砂の都市にて
「ごめんくださーい!」
カタカタヘルメット団を退けたあと。校舎で話し合っていると、外からそんな声が聞こえた。窓の外を見ると、校門に女の子が一人。
「あれ?誰か来ましたよ」
「何?まさか残党?」
「いえ、そういった感じでは…」
「あの青いネクタイ…連邦生徒会ですかね?」
「あれ、ハリカ?」
耳慣れない名前を口にしたのは先生。外の女の子を見てきょとんとしている。
「およ?先生はご存じ?」
「ああ、諸事情でシャーレが保護してる子だよ。でもなんでこんなところに…おーい!」
先生が手を振ると、「今行きまーす!」と叫んだ女の子が校門から入ってきて、迎えにいくという先生に私たちもついていくことにした。
「連邦捜査部"シャーレ"から来ました、稲梓ハリカです」
そうハキハキと挨拶した彼女は私と同い年らしい。ノノミに詰め寄られて動転していたのはさておくとして。なんでも先生をサポートするように言われてここに来たんだとか。
「連邦生徒会直々に?」
「はい、というかワケあり同士一ヵ所にまとまってた方がいいってことでしょうけど。一応、端末にもメッセージは出してましたよ?」
「え?あぁ、ほんとだ…いや、ちょっとさっきまで立て込んでてさ」
端末を見た先生がごめんね、と頭をかく。どうやら彼女…ハリカからのメッセージは、さっきカタカタヘルメット団を相手取っている間に来ていたようだ。
「…ん?あれ、ハリカ早すぎない?迷わなかった?」
「迷いはしましたけどまあ…企業秘密ってことで。物資も多めに持っていった方がいいって言われたけど、こういうことなんですね」
「追加物資ってことかな。助かったよ~」
「そういうことでいいと思いますよ、どういたしまして。特に弾薬は私関係ないので…」
「?…どういうこと?」
「あー…私、外から来た迷子みたいでして。こういうものの扱いは不慣れで」
「…気になってたけど、ヘイローが見当たらないのはそういうことなのね」
セリカの言う通り、ハリカの頭には私たちにあるようなヘイローがない。私も気になってた。自衛には自信あるので安心してください、というハリカも交えて、再び話し合いに戻ることにした。
「…そうそう、ここでひとつ作戦を練ってきたんだよね~」
【シロコ⇒ハリカ】
アビドス対策委員会でヘルメット団とやらの前哨基地を壊滅させに行くらしい。
…こんなこといきなり言ってもわからないよねごめん。正直私もついていけてない。
来る途中に気づいたけど、ここアビドス自治区はほとんどゴーストタウン同然。それもあってかアビドス高等学校にも現在、全校生徒で5人しかいない。3年はのんびりした性格で一人称おじさんなホシノさん。2年は物静かで無表情なケモミミ(白)ことシロコちゃんと、おっとりとした性格で…同い年とは思えないモノをお持ちなノノミちゃん。1年はキリッとしてるケモミミ(黒)ことセリカちゃんと、しっかり者で一人だけメガネなアヤネちゃん。そしてこの5人全員が協力して、アビドスの廃校を食い止めようというのが"アビドス廃校対策委員会"とのこと。
一方のヘルメット団というのは、その名の通りヘルメットを被った武装集団。…ゲヘナで見たけどそんな安直なネーミングでいいんだあれ。それで、カタカタヘルメット団という派閥がここアビドス高等学校を繰り返し襲撃してきているらしく、物資が底をつきかけていたけど私たちの補給でなんとかなったので、向こうも油断しているだろう今のうちに…ということだそうだ。
「殺伐としてるわぁー…」
「それでは、引き続き戦術指揮をお願いします!」
「うん、任せて」
アヤネちゃんの言葉に、先生はためらいなく頷いた。戦術指揮ができる先生すごいな…話には聞いてたけどこうして見るのは初めてかもしれない。
…あ、私は二人と一緒に校舎で留守番。銃器は使えないってさっき言っちゃったし。こっちに万が一のことがあればその時は、くらいの気持ちではいる。
…さて結果から言うと、アビドス&先生は大勝利を納めた。なんというか…月並みなことを言うけど凄かった。ドローンカメラ越しに見る感じになったけど、ホシノさんはガンガン攻めていくし、セリカちゃんもうまく遮蔽物を見つけて前進していくし、シロコちゃんに至ってはアヤネちゃんとはまた別にドローンを駆使していた。…けど、何より強烈だったのはノノミちゃんだろう。あのふんわりとした笑顔でマシンガンを振り回す姿には私の語彙力も蜂の巣にされた。
そんな具合でカタカタヘルメット団の前哨基地は壊滅され、前線に出た四人は軽い足取りで意気揚々と戻ってきた。出迎えに行った先生&アヤネちゃんとの間でねぎらいの言葉が交わされる。
「火急の問題だったカタカタヘルメット団の件が片付きましたね!これで一息つけそうです!」
「そうだね、これで重要な問題に集中できる」
「うん!先生のお陰だね!これで心置きなく、全力で
………ん?今、なんか聞き捨てならないことが聞こえたような?と思ったら、先生がさっそく「
「で、でも!さっき来たばっかりの大人でしょ!?今まで大人たちが、私たちの学校がどうなるか気に留めたことなんてあった!?…この学校の問題はずっと私たちだけでどうにかしてきたじゃん。なのに今さら大人が首を突っ込んでくるなんて…私は認めない!!」
「セリカちゃん!?」
「私、様子を見てきます!」
そうこうしているうちに、セリカちゃんはとうとう走って出ていってしまった。ノノミちゃんがあとを追って出ていき、私たち四人と気まずい空気が部屋に残された。
「9億!!?」
ホシノさんから事情を聞くことにしたわけだけど、衝撃の数字を聞いて椅子から落ちた。9の後ろに0が八つ。どころかアヤネちゃんからの訂正で四捨五入したら10億と判明した。宝くじの一等(キャリーオーバー発生中!!)じゃん…。なんでも学校の借金が先にあって、諦めて去っていく生徒が続出した結果、この五人だけが残る結果になったとのこと。
そしてその理由というのが…以前、アビドス自治区の郊外の砂漠からの猛烈な砂嵐に襲われて町が砂に埋もれてしまい、そこからの復興のために借金を作った。⇒けれどそこが悪徳業者で、今では利息を返すので精一杯…なのだとか。
「地平線のほうが妙に黄色いなと思ったけど、砂漠だったのか…」
「地平線?」
「ナンデモナイヨー」
「まあ、そういうつまらない話だよ…でも今回、ヘルメット団っていう厄介な問題が解決したから、ようやく借金返済に着手できるってわけ~」
「とんでもないことをのほほんと仰る…」
…ここはただの高校どころじゃなく、自治区の中枢まで担ってるのね。なるほど。わたしおぼえた。…え、中枢がたった5人って限界過ぎない?
