今までありがとうございました
「ますたあと結ばれる前に別れることなど私は許しません。そう、妻である私が、ますたあと共にあることは当然のことです。妻である私が、どろどろに蕩けるまで、ますたあと愛し合うことも当然のことでしょう。ああ、待っていてくださいね、ますたあ!今すぐ清姫がお側に参ります!」
「母と我が子の絆を引き裂くことなど誰にもできません。そう、誰にもです。母と我が子が結ばれるのも当然のことなのですよ。愛し合う母と子が、愛を確かめ合うのは当然の権利です!母は我が子を誰よりも愛していますよ!ですから、貴方は其処を退いてくださいませんか」
「貴女達は、最後になっても変わりませんね。いつまで経っても貴女達が帰ってくれそうにないので強制的に退去してもらうことが決まりました。覚悟は良いですね。まあ、覚悟が出来ていなくても座に帰ってもらいますが」
藤丸さんを狙っている清姫と源頼光の2人組を相手にする僕は、いつも以上に全力全開の清姫と源頼光を相手に余裕を持って戦う。
変態特攻が有利に働いているので僕の攻撃は、清姫と源頼光にとっては致命的であるようだ。
放たれる火炎も、繰り出される斬撃も全て僕を傷つけることは出来ない。
一方的な戦いは終わりとなり、最後までマスターである藤丸さんを狙っていた2体のサーヴァントが強制的に退去となった。
「終わりましたか?」
そう言ってひょっこりと現れた静謐のハサンは、何故か満足気な顔をしている。
「何か嬉しそうなのは何でかな」
「マスターが、最後だからと抱きしめてくれたので」
「そうなんだ、良かったね」
「最後ですし、慎二も抱きしめてくれませんか」
「それは断るかな」
「残念です、じゃあ頭を撫でてくれませんか」
「それなら良いよ」
僕が静謐のハサンの頭を撫でていると静謐のハサンは、とても嬉しそうな顔をしていた。
静謐のハサンが満足するまで頭を撫でると、物凄く喜んでいた静謐のハサンは「ありがとうございました慎二」と僕にお礼を言って立ち去っていく。
満足した静謐のハサンもカルデアを去るつもりのようだ。
これでマスターである藤丸さん狙いのサーヴァントはカルデアから全て居なくなるだろう。
厨房担当も数日前から新しい人が来ているので、僕の役目もそろそろ終わりになるかもしれない。
お別れの準備はしておいたから、そろそろ僕もカルデアから退去することになるかな。
まあ、僕がカルデアから退去するのは、用意したコートを藤丸さんに渡してからだね。
という訳で翌日、僕が渡したコートを嬉しそうに受け取った藤丸さんは「ありがとうございます慎二さん」と言って笑顔になった。
藤丸さんが喜んでくれているのがわかったので僕も嬉しく思う。
それからしばらく藤丸さんと会話をしていると、可愛らしくお腹が鳴った藤丸さんは、お腹が空いているみたいだ。
恥ずかしそうな顔をしている藤丸さんに僕が「何か作ろうか?」と聞いてみると「お願いします」と言ってきた藤丸さん。
そんな藤丸さんの願いを叶える為に、僕はカルデアの厨房へと向かった。
カルデアの厨房には新たな厨房担当になったゴルドルフさんが居たが、マスターである藤丸さんの願いを叶える為だと説明すると厨房の一角を使っていいとゴルドルフさんから許可が出る。
僕が料理を作っているところを眺めていたゴルドルフさんは、若干悔しそうな顔をしていた。
どうやらゴルドルフさんは同じ厨房担当として僕とアーチャーのことをライバル視しているらしい。
向上心があることは悪いことではないので、カルデアの厨房担当としてゴルドルフさんには頑張ってもらいたいところだ。
完成した和食を食堂で待つ藤丸さんの元に持っていき、テーブルに和食を置いていく。
「いただきます」
両手を合わせてそう言った藤丸さんは、早速僕が作った和食を食べ始めた。
女性である藤丸さん用の軽めの和食を美味しそうに食べていった藤丸さんは、一口食べるごとに笑顔になっていて幸せそうだ。
