あと他に比べてだいぶ長くなってしまった
これを越えられるタイトルは浮かばぬ…
トリニティ総合学園の別館…と称しつつアビドスとそう変わらない規模のこの校舎にて、補習授業部の面々と先生と寝食を共にし、勉強を教える日々は…あっという間に過ぎていった。
私は一応シャーレとしての業務も最低限続けていて、久々にハスミさんと任務を共にしたり、放課後スイーツ部と再会したり…あと、近道に入った路地裏でボロボロの人と出くわしたりしていたけど。あれ以来一度も会っていないけれど、たぶんそういう立場の人なのだろうと思う。…服装がラフなのがちょっと気になったけど、仕事に真摯そうな人だった。
そしてそんな日々の中で、補習授業部のみんなの成績は驚くほどにぐんぐん伸びていった。通算5回目の模擬試験ではついに全員が90点以上*1をとった。最新の6回目は本当に惜しかった*2けど、もうみんなの顔から絶望の色は薄れている。
…それにしても、ハナコちゃんが息するように100点取っていくのが凄かったな。これがハナコちゃんの本気か…ともはや畏怖のような感覚すら覚えては、口を開けばお察しの通りなので認識がもとに戻るを繰り返してたけど。
…そして、今。
「ついに明日、ですね…」
「はい…」
「…」
「だ、大丈夫よね?また急に色々変わったりしないよね?」
「はい、今のところは…」
「そうですね。試験範囲は前回の通り、合格ラインも変わらず90点。会場はトリニティ第19分館第32教室。本館からは離れてますが、そう遠くはありません。時間も午前9時からで、第一次試験とは変わっていませんね」
第三次特別学力試験は、いよいよ明日。…ちょっと不安だったもろもろの条件は、現状特別変わっていることはないらしい。一応ひと安心した。これで合格ライン100点とかになってたら、トリニティには失望してもう二度と足を踏み入れなくなるところだ。
…ただ、ハナコちゃんの表情は晴れないけれど。
「むしろ気になる点といえば、昨日から本館が不自然なほどに静かなことです。人気がピタッとなくなってしまったようで…念のため今晩も、私のほうで掲示板を見ておきますね」
「ハナコちゃんも寝たほうが…」
「ふふ、私は大丈夫です。…それに、私にはこれくらいしかできませんし」
「そ、そんなことありません!ハナコちゃんがすごく丁寧に勉強を教えてくれたおかげで、私もアズサちゃんもコハルちゃんも、すっごく成績が上がって…!」
「それは、皆さんが頑張ったからですよ。何日もろくに睡眠がとれなかったのに、頑張ったと思います」
「…きっと、大丈夫だよ」
「月並みなことかもしれないけど…積み重ねた努力は必ず結果に繋がってくれるからね」
ともあれ今この状況で、私にできるのはみんなの自己肯定感を上げてパフォーマンスを向上させるくらいだろう。
助っ人…少なくとも教師役としての出番は終わった。みんな充分モノにした。ハナコちゃんには、むしろ私が教えられたか。つよい。…そんなハナコちゃんは、どこかしんみりしてるけど。
「…はい。それでも90点はギリギリですけど…明日の試験問題が簡単なら、きっと…」
「ぅ…そ、そんな都合のいいことあるわけない!私、まだまだ深夜まで勉強するから…100点!100点取れれば、誰も文句なんか言えないでしょ!?」
「コ、コハルちゃん…気持ちはわかりますが、今日はもうゆっくり休んだほうが…」
「そうですよ、コハルちゃんが頑張ったのはみんなが知ってます。大丈夫です。今日はもう休んで、明日に備えたほうがいいと思いますよ」
「休むことも戦略のうちだ」
「はい。そしてそれは、アズサちゃんも同じですよ?」
「…うん、今日くらいはゆっくり休もうと思う」
コハルちゃんは張り切ってるけど、休息は必要だからね…そしてアズサちゃんもしっかり釘を刺されてるな。