明かされた想像を絶する窮状に唖然としたけど…それよりも気になったのは、彼女たちが助けを求めようとしないこと。ヘルメット団を追い払ってくれただけで十分、と口々に言うのだ。…アヤネちゃんとは話す話さないで意見が割れていたけど、不信感というか…自分で何とかするって考えは皆同じなんだろう。
「…この状況を見捨てて帰ることは、僕にはできないよ」
「私も同感ですね。気にするなと言われても、はいそうですかとは言えません」
…もっとも、じゃあ仕方ないねとかって退いたりはしないけど。
そんな話をした翌日、私と先生はアビドス対策委員会の面々と一緒に…
「セリカちゃん。バイトのユニフォーム、とってもかわいいです☆」
「いや~セリカちゃんってそっち系かぁ。ユニフォームでバイト決めちゃうタイプ?」
「ちっ違うって関係ないし!こ、ここは行きつけの店だったし…」
…ラーメン屋に来ていた。
経緯を簡潔に言うなら、「セリカちゃんを探し回った結果」だ。先生が早朝に出くわしたけど逃げられてしまったらしい。それで対策委員会の面々に掛け合い、ホシノ先輩がここだろうと見当をつけてやってきたらビンゴ、という流れ。
セリカちゃん、ここのバイトは割と最近から始めたらしく、対策委員会の他メンツすらまだ知らなかったらしい。…店主が二足歩行の犬っぽいの気になるけど放っとこう。これ気にし出したらキリがないやつだ。
なお、ノノミちゃんとシロコちゃんが先生隣空いてますよアピールをしてたのは余談。隣で若干むくれてるシロコちゃんをなだめつつ…今はそこまでお腹空いてないから小さいのでいいや。
「ところで…みんなお金は大丈夫なの?またノノミ先輩におごってもらうつもり?」
「はい、私はそれでも大丈夫ですよ☆このカードならまだ限度額まで余裕ありますし」
セリカちゃんが名前を出した本人を何の気なしに見たら、その手には黒光りするカード…!?は、初めて見た…!いや、でも周囲の反応からしてそれほどなのか?価値観の違い?それとも慣れ?うーんわからん。
「いやいや、またご馳走になるわけにはいかないよ~。きっと先生がおごってくれるはず。ね、先生?」
「ホ、ホシノ?先生初耳なんだけど…?」
「今聞いたからいいでしょ~?」
…あれ、流れ変わったな…?顔をひきつらせた先生はおもむろに席を立って距離を取り始めたけど、ホシノさんがあっという間に「逃がさないよ~」と隣に移動していた。ハヤァイ!
「…私は自分の分出しますよ。大した額じゃないですし」
「…ありがとう」
「いえいえ、礼を言われるようなことでは」
か細い声に思わず苦笑してしまう。…先生は結局、生徒たちの分は自分で支払っていた。
「早く出てって!二度と来ないで!仕事の邪魔だから!」
「あ、あはは…セリカちゃん、また明日ね」
そして、客商売にあるまじきお見送りを受けながら、私たちは『柴関ラーメン』をあとにしたのだった。
…その翌日、セリカちゃんと連絡が取れなくなったんだけど。
・ハリカ
連邦捜査部シャーレに保護されているが、所属も同然の状態なので連邦生徒会の青いネクタイを着用している。ネクタイ以外は四高の制服のまま。黄色っぽくなってきたのは砂か…。
異世界ギャップにいまだ目を白黒させている
魔法は大っぴらにはしたくないが、有事となれば使う気満々ではいる。もちろん来ないほうがいいんですけどねぇ。
何がとは言わんが彼女はシロコ並み
・シロコ
アビドス高校2年、対策委員会の行動班長。
ハリカにはしばらくただのクールな少女だと思われる模様
・アヤネ
アビドス高校1年、対策委員会所属。
先生を呼んだ。もう一人来てくださるとは思いませんでした。
・セリカ
アビドス高校1年、対策委員会の書記。
口の悪さに定評のあるツンデレ
学校を飛び出したのち、バイト先に突撃される
・ノノミ
アビドス高校2年、対策委員会所属。
重量級ガトリングガン振り回す系おっとりお姉さん(意味不明な日本語)。とてもフレンドリー
・ホシノ
アビドス高校3年、対策委員会の委員長。
のんびり屋ムードメーカー先輩。ただし最前線に出る
・先生
アヤネに呼ばれた。
ハリカも来るとは思ってなかった。