早朝、朝御飯を作る為にカルデアの厨房に向かう途中で静謐のハサンと出会った。
「おはようございます慎二、良い朝ですね。今日は慎二が厨房担当のようですから、楽しみにしています。慎二が触れた食材が料理となり、それを私が食べて体内に取り込むと考えるだけで興奮が止まらなくなってしまいますよ!ああ、みなぎってきました!」
「うん、とりあえず食事中は静かにしてくださいね」
朝早くだろうといつも通りの静謐のハサンだが、マスターである藤丸さんに迷惑をかけている訳ではないし、食事抜きというのも可哀想なので、糸で捕縛したりはせずに注意だけで済ませておく。
厨房へ向かう僕の後ろをにこにこしながら着いてくる静謐のハサンは、とても嬉しそうだ。
静謐のハサンは流石に厨房にまで入ってくることはないだろうが、ぎりぎりまで僕と一緒に居たいらしい。
「慎二は、とても体格が良いですよね。抱きしめられたら私の身体がすっぽりと慎二に包まれそうです。それを想像するだけで私は高ぶりますよ!慎二にぎゅっと抱きしめられたら、とてつもない幸福感を私は感じるでしょう!という訳で、どうでしょうか慎二!ぎゅっとしてくれませんか!」
「抱きしめたりはしませんよ、諦めてください」
強引に接触しようとはせず普通に頼んできた静謐のハサンに断りを入れておき、僕は厨房へと続く道を進んでいった。
真正面から頼んでくるだけ、静謐のハサンは他の変態よりもだいぶマシだと思わなくもない。
「そろそろ、慎二は厨房に行ってしまうんですね。寂しいですが食堂で待っていることにします。慎二からしか摂れない栄養を少しは摂取できたので待機している間は問題はありません。朝食を楽しみにしていますね」
そう言いながら食堂まで向かっていった静謐のハサンは、上機嫌であったことは間違いない。
静謐のハサンが言っていた僕からしか摂れない栄養って何のことなんだろうかと、ちょっと考えたりもしたが、あまり深く考えない方が良さそうだと判断して、頭の片隅に置いておく程度にする。
全員分の朝食を作り終えて、僕自身も朝食を軽く食べ終えてから厨房を出ると、カルデアの職員に頼まれていた他の仕事をすることにした。
普通の人間には持ち運びできないような機材を、僕なら問題なく運ぶことができるだろう。
こんな雑用を引き受けるようなサーヴァントは珍しいようで、カルデアは基本的に我が強いサーヴァントを雑用として働かせたりはしなかった。
以前、風呂やサウナを作ったように、マスターである藤丸さんの為なら喜んで働くサーヴァントもいるだろうが、今回の機材運びには藤丸さんが関係していないことは確かだ。
カルデア内部の雑用を引き受ける奇特なサーヴァントは、それほどいないらしい。
厨房を僕と一緒に引き受けているカルデアのアーチャーも、たまに職員に頼まれて手伝っているみたいだけどね。
やっぱり衛宮は、どこの世界でもお人好しということは変わらないみたいだ。
機材を指定された場所まで運び、頼まれた雑用を終わらせてから部屋に戻ろうとしたところで、とても嬉しそうな声で名前を呼ばれたので振り返ってみる。
「慎二、頼まれていた雑用は終わったようですね。私も手伝えたらよかったのですが、身体自体が毒の私が不用意に触れてしまうと問題がありそうですから」
「その気持ちだけ受け取っておきますね」
「今日も慎二が作ってくれた朝食は美味しかったですよ。私の中に慎二が触れて作った朝食が入り込んでいく感覚は、いつ感じても素晴らしいものです。まるで慎二で私が満たされているような気持ちになれましたので、幸せな時間でした!」
「そうですか」
「内側は満たされていますが、外側は満たされていません。これはもう、慎二と触れ合うしかないと思いました。そんな訳ですから触れ合いましょう慎二!肉体的に接触する面が大きいほど私は嬉しいです!」
「お断りさせていただきます」
断った僕に迷わず飛びかかってきた静謐のハサンを編み込んだ糸のネットで受け止めてから、更に糸を追加して動きを封じておく。
放置しておくのも問題があると判断して、ミノムシ状態の静謐のハサンを担ぎ、彼女に用意されている部屋まで運んだ。
静謐のハサンは糸で巻かれていても僕と触れ合えるならそれでいいと思っていそうだったから、多目に巻いておいた糸は効力を発揮したようで、見るからに不満げな様子を見せた静謐のハサン。
「巻かれている糸が多すぎて、あまり接触できているような気がしません!せめて、せめてもう少し糸を少なくしてください!」
「要請は却下します」
静謐のハサンからの要請を却下しておき、彼女の部屋にあるベッドにそのまま置いておいた。
霊体化すれば糸から抜けることができるが、変態特攻持ちの僕の糸は、基本的に変態が相手なら長時間霊体化を防いで、一定時間縛り付けておくことができるようだ。
拘束時間は糸の量によるみたいで、あの糸の量だと静謐のハサンは昼まで拘束されているだろう。
まあ、昼食には間に合うので問題はないね。
昼まで静かな時間を過ごすことができるかと思って、僕が自分の部屋に戻ると、そこにはサーヴァントの殺生院さんの姿がある。
「あらあら、とてもお疲れのようですね。そんなお疲れな貴方にはマッサージなどが良いのではないかと思います。さあ、私がマッサージをしてさしあげましょう!大丈夫です!手取り足取りナニ取りと丹念に揉みほぐしてさしあげますので!天井を眺めている間に終わります!とてもとても気持ちよくしてみせますので、身を任せてください!」
「マッサージだけで済みそうにないんで、嫌です!」
悦ぶだけなので殴ったり蹴ったりはせず糸で素早く捕縛して、超特急でサーヴァントの殺生院さんの部屋まで送り返しておいた。
今日も相変わらずサーヴァントの殺生院さんに狙われている僕を、ニヤニヤしながら見ている一部のサーヴァント。
具体的に言うと、キャスターのシェイクスピア。
僕がサーヴァントの殺生院さんに狙われていることを、シェイクスピアが完全に面白がっていることは間違いない。
人の不幸で愉悦しているような奴は大嫌いだから、思わず手が出ないようにするのは大変だ。
それでも我慢の限界というものはあるね。
次にあのニヤケ面で僕を見ていたら、そろそろ怒ってもいいと思うし、とりあえずぶん殴ろうかな。