鈍色の銃は射抜かない   作:諸喰梟夜

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4か月も空けてしまったよ お久しぶりです
新キャラ続々 そのうち来るかな…と思ってたワイルドハントもついに開きましたね まだ名前被りは起きてなくてひとまず安心する図



飛んで火に入る夏の……

 

『コードネームS、現場に到着!』

『コードネームH、同じく現場に到着しました』

「コードネームK、ならびにコードネームI。同じく現着でーす」

『はい、通信も良好ですね。問題なさそうです。ですが、フユコはシャキッとしてください!』

「してますよ、いつも通り」

「……」

 …運転席でハンドルにもたれ掛かるフユコさんは、お世辞にもシャキッとしてるようには見えないけど……まあ、普段からこんな感じで仕事はできる人だからいいか。何も言わないでおこう…。

 

 風紀委員会の夏期訓練は1泊2日、現在は1泊が終わった2日目の朝。今日の午後4時をもって終了となり、その後すみやかに帰還…という流れになっている。

 そんな日の朝早くに集まっているのには、もちろん理由がある……昨日の晩に急遽決まった、新たな重大任務。

『委員長にもともとお伝えしている今日のスケジュールは、午後の全体射撃訓練への参加のみ。ただしその訓練の前に、委員長が自ら時間を作って、海で泳ぎたいとおっしゃいました。つまり…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということ!なので、私たちの任務は簡単です――委員長の夏休みを、最後まで、全力でサポートすること!いいですか、学園に帰るまでが休暇です!

「生き生きしてんなぁ…」

 通信越しのアコさんの語調がだんだん強まってきたので、ヘッドセットをちょっと浮かせる*1。もはや御家芸って感じ……まあ当初からの目的、『ヒナ委員長の夏休み』がようやく叶うわけだから、熱くなるのもわからなくはないけど。

 そして隣のこの人また余計なこと言う…と思ったけど、スルーされてるからマイクoffにしてるな。ちゃっかりしていらっしゃる……

 

『具体的には万が一のため、事前に海辺の危険要素を排除。その後も引き続き、海辺に近づく不穏分子を片っ端から処理することで、委員長が何の気兼ねもなくこの海を楽しめるようにするのです!』

『これ、風紀委員会がやっていいことなのか…?』

『まあ、昨日の騒ぎでほとんど誰もいないので…ギリギリセーフ、といったところでしょうか…』

 ハキハキと話すアコさんの一方で、(銀鏡)(火宮)の怪訝そうな小声も聞こえる。うん…こういうのセウトっていうんだろうな。ホテルは貸し切りだけど、そこからビーチにまで範囲を広げて実力行使での貸し切りをしてるわけだから。身も蓋もない言い方をするなら。

 

『無駄口を叩かない!それから先生!肝に銘じてください…今回一番大事な役割を担うのはあなたですからね!』

『えっと…頑張ります』

()()()()()()()()()()()()()()のですよ?本当にその責務の重大さをわかっていますか!?どうして先生が…なぜ私ではダメなのですか!今すぐ訓練など放棄して、その手を導いて差し上げたい…!!

「駄々漏れですよ行政官」

『…こほん、失礼しました。これも全ては委員長のため…委員長がそう望むのであれば、それを全力でお支えするまで。ですのでどうか皆さん、誠心誠意全力で臨んでください!言っておきますが、間違いなど絶対にあってはなりませんからね!!』

「アッハイ、かしこまりました…」

 …なんか激重感情の奔流を浴びた気がするけど、気のせいってことにしよう。先生も思わず敬語だけど。

 それにしても、まさか先生がヒナさんに泳ぎを教える展開になるとは…。チナツちゃんの言う通り、多忙でスキルを身に付けるひまもなかったんだろうと思うから、ヒナさんが泳げないっていうのはそこまで意外とは思わなかったけど。

 先生は海に来たときテンション高かったし、たぶん泳ぐのも好きなんだろうと思う*2。とはいえ、この展開は思ってもみなかったな…先生は先生なので、いちおう変な間違いが起きたりはしないと思う。任せておこう…。

 

『あっ、たった今委員長が水泳の支度を終えて、部屋から出ました!皆さん、気を引き締めてください!』

 …アコさん…もしかしてヒナさんの部屋監視担当とか配置してます?……まあいいや。ともかくその一声で、いよいよ今回の特務の大目玉が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …開けたんだけど。

