を圧倒して逃げおおせた。ただのおもちゃじゃ説明がつかない。ヘイローもない丸腰…なのに……」

 

 そこまで言って、はたと思い出した。そんな丸腰の状態で…あの少女は、私の前に飛び出して…?イオリも気づいたようで、「あ」と短い声を落とした。

「待てよ?…あいつ、被弾してなかったか…?」

「それなんですけど…妙なんです」

 小さく手を挙げて言ったのはチナツ。

「妙、とは?」

「背中に弾丸を受けたのは私もはっきりと見ました。そのとき顔をしかめたのも。ですが彼女の背中、ブラウスすら無傷で…被弾した痕跡がないんです」

「そうなのか?」

「まるで、本当にヘイローがないだけみたいじゃないですか…」

「…わからないことが多すぎるな」

 本当に、今日最大の面倒事だ。呑気に眠ってないでさっさと目を覚ましてほしい……通知音に顔を上げると、チナツが自前の端末を見ていた。シャーレの先生から返信があったらしい。

「…別件で忙しいのでこちらには来られそうになく、申し訳ないが連れてきてほしい…とのことです」

「…そう」

「そういえば、チナツは明日またシャーレに赴くんですよね?その際に連れていってはどうですか?」

「そうですね。もとより先生が来られない場合はそのつもりでしたので」

 …目の前で勝手に方針が固まりつつある。

 でもまあ、こちらが抱え込まずに済むならその方がいいか。そう思ったから、窺うようなチナツの視線に無言でゴーサインを出した。ゲヘナの生徒は自由すぎるから、風紀委員は忙しいのだ。

 

 

【ヒナ⇒チナツ】

 

 日を跨いだ明け方になってようやく目を覚ました少女(医療部の生徒が付き添ってくれていました)は"稲梓(いなずさ)ハリカ"と名乗りました。彼女はやはり外から来たようですが、ゲヘナ学園はおろかキヴォトスという都市名すら知らない様子でした。またどんな目的で、どのようにしてやってきたかもわからないそうです。

 一方で彼女が所属していたのは"第四高校"とのこと。ナンバリングしかない学校なんてあるんでしょうか…それはそうと二年生とは。先輩だったんですね。

「…ちょっと変わった体質、くらいに思っててください」

 そして、彼女を中心に起きている不可解な現象についても尋ねましたが、とても言いづらそうな様子でそう言われただけでした。加えてあの風変わりな小銃はそれを補助するものだと。…それ以上の詳しいことは、いくら聞いても教えてはくれませんでした。「実戦になればわかるんじゃないですか?」と愛銃(ホットショット)を取り出したアコをなだめて、早めにシャーレへ向けて出発して…そして現在に至ります。

 

「装甲車を運転できる高校生とは…?いやでもブランシュの時…あれオフローダーだけどやってたな…」

「どうかしましたか?」

「いや…こんな護送されてるみたいなの初めてで…」

「みたいではなく護送ですよ、念のためです」

「そ…そっか」

 兵站部提供の軽装甲機動車の中。ハリカさんは慣れない環境に緊張しているようです。…入学当初の私もこんな感じだったんでしょうか。返却された紫のナップサックを胸に抱いて縮こまる姿は…やはり、ヘルメット団を圧倒した人物とはとても思えませんでした。

「なんというか…こんな治安悪いの?キヴォトスって」

「毎日ではないですよ…一応。ゲヘナ自治区が特別ということもありますし」

「運悪いんだなぁ私…」

「そのようですね………あの、ハリカさん」

「何?」

「…やはり、教えてはいただけないでしょうか?"体質"について」

 

