鈍色の銃は射抜かない   作:諸喰梟夜

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年明けになりそうと言ったな、間に合っちゃった^^



種明かし

 

 

 びしゃびしゃと叩きつける水の音。トリニティ総合学園の広大な庭園…その一角にある噴水に腰かけて、ハリカちゃんが待っていてくれました。

 本当はあの大聖堂の会議室で話してもよかったんですが、思うところがあったので日を改めて会う約束をしたのです。できればと提案した通り、隣には先生の姿。タブレットを開いて何か作業中のご様子……ご多忙でしょうに、ありがたいことです。一方のハリカちゃんは、そわそわと落ち着かない様子で指を絡ませていました。

 

「お二人ともすみません、お待たせしてしまったようですね」

「やあハナコ。大丈夫、僕らもさっき来たからね」

 声をかけると二人とも顔を上げて、先生は柔らかく微笑みました。やはりこの人はこういった対応が上手です。その一方で、ハリカちゃんは固い表情のまま。警戒しているような…それでいて、どこか覚悟が決まっているような。

「ハナコちゃん…さっそくで悪いけど、本題、聞いてもいいかな」

「あらあら、せっかちさんですね♡…少し、気になってしまったんです。ハリカちゃんの…保健室でも一切触れなかった、()()()()()()()()()が」

 

 

「…一応聞いてもいいかな。それがあるって、思った理由…」

 ふぅ…と細い息を吐いて、ハリカちゃんはうつむいたまま問いかけてきました。否定もしなければわかりやすい動揺もなし。…ある程度予想は立てていた感じでしょうか。やっぱりか、と心の声が聞こえてきそうです。…理由はもちろん話すつもりでいました。不思議でたまらないものですから。

 

「最初は、ハリカちゃんの制服ですよ」

「えっ…ま、また…?」

「はい。ただ、アプローチは異なりますが…これはアズサちゃんも(いぶか)しんでいたことですよ。ハリカちゃんの服装が、()()()()()()()()()だ、と」

 合宿中…ちょうど、ハリカちゃんが銃の種類に疎いという話をしていた日でしょうか。シャーレに帰っていくハリカちゃんを見送ったあと、アズサちゃんがふと口にしたんです。『そういえば、ハリカ自身は銃を持っていないのだろうか』と。確かにこの合宿の間、ハリカちゃんが銃を持っているのは見たことがありませんでした。…それどころか、そもそもあの装いのどこに携帯するんでしょうか?という話になったのです。

「それは…あぁ……うん…」

「ハリカちゃんの制服はアオザイのようなワンピースで、裾にスリットもありませんからね。ただ、ヒフミちゃんはハリカちゃんが銃を扱うところを見たことがあるそうです。その時は借り物の銃だと仰っていたとか…」

「うん…それは、間違いないよ」

「つまり、やはりハリカちゃんはふだん銃を持っていないということですね」

「そう、だね…正直、そこまで必要かなって…」

「第一に護身は大切ですからね。少なくとも、普段からあまり前線に出ることのない私でもこうして携帯していますよ?…まあ、それはまだいいんです。まだ。ハリカちゃんは常に先生の隣に立ち、補佐をする。だから武器は必要ないのだと、そう考えていました。……あの、第三次試験の日までは」

「えっ?えっと…私、何かまずいこと言ったっけ…?」

「言ってましたね。覚えてないんですか?…先生は体育館で待機していましたから、知らないでしょうけど…アズサちゃんと別行動を始めてすぐのことですよ?」

「えっ…と……?」

 

 きょとんとするハリカちゃん。どうやら本当に覚えていないようで…まったく、あのときとは大違いですね。

「…『万が一があったら時間稼ぎくらいはする。そのために来てるんだから』。こんなこと無意識に言えちゃうなんて、ズルいですよ?」

「っ………ぁ、言っ…た、かも…」

「思い出せましたか?あの日のハリカちゃんは、ずっと後方支援だと思っていた私からしてみれば明らかに異様な行動ばかりでした。…アリウスと相対したとき、ハリカちゃんはあっさりと先生から離れて、どこかに行ってしまいましたし」

 

 戦場でよそ見はご法度、ましてや相手は重武装した集団…ということで、わざわざ目で追うことはしませんでしたが…私や先生よりも後ろから飛ぶ弾丸に気づいたところで、私のハリカちゃんに対する見解は崩れてしまったのです。

 ハリカちゃんは戦える、それも恐らくは狙撃手(SR)の射程で。けれどハリカちゃんが武器を携行しているようには見えない…SRなんて大きなもの、果たしてこの素朴な制服姿に隠しきれるのでしょうか?

