鈍色の銃は射抜かない   作:諸喰梟夜

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当初考えてた流れを忘れて組み直すなどした
メモしとくって大事だよね…



ポストモーテム(後)

 

【ハリカ】

 

 さて。所用があると出ていったサクラコさんとマリーちゃん*1を見送って。

「ふぅ…アズサちゃんの書類については、これでなんとかなりましたね」

「お疲れ様、ハナコ」

「はい。先生もお疲れさまです。…ですがまだ、色々残っていますね。…ナギサさんのことも、ミカさんのことも」

 

 …「あ、そういえば」とハナコちゃんが語り出したことによると、ヒフミちゃんがナギサさんと対面したらしく、(やつ)れた様子で真剣に謝罪されたらしい。…あと、どうもハナコちゃんのアレ*2がしっかりとトラウマになってる様子だった。おいたわしや…。

「うーん…誤解はもう解いたのですが……少し、やり過ぎてしまったみたいですね…それにナギサさんは、どうやら他の方にも謝罪して回っているようです…私も謝られました。酷いことをしてしまったと」

「あぁ…実を言うと、私のところにも来たんだよね…」

 …セリナちゃんが驚いてた。学園のトップであるナギサさんがわざわざ保健室まで出向いてきたこととか、私に頭を下げたこととか。私も私で困惑を隠せなかったけども。

 …確かに補習授業部に茨の道を用意するばかりか、危うく回答用紙と一緒に先生まで紛失するところだった事案で私から見たナギサさんの心証は最低値*3を記録したけど………あの夜のハナコちゃんの精神攻撃*4からのアズサちゃんの物理攻撃*5はすさまじかったし、何よりあのときの顔色ほぼそのまんまなのを見たら、もう憤りも覚えなかった。

 というか、そもそも私はそんな激情家じゃないし。知ってる?怒り続けるのにはスタミナが要るんだよ。今回はただでさえ主に精神疲労で倒れたんだから、そんなの保つわけがなかった。

 

「…疑心暗鬼の闇からは、()け出せつつあると思います。ただその代わりではありませんが、ナギサさんは…」

「…精神的に参ってしまった、と」

 …まあ、なんというか。あえて突き放して言うなら「高い授業料だった」ってやつだろう。

 とは思うものの、そもそも学園のトップ、それどころかこの世界(キヴォトス)の学校は自治区の中心でもある。トリニティはこれからがんがん荒れるだろうな…というか、ここまで来たときの平穏もおそらくは表面上だけのものだろうと思う。

 

「それに、もちろんミカも」

「ミカさん…」

 …うん、大丈夫。今はもう平静にその名前を聞ける。だから、少し不安そうな顔をしたハナコちゃんにひらひらと軽く手を振っておく。一瞬後には、ハナコちゃんはもう先生のほうを向いていた。

「先生は…ミカさんの動機について、どう思いますか?」

「…"心の底からゲヘナが嫌い"とは、言っていたけれど」

「…ナギサさんとミカさん。親しさというものは外から判断できるものではありませんが、お二人は長い時間を共に過ごした幼馴染みです」

「へ?そうなんだ」

 なんか意外…かな。同じ場所に同時にいる様子を見たことはまだないけど、あの似ても似つかない二人が……いやまあ、似ても似つかないのは私と(ツグミ)も同じか。

「はい。…真面目すぎるほどに真面目で、慎重に慎重を重ねるタイプのナギサさんと、活動的でアクティブなミカさん。性格はほとんど真逆で、端から見ても安易には仲良しと断定できないお二人でしたが……"ゲヘナが嫌い"という理由だけであの事件を起こしたとは、到底…」

「まあ…確かに。ずいぶん飛躍してるように思える」

「はい、それで…実はこの前、シスターフッドの手を借りて、ミカさんに会いに行ったんです」

 …ハナコちゃん、意外と動き回ってるんだな…と思いつつ、ハナコちゃんの報告に耳を傾ける。

 

 

 

 トリニティ総合学園の監獄*6に入れられていたミカさんのところには先客…ナギサさんがいたという。ナギサさんはじめのうちはアリウスについて話していたけれど、歯切れ悪い様子をからかわれ、「結果的にこれでよかったんじゃない?」なんて言われたことで本音が爆発した。…ティーパーティーの一角が失われ、()()()()()()()と思った。だからその前に、あるいは自分が殺されてミカさん一人になってしまう前に、犯人を見つけ出そうと躍起になっていた。……ナギサさん、どうも幼馴染みであるミカさんのことは一切疑っていなかったらしい。

『…どうして…私は……』

『"私はあれだけ長い間一緒にいたのに、気づけなかったのか"?そんなの私よりも、ナギちゃんの方がよくわかってるでしょ?…"私たちは他人だから"、ね。分かるわけないじゃん』

