鈍色の銃は射抜かない   作:諸喰梟夜

47 / 60

お待たせしております。終盤にだいぶ手間取っております。後編はもうちょっと待って
それにしても言うほど鈍色の銃出せてねぇ今日この頃……



ポストモーテム(前)

 

【ハリカ】

 

 

 整然と並ぶ石畳。見上げれば雲ひとつない青空…あ、ハトが横切っていった。…デジャブだ。

 …学園のトップの一人が別の一人を消そうとクーデターを起こし、激戦の末に鎮圧された。そんな出来事がついこの間あったというのに、相も変わらずトリニティ自治区は長閑(のどか)だった。

 

「…いや、私の感覚が狂ってきただけかも。確実に染まりつつある……どうせ帰れはしないしいいか…」

 …あ、どうも。稲梓ハリカです。この前は大変お騒がせしました。本当に思い返せばお恥ずかしい限りでしばらく自主謹慎しようかとも考えましたが、どうせなら仕事で発散することに決めました。人手不足を引き起こしたところでメリットないし、事情を知らないみんなの優しさがもう温かいのなんの…

 …まあ、さておき。皆様きっとお察しの通り、私はトリニティに舞い戻ってきた。…この広大なキヴォトスにおいて騒動はもはや日常茶飯事だけど、今回のティーパーティーの件はキヴォトス基準でもかなり大きな騒動だったようで、補習授業部の活動が終了しても先生はなかなかトリニティから離れられずにいる。そんなわけで、私のおつかいtoトリニティも継続しているというわけだ。

 ただし、前までと違って今回の目的地はトリニティ本館側。校門をくぐれば広大な敷地…確実に四高より広いよなこれ。下手をすれば(?)あの浜名湖に匹敵する可能性もある…地図必携が過ぎるな……

 

 

 

「ここかぁ…すっごい立派」

 はてさて辿り着いた目的地はこちら、トリニティ大聖堂。…こういうところに立ち入るのは人生初だな。海外旅行はしたことがないし、言うほど信心深いわけでもないから…魔法はある意味信仰してると言えるかも、だけど。

 入ってすぐの広々とした空間…たしか身廊というんだったか…を通り*1、途中で左に折れた先、両開きの扉の前で足を止めた。

 

「失礼します。シャーレより参りました、稲梓ハリカです…先生がここにいると聞きまして」

「ああ、来ましたか…お久しぶりです、ハリカさん。…先生?」

 踏み込んだ部屋の中は…会議室と書いてあったから大きな机をイメージしたけど、丸いテーブルを椅子が囲んでいたり革張りのソファもあったりして、意外にもシャーレカフェに近い状態だった。壁は本棚に覆われていて…なんか、図書館の一室って言われても信じてしまう感じ。

 そして、その中のひとつのテーブルに3人が集まっていた。銀髪のシスターは歌住(うたずみ)サクラコさん。シスターフッドの代表をしている人で、以前…あの水着パーティ前後くらいの時期に地域ボランティアの手伝いに行ったことがあって、そこで知り合っていた。その後ろにはこちらも久々のマリーちゃんが付き従っていて、テーブルには先生が…突っ伏していた。あ、起きた。

「ぅ…あぁ、ごめん。ちょっと寝てた……何か、夢を見たような…」

「お忙しいのは存じておりますが、もう少し集中していただけますと」

「ごめん…」

「確かにここしばらくずっと、後始末といいますか…色々奔走されていると聞きました。あなたの管轄外のことまで」

「力不足でね…やりきれなかったこととか、たくさんあって」

 私としては、先生は日頃から十分すぎるくらい働いてると思うんだけど本人にとってはまだまだらしい。どうしようもないくらい勤勉で、献身的というか、博愛的というか…私は仕事を増やしてしまった立場なので何も言えない。

 

「そうでしたか…立て続けに色々なことがありましたし、今一度、少し整理しておきましょうか」

「うん…ハリカはどうする?」

「なら、私も同席します。把握できてないことが多いし、ここまで関わった以上知らぬふりは無理なので」

「分かりました…退屈なお話になるでしょう。少なくとも面白くはないことだと思いますが…整理することで、先に進めるようになることもあります。『ポストモーテム』と呼ばれるものです」