 声を落として問うと、ハリカさんは少し顔を上げて「んー…」と唸る。

「…やっぱり、そう軽々と話せるものじゃない…かな」

「そうですか…おや」

 端末に着信が入って、そういえばハリカさんの端末は繋がるんでしょうか?などと考えつつ画面を見ると、差出人はシャーレで待っているはずの先生。

『チナツ、今こっちに向かってる?』

『どこかシャーレの近くで揉め事が起きてるみたいだから、巻き込まれないように気を付けて』

「…近くが戦場になってる?」

「え゛っ」

 ちらと見ると、ハリカさんは思いっきり顔をしかめていて。思わず吹き出しそうになるのをなんとかこらえました。

「大丈夫です。たとえ出くわしたとしても、この機動車は頑丈ですから」

「そ…れは、そうだろうけどさ?わ、私はヤだよ?こんなの全然慣れてなんか――」

「ぅわっ!?」

 

 不意に運転手(二年の先輩)が叫んだ次の瞬間、ドカンッ!という大きな音と共に車体が大きく揺れました。

「っ!?」

「わ、っ!?」

 顔を上げ、後部座席から身を乗り出して前方を確認するとヘルメット団の姿。何やらわめいているようですが…

ウチらのケンカに水を差すなんていい度胸じゃねえか!!

「知らないよそんなの…こんなところでケンカなんかしないでよ!」

「聞こえてないと思いますよ」

「知ってる!ああもう、この辺りまで来たら平和だと思ってたのになぁ…」

 ハンドルを握ったまま愚痴る先輩をよそに、少し不安になりました。なにぶんゲヘナの外は中に比べれば本当に平和ですし、加えて私たちにとっては天敵といえる温泉開発部が冬でもないのにやたら活発化してきていたのもあって、戦闘要員を連れてきていなかったのです。

 あいにく私は回復要員。私も先輩も戦えなくはないですが…やはり、無理を言ってでもイオリを引っ張ってくるべきだったのでしょうか。

 …などと考えていた意識は、突如響きだしたバラバラという激しい音に引き戻されました。

「うわっ、マジで撃ってきた!」

逃げるんじゃねぇー!!

「なんて理不尽…とにかく、早くバックを」

「いえ!合間を縫って突っ込んでください!」

「っ、ハリカさん!?何を言って…」

 はたと隣を見ると、ハリカさんはあの鈍色をした薄い銃を構えていて。

「…チナツちゃん、これだけは話しておきます」

「えっ?」

「ちょ、ここ車内っ!?」

「私がこれを使うときは、大技です」

 カチリ、と引き金が引かれて―――弾は出ず。

 

 …代わりに、バラバラという音が()()()()()()()()ました。

「…え」

「今です!」

「わ、わかった!」

 はっと前を見た私が固まったのをよそに、機動車は誰もが凍りついたように動かない戦場の真ん中を駆け抜けました。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()の下をくぐるようにして。

 

 

【チナツ⇒ハリカ】

 

 …この世界のことが本当にわからない。なんか、いろいろぶっ飛びすぎてる気がする。はっきり言って理解が追い付かない。

 事前にざっくりと、かなりざっくりと説明を受けていて、いま改めて説明を受けてるんだけど頭の中に宇宙が広がる。「数千の学校が連合する超巨大学園都市」。中枢は「連邦生徒会」。その直属の「連邦捜査部"S.C.H.A.L.E(シャーレ)"」。もうわけがわからないよ*1

 

「…つまり、君はどこか、ここじゃない世界から来た、と?」

 そして目の前のこの人は、シャーレの顧問を勤める『先生』らしい。ここに来て初めて男性を見た気がする。ついでにキヴォトス人の頑強さについてと、先生が外から来たという点では私と同じらしいことも聞いた。チナツちゃんはかなりの信頼を寄せている様子だったけど、親身に話を聞いてくれる姿勢から何となく納得できた。

 チナツちゃんから紹介されて自己紹介も済ませたあと、チナツちゃんと運転手さん(フユコさんというらしい)は別件で出ていき、現在シャーレのオフィスに二人きりで面談を受けている。

「…はい。突拍子もない話ですけど、"超巨大学園都市・キヴォトス"だなんて聞いたこともなくて…」

 迷ったけど信頼できそうな大人だと思ったので、私は今の境遇について素直に話すことにした。ここまで見聞きした情報から言葉は通じるし通貨も同じらしいとわかったけれど、まだ衣食住が完全に確保された訳じゃない。それらを整えるためには、やっぱり頼れそうな人にちゃんと理解してもらう必要がある。