『スケバン集団『破茶滅茶』ならびに『びしょびしょヘルメット団』がこちらに向かってきています!』

『各地で乱戦状態です…行政官、どうしましょう!?』

 ……大目玉と一緒に、厄介事も運ばれてきてしまったらしい。今、ヘッドセットの向こうが上を下への大騒ぎになっている。まださっきのアコさんのがうるさかったけど

 まず、昨日全面戦争を阻止したなんとかいう2つの集団…彼女らが"今は風紀委員長がオフ"という情報をどこからか手に入れてしまったらしく*3、昨日の意趣返しのために手を組んでこちらへ進軍中。

 そして、その騒ぎを聞き付け面白半分で見物に来た不良集団が見物席をめぐって小競り合いを始め*4、昨日追い払った美食研究会もリベンジで戻ってきて屋台を開き。

 …さらにそれだけにとどまらず、ゲヘナが誇る*5もうひとつの問題児集団『温泉開発部』も、この浜辺に源泉があるっぽい!とかなんとかでやって来て、今小競り合いに飛び入り参加中らしい。もうなんもわからん。隣でフユコさんも頭を抱えて……いま地を這うような、重低音のため息が…。

 

『――うっ…うわあぁぁぁん!!こんなの、こんなの私にどうしろっていうんですかぁ!!』

『あ、アコちゃん一旦落ち着いて』

『これが落ち着いていられますか!!』

 …あー。しばらく絶句してたアコさんがとうとうパンクした。当初は『たかがエキストラの分際でッ!!』とか(のたま)っちゃうくらいの元気があったんだけど……同意しかない。これがいわゆる盆と正月がなんとやら、いま何か紙を破く音が聞こえたんですがアコさん??

 

『とにかく、何か方法を』

『方法も何もあんなのどう解決しろって言うんですか!!『ゲヘナで一番静かな海岸』とはなんだったんですか!?今一番ホットな場所ではないですか!!』

「確かに…」

「ひととおり全員轢いてこようか?この1台は間違いなくスクラップになるけど」

「えっ?えっ待ってくださいフユコさん私さすがにスクラップは耐えがたいですよ!?」

 アコさんのツッコミに思わず同意してたら、真横から聞き捨てならない発言が飛び出してきた。ふ、フユコさん?いやサムズアップじゃなくて!錯乱してるなこの人も!!

 ど、どうしよう…と、私も本気で頭を抱えたとき。

 

 

『なるほど、鉄床(かなとこ)戦術の状態ね』

『へっ?…い、言われてみれば、確かにそうですね?さすがは委員長です!』

 ――凜とした、落ち着いた声が通信に割り込んできた。限界化していたアコさんが、その声にハッとした様子で……………ん?

『となると、この状況を打開する戦略は…』

『美食研究会、ヘルメット団、スケバン、それに温泉開発部。数は多いけれど、連携がとれてる訳じゃない。ヘルメット団とスケバン集団との指揮命令系統も、それほど確立されてはいないはず』

『そう、ですね…向こうの弱点はそこです。まずは包囲網の隙間に割り込む…となれば、取るべき戦術は電撃戦(ブリッツクリーグ)!』

 …何やらミリタリーな話がとんとん拍子に進んでいくのを聞きながら、思わず横を見たら、フユコさんと目が合って。……フユコさんは、無言で肩をすくめた。たぶん同じことを考えてる気がする。

『相手は円形包囲網でやって来るだろうけど、そのどこか一点を突き崩すのは難しくない。そこからは、いくらでもやりようがある』

『なるほど……さすがは委員長です!一発で解決策が見つかりました!それでは、作戦を実行します!すべては委員長の……』

 …あ、止まった。

 

『………』

『………』

『………』

 …誰も、何も言わない。遠巻きな波音と、遠巻きな銃声…それだけが聞こえる、しばしの沈黙を経て………

 

『……なつ、やすみ、の………ぇ、ええぇぇぇぇぇっっ!!?

 …はい。アコさんの今日一番の絶叫が、通信を駆け巡った。ヘッドセット外しておいてよかった………じゃなくて。

 【悲報】空崎ヒナ、参戦!!みんなゴメン、という先生の小声が通信に乗ってきた。遅いです先生。

 

『ふぅ…。アコ』

『ぁ、は、はい…』

『訓練がどうしてこんなことになってるのか、その話はまたあとで。――総員、戦闘準備。行こう』

 …いっときは混乱の坩堝(るつぼ)と化していた通信に、今度は風紀委員会一同の力強い返事が揃った。…なんと言いますか…その………さすがは委員長です。

 

 

 

 

 

【✳⇒ 】

 

『なっ!?あ、あれは風紀委員長!?不在だったんじゃ』

『とりあえず撃て!どうせ兵力はこっちが上、とにかく数で押すんだ!!』

『無茶だ!あの風紀委員長相手に、数で勝てるわけ――』

 …『シッテムの箱』に映し出される、俯瞰の戦場。その中を、白い影がしきりに飛び回る。通信に不良生徒たちの声が入っては、マシンガンの音にかき消されていく。…ヒナ、絶好調だね……リフレッシュはできたってことでいいのかな、これ。