 気まずそうな顔でうつむくハリカちゃんの傍ら、私は再び記憶を手繰り寄せます。

「…思い返せば、ハリカちゃんがいる時にはよく不可解なことが起こりました。水着パーティーの時。私たちと同じくらいびしょびしょになったというのに、ハリカちゃんの制服はあっという間に乾いてましたね」

「あ、あぁ…」

「まあ、見たところ速乾性に優れたシルクのような生地ですし、さほど気にはしていなかったんですが…そういえば、脱衣所や洗濯機の近辺ではハリカちゃんを見なかったように思います」

「た…たまたまじゃないかな~なんて…」

「そうですか。では美食研究会と交戦した際、榴弾(グレネード)の軌道が急に逸れたのもたまたまですかね♡」

「ん゛んっ…ね、ねえハナコちゃん、記憶力よすぎない!?」

「不思議だったから鮮烈に覚えているだけですよ♡…しかし実のところ、これでもまだ序の口でしかありません。…ハリカちゃん。あの体育館からは、ミカさんに驚いて逃げ出してしまった、と言っていましたよね?」

「う、うん…」

「そうですか…不思議です。ミカさんと、アリウスと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…どうやって、外に出ることができたんですか?」

 

 …そう、これこそが最大の疑問でした。ヒフミちゃんたちは気づいていないようでしたが、あのとき既に前線にいたハリカちゃんが誰にも気づかれず外へ出ることなど、不可能と言って差し(つか)えないことなのです。

 あら、ハリカちゃんは頭を抱えてしまいました。ちらりと先生の方を見て…先生は首を横に振って。やはり先生が把握していることは間違いないようですね。

「うぅ…やっぱ隠し事苦手なんだな私…これで三人目なんだけど……」

「あら、先を越されていましたか」

「でもここまでサクサク詰められたのは初めてなんだよね…」

 …突拍子もない話だと思うけど。そんな前置きをして、ハリカちゃんは話し始めました。

 

 

 

 

 

【ハナコ⇒ハリカ】

 

「…『魔法』、ですか」

「まあ、ゲームとかであるやつほど神秘的じゃないけどね」

 …はい、やっぱりデジャブは信じるべきですね。稲梓ハリカです。ハナコちゃんに状況証拠で詰めに詰められてしまったので、"知ってる側"に仲間入りしてもらうことにしたところです。…なんですか先生、苦笑することですか。

 説明はやはりひとまずハスミさんとかアスナさんのときみたいな最低限のラインにとどめたけど、ハナコちゃんまじで才媛だからな…結構すぐにユウカのレベルまで自力でたどり着いてしまわれそう。

 それにしても、ミレニアムのゲーム開発部と関わったおかげでこの世界における『魔法』という言葉の理解を知ることができたのは結構ありがたかった。残念ながらわれらが『魔法』は無から有を生み出したり、別の物質に変えたりということまではできないんです。一般人視点からはエフェクトも無くて地味だし。おかげでこうして、悪目立ちすることもなく溶け込めてるんだけど。

 

「…ごめんねハナコちゃん、抱えるもの増やしちゃってさ」

「ふふ♡やっぱり、ハリカちゃんは優しいですね…構いませんよ。先生と私だけ、というわけでもないようですし」

「…気付いてた?」

「ええ、ハスミさんですよね?なんだか意味深なやり取りがありましたし、ハリカちゃんを迎えにここまで来たのもハスミさんだと聞きましたから」

「ここ…うん……なんとなく、そうじゃないかとは思ってたけど…」

 

 ここは…この噴水広場はあの日、行方をくらました私が保護された場所だ。あの日はミカさん関連で混乱したあと、迷惑にならないようにも一人になりたいと思って…そこからの記憶は(おぼろ)()だけど、辛うじて風景には見覚えがあった。

 …そういえば……

「あのさ…私、体育館の舞台袖のほうから出てさ…そのとき、アリウスを倒してった記憶があるんだけど…」

「舞台袖…ということは、体育館南西側に倒れていた小隊でしょうか」

「たぶんそれ…あの、その人たちって…」

「正義実現委員会によって、25名全員が捕縛されていますよ。倒れた当時の記憶は曖昧なようですが」

「そ、そっか…よかった、やり過ぎたかもって思って…」

 

