お待たせしました
回収までにずいぶん時間がかかってしまった…
【アズサ】
『…アズサちゃん。自分が何をしてるのか、その結果これからどうなるのか、それはわかってるんだよね?』
『もちろん』
『トリニティが、あなたのことを守ってくれると思う?これからずっと追われ続けるよ。ずっと、どこに行っても………あなたが安心して眠れる日は来るのかな?』
『それに、サオリから逃げ切れると思う?アリウスの出身なら、もちろん知ってるよね?et omnia vanitas…』
『うん、わかってる。それでも私は最後まで足掻いてみせる。最後の、その時まで』
「…うん、そっか」
アリウスを阻止する電撃作戦、そして第三次学力試験を終えて。
あのあと、私は何時かぶりに正義実現委員会に連行され、今回のことの顛末について取り調べを受けることになった。…アリウスによるナギサ暗殺は阻止できた。その目的を果たせた今、もはや何を隠す必要もない。聞かれたことにはすべて嘘偽りなく答えた。
そしてそれから、私は自身の処遇が決まるまで、正義実現委員会の詰め所で謹慎となった。
…はずなんだけど。
私は今…補習授業部の仲間と一緒に、トリニティの本校舎を歩いていた。先導するのは先生。正義実現委員会には、どうしても連れていかなければならない場所があるから…と許可をもらったらしい。私にはなんのことだかさっぱりわからず、ヒフミやハナコに聞いても急な話だったのでわからないという。正義実現委員の見張りも、先生の頼みでコハルとハナコがその役目を引き継ぐ形になっているらしい。
人影はまばらな時間帯らしく、廊下はしんと静まり返っている。…そんな中、先生が足を止めたのは、
「…保健室?」
「あの…先生、どうしてここに?」
「…先に謝っておくね。みんなごめん。僕はみんなにひとつ、嘘をついたんだ」
「嘘…?」
「お待ちしていました、先生」
「ごめん、セリナ。こんなことに巻き込んでしまって」
「構いませんよ、私はいつでも、困っている人の味方ですから。こちらです」
セリナ、と呼ばれた生徒に案内されて、私たちは保健室の奥の方へ進んでいった。
そうしてたどり着いたのは、保健室の一番奥のベッド。セリナが「失礼します、面会のお客様ですよ」と声をかけ、カーテンをさっと開く。
「っ…!?」
「あ…みんな」
ベッドの上には…ハリカが、上体を起こしてそこにいた。
「先生から聞いたよ。特別学力試験、合格おめでとう。一緒に行ってあげられなくてごめん」
「い、いや…えっ?」
頭を下げるハリカに、私は何も言えなかった。だって、ハリカは先にシャーレに戻った、と先生は言っていた…それなのに。
「は、ハリカちゃん…?どうしてここに?」
「いやぁ…その、ちょっと無理が祟って倒れちゃって…ねぇ先生」
「ハリカは…本当は、あの戦闘中、急に行方をくらましてたんだ」
「あ、あれ!?先生!?」
激しく動揺するハリカ…どうやらごまかすための嘘をついたらしい。けど、"行方をくらました"ってことは…
「先生にも、何も言わずに…ってこと?」
「せ、先生…ここは適当に誤魔化すところじゃ…!?」
「あんまりそういうことはっきりと言わないほうがいいよハリカ…無言でいなくなられたこっちの身にもなってほしい、と言ったところかな」
「ね、根に持つタイプ…」
「こればかりは根に持たないほうがおかしい案件に思えますけどね?…つまり、先生が私たちについた嘘というのは『ハリカちゃんがシャーレに戻った』ことで……学力試験に挑む私たちに、無用な負担をかけないための配慮だったんですね」
瞬時に理解したらしいハナコがそう言えば、先生は無言でうなずいた。…まさか、私たちが試験に臨んでいる裏で、そんなことが。
「
「あ、謝らなくても…!」
「ハリカちゃん、もう大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ、ちょっと
「錯乱…っていうだけでも、大丈夫ではないような…」
「ん~まあ、そう…なんだけどね?」
表情が晴れないヒフミに困り顔のハリカ…確かに、
「ハリカ…どうして、急にいなくなった?」
「あ、アズサちゃん!?いいんですか、踏み込んじゃって…!」
「まあ、そうなるよね…」
不気味に思えて…気になったことが、口を衝いて出てしまった。ヒフミに驚かれてとっさに口をつぐんだけど、対するハリカは…はは、と苦笑する程度で、意外にも平然としているようだった。…ただ、思案顔のまま、あとの言葉は続かない。
「あっあの、ハリカちゃん…言いにくいことだったら、無理しなくても」
「いや、大丈夫。もう落ち着いてるのは本当。なんだけど…説明しようとすると…」