 まあいつも言ってる通り、乗りかかった船ってやつね。…中途で放り出せない私も、なんだかんだ言って献身的か。

 …しかし、ポストモーテム(postmortem)。死後の、みたいな意味合い*2になると思うんだけど、容赦ないな…。

 

 

 サクラコさんの話によると、セイアさんが襲撃されたのは丑三つ時、深夜3時頃。そこへ誰よりも早く現着したのが救護騎士団の団長、蒼森(あおもり)ミネさんだった。…救護騎士団、セリナちゃんにはお世話になったけど他の人は知らないな…

 まあさておき。現場の状況を確認したミネさんは、セイアさんの身を守るためにティーパーティーに「セイアさんはヘイローを破壊された」という()()報告を済ませると、同じ救護騎士団の仲間にも黙って行方をくらましたのだとか。

「ずいぶん思いきったことをしたね…」

「ティーパーティーのメンバーが襲撃されるという異常事態ですから、誰を信じるべきかと考える前にまず自分で…と、そう考えたのではないでしょうか」

「やれる自信があってこそですね…」

「ええ…実際のところ犯人が、本来であれば情報が集約されるティーパーティーのミカさんであったことを考えると、彼女の判断は結果的には正しかったと言えますが……しかしまだ、セイアさんは目覚めていません」

「あれ…そうなんだ」

「傷は癒えたものの、ずっと眠り続けている状態で…ミネ団長にも原因はわからないそうです」

 そっちはまだ落ち着ける状況ではないのか…。そんなわけで、セイアさんとミネさんは今もまだ潜伏を続けているらしい。

 それにしても…派閥ごとに独立した情報網を持っていて、今回はシスターフッドが他を出し抜く形になったそうなんだけど……ややこしいなぁ()()()()()()()って…。物理的に治安が悪いゲヘナに対して、こっちはどうも頭脳戦的な意味で治安が悪いらしい。

 四高には一科二科もなければ変な派閥とかもあんまりなかったから、私にはよくわかんないや…頭脳戦は天才が恋をしてポンコツになるやつくらいで充分です。何がとは言わないけど。

 そんなことを考えていれば、背後の扉がノックされる音がして。

 

「…あ、ハナコちゃん」

「あら、ハリカちゃんもいらしたんですね。あまり面白くもないサクラコさんに捕まって苦しんでいるのではないかと思い、先生を助けに来ちゃいました♡」

 扉を開けて入ってきたのは…なにやらちょっとご機嫌そうなハナコちゃんだった。…面白くもないと言われたサクラコさんは渋面をつくってるけど、先生がちょっと嬉しそうなので何も言えないな…。

「…冗談を言うタイミングではありませんよ、ハナコさん」

「サクラコさんは相変わらずですねぇ…今度一緒に、過激な本でも読みませんか♡サクラコさんはそういった方面に免疫がなさそうですし…うふふ♡」

「…ハナコさん。あの時の約束、忘れていませんよね?」

 なにやら婉然と微笑むハナコちゃんを、サクラコさんはとりあえず(かわ)すことにしたらしい……()()?って、何だろう…

「もちろんですよ?……『登校時の服装は裸のみを認める』。そんな校則を作り、トリニティを『裸の楽園』へと変える計画に手を貸してほしい…そういうことでしたよね?」

 、

「ええ、そう…はい??」

「まさか、シスターフッドがこんな()を企んでいただなんて…さすがサクラコさん、謎に包まれた秘密主義集団の長ですね♡それに、あの例外に関する条項…『シスターフッドのみ、登校時にベールの着用を認める』…流石の私も驚きましたよ?裸にベールだなんて…なんという新しい世界♡」

「は、はいぃ!?

 …ハッ完全に思考止まってた…これあれだ、いつものやつだ。シリアス*3が挟まったから完全に忘れてた…。眼前では相変わらず、口を挟む間もない熱弁*4に修道服の二人が激しく動転していらっしゃる光景が展開されていた。

「さ、ささサクラコ様!?そ、そんな計画を!?

違いますよ!?

「そんな…」

そんな、ではありません!いきなり何を言っているのですかあなたは!?『私たちがハナコさんの頼みを聞く代わりに、ハナコさんも私たちからの頼みをひとつ聞く』、そういう約束でしょう!?」

「あぁ、そんなお話もありましたね」

 そんなお話しかなかったのでは?

