章タイトルを縮めてサブタイトルに引っ張ってくるマジック
懲りずに容赦なく新シリーズを始めてしまったのでちょっと失速気味ですがよろしくお願いします
「バカンスに行きます!!」
ゲヘナ学園、風紀委員会本部。呼び出しを受けて向かった一室にて、呼び出しの主…アコ行政官は堂々とそう言い放ちました。…呼び出された私たちはというと、思わず顔を見合わせるしかありません。
「…はい?」
「…?」
「バカンス…?また急だね…?」
「あら…反応がいまいちですね?特に冗談ですとか、そういう訳ではないですよ?」
「いまいちも何も…」
「緊急の呼び出しと聞いて、何のことかと思ったら…。バカンスに行かれるのは構わないのですが、私たちには関係ないと言いますか、それを聞かされても困ると言いますか…」
「帰っていい?」
「ダメですよ!?」
「チッ」
「舌打ち!?いま舌打ちしましたよね!?」
ゆらりと身を翻すフユコさんを大声で引き留めるアコ行政官…本当に、これは何の時間なんでしょう…と思っていましたが、
「まあいいけど…で、アコちゃんはどこへバカンスに行くの?」
イオリにそう尋ねられたアコ行政官が目を丸くして、どうやら認識が違うことがわかりました。
「…何を言っているんですか?私の休暇の話ではありません!…というかもしかして私、自分の休暇を自慢するために呼び出したと思われているんですか?」
ショックです…と肩を落とすアコ行政官…本当にショックを受けているみたいですね。しかしすぐに姿勢を正して咳払いをひとつ、すぐ真剣な表情に戻りました。確かにこのままでは話が進みませんからね。
「今回の『バカンス』というのは、私たち風紀委員会――正確には、
「委員長の…どうして、出し抜けにそんなことを?」
「それは…最近、委員長の様子がおかしくって……」
先ほどまでの剣幕をしまったアコ行政官の打ち明け話によると………なんでも書類仕事をこなしていた際、コーヒーをアコ行政官の分と取り違えた上、「アコが淹れてくれたコーヒーは美味しい」と言ったのだとか。…あなたが幻聴を聞くほど疲れているのでは?と思いましたし言いましたが、「しっかりとこの耳で聞いたことです!」とのこと。
…客観的にはそれの何がおかしいのか?と思われるかもしれませんが、本当なら異常事態なのです。冷徹で寡黙でストイックなヒナ委員長が他人を褒めるところなど、私よりも風紀委員のキャリアが長いイオリやフユコさんも滅多に見ないのだそう。しかも褒めたのは訓練で見せた成果などではなく、コーヒーの味…となると。
「非常事態ですよ!このままでは風紀委員会の存亡に関わります!」
「え、どういうこと?」
「もし仮に委員長が過労で倒れてしまったら……その日のうちに、私たち風紀委員会は壊滅してしまっても不思議ではありません!!」
「いつも言われてるやつね…」
フユコさんがポツリとつぶやくのが聞こえました。…フユコさんのことですから、誰にとは訊くまでもありません。私たちも遠回しにですが言われましたから…チサキさんに、実力不足だと。
「それに、委員長が不在の風紀委員と聞いて、
「あぁ~…」
「そうなれば、ゲヘナ学園は…いえ、キヴォトスは史上かつてない混乱に陥ってしまいます!…つまりこれは、キヴォトスの命運がかかった事案なんです!!」
万魔殿……はぁ、とため息が出るのを抑えられません。いろいろと内憂の多いゲヘナですが、最大の悩みの種と言っていいでしょう。よりにもよって生徒会が。フユコさんもうんざりした表情を浮かべて……今、「あのイブキチャン大好きクラブが…」って聞こえましたね。おおむねその通りでしょうけど…言ってて悲しくなりますね…。
「とにかく、何よりも今の委員長にはお休みが必要です!ゆえに、ゲヘナ風紀委員会の行政官たるこの私…天雨アコは、ここに宣言します。すべては委員長と風紀委員会、そしてキヴォトスの未来のために!風紀委員会の行政官として、ここに
まあ、万魔殿はさておいて……アコ行政官はびしっ!とこちらを指差して、高らかに宣言しました。…妙にテンションが高いというか、ずいぶん張り切っているようです。
「そんな大袈裟な…」
「アコ行政官は委員長のこととなると、時々こうなりますよね…」
「…お休みが必要なことには全面的に同意しますが」
…ただ。おもむろに手を挙げたフユコさんが口にしたのは、この特務を遂行する上で最大の懸念点でした。
「委員長がおとなしくバカンスに行ってくれるとは思えませんね。今まで休暇をとってるところすらほとんど見たことありませんし」
「確かにそうですね…無理に休暇をとってもらっても、数時間後にはなぜか学園にいますし…」
「そうなんですよね……いくら休息の話をしても、いつも『休みならとってる、一日に5分くらい』と…」
「筋金入りのワーカーホリックだからな…」
「もはや動けてるからいいやって感じすらあるよね…」