うーん…と首をかしげるハリカ。…いや、それはそれで言いにくいことじゃ。方向性は違うのかもしれないけど…そう思ったところで、ハリカが顔を上げてふぅ、と息をついた。
「…まあ、みんなにならもういいかな」
「へ?もういい、って」
独り言のようにつぶやくと、ハリカはおもむろに自らの後頭部へ手を伸ばして…
「……っ!?」
…その手の動きに従って、その頭から
「「え…えぇぇぇぇぇっ!!?」」
「…つまり、そのヘイローは
「そう。まあ先生とは違って、迷い込んできたみたいなものなんだけど」
…それが、ハリカがずっと抱えていた"秘密"らしい。
クリップ型の髪留め*1はミレニアムサイエンススクールという場所で作ってもらったものだという。この名前にはヒフミとハナコが驚いていた。曰く、かなり卓越した技術力を持つ学校らしい。
わざわざこんなものを装備したのは、シャーレの任務に支障を来さないよう溶け込むため…先生とは違い、被弾などのダメージについては「体質的にほぼ問題ない」のだという。
「髪留めからホログラムを…こんなに小さな投影装置を作れるのは、さすがはミレニアム…といったところでしょうか…」
「そうだね…というか、ちょっと言いにくいんだけど…ヒフミちゃん」
「へっ?な、何でしょう…?」
…言いにくそうに声を落としたハリカは、複雑な表情で…ふい、と手に持ったままの髪留めに視線を落として。
「…ヒフミちゃんと初対面の頃は、この髪留めはまだなかったよ」
「…え?そ、そうなんですか!?」
…そういえば、ヒフミは私たちより前に面識があるんだった。詳しい経緯は聞いていないけれど。いわく髪留めはシャーレに来てひと月ほど経った頃に入手したものらしい。ヒフミとの初対面はそのひと月の間のことのようだ。
「うん…まあちょっとゴタゴタしてたし、仕方ないけどね」
「あぅ…」
「あら。ヘイローに気づかないくらい、夢中になるようなことが?」
「いやまあ、夢中というか…っていうか驚かないんだね、ハナコちゃん」
「あら、そう見えますか?」
「まあ…ハナコちゃん、図太いけど表情は豊かだし。驚いたときはちゃんと顔に出るだろうから」
「あらあら…ふふ♡そうですね。正直なところ、予想はしていたので」
「え!?」
「はあ!?ど、どういうことよ!?」
「ハナコ…知ってたのか?」
問いかけるも、ハナコはふふっと笑うのみ。…こういうところでミカを出し抜いたんだろうな。先生は少し驚いた顔で、ハリカは苦笑いを浮かべている。
「ええと…私そんなに分かりやすかったかな」
「あくまで予想ですよ?違和感から立てた、ただの仮説でした」
「違和感?」
「ハリカちゃんが今も着ている、真っ白な制服です」
制服?…そういえば、ハリカは普段通りの真っ白な制服のままだった。よれたりもしていないし、着替えたばかりなんだろうか。…私も思うところがなかった訳じゃないけど、ハナコはこの制服からどう考えたんだろう。
「これ…って、連邦生徒会のじゃないんですか?」
「そ、そうよ!あそこの制服って、確かこんな感じだったし…」
「私も当初はそう思いましたが…連邦生徒会の制服なら、どこかに「連邦生徒会」の五文字が書いてあるはずなんです。私たちの制服に、トリニティの校章がついているように」
「…!」
「そ、そういえば…全然、気づきませんでした…!」
「ふふ、まあ仕方ないとは思いますよ?なにしろ先生とお揃いの青いネクタイは視覚的にインパクトが強いですから、うまくカモフラージュになっているようですし」
…なるほど、ヒフミとコハルはそう思っていたのか。私は連邦生徒会の制服に馴染みがないから、違うことを考えていたんだけど…
「でも、ハナコ。ハリカの制服には、左胸に校章らしいものがあるけど…よその学校じゃないのか?」
「そうですね。「連邦生徒会」の文字こそないものの、別の校章らしきものがあります。聞くところによれば、連邦捜査部『シャーレ』は「キヴォトスに存在する全学園の生徒を制限なく加入させられる超法規的機関」とのことですから、もちろんその可能性もありました。ただ…その校章が
「あー…うん。さすがに安直すぎちゃったよね、これは」
「それにハリカちゃんは連日のように私たちのもとを訪れ、最終的には合宿に本格的に参加、までできていましたから…ここまでいくとさすがに、他校の生徒というよりはシャーレ専属であると考えるほうが自然でしょう?」
「確かに、それはそうか…」
「ハリカは真面目だからね…」
改めて考えると…いくら学習にはBDを用いるのが主流とはいえ、ハリカはシャーレとしての仕事もこなす傍らで、あまりにも私たちに付きっきりだったように思う。他人に教えることの学習効果についてよく口にしていたから、それで問題ないのかと思っていたけど…。