「…いよいよ明日、私たちの運命が決まります…」
「…もし…いや、縁起の悪いことはやめておこう。必ず合格する」
「わ、私も!絶対負けないんだから!」
「そ、そうですね…泣いても笑ってもあと一回です。頑張りましょう!」
「はい。ここまでしっかり頑張ってきたのですから、あとは最後まで最善を尽くすだけです」
「みんな、今までの頑張りを信じよう。きっと大丈夫!」
気合いを入れるみたいに、励まし合うみたいにそう言い合ったあと、解散、各自明日に備えて寝ることになった。
…なったのだけれど。
「集合してますね…」
「あ、ハリカまで…」
隣の先生の部屋からしきりに物音。廊下に出てみれば薄く開いた扉から光が漏れていて、覗いてみればアズサちゃん以外の三人が揃い踏みしていた。照れ気味なヒフミちゃん、呆れ気味なコハルちゃんと…一人だけ、真剣な顔のハナコちゃん。そんなハナコちゃんが、まっすぐこっちに向き直ってきた。
「ちょうどよかったです、ハリカちゃんにも共有しておくべきでしょうし」
「え、何…?」
「実は先ほど、シスターフッドの方々に少し会ってきたんです色々と調べたいことがあって…明日私たちが試験を受ける予定の、第19分館についてなのですが」
ハナコちゃんはこんな時間に出掛けていたらしい。道理で一人だけパジャマじゃないのか…そして、
「…ま、まさかまた、場所が変わる…?」
「いえ、そうではないのですが…そこにはこの後、かなりの人数の正義実現委員が派遣され、建物全体を
「隔離…?どういうこと?」
「…『エデン条約に必要な重要書類を保護する』という名目でティーパーティーからの要請があり、建物全体を正義実現委員会として守る厳戒態勢に入ったとか…それから、どうやら本館の方にも戒厳令が出ているようです。昨日から変に静かだったのは、このせいみたいですね」
「かいげんれい…戒厳令??」
戒厳令って…確か、行政権も司法権も軍に委譲されるとか、だっけ?おかしい、唐突に日常生活…少なくともこんな学園都市でまず聞かない単語が出てきて、全くわけが……いや、わからなくはないか………
「そ、それって…」
「…恐らく、誰一人あの建物への出入りは許されません。エデン条約が締結されるまで、ずっと」
「ま、待って!?じゃあ私たちの試験はどうなるの!?」
「…"
喉の奥から、自分でも驚くほど低い声が出た…いけない、落ち着かないと。ヒフミちゃんが怖がってるじゃないか。
「そ、そんなっ…じゃあ、私がハスミ先輩に事情を説明して…!」
「…難しいと思います。ハスミさんに裏側の事情は知らされていないでしょうし、仮にハスミさんが私たちを助けたらそれはティーパーティーに対する離反と同義…ハスミさんも、正義実現委員会を追放されるのではないでしょうか」
「う、うぅ……」
「まったく…どうやらナギサさんは本当に、私たちを退学にさせたいようですね」
「あうぅ…どうして、そこまで……」
…おかしいなぁ。あんなに治安の悪い無法地帯と化してるゲヘナ自治区がむしろ恋しくなってくるなんて。私もずいぶんキヴォトスに染まってきたってことか…
なんて思っていたら、背後で部屋のドアが開く音がして。
「…私のせいだ」
振り向けば、部屋に入ってきたアズサちゃんが後ろ手にドアを閉めて、ぽつりと呟いた。
「アズサちゃん?」
「みんな、聞いて。話したいことがある」
…うつむいて目元が見えないまま、アズサちゃんは…
「…みんなにずっと、隠していたことがあった…でも、ここまで来たらもう、これ以上隠しておけない……………ティーパーティーのナギサが探している『トリニティの裏切り者』は、私だ」
「…え?」
「きゅ、急に何の話…?」
ヒフミちゃんとコハルちゃんは、呆気にとられた様子。たぶん、アズサちゃんがナギサさんを呼び捨てにしたことも含めて。…正直、私もそっち側……ハナコちゃんと先生は、何も言わない。アズサちゃんはうつむいたまま、続ける。