 

 

「今回の事件を契機として、私たちのこれまでの無干渉主義も変わっていきます。政治的なことにも徐々に関わっていくことになるでしょう…その過程で、きっと色々なことがあります。そんなとき、ハナコさんのような方から助けてもらえるというのは、大きなキーになり得ます。あくまでそういうお話ですよ」

 サクラコさんが若干ムッとした顔で説明したところによると、とてもまともな約束だった。いやまあ当たり前だと思うけど。

「まあ、その程度なら構わないのですが…はぁ……」

「どうしてそう残念そうな表情をするのですか…いえ、もう話をそちらに戻さないでほしいのですが……無理矢理に、という手段は取りません。どちらにせよハナコさんには「手伝っていただく」という形ですし、無茶な要求をするつもりもありませんから」

 まあ確かに、ハナコちゃん優秀そのものだもんな…それでいてちやほやされるのは苦手らしいけど、そのあたりも(しん)(しゃく)した対応になっている。

 どうやらマリーちゃんがサクラコさんに掛け合ったようだけど…ここの関係はなんなんだろうな。マリーちゃん相手だとハナコちゃんすっごいまともだし。

 

「話が逸れましたね…本題に戻りましょうか。えっと…」

全裸登校についてのお話でしたね♡」

「はい、その話…ではありません!戻さないでと言ったでしょう!?

「あら…仕方ありませんね。()()()()()()()()()()()、その話に戻りましょうか。実行犯はご存じの通り、アズサちゃんだったようです」

 …すさまじい急ハンドルで話が戻った。まあさておき……実は、アズサちゃんがセイアさんの部屋に侵入したのは午前2時頃だったらしい。部屋が爆破されるまで1時間ある。その間のことは…ハナコちゃんがアズサちゃんの取り調べに同席して*5、大まかにだけど聞いていたという。あと、アズサちゃん周辺の指揮系統*6についても。

 

「つまり…アズサちゃんはアリウスを騙しきるために、セイアさんの協力のもと隠蔽工作を行った、ってことか…」

「そうですね…とにかく、白洲アズサさん…彼女がトリニティに転校してきて、そして実際にナギサさんを守り抜いた。その事は明白です。その過程で様々なことがあったとはいえ、特別学力試験も合格。補習授業部は彼女を含めて全員、明確な結果を残しています。…もはや文句のつけようなどないでしょう。彼女の書類は、私が()()()()()にしておきます。シスターフッドが保証します。誰にも異議申し立てなどさせません」

「…ありがとうございます、サクラコさん!」

 あっそっか、そういえばアズサちゃん、「書類上の身分を偽って」って言ってたな。これからどうするんだろう、シャーレで引き受けるって手もあるけど、とは考えてたけど……そっか、受け入れてもらえるんだ。しかも確固たる後ろ盾まで……よかった。これでひと安心かぁ…。

「本当にありがとう」

「これで白洲アズサさんは、正式にトリニティの生徒となりました。…まだ問題は山積みですし、特にアリウスのことは何も解決できていませんが…取り急ぎ、目の前の問題だけは落ち着いたと言えるかもしれませんね…。お疲れさまでした。ハナコさん。そして先生、ハリカさんも」

 

 

 

 

 

*1
神社の参道と違うのはわかってるんだけどなんとなく端を歩いてしまう…

*2
①検死 ②事後の分析・検討

*3
激戦その他

*4
(意味深)

*5
!?

*6
『アリウススクワッド』という精鋭部隊の直属、というか一員であったらしい





・ハリカ
ベッドを下りて即動き出す社畜精神…
シャーレのみんなに怒られたり心配されたり安堵されたりしてから来た。次回は…もっとちゃんと喋る……かな………。

・先生
寝落ちして夢を見ていた
次回はかなり喋る

・サクラコ
ちゃんと出るのは初。台詞だけなら4話前
はじめましての遣り取りが面倒になったので(正直)、面識に在ってもらうことにした
ハナコに遊ばれるかわいそうな先輩

・マリー
部長の付き人
ほぼ居るだけ…と思いきや、ハナコに深く関係する人物
ここの関係ほんとに何なんだろうな…

・ハナコ
帰ってきた通常運転
あまりにもこういう発言のインパクトが強すぎて、ぬるっとポストモーテムに参加してることに違和感を抱けないと話題に

・ミネ
3話前に名前が出た救護騎士団長。全面的につよい

・アズサ
本人は謹慎中。確固たる身の上を手に入れた


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。