 …などと一丁前に考えつつ。私は先生がそんな馬鹿な、と笑うこともなく聞いてくれたことにひとまずほっとして、

 

「…本当に突拍子もない話じゃないの」

「っっ!!?」

 …突如として背後から聞こえた声に、思いっきり肩を跳ねさせた。

「ユウカ、それにチナツも…立ち聞きはよくないよ」

 振り向くとオフィスのドアが開いて、数分ぶりのチナツちゃんと、青髪をツーサイドアップにした少女が入ってきた。

「すみません先生。やはりどうしても気になってしまって」

「あ、あたしはたまたま聞こえちゃっただけだから!」

「まあまあ。ハリカさん、この子は」

「自己紹介なら自分でする!えっと、私はミレニアムサイエンススクールの2年、早瀬ユウカよ」

 気の強そうな青髪少女はそう名乗った。どこかゲヘナ学園で会ったアコさんと似たタイプなのかもしれない。服装はこっちの方が圧倒的にしっかりしてるけど。…あと、この子に対してなんだか引っ掛かりを覚えてる。魔法師としての私じゃなく、転生者としての『私』のセンサーに。

 

「あ、はい…魔法大学附属第四高校2年、稲梓ハリカです。よろしくお願いします…?」

「……まほう…?」

「あっヤバ」

 とっさに口を押さえたけどもう遅い。ついつい同じように学校名乗っちゃった。でも目の前のユウカちゃんより先に、チナツちゃんが口を開いた。

「それってもしかして、"体質"と仰っていたことと何か関係が?」

「そ…そう!そうなんだ!」

 さすがチナツちゃん。…とはいえ、失言一発で抜き差しならなくなってしまったので、私は観念して自分が使う魔法についてざっくりと、かなりざっくりと話すことにした。適性がなければ視認もできないということも含めて。…そう、()()()()()()()()なのだ。だから"体質"と言ったのも嘘じゃない。

「一応、超能力みたいなものが使える生徒はいるらしいけど」

「そうなんですか?でもあんまり大っぴらにはしたくなくて…まあ、既にけっこう使っちゃってはいるんですけど」

「そういえばここに来る途中も、揉め事に巻き込まれて使ってましたよね?」

「ぅぐ…」

「あ、結局巻き込まれちゃってたの?」

「はい…結局避けられませんでした」

 

 肩をすくめるチナツちゃん。ちなみにユウカちゃんもあの揉め事については把握していたようで、今はまだ大丈夫だけどあれを何とかしないと自治区に戻れなさそう、とため息をついていた。

「でも切り抜けられたのね…チナツは見たの?魔法とやら」

「ええ、すごかったんですよ?飛び交っていた弾丸がいきなり全部一ヵ所に集まってしまって」

「は!?えっ何それ!?」

「ま、待ってチナツちゃんあんまり言わないで…!」

 ここに来る途中の出来事をすらすらと語り出すチナツちゃん。声のトーンはあまり変わらないけど、瞳はらんらんと輝いているように見えた。どうも私の行動は彼女を少なからず興奮させちゃったらしい。

 思い返せば妙に格好つけてたなあのときの私…と思って顔が熱くなった。「これだけは話しておきます。これを使うときは、大技です」って…だめだこれ以上は恥ずか死しちゃう。振り返らないでおこう。

 まあ、大技だったのは事実だけど…。あのとき使ったのは収束系魔法『輻輳点(コンバージェンス)』。指定エリア内の固体をその中心に集める領域魔法。銃弾の運動エネルギーを圧倒できるかはやったことないからわからなかったけど、なんとか(サマ)になって安心した。ちなみにそのあと下をくぐり抜けられたのは、重力を弱める魔法をかけ直したからだ。