「私はもともと、アリウス分校出身…今は書類上の身分を偽って、トリニティに潜入している」
「あ…アリウス?潜入?」
「な、何それ?ありうす…?」
唐突に出てきた知らない単語に戸惑いを隠せない私たちに対して、ハナコちゃんは少し目を
「アリウス分校…かつてトリニティの連合に反対した、分派の学校です。その反発のせいでトラブルになり、今ではキヴォトスのどこかに身を潜め、ひっそりと過ごしている、と言われていますが…」
「そう。私はここに来るまで、ずっとアリウスの自治区にいた。アリウスとしての任務を受けて、今はこうしてトリニティに潜入している」
ハナコちゃんの説明に、アズサちゃんはすぐに肯定を示した。…そういえば気になっていた。アズサちゃんの学習進度。学年ひとつ分遅れるなんていくらなんでも異常なんじゃ、と思っていたけど…
「…任務、ですか?」
「…ティーパーティーの桐藤ナギサ、彼女のヘイローを破壊する。それが、私の任務だ」
「「っ!?」…う、嘘でしょ!?それって、つまり…っ」
ヘイローを破壊する…相変わらず仕組みはとんと見当がつかないけど、破壊のニュアンスからもそれが示すところは自ずとわかる。アズサちゃんの任務は、
「アリウスは…ティーパーティーを消すためなら、何でもやる覚悟でいる。まず初めにティーパーティーのメンバーであるミカを騙して、私をこの学校に入れた。たぶんトリニティと和解したいとか、そういう嘘をついたんだと思う」
「なるほど、ミカさんを…確かに彼女は政治に向いていないと言われていましたが。おそらく全てが終わったら、罪はまとめてミカさんに着せる…そういう流れを想定しているのでしょう。…アリウスはトリニティを憎んでいるであろう、とは知っていましたが…」
「ま、待って?急になんの話?いや別に嘘だとは思わないけど…それって、今の私たちと関係あるの?…あ、アリウス?のことはよくわからないけど、それが私たち補習授業部とどういう関係があるわけ?…アズサはなんで急に、そんな話してるの?」
落ち着け私取り乱すようなことじゃない…なんて思っていたら、フリーズしていたコハルちゃんが再起動した。確かに、明朝に試験を控えたこの状況にはあまりにも唐突なカミングアウトだけれど…試験のあとのことを見据えて、とか?
…アズサちゃんが打ち明けたのは、そんな予想を上回る衝撃の事実だった。
「…明日の朝。アリウスの生徒たちが、ナギサを狙ってトリニティに潜入する」
「っ!?」
「私は、ナギサを守らなきゃいけない」
「っ、え、あ、明日!?」
「うん。私はそれを、どうにか阻止しないと」
【✳⇒ 】
補習授業部、第三次特別学力試験前日…いや、日付はもう変わってるかな…そんな状況でアズサが明かしたのは、アリウス分校から潜入したスパイであるという自分の身の上と、明日…いや今日、アリウスがナギサを襲撃する計画だった。
…前者はミカから明かされていたけれど。後者は当然初耳で、しかも…
「本館には戒厳令、それでいて最後の試験でのナギサさんの無茶もあって、本館には正義実現委員会が不在…」
「…状況が、出来上がってる…」
「ええ、要人襲撃には最適の日ですね…アリウスも頭は回るようです」
…そう。ここの治安部隊たる正義実現委員会は試験会場のほうに行く。トリニティには自警団もあるけど、戒厳令のもとで動けるほどの権限はないだろう。だからナギサは完全に丸腰…襲撃ができる状況が、仕上がってしまっている。
「えっで、でも、待って?よくわかんないけど…アズサは、ティーパーティをやっつけに来たんでしょ?なのに、守るってどういうこと?」
「それは…」