「ほんとハナコちゃんには敵わないや…」
「ふふ♡それで…話が逸れてしまいましたね。本題に戻りましょうか…つまり、あのとき体育館からいなくなったのは、ハリカちゃんがキヴォトスの外部から来たことと関係がある、ということでいいですか?」
「まあ、うん…今思えば本当にくだらない理由だよ。笑ってくれてもいいくらい」
…初めて見る自虐的な笑みを浮かべて、ハリカはぽつりぽつりと話し出した。
「…前の。ここに来る前にさ…
「もちろん別人だよ?フルネームは
「…でも、あの場では話が別だった。私、ずっとシャーレに所属してるけど、実はここの生徒会…ティーパーティーにはほとんど関わったことがなくて。だからあの場で初めて聞いたんだ。ミカさんの声……
「それが、みんなを消し飛ばすとか、ゲヘナを消し去るとか、アズサちゃんを生け贄に、とか…不思議だよね。人間、視覚で得る情報のほうが強いはずなのに、駄目だった。立ち位置が遠かったからかな」
「…今はもう、なんの関係もない別人だってはっきり割り切れてるから、こうして話せてる。だから、もっと早くに面と向かって話す機会があったら…ショックは受けただろうけど、みんなと同じくらいで済んだ。それだけの話だよ」
「まあもう回復はしてるし、ちょっと検査受けたらまた通常業務に戻るよ」
「ハリカちゃん…大丈夫なんですか?」
「大丈夫大丈夫。先生ほど不摂生じゃないし」
「先生…?」
「流れ弾が飛んできた…」
…思わず、全員で先生のほうを見た。それで少し離れた位置にいるセリナにも気がついた…微笑んでるけど目が笑ってない。
けれど、「それに…」と続いた声に視線を戻せば、セリナと似たような顔をしたハリカと不意に目が合って、心臓が跳ねた。すぐに目線は外れたから、たぶんたまたまだと思う、けど…。
「…キヴォトスに来たときのことは覚えてないけど。来たとき…いや、来る前かな。そこからずっと抱え込んでるものだから、もう慣れっこだよ。むしろ、今はこれに支えてもらってるとこがあるから」
「えっと…何の話ですか?」
「んー…まあ、なんというか……友達は大事にね、って話かな」
「えっ、えっと…?」
「な、何急に…わかんない…」
「…っ」
「うん、ごめんねこんな湿っぽい雰囲気にしちゃって…窓開けよっか!それと私の話はこれくらいにしてさ、みんなの話聞かせてよ。ね?」
…突然、ハリカは煙のように掴みどころがなくなった。はぐらかされたと言うのか…これ以上は駄目だ、という線を突きつけられたように思えた。
先生が窓を開ける傍らでハナコが話し始めて*2、ヒフミ*3とコハル*4が慌てて口を挟んで。そうしてさっきまでの暗い雰囲気はあっという間に流れていったけれど……「友達は大事にね」、と言ったハリカの悲しげな目が、妙に印象に残った。
・アズサ
謹慎中から突然連れ出され、保健室で予想外の再会をする
ハリカの言葉が今後に関わるかはまだわからない
・ハナコ
何も知らされてなかったけど瞬時に察した
推理パートに力が入ってしまった…反省はしないが()
・ヒフミ
何も知らされてなかったので困惑しきり
ハリカの頭上については気づいてなかった。チンピラから逃げたり紙袋被ったりしてたからね仕方ないね
・コハル
何も知らされてなかったので困惑しきり。というかセリフを挟むタイミングがあまり作れなかった。ごめん
・セリナ
救護騎士団に所属する白衣の天使。ストーカー疑惑でお馴染み
ハリカが外の人であることを先生とハスミから明かされた
・先生
何も知らせなかった人。さすがにハリカについて他の人から明かしすぎなので今回は本人に任せたところもある
いなくなった理由については先に、ハリカを落ち着かせながら聞いてた
・ハリカ
落ち着いたところを引き合わされた
取り繕ってはいるが未だに前の世界を引きずっている
ずっと考えてたこのエピソードをようやく書くことができて達成感がすごいですがEp.3はまだ続きます。(ノンブレス)
本当はTwitterの「言いにくいことをいう日」にあやかって昨日出すつもりでいたんだけどな…
・水歌
ハリカの友人で同じ四高生徒。無邪気で活発なムードメーカー。得意魔法は加重系
「玻璃花ちゃん?じゃあ~…ハリーって呼ぼっかな!私は伊縫水歌!気軽にみかみーって呼んでね!」
「いや…いきなりそれはさすがにハードル高すぎません…?」
「そんな固いこと言わないでさ~ほらよく言うじゃん、"振り袖合うも多生の縁"って!」
「…"袖振り合うも"、では?」
「あれ、そうだっけ?」