藤丸さんは、サーヴァントのマスターであるようだったが、この冬木に到着してからサーヴァント達とはぐれてしまったようだ。
はぐれたサーヴァント達も捜すことになりそうだが、男性サーヴァントだった場合は、冬木の女性達に狙われてしまっていることは間違いない。
まあサーヴァントがそう簡単に負けるとは思えないが、今の冬木の女性は普通ではないから、厄介な相手なのは確かだろう。
小さい桜のような生物も1体であるとは限らないし、無策で外に出るのは、生肉を身体中にぶら下げて肉食獣の群れに突っ込むようなものだ。
という訳で男だと丸わかりの外見を隠す為に、布と持ち主の気配をある程度は遮断する短剣をアーチャーに投影で用意してもらった。
それらの装備を全員が持ち、藤丸さんのペースに合わせて間桐家を目指して移動していくと、ある程度は気配を遮断しているにも関わらず押し寄せてくる女性達。
嫌でも戦うことになり、衛宮と藤丸さんを後ろに庇った僕とアーチャーで女性達を迎え撃つ。
アーチャーは、いつもの双剣ではなく小太刀程度の長さがある木刀2本を投影して戦っていた。
何だかんだでお人好しなアーチャーは、聖杯でおかしくなっているだけの女性達に大怪我をさせるつもりはないらしい。
僕もある程度は手加減して拳を叩き込んでいたが、拳を叩き込む度に「もっとぉ!もっとぉ!んもっとぉ!」やら「我々の業界だとご褒美です!」なんてことを言いながらノーガードで悦びながら近付いてくる女性達に、手加減が少し緩んでしまうこともあった。
それでも平然と笑顔で近付いてくる女性達に、容赦はしなくて良いらしい。
僕が手加減を緩めると、吹き飛んでいく女性達。
そんな女性達には連携するという思考回路は存在していないようで包囲に容易く穴が開く。
隙を逃さず駆け抜けていった僕達を女性達が追いかけてくるが捕まるつもりはない。
衛宮を抱えた僕が先頭で、真ん中に藤丸さん、後方のアーチャーが鏃がついていない矢で女性達を牽制する。
流石はアーチャーと言うべきか、一射も外すことなく女性達の眉間を射ったアーチャーによって、追いかけてくる女性達の勢いが治まってきた。
捕まえることが難しい獲物を狙うことを、これで諦めてくれると僕達は非常に助かるから、諦めていてほしいところだ。
そう思っていたんだけど、女性達の執着は思っていたよりも強かったらしい。
「童貞だ!なあ!童貞だろう!お前!捨ててけ!童貞捨ててけ!」
でかい声で思いっきり僕のことを指差しながらそう言った眼光鋭い女性が、凄まじい速度で突っ込んできた。
「キエエエエエエエ!」と奇声を発しながら僕だけを狙っていた女性の勢いに合わせる形で、カウンターの打撃を叩き込む。
一撃で気を失ったが、女性の速度はサーヴァントに匹敵していた。
やはり手加減し過ぎると此方が襲われてしまうことは確実だ。
あれだけ大きな声で童貞と連呼されていれば普通に聞こえてしまっていたのは当然で「童貞って」と言いながら藤丸さんが顔を赤くして僕のことをチラチラ見てきていたりもした。
僕の童貞が盛大にバラされたのを聞いていたのが、かなりまともな女性であるこの人で良かったのかもしれない。
そう思えたのは、まだ藤丸さんの反応が可愛いと言えるレベルだからだろう。
ライダーだったりルヴィアだったり葵さんだったりしたら、僕が童貞だと知って、どんな反応をするかは想像したくもないよ。
なんてことを思いながら間桐家への道を進んでいると立ち塞がったのは、小さい桜の群れだった。
僕を見て「ニイサーン!」と言っている個体もいれば「センパーイ!センパーイ!」と衛宮を見ながら興奮している個体も存在している。
小さい桜達に共通しているのは全員が戦闘体勢であるということだけだ。
「ああ、今回もこんな感じなんだね」
遠い目をしながら言った藤丸さんは、悟りを開きそうな顔をしていたが、似たような経験をしたことがあるのかもしれない。
向かってきた小さい桜を相手に戦った僕達だが、衛宮と藤丸さんを守りながらで、先程よりも数が多い小さい桜を相手にするのには苦労していた。
そんな時に、大きな盾を持った女性が現れて、藤丸さんの前に盾を構えて立つ。
「シールダー!マシュ・キリエライト!合流しました!これから先輩をお守りします!」
どうやら彼女が藤丸さんのサーヴァントであるらしい。
守りに特化したサーヴァントであることは名称と見た目からわかったので、安心して藤丸さんを任せることができるだろう。
藤丸さんの守りを任せられる相手が現れて、かなり余裕ができたので片っ端から小さい桜達を容赦なく叩きのめしていき、僕の糸で動きを封じておいた。
藤丸さんと合流したサーヴァントである彼女と情報共有をしてから僕達は間桐家へと進んでいく。
到着した間桐家で、藤丸さん達に通信が入ったらしく、間桐家から聖杯の反応がするという情報が藤丸さんから提供されたが、どう考えても納得しかない。
とにかく間桐家から聖杯を回収しようと決めた僕達は間桐家の玄関を開いた。
間桐家の中は異界と化しているようで、想像以上に広くなっているようだ。
これは聖杯を探すのに手間取りそうだと思っていたら、僕達の前に立ち塞がるサーヴァントが1体。
それはライダーであったが、普段のライダーよりも随分と強そうになっているのは、恐らくはライダーも聖杯の影響を受けているからだろう。
僕を熱い視線で見つめるライダーは、僕以外は視界に入っていないのかもしれない。
戦闘が間違いなく始まるであろう時に、ライダーが大きな声で言い放つ。
「誰がなんと言おうと、慎二の前に立ち塞がるのは私です!この役目は渡せませんね!そして慎二に騎乗するのは私だけです!ライダーとして!」
「いや騎乗兵ってそういう意味じゃないから!」
思わずライダーに言い返した僕は悪くないと思う。