そこで、コハルがはっとした表情でアズサに詰め寄った…確かに、さっきアズサははっきり「ナギサを守らなきゃいけない」と言った。詰め寄られたアズサは言い淀む様子で……答えは、違う方向から飛んできた。
「アズサちゃんは、初めからその目的でトリニティに来た。そういうことですね?」
「え…?」
「っ…!」
「ナギサさんを守るために、敢えてナギサさんを襲撃する任務に参加した。言わば、二重スパイ」
…どこか確信を持った口調で話すハナコ。対するアズサは、虚を突かれたような顔から…ゆっくり目を伏せた。ハナコの言う通りらしい。アズサはどこまでもまっすぐで、だから否定はちゃんと口にするだろうから。
「どうしてナギサさんを守ろうとするんですか?それは、誰の命令で?」
「…これは、誰かに命令されたわけじゃない。私個人の判断だ。…桐藤ナギサがいなくなれば、エデン条約も取り潰しになる。あの平和条約がなくなればこの先、キヴォトスの混乱はさらに深まる……その時また、アリウスのような学園が生まれないとは思えない」
「…だから、平和のために…ということですか?とっても甘くて、夢のような話ですね。今回の条約の名前と同じくらい、虚しい響きです」
アズサが隠していた意思…アズサはアリウスの一生徒でありながら、エデン条約を守るために動いていた。
…ミカは、そういえば何と言っていたか…アズサは『何も知らないまま、複雑な政治争いの真っ只中に立つことになっ』たと言っていたか。違ったんだ。どうやら、ミカも知らなかったらしい。
呆気にとられる僕らをよそに、ハナコが言葉を紡ぐ。…その声音には、ハナコにしては珍しく怒気がこもっているように聞こえた。
「…アズサちゃんは嘘つきで、裏切り者だった。トリニティでは本当の姿を隠し、アリウスでも本音を隠していた。アズサちゃんの周囲には、アズサちゃんに騙された人しかいなかった。ずっと周りの全てを騙していた……そういうことで合ってますか?」
「ハ、ハナコちゃん…」
「…いつか言った通りだ。私はみんなのことも、みんなの信頼も…みんなの心も、裏切ってしまうことになる……だから、彼女が探している『トリニティの裏切り者』は、私。私のせいで補習授業部は、こんな窮地に陥っている………本当にごめん。私のことを恨んでほしい。この状況は、私がもたらしたものだから」
初めて見る、ハナコの鋭い目つき。それをアズサは正面から受け止めて、苦しげな顔で懺悔を紡ぐ。…僕はどうしても、黙って見ていられなくて。
「…それは違うよ」
「先生…?」
「本当の原因は、
ちらりと所在なさげなハリカを見やる。…僕は生徒たちを、子供たちを信じて動く。それは信頼を得るための第一歩だし、良好な関係を築くための第一歩でもあるけど…ハリカの場合はちょっと違ったというか、逆向きだった気がする。ハリカが僕に全幅の信頼を置いてることがわかるから、僕もハリカを信頼できる。
もちろん僕やハリカのようにとまでは言わないけれど…疑心暗鬼の暗闇に陥る前に、ナギサがもっとみんなを信じていれば。思惑を深読みする前に、ミカがもっとナギサを信じていれば。…互いが互いを深く信じられていたら、きっとこんなことにはならなかった。
「…そう、ですね。そうかもしれません。…今のナギサさんのように、誰も信じられなくなった人を変えることは難しいです。人を信じるということは、元々難しいですし……ですが、アズサちゃんは私たちにこうして本心を語ってくれました。黙り続けることもできたはずなのに、謝ってくれました。……ごめんなさい、先ほどのはなんと言いますか、どうしても意地悪したくなってしまったんです。アズサちゃんのまっすぐな顔を見ていると、なんだか心が落ち着かなくなってしまって」
ハナコの落ち着いた声音が戻ってきた。あんなに眼光鋭くしていた目つきも、普段通り柔和なものになっている。みんな思い思いに口を閉ざす中、ハナコはふっと微笑んだ。
