門を開けて遠坂家に全員が足を踏み入れると、開いた筈の門が勝手に閉じていく。
どうやら侵入者である僕達を逃がすつもりはないようだ。
遠坂家の内部も完全に異界と化しているようで、かなりの広さを有していた。
進んでいくと立ち塞がったのは遠坂であるが、完全に正気ではない様子であり、目が血走っている。
「ハアハア!衛宮くん!直でパンツの匂いを嗅がせて!お代は身体で払うから!」
いや、うん、いつも通りなのかもしれない。
相変わらず遠坂は変態だが、それでも聖杯の影響を受けているのか、動きがサーヴァント並みに強化されていた。
たとえそうだとしても僕達の敵ではなく、あっさりと遠坂を倒すことができたので、女性陣である藤丸さんやシールダーに気絶している遠坂が聖杯を持っていないか確認してもらう。
すると想像していた通りに遠坂は聖杯を持っておらず、聖杯の反応は更に奥にあるらしい。
遠坂家にはあともう一人しかいないのは最初からわかっていたが、個人的には正直会いたい人ではないので、あまり考えないようにしていた。
しかし、ここまで来たならそうも言っていられないだろう。
僕達は遠坂家を更に奥へと進んでいき、突き当たりにある葵さんの部屋の前で立ち止まる。
聖杯の反応は、やはりこの部屋の中からあるようで、聖杯を持っているのは葵さんで間違いないようだった。
部屋を開けると、そこには大胆な服を着た葵さんが椅子に座っており、思わず目線を反らした衛宮。
やはり衛宮は、あまりこういうことには慣れていないみたいだ。
もしくは知り合いの母親が大胆な服を着ているのを見てしまい、見てはいけないものを見てしまったと思ったのかもしれない。
「慎二くん、おばさんは思うの」
葵さんが僕だけを見て、話しかけてきたので無視をするのも失礼かと思って、一応会話をしてみることにした。
「何をでしょうか」
「女性は皆、性的な欲望を抑え込み過ぎていると思うのよ」
「抑えてないのも冬木には沢山いますが」
貴女もそうですよね、という目で僕は葵さんを見る。
そんな僕の視線を気にせずに持論を語っていた葵さんは、笑みを浮かべながら言った。
「だからこの聖杯に願って、冬木の女性達を、自分に正直にしてあげたのよ」
冬木の女性達があんなことになったのは、聖杯を手に入れた葵さんが原因だったらしい。
「自分の性的な欲望を抑える必要のない世界になった冬木は、女性達にとって素晴らしいものだとは思わない?慎二くん」
「一部の女性にとっては素晴らしいものかもしれませんが、大多数の女性にとっては素晴らしいものではないと思いますよ。それに犠牲になる男性のことが考えられてないのが良くないですね」
「あら、男性だって気持ちよくなれるんだから良いじゃない」
「誰でもいい人はそうかもしれませんが、そうじゃない人だって、きっと居ますよ」
「慎二くんとおばさんの考えは違うようね」
「ええ、そうですね。それと今の葵さんが正気ではないこともわかりました。誰かに何かされたようですね」
「何を言ってるの?おばさんは正気よ」
「やっぱり正気じゃないみたいですね。普段の葵さんだったら「おばさんのおかしいところを慎二くんに治してもらわないと!性的な治療でね!」とか言い出してましたから、今の葵さんはまともな状態じゃない」
変態が変態らしくないことでまともな状態じゃないかどうか、わかるようになってしまったことを悲しめばいいのかはわからないが、とりあえず今の葵さんは正気ではないし、まともな状態でもない。
正常な状態に戻す為にも、戦う必要があるようだ。
葵さんが聖杯で呼び出したのは、バーサーカーのサーヴァントであるようだが黒い鎧に身を包んでいることしかわからなかった。
アーチャーが投げつけた剣を受け止めて扱い始めたバーサーカーは正気を失っているとは思えない動きを見せて、剣を扱う。
それでもやはりバーサーカーはバーサーカーであるようで、唸り声を上げながら襲いかかってくることには変わりはない。
赤黒い葉脈のようなものに覆われたバーサーカーが持つ剣は、既にバーサーカーの物になってしまっているらしく、壊れた幻想で破壊することができないとアーチャーが言っていた。
そんな随分と芸達者であるバーサーカーのサーヴァントを相手にして、真っ正面から戦えるのは僕だけだ。
アーチャーは相手にこれ以上強力な武器が渡らないように、普通の矢だけを射つことにしたみたいだが、バーサーカーに斬り払われてしまっている。
シールダーは盾を奪われないように気をつけている為か、動きが鈍っているようだ。
衛宮と藤丸さんは後方で待機してもらっているが、そんな二人の応援の声は僕達にしっかり届いた。
冬木のご当地ヒーローとしては、応援されたなら頑張らないといけないかな。
数種類のカマキリの腕を組み合わせた腕で、バーサーカーが持つ剣を半ばから切断すると、切断された剣を投げつけてきたバーサーカーだったが、僕には頼りになる仲間が居る。
アーチャーの矢によって撃ち落とされた剣が地面に落ちる前に、シールダーがバーサーカーを盾で上へとかち上げた。
空へとかち上げられたバーサーカーに向かって、踏みしめた床が割れるくらいの踏み込みから跳躍した僕は、数種類の蟻を組み合わせた筋力に加えて、数種類の飛蝗を組み合わせた脚力でバーサーカーに蹴りを叩き込む。
まるで電光のような蹴撃を叩き込まれたバーサーカーは、完全に霊核と鎧を破壊されて、紫色の髪を露にしながら崩れ落ちると、もう動くことはない。
光の粒子になって消えていったバーサーカーを静かに見ていた葵さんは「私の負けのようね」と、あっさりと負けを認めた。
その後、正気を取り戻した葵さんから最後の聖杯を回収した藤丸さんにより、特異点と化していた冬木は元に戻るようだ。
遠坂家から出た僕達の前で消えていく藤丸さんとシールダーは、本来彼女達が居るべき場所へと帰るのだろう。
「今回はとても助かりました慎二さん。もし、何処かで会えたら、美味しいお菓子をまた作ってほしいんですけど、良いですか?」
消えかけながらもそう言ってきた藤丸さんに聞こえるように、大きな声で答えておく。
「勿論、作りますよ藤丸さん」
嬉しそうな笑顔で消えていった藤丸さんを見送った僕達は、ピンク色から元に戻った青空の下で、冬木での戦いが終わったことを噛みしめていた。
修復されたこの世界の記憶が残るかどうかはわからないが、とりあえず今は家に帰ろう。