桜を相手にプロレス技を使っている僕を見かけたライダーのサーヴァントであるケツァル・コアトルさんが、ハイテンションになって話しかけてきた。
「いつも美味しいご飯を作ってくれる慎二がプロレスラーだったなんて知らなかったわ!メキシカンプロレスであるルチャを修めた私と日本のプロレスを修めている貴方で、ちょっと一緒にリングに立ってみたいデース!」
満面の笑みを浮かべながらそう言っているケツァル・コアトルさんには悪意は全くない。
ケツァル・コアトルさんは純粋にルチャで、プロレス技を使う僕と戦ってみたいだけのようだ。
僕はサーヴァント達に戦いを挑まれることは多かったが、こうして純粋な気持ちでプロレスに誘われたことは初めてなので、どうすればいいのかと少し困っていた。
なんというか全く邪念というものが無く、本当に僕とプロレスをしたいだけということが確かに伝わってきて、物凄く断りづらいと思う相手だ。
さて、どうやって断ろうかと僕が思っていたら、何処からか集まってきたサーヴァント達が「慎二とケツァル・コアトルのプロレスを見たい」と言い出す。
戦いが好きなサーヴァント達だけでなく子供系サーヴァント達までそう言っていたことには驚いた。
どうやら与えられた知識として知っていても実際のプロレスを見たことがないことから、子供系サーヴァント達は好奇心でプロレスを見たいと言ったようだ。
物作りが得意なサーヴァント達にリングを作ってもらおうと言うサーヴァント達は、お祭り気分なのは間違いない。
着々と外堀が埋められているような気がした僕は、はっきりと断ろうと考えていたが、それを言葉に出す前に、はしゃいでいたサーヴァント達が気になったのか藤丸さんがやって来た。
「何の騒ぎなのかな」
サーヴァント達に聞いた藤丸さんへ、ケツァル・コアトルさんが口を開く。
「慎二と私でプロレスをやってみないかという話デース!マスターは見たくないですか?」
「そうなんだ、見れるなら私も見たいかな。凄く楽しみだね!慎二さんとケツァル・コアトルのプロレス!」
ケツァル・コアトルさんから話を聞いた藤丸さんまで乗り気になってしまったようで、期待の眼差しを僕に向けてきた。
これはもう完全にプロレスやらないといけない感じになってるんじゃないかな。
マスターである藤丸さんまで望んでいることなら、流石に断る訳にはいかないね。
充分な高さがある空間に物作りが得意なサーヴァント達によって数時間で用意されたリングは、キャスター達によって様々な強化が施されて凄まじく頑丈になったようであり、僕とケツァル・コアトルさんがぶつかりあってもそう簡単には壊れることはない。
リングの上で対峙する僕とケツァル・コアトルさんは、互いに真剣な眼差しで相手を見ていた。
「ルチャドーラとして先手は譲れマセーン!」
天高く跳躍しながらそう言ったケツァル・コアトルさんは、そのまま急降下してボディプレスを仕掛けてきた。
サーヴァントの力を全開で繰り出されたボディプレスを受け止めた僕は、ケツァル・コアトルさんの右腕の下から腕をまわしてアームホイップでリングにケツァル・コアトルさんを叩きつける。
直ぐ様立ち上がったケツァル・コアトルさんは、巧みな動きで僕の背後にまわって僕を持ち上げるとそのままスープレックスを使用してきた。
やたらと頑丈になっているリングに叩きつけられた僕は、これを普通の人間が喰らったら頭が弾けて無くなってるのは間違いないだろうなと思いながらも、素早く立ち上がってケツァル・コアトルさんに反撃のラリアットを叩き込む。
防御をすることなく全ての攻撃を受け続けるケツァル・コアトルさんに連続でプロレス技による攻撃を続けていく僕に対して、テンションが高まっているケツァル・コアトルさん。
「素晴らしいデース!慎二は多彩な技を持ってマース!これはもう私も、出し惜しみなんてしてられマセーン!」
にっこりと笑いながらそう言ってきたケツァル・コアトルさんは、素早く跳躍して僕の首を両足で挟むと、見事なフランケンシュタイナーを繰り出す。
更にそれで終わりではなくケツァル・コアトルさんは僕を連続攻撃で上に打ち上げていくと、空中で僕を掴みリングに頭から叩きつけるパイルドライバーを放った。
多重構造のセラミックス以上の強度があるリングに頭から勢いよく叩きつけられて、頭がリングに埋まった僕は頭をリングから引き抜いて、ケツァル・コアトルさんに反撃を開始する。
常人なら首が飛んでいたクロスチョップを使ってきたケツァル・コアトルさんのその攻撃を避けずに受けて、前に前にと突き進んでいき、力を込めた水平チョップでケツァル・コアトルさんをロープにまで吹き飛ばした。
ロープから反動で跳ね返ってきたケツァル・コアトルさんを掴んで持ち上げ、先程リングに頭を突っ込まれたお返しとして垂直落下式ブレーンバスターに更に力を加えて、ケツァル・コアトルさんの頭部をリングに叩き込んでおく。
僕と同じように頭がリングに埋まったケツァル・コアトルさんも素早く頭をリングから引き抜いて戦いに戻った。
「こうしてルチャでぶつかり合えるのは、とても楽しいデース!」
元気いっぱいのケツァル・コアトルさんも僕と同じくダメージは、そこまでないらしい。
ケツァル・コアトルさんのルチャと僕のプロレス技の応酬が続いていき、激しく何度もぶつかりあう僕とケツァル・コアトルさん。
苛烈な戦いは次第に空中戦になっていき、お互いに跳躍してからの技を繰り出すことが多くなっていった。
「空中はルチャドーラのものデース!」
ケツァル・コアトルさんの言う通り、ルチャには華麗な空中技があり、空中戦ではケツァル・コアトルさんが有利だろう。
だけど僕は全ての技を受けきるのがプロレスラーだと思ったので、避けたりはしない。
空中戦を終えて、リングに降り立った僕達は手を組み合わせて力比べを始めていく。
単純な力比べは僕に軍配が上がりケツァル・コアトルさんを力で圧倒した僕は、ケツァル・コアトルさんの背後にまわると、腰に腕をまわして持ち上げた。
そしてそのままジャーマンスープレックスホールドの体勢に移り、審判役のサーヴァントが数えた3カウントで僕の勝利となった今回のプロレス。
戦いが終わったところで満足気なケツァル・コアトルさんによって抱擁されたかと思えば、頬にキスをされてしまった僕。
それを見た一部のサーヴァントが怒って暴走し、ケツァル・コアトルさんも応戦したことで頑丈に作られていた筈のリングが大破。
私達は皆が頑張って作った物を壊しました、という言葉が書かれたボードをしばらく首からかけることになった一部のサーヴァント達とケツァル・コアトルさん。
そんなこともあったが、ケツァル・コアトルさんは僕を見かける度に嬉しそうに近付いてくるようになった。
やたらと距離が近くないですかねと思うような距離で接してくるケツァル・コアトルさんとは、プロレスをする前よりも仲良くなれたのかもしれない。
「兄さんは意外と、長身の女性にも好かれるような気がします」
僕がケツァル・コアトルさんから頬にキスをされて怒っていたサーヴァントの一人である桜が、おもいっきりむくれながらそんなことを言っていた。
確かにそうかもしれないと思い当たったけど、まともな女性であるケツァル・コアトルさんを他の変態と一緒にしたくはないかな。
まあ、とりあえず僕からは普通にケツァル・コアトルさんと接しておくことにしよう。
好かれているのはわかるけど、どの程度まで好かれているかは、まだわからないからね。