「…補習授業部はちょっと変わった意味で、ある種の舞台のように注目を浴びる存在として生まれました。本来ならアズサちゃんのような『スパイ』は、このような注目される場所に長くいてはいけないはずです。誰にも気づかれずに消える…そんな手段やタイミングは、いくらでもあったはず。」
「…」
「ですがアズサちゃんは、そうしませんでした。その理由を、私は知っています」
「…補習授業部での時間が、あまりにも楽しかったから。そうではありませんか?」
みんなで一緒に勉強したり、ご飯を食べたり、お洗濯をしたりお掃除をしたり。何をしても楽しいことばかりだったから。みんなと目標に向かって努力すること、みんなと知らなかったことを学んでいくことが楽しかったから。
そう言われて、アズサは少しうろたえていたけど…目を閉じると、ふぅと息をついた。
「…うん…そうかもしれないな………何かを学ぶということ、誰かと何かをするということ…その楽しい時間を、私は手放せなかった……まだまだ知りたいことがたくさんある。海とか、お祭りとか遊園地とか、行きたいところも知りたいことも、まだまだたくさんあって…」
「アズサちゃん…」
アズサの口から、アズサの思いが堰を切ったようにあふれ出す。それらを受け止める僕らの中で、ハナコはふふ、と微笑んでいた。
「なんだか知ったような口を利いてしまいましたが…わかるんです、その気持ち。なにせ…はい。同じように思っていた人が、いたんです。…やけに要領がよくて、何をしても周りからおだてられてしまうようなタイプで……その人にとって、トリニティ総合学園は…嘘と偽りで飾り立てられ、欺瞞に満ちた空間でした。誰にも本心を打ち明けられず、誰にも本当の姿を見せることができないまま…その人は、学校を辞めようとしていました。そんな生活は、監獄にいるも同然でしたから」
ハナコが語る"誰か"の話…なんとなく誰のことなのかわかった気がするけれど、無粋だから何も言わないでおく。ちょっと申し訳なさそうな顔のハリカも気づいてるんだろうな…自覚はなさそうだけど、洞察力の高さが取り柄だから。
「ですが、その人とアズサちゃんは違いました。一瞬話が変わりますけど、アズサちゃんは実際に今回のことが終わったら…この学校での生活は、終わってしまうんですよね?そもそも書類を偽装して入っていたわけですし、アリウスのことも裏切ってしまうのだとしたら、最終的には帰る場所も戻る場所も無い…ということですよね?」
「あっ…」
思わず全員の目がアズサに集まる。そういえば確かに、その先はどうなるのだろう?ハリカという前例があるから、シャーレで預かることはできるけれど…。ただ、それは本題ではないらしいハナコの話は続く。
「それを知っていたはずなのに、アズサちゃんは補習授業部で、いつも一生懸命でした。その人は試験を台無しにして、学園から逃げようとしていたというのに…一方のアズサちゃんは、短い学園生活に全力でした。どうしてそこまでするのでしょう?そこに何の意味があるのでしょう…アズサちゃんがいつも口癖のように言っていた通り…"vanitas vanitatum"、『全ては虚しい』はずなのに」
そういえば…何度か口にしていたけど、そういう意味合いだったのか…。英語のvanish*3とかvanity*4のやつですかね、とハリカが小さく呟くのが聞こえた。
「…ですが同時に、アズサちゃんはその後ろに、いつも言葉を付け加えていましたね。全ては虚しい…でもそれは、
…そうだ。アズサはよく「虚しい」という単語を口にしたけど、そこで言葉が終わったことはなかった。諦める理由にはならないとか、抵抗をやめるべきじゃないとか。そんな言葉が続いていて、アズサは強い子だなと思ったものだ。