 そんなナギサさんに対し、ミカさんは…半ば何もかも諦めたような雰囲気で、ナギサさんを(なだ)めていたという。

 

 それでナギサさんが去ったあと、ハナコちゃんは…ミカさんの行動についての自身の推測を、思いきって本人にぶつけてみたらしい*7

 その推測は、曰く…初めはミカさんがティーパーティーのホストになる計画で、セイアさんは幽閉するくらいでよかった。でもそこで殺る気満々だったアリウスと食い違いがあって、さらにセイアさんが自身の死亡を偽装したことで計画が狂い出して…そしてあの体育館で、ミカさんは黒幕として名乗り出た。…確かに、考えてみれば隠れているから黒幕なのに。その理由は…

『ミカさんは、"アリウスがナギサさんを殺すのが()()()()"。そうではありませんか?』

―――だから、ナギちゃんを返してくれる?大丈夫、痛いことはしないよ?まあ、残りの学園生活は全部檻の中だろうけど。

 …私はとっくに去っていた頃だけど、ミカさんがナギサさんについて直接した発言。前に並んでいた残酷な言葉についつい引っ張られてしまうけれど…確かに、()()()()()とも受け取れる。そして、"セイアさんが無事"と聞いてすぐに投降したことからも…

 

『…全然違うよ、私は裏切り者。友達も仲間も売り飛ばした、邪悪で腹黒な人殺し…その事実から目を背ける気はないよ。こんな私、嫌われたって仕方ない』

 ただ、ミカさんにはそう否定された…むしろ拒絶と言うべき様子だったとのこと。そしてセイアさんの様子を聞かれたけど、目を覚まさないことは伝えずにハナコちゃんは帰ったらしい。…まあ、そのタイミングで話すのはさすがに残酷か。…誰にも言わないといっておきながら、今私たちに話していることはツッコまないでおくけども。

 

 

 

「まあそうは言いつつ、こうしてお二人には全部伝えてしまったわけですが♡」

「やっぱりツッコミ待ちだった??」

「うふふ♡…少しだけ、ミカさんには意地悪をしようと思ったのですけれど…なんだか最後のほうは本当に、嫌がらせになってしまった感じもありました。…頭に血が昇ってしまったようです。今度謝らないと…」

 反省ですね、としおらしくなるハナコちゃん*8は、けれどすぐに顔を上げた。

「ですが今のところ、顛末はこういった形になるしかなさそうです。…ゲヘナを嫌いだったミカさんが、ホストになるためにティーパーティー襲撃を企てた。指示を出したのは聖園ミカさん、実行したのはアリウススクワッド。そして最終的に、セイアちゃんがいた部屋を爆破したのは白洲アズサちゃん。各々違う目的があり、その行動の結果が次から次へと連鎖し、誤解と不信が絡まり合い、今ここにたどり着いた……これが結論、なのでしょうか」

 …まあ、そうなるかなぁ…。まだ何か隠されてることがあるようにも思えるし、ハナコちゃんも自信がなさそうだけど、今ここで得た情報のほうが多い私は口を(つぐ)む。…そしたら、「…たとえば」と先生が口を開いた。

 

「…たとえばミカも、最初はただセイアに意地悪したかっただけ…とか?」

「…先生?それは…いくら仮定の話としても、かなり極端な想定になると思いますよ?一応考えてみますけど……実際のところはさておき、端から見るとミカさんは『政治に向かない』と言われるくらい、あまり計算などせずに行動するタイプです。セイアちゃんとは、馬が合わないでしょうね…ですがそこに意地悪をしようとしてアリウスを、となるとさすがに無茶と言いますか、恣意的過ぎる形になってしまうと思いますが…」

「あるいは本当に、ミカはアリウスと仲直りするのが目的だったとか」

「……仲直りが真の目的で、その意図を利用された…?ゲヘナに対する憎悪を煽られる方で………いえ、先生が仰りたいのは…"私たちにはミカさんの本心を察することなどできない"…そういうことですか?」

「『楽園に辿り着きし者の真実を、証明することはできるのか』…そういうことだよね」

 5つ目の、とハナコちゃんが呟く。それはいつかアズサちゃんが唐突に話題にしていた、楽園証明のパラドックス。まさかこんなところで戻ってくるとは思わなかったけど…

 

「もし本当に"他人の本心"に辿り着いたのなら、それはもはや他人ではなく。辿り着けないのなら、やはり本心などわかっていないということで…楽園も、人の本心も一緒だと。そういうお話ですか?」