…思わず、揃って遠い目をしてしまいます。委員長ご自身が、休もうとしてくださらない…厳密には休憩をとっているつもりのようなのですが…さすがに一日5分だなんて、誰もが
…医療行為とてそうですが、まず第一に本人の意思がなければどうにもできないものです。
「…この作戦、開始前からすでに破綻しているのでは…?」
「いえ!…理由がないなら作ればいいのです。委員長も納得するような、特別な理由を…!」
「…で、シャーレに」
「はい…」
フユコさんの運転する車内にて、いきさつを聞いたハリカさんはなるほどね…と深くうなずきました。やはりこの人は理解が早くて助かります。
特務遂行はもはや絶望的では…?とまで思ったものの、アコ行政官は"委員長も納得するような特別な理由"を既に考えていたらしく。それが、今現在こうして先生とハリカさんをお連れして移動している理由になっています。
発端は、先立って万魔殿から要請されていた夏期訓練の計画書でした。…これは額面通り万魔殿が私たちに訓練してほしいのではなく、ただ風紀委員会に無用な労力を
それで、普段は委員長の方針もあって暑熱地域でのかなりハードな訓練が恒例となっていたそうですが…今回はそれを利用し、普段とは違う、海辺での訓練…
「シャーレに依頼を出したのはアコ行政官ですが…普段と訓練場所が違うことを万魔殿から怪しまれないよう、シャーレの超法規的権限を借りた形ですね」
「あぁ…そうなんだ」
「…というか、ハリカさんは先生から聞いていなかったんですか?」
「あんま詰め寄って詳細に聞くほどのことではないかなと思って…。予定は把握してたけど、来ないか打診されて二つ返事だったからさ」
「二つ返事だったんですか?」
「そこはほら、ヒナさんにはなかなか会おうとしても会えないから…けっこう前、美食研究会がトリニティまで出張ってたとき以来になるかなぁ。今の聞いてなおさら戻る気なくなったよ…今日の当番は書類仕事ドリームチームだし、心配はしてないけど」
書類仕事ドリームチーム…ユウカさん、ハナコさん、イコイさん、ククリさんでしたか。なるほど確かに、言い得て妙ですね。
「あ!見えてきたよ!」
ふと先生の楽しげな声につられて窓の外を見やれば、建物の合間に空よりも濃い青色が見え隠れし始めていました。…はい。お察しの通り、本日がその夏期訓練の当日なんです。
「あれがキヴォトスの海…」
「ハリカさん、海にはよく行かれるんですか?」
「いや…実はあんまり。私どっちかというと山派だから…川に沿って上流に向かうほうが多かったかな」
「あれ、そうなんだ?なんかテンション低いとは思ってたけど」
「先生が高すぎるんだと思いますよ…。ただ前の学校が海に近かったので、割と見慣れてはいましたけど」
「…そういえば、ハリカさんも外の人でしたね」
「そうだよ、ごめんね溶け込んじゃってて」
…うっかり忘れてしまっていました。なんだか気恥ずかしい私に対して、当のハリカさんは何でもないようにさらりと流してしまいます。そんな軽い感じで言われては反応に困るのですが…その
「それはそうと…ヒナさんが重度のワーカホリックなのはわかったけど、今回この海でそれにどう対処するの?」
「今回の訓練計画はアコ行政官とイオリが主体となって練り上げたものです。なのでヒナ委員長は海辺のホテルに
「なるほど…待って今幽閉って言った??」
「はい…アコ行政官が。そもそも仕事を渡さないことで強制的に休ませるそうです」
「それ本当に休暇…?」
あきれ顔のハリカさんから、奇しくもイオリと同じ言葉が出ました。確認を入れるみたいに先生のほうを何度か
「確かに、それは私も思いましたが。…委員長はもう何日も寝ていないようなので、やむを得ないかと」
「ソ、ソウナンダァ…こんなにやむを得てほしいことなかなかないけどな……」
「正直、私もそう思いますよ…」
はぁ…と誰にともなくため息をついて、再び窓の外に目をやれば、青い海は先程よりも近づいてきていました。…先生、窓に張り付きすぎでは?
・チナツ
一年生ながら呼び出されている有能医療班
考えてみれば最初もサンクトゥムタワー行ってたりするしかなり特別な一年生なんだろうな…っていう
今回(章)は彼女視点が増えそう
・アコ
クール枠の後輩から雑に扱われる行政官
・イオリ
残念っぷりはなりを潜めている実働部隊斬り込み隊長
・フユコ
兵站部の中でもちょっと特殊な立場にある有能ドライバー
もはや当初考えてた"名有りモブ"の欠片もない
なお万魔殿とは若干折り合い悪めな模様
後半にもいるけど普段あまり通らないルートなので集中してる
・ヒナ
やべぇワーカホリック
行政官の提案をのんで海での合宿に向かう、まだ幽閉されるとは知らない風紀委員長(17)
・ハリカ
実家は伊豆半島東岸、四高は浜松。しかし山派
水着衣装の登場予定はありません
・先生
ウェミダー!!(続投)