 …けど、これは姉譲りのまさしくお家芸ってやつで、私はそれを模倣してるだけにすぎない…じゃなくて。

 

「あっあの、少しいいですか?話しておきたいことがあるんですけど!」

「うん。何かな?」

「…私を、ここに置いていただけませんか?」

「…ここって、シャーレに?」

 きょとんとして問う先生に、力強くうなずき返した。

「えっ待って、ここに?」

「これでもちょうどいいと思ったんですよ?同じように外から来た人がいて、業務内容について聞いた感じ中立な立場なんでしょう?」

「まあ、それはそうね」

「自衛はできますけど、やっぱり体質上どこかに編入するのは悪手でしょうし。情報が押し寄せて忙しそうなここを手伝えば、常識の違いも手取り足取り教わるより早くカバーしていけると思うんです」

 

 大まかに考えを伝えると「なるほど…確かに、筋は通ってるわね」の評価をいただけた。…生々しいことを言えば、安定をより確実に手にしておきたいというのもあるけれど。これでも地方の名家出身、衣食住に妥協するのはやっぱりどうしても抵抗感があった。

「…こういうこと言うのもなんだけど、ほんとに忙しいよ?大丈夫?」

「…まあ、頑張りますよ。帰り方が見つかるかもしれませんし」

「…やっぱり、帰りたいんですか?」

 少しためらいがちに尋ねてきたように聞こえたけど、チナツちゃんの表情は特に変わりなかった。

「…まあ、そうだね」

 大切な友達がいる。あと家族もいる。治安うんぬんを差し置いても、いるべき場所にいるべきだろうから。

 

 

 

 

 

 仮眠室のベッドをひとつ使わせてもらうことになって、ようやく平和な眠りに就けた真夜中。

 全身にじっとりと嫌な汗をかいて飛び起きた。あたりを見渡して、そこが自分一人しかいない仮眠室であることを確かめると、そのままベッドの上で頭を抱えた。

 悪い夢を見た。そう、所詮は()()()。そのはずなのに、そこには嫌に現実味があって、境界を突き破る説得力があるように感じて、…私は感覚的に理解してしまった。

 

「そっか………私、死んだんだっけ」

 

 

 

 

 

*1
(^◦ω◦^ )





・ハリカ
起きたらゲヘナ学園、そこからシャーレという場所に移動することになった迷子
色々と軽率にやらかすタイプで、結局魔法についても明かすことにした。簡単に見せられるものってなるとやっぱり振動系だよなぁ…と思いながらユウカを浮かせてみせるなどする
※輻輳点はオリジナルです。理論上いけるのだろうか…。
そのうち原作(魔法科)に登場してないとおかしいくらいのレベルになっていくかもしれない。それくらい生身で切り抜けるのはシビアな世界なもので……知ってるかこれ兄姉はもっと優秀なんだぜ………

・チナツ
シャーレまで同行したのもあってけっこう打ち解けてきてる
内心ではハリカに興味津々

・ヒナ
チナツに任せた
口調が掴めない…。他人の銃を勝手に触ることはしないと思うけど、誰かにやってほしかったので

・イオリ
ただただ困惑するだけの立場になってしまってる。申し訳ない

・アコ
遅れて登場なゲヘナ風紀委員行政官
ただ立場としてはおおむねイオリと同じ。ハリカには服装の点で密かにドン引きされていた

・ユウカ
とんでもねえことを聞いちゃったミレニア(略)スクールのセミナー会計
ちょっとジャンプしてみてと言われ、何事かと思ったら宙に浮かんだままなかなか着地できない…という体験をさせられる子

・フユコ
なんとなくネームドにした風紀委員会兵站部モブ。今後の登場は未定
あとが面倒そうなので誰にも話さないタイプ

・先生
チナツに頼られたシャーレの主
ゲーム見てると人格者なのか変人なのかわからなくなってくることでお馴染み


・作者
殖やしすぎてモチベ管理が大変(^ω^≡^ω^)
誰かに想子光視認させちゃおうかなと考えるなど
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