「…あぁ」

 なるほど、そういうアプローチ。間抜けにキョロキョロするばかりだったけど、ようやく二人の会話に追い付けた気がする。…あれだな、そう整理されると床屋のパラドックス*9も彷彿とさせられる。お仲間(パラドックス)どうし実に親和性が高い。

「確かに、そうかもしれませんね。私たちは誰かの心にじかに触れる方法も、それを本物だと証明する方法も持ち合わせていません。『誰かの本心を理解し(楽園に辿り着い)た』という言葉も、どうすれば本当と証明することができるのか……無いのでしょうか。他人の本心を理解する方法は…」

「…無さそう、ですね」

 

 …"()()()()()()()()()"。ミカさんがナギサさんに言っていたというその言葉は、一見浅いように見えるけれど正鵠(せいこく)を射ている。どんなに思い悩んだって、最終的にはそこに収束してしまう真理だと思う。

 私こういう哲学的なのに弱いから自信ないけど。頭がパンクしそうになる。『悲しみも怒りも全て因数分解してやるわ!』とは言うけどね、人心は論理や数学だけじゃどうにもならないもんだよ?…いやそんなこと今はどうでもいいんだわ。当人(ユウカ)もいないのに。

「無いんだろうね…。きっと、それはもう不可能な証明…だとすればもう、信じるしかないのかもしれない。そこには楽園がある、って」

 そんでもって、先生はこういうとこさらりと言い切るタイプだよね。ハナコちゃんがフリーズしてしまった。数秒で再起動したけど。

 

「…そう、ですね。考えてみれば、先生は最初からそうでしたね。この疑惑と疑念に満ちたお話の、一番初めからずっと…"先生は、生徒たちを疑わない"。そういうことですか?」

「そうだね」

「…例えその結果として、誰かに裏切られても?」

「その時はきっと、何か事情があるに違いないから」

「…」

「…わかるよ、強いよね先生って」

 とりあえず、困惑を隠しきれない様子のハナコちゃんにそう声をかけておく。ほんっとなんなんだろうねこの人…懐の広さが富士の裾野のそれ。誰のことも思いやって気にかけて、平等に事情を()み取って真摯に向き合って、献身的というか、博愛的というか…これさっきも言った気がするな。

「どうして先生は、そこまで」

「僕は大人で、先生だからね。みんなを信じたいんだ。みんなにはそんな夢物語、と思われてしまうかもしれないけれど」

 先生の優しい眼差しが中空を見やる。まだ見ぬ未来に想いを馳せるみたいに。

 

「…ナギサとミカがいつかまた、お互いに本音を打ち明けられる日が来てほしい。そのために、僕も…エデン条約が終わったらすぐ、会いに行くつもりでいるよ。ミカにも、ナギサにも」

「…そうですね。全てが片付いたらまた、みんなでもう一度…どうなるかは分からずとも、私たちはお互い手を伸ばして、努力していかなければなりません」

「そうだね。きっとそれが、私たちにできる唯一のことだから」

 …まだまだ問題は山積みで、下手をすれば重大な見落としもありそうな感じも否めないけど…確かに、あったらいいな。トリニティにも、アビドスみたいなハッピーエンドが。

 

 

「その前にハリカちゃん、少しいいですか?」

 その後、今日は解散…という雰囲気になったと思ったけど、ハナコちゃんはまだ話があるみたいで。

 

 

 

 

 

*1
なぜだかほとんど面識がないはずの私まで再会の約束をされた

*2
『あはは…えっと、それなりに楽しかったですよ。ナギサ様との()()()()()()

*3
温泉開発部と同列

*4
『あはは…えっと、そ(ry

*5
至近距離から5.56mm弾を一弾倉分

*6
パワーワード

*7
ちょっとミカさんがかわいそうになった。前後で相手のメンタリティの落差が凄い

*8
結構珍しい気がする。

*9
「自分の髭を剃らない人の髭を剃る」と掲げている床屋。では、彼の髭は誰が剃る?というやつ





・ハリカ
ただでさえ情報面では出遅れてたので頭パンクしそうだったけど意地で食らい付いた
幼馴染み、と聞いて瞬時に鶫が思い浮かぶタイプ

・ハナコ
戦闘では後方支援(SPECIAL枠)の割に行動的
容赦も遠慮もないなぁと思いました(小並感)

・先生
ひたむきに信じ続ける大人

・ナギサ
石橋を叩きすぎて壊した感があるティーパーティー(生徒会)ホスト()。実績『脳破壊』を所持
謝罪行脚を済ませてなお心的外傷は健在

・ミカ
監獄のお姫様。何もかも諦めたような雰囲気を纏う


ミトドケタ…(*´-`)古則の話になると難しくて難しくて
まあ一応まだあるんだけどね オリジナルは難航するいつものやつなので年明けになりそう


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