 …このままながめてるのもいいか案件ではあるけれど、一応さすがにひと声はかけておいた方がいいかな。タイミングを見計らって……

 

「ヒナ、聞こえる?支援は必要かい?」

『ん…大丈夫。だいたいの見当はついてるから』

「流石だね…」

 ほとんど抑揚のない声。きっと普段通りの、真面目で仕事にひたむきなヒナだ。…そんな言葉を交わす間にも、白い嵐による蹂躙が続く……今、なんか大きなものが壊れる音がしたな。

『ウッソだろ!?重戦車を一人で!?』

『ああもう撤退だ!誰だよ留守って言った奴は!騙された!!』

『お、温泉がぁー!海洋深層水温泉がぁ~!』

『わわわ…すさまじい、圧倒的な戦闘力ですね…!』

 蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく、ヘルメット団やスケバンの生徒たち。中には重機を動かして作業を強行しようとする温泉開発部員もいるけど、それら全てを細身のMGが薙ぎ倒していく。

 …いつもサポートに徹する僕だけど、こればかりは見守るだけだ。アロナからも驚嘆の声が届いてる*6くらいだし…。

 ちなみに、美食研究会だけはヒナと対面することなく逃げていったらしい。うまくヒナの死角を通っていったみたいで…良くない慣れ方してるね、あの子達……。

 

 

 

 

 

『スケバン集団『破茶滅茶』および『びしょびしょヘルメット団』の制圧完了!』

『数名逃走しましたが、追跡はできているのですぐに全員捕まるはずです。事態の鎮圧お疲れさまでした、空崎委員長!』

 ほとんどヒナの一人舞台って感じだった大捕物は、そうして幕を下ろした。砂浜は…ちょっと無視できない戦闘痕は色々残ったけれど、まあ訪れた当初の静けさ*7を取り戻した。

 …その一方で、僕らの心は穏やかじゃない。今回の風紀委員会夏期訓練――その水面下で極秘に進めていた、ヒナの(半強制)夏休み計画は、これで確定的に破綻した。まあ、リフレッシュしてもらうっていう目的自体は、達成できてるんじゃないかと、思わなくもないけど……ストイックでワーカホリックなヒナは、どう思うか………

 

「ふぅ…じゃあ、ホテルに戻ろう」

 沈黙を破ったのは、ほかならぬヒナ本人で……あ、あれ。思ったより淡白……?

「それから…戻ったらすぐに、反省会を行う。全員参加するように」

『っ…はい…』

『はぁ…』

「特に、アコ。覚悟しておきなさい」

『う゛っ……はい……』

 …前言撤回、いつもの冷徹なヒナだった。通信の向こうで肩を落としているのだろう、しおらくしなったみんなの声に苦笑しつつ……いや待てよ。これ、僕も共犯ってことになるか…。

 

 

 

 

 

*1
not魔法

*2
余談ながら私はあんまり。歩く方が好きだし…

*3
某魔殿…というのは、さすがに邪推が過ぎるか…?

*4
私達にはよくわからない、おそらくゲヘナ自治区特有の概念

*5
悲哀

*6
OSとして高性能すぎないかな

*7
ゲヘナ基準(重要)





・ハリカ
もはやシャーレオフィスが恋しい
パッと見落ち着いてるように見えるが、「ゲヘナはこういう場所」と諦め半分なところがあるため

・フユコ
気がつけばハリカの付き人みたいな状態になってる まあ立場的にね
取り乱してもあんまり表に出ないけど真顔で変なこと言いだすタイプ

・アコ
今回の主役① ヒナ強火担な責任者 容赦/zeroの言い回しが再び
⇒限界で爆発⇒極秘任務バレ 忙しすぎる

・イオリ
登場控えめ 最前線で頑張ってた

・チナツ
登場控えめ 後方支援で頑張ってた

・ヒナ
今回の主役② 流れるような合流、みんなが見逃したね

・温泉開発部
ゲヘナが誇るやべー集団 美食研と違って人数もそこそこいるっぽい
☑️不良ともども掃滅
海洋深層水って浜辺から湧くんですかね

・美食研究会
驚異の逃げ足であった

・先生
ごめん、ヒナと海辺で落ち合う予定だったの言ってなかった
いつもの図太さはどうした


ヒナ夏最後まで見届けたんですが、半端な字数になってしまったので完オリで埋めるお時間が来ています またしばし待っていただけると幸いです クゥーン…


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