「…そうして、ようやくその人も気づくことができました。学園生活の楽しさに……下着姿でプール掃除をしたり、水着で夜の散歩をしたり、裸で色々なことを打ち明け合ったり♡…自分をさらけ出せる人たちに、そういったよくあることを全力でするということが、こんなに楽しいんだと」
「うん…いや、裸ではなかったけど」
「さ、散歩も水着ではありませんでしたよ…!?」
「全体的によくあるの枠超えてない??」
「えっやっぱりあれ下着だったの!?」
「っ、ははは…」
…あぁ、やっぱりハナコだった。話の中の"誰か"も、急にこういうこと言い出すのも。かなり強引な手段ではあるけど、おかげで緊張していた空気はあっさり霧散してしまった。
「ふふ♡…アズサちゃんの言っていた通りです。虚しいことだとしても、最後まで抵抗をやめるべきではありませんね?」
「ハナコ…」
「アズサちゃん、もっと学びたいんでしょう?知りたいんでしょう?みんなでいろんなことをやってみたいって、あのとき話したじゃないですか。海に遊びに行くとか、ドリンクバーで粘って夜更かしとか…それを、諦めてしまうんですか?…いいえ、何も諦める必要はありません」
…いつかの真夜中の散歩を提案する前みたいに、
「桐藤ナギサさん…彼女をアリウスから守りましょう。そして私たちは私たちで無事に試験を受け、合格するのです。あとからどんな文句も言えないよう、かけておいた罠はそのままに…。それでも試験会場にたどり着き、みんなで90点以上を取って、堂々と合格するのです。それが今の私たちにとって救いとなる、唯一の答えではありませんか?」
「っ……で、でもそんなこと、物理的に不可能なはず…試験は9時から。アリウスの作戦開始もまた、同じ時刻を予定してる」
「ほ、他の方たちに助けを求めるとか…?」
「…それもそうですが……私たちがしっかりと試験に合格するためには、それだけでは足りません。ここは、私たちの方から動きましょう。これまで様々な嘘や策略の中で弄ばれてきましたが、今度は私たちから仕掛ける番です。なにせ今ここには正義実現委員会のメンバーと、ゲリラ戦の達人と、ティーパーティーの偏愛を受ける自称平凡な人と、トリニティのほぼ全てに精通した人がいます」
「…?」
「へ、偏愛…!?」
「その上、ちょっとしたマスターキーのような『シャーレ』の先生までいるんです。信頼のおける、有能な『シャーレ』部員も一緒です」
「ま、まあ…」
「そ、そんな大袈裟な…」
「この組み合わせなら、きっと…トリニティくらい、半日で転覆させられますよ♡」
「は、はい!?」
「え!?ちょっ、どういうこと!?何をする気!?」
「何をするも何も、試験を受けて合格するだけです♡…作戦内容は一旦、私にお任せください。さあ、今こそ力を合わせる時です。行きましょう!」
「えっと…と、とりあえず頑張ろう!」
…急にそんな目配せをされても。おかげでなんだか締まりがない号令になってしまった。
・ハリカ
まさかゲヘナが恋しくなる日が来るとは…
信頼以前にシャーレという居場所を与えてもらったからには尽くそうという義務感だけどまあ、先生と信頼し合う構図にはなってる
・アズサ
ゲリラ戦の達人
今回の主役①。
抱え込んだ秘密を明かした。ほんと良い子だよ………
・ハナコ
トリニティのほぼ全てに精通した人(自覚あり)
今回の主役②。
全体に能力値が高く、しかしそれゆえに悩みを抱えた子
・ヒフミ
ティーパーティーの偏愛を受ける自称平凡な人
今回ほぼリアクション役①
・コハル
正義実現委員会のメンバー
今回ほぼリアクション役②
・先生
尽力し見守る大人。マスターキー…何を任されるだろう……
ハリカと互いに信頼し合う図
・ナギサ
疑心暗鬼の暗闇にどっぷり
余談だけど「桐藤」がなかなか一発では変換できなくて困るなどした
さてみなさん きますよ あれが