 急に気掛かりになってきたけど、ひとまず無事ではあるみたいでほっとした。…いや、まだ懸念がきれいさっぱりなくなるわけではないけれど。

「やり過ぎ…あの場に倒れていたアリウス生全員が、被弾どころか銃を発砲した形跡すらもないそうで、大層不思議がられてしましたが…『魔法』を使った、ということですか?」

「うん…仕組み自体は単純。私は空気に干渉するのが得意だから…大気の組成を変えて、酸欠で昏倒させた。普段は全く使わないタイプの魔法だったけど…ガスマスクから、無意識に連想したんだと思う」

 右ポケットから特化型CADを取り出して見る。あら、魔法を使える銃があるんですね?という声に生返事を返しつつ…曖昧な記憶の中でも、この引き金を引く感覚ははっきりと覚えていた。

 使ったのは『窒息領域』。低酸素の空間を作る魔法。いくらみんなの身体の強度がおかしいとはいえさすがに呼吸の仕組みは同じだろうという考えのもとだった。それで実際、アリウスには覿面(てきめん)だったわけで…原作(魔法科)ではさらに酸素濃度の低い空気塊を動かす魔法『窒息乱流(ナイトロゲンストーム)』があったけど、私は仮想領域を扱うほうが得意なのでそこまで踏み込むのはやめておいた。かなり難しいし……まあ、そんなこと今は関係なくて。

 

「…怖いよね、そんなことが私にはできちゃうんだよ。アリウスの人たちにも、後遺症は残しちゃうかもしれない……私の魔法は普通の人には見えないし、見えたとしても」

「怖くなんてありませんよ」

 惰性で冗漫になる言葉を食い気味に遮られて、顔を上げたら柔和に微笑むハナコちゃんと目が合った。

「だって、ハリカちゃんですから」

「っ、」

「これまでハリカちゃんが魔法を使ったと思われるタイミングを思えば、ハリカちゃんはきっと、力の使い所を誤る人ではない…私には、そう思えますよ」

 ―――でも、ハリカはしないでしょ?悪用は。

 …そこでニコニコしてる先生からだいぶ前に言われたことが、まさかハナコちゃんに補強されて帰ってくるとは。ふふ、と勝手に笑いがこみ上げた。

「…今回は間違えたよ。黒幕から逃げちゃった」

「それは今は言わない約束ですよ♡…あまり抱え込まないでください。私が言うのもなんですけど、やはり適度なイキヌキは大事ですからね♡」

「うん…ハナコちゃん、今日の話は」

「秘密、ですよね?もちろんわかっていますよ。なんだかゾクゾクしちゃう響きですよね♡」

「ソ、ソウカナー…」

 

 …ともかくこうして、魔法について共有する仲間が増えることになった。先生含めて8人か…そろそろ過去形の「大っぴらにしたくな()()()」にする頃合いかもしれない…。ハナコちゃんと別れ、今日は救護騎士団のほうに用があるらしい先生とも別れ、予定が空いた私は…

「ミレ…いや、アビドスのほうが近いか…」

 …とりあえず心労をいたわるため、癒しを求めて駅を目指すことにした。

 

 

 

 

 





・ハリカ
詰められた。仲間が増えたよ!やったね()
『窒息領域』の危険性は理解しているので「…怖いよね」のくだりが出た。全員が倒れた時点で解除し(て、自身の吸気確保に回っ)ていたけれども、酸素欠乏症は想像以上にあっさり命を奪うので…

・ハナコ
詰めた。推理パート再来。個人的には思慮深い人視点のほうが書きやすくていい
しかし感情面はまだキャラを掴みかねてる。正直未だに「こんなこと言うかなぁ…」が抜けないところはある

・先生
ほぼ存在感がなくなってる保護者。せっかく出しといてすまない…。何かしら助け船出させるつもりだったけど大丈夫そうだった。優秀な部下…


次々と新作が押し寄せてくる様子に震える作者です
とりあえずEp.3はこれ(とあと恒例の閑話)で閉じるつもりです。閑話は難航気味なので今度こそ年明けになります。その後どうしようかな……悩み中。
先行して書いてた閑話の影響でけっこう難しい言葉を多用してしまった気がするze…


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