あそこまで美味しそうに食べてもらえると、和食を作った僕も悪い気はしない。
藤丸さんが和食を食べ終えた頃合いで、おはぎと緑茶を持っていくと「甘いものは別腹ですよね」と言いながらおはぎに手を伸ばす藤丸さん。
おはぎを食べて緑茶を飲んだ藤丸さんは、満足気に何度も頷いているようで、おはぎと緑茶を堪能している。
おはぎを食べ終えて緑茶も飲み干した藤丸さんは、一息ついてから僕に感謝の言葉を言った。
「慎二さん、ありがとうございました。慎二さんが私に作ってくれた和食とおはぎ、とっても美味しかったです」
「満足してくれたみたいで良かったよ」
「大満足ですよ、最後にまた慎二さんが作った和食とおはぎを食べられて良かったと思います」
「藤丸さんがそう言ってくれるのは嬉しいよ」
「もう食べられないのが残念ですけど、仕方ないことですから」
「そうだね、僕も今日で冬木に帰るから、藤丸さんと会うことはもう無いと思うよ」
「慎二さん、少し頼みたいことがあるので、ちょっと場所を移動しましょう」
真剣な顔で言った藤丸さんに着いていき食堂を後にすると、藤丸さんの部屋まで到着した僕は招かれて藤丸さんの部屋に入る。
初めて入った藤丸さんの部屋にはサーヴァント達から渡されたであろう品々達が綺麗に棚に置かれていた。
「それで、頼みたいことって何かな藤丸さん」
「はい、あの、その」
頼みたいことが何なのか藤丸さんに聞いてみた僕の前で、何故か言いにくそうにもじもじしている藤丸さん。
もじもじしている姿を見ると普通の女の子って感じがして藤丸さんは可愛らしいなと思ったけれど、それを表情に出すことなく僕は藤丸さんの言葉を待つ。
深呼吸してから意を決したような顔で藤丸さんが言い放った僕への頼み事。
「私の頭を撫でてくれませんか慎二さん」
僕に頭を撫でてほしいという藤丸さんの頼み事は、藤丸さんにとっては僕に頼むことに勇気がいるようなことだったらしい。
確かに以前、静謐のハサンと桜を僕が撫でている時に通りすがった藤丸さんは、撫でられている2人を羨ましそうに見ていたかな。
藤丸さんだったら変なことにならないだろうし、頭を撫でる程度なら問題ないだろう。
「じゃあ撫でるよ藤丸さん」
「よ、よろしくお願いします」
ガチガチに緊張している藤丸さんの頭に優しく触れて、丁寧に頭を撫でていく。
撫でられている度に緊張が少しずつほぐれているようだった藤丸さんに、僕は声をかけていった。
「今までマスターとして、よく頑張ってきたね。それはとても凄いことだよ」
優しく声をかけて褒めていきながら頭を撫でていくと、藤丸さんは照れているみたいだね。
それからもしばらく褒めながら撫で続けていると、藤丸さんの顔は真っ赤になっていたかな。
最後に僕から藤丸さんに伝えておきたいことをしっかりと言葉にして伝えておく。
「藤丸さん、きみに会えて良かった。ありがとう、僕と出会ってくれて」
自然と浮かんでいた笑みのまま、僕は藤丸さんに伝えたいことを伝えた。
「私も慎二さんと出会えて良かったと思います」
そう言ってくれた藤丸さんは、感極まったのか泣いてしまっていたので、僕のハンカチで藤丸さんの涙を拭う。
「そんなに泣いてくれるのは嬉しいけど、僕は最後に見るなら笑っている藤丸さんがいいかな。笑っている藤丸さんを見ると、僕は元気をもらえるからね」
泣いていた藤丸さんを泣き止ませながら言ってみた僕に、藤丸さんは笑顔を見せてくれた。
「やっぱり藤丸さんには笑顔が1番似合うよ」
だから藤丸さんが、これからも笑顔でいられることを僕は願っておこう。
藤丸さんみたいにまともな人には普通に幸せになってほしいと僕は思うよ。
それにカルデアには、マシュが居て、ロマニが居て、キリシュタリアさんが居て、残ったAチームの人達も居る。
今の藤丸さんは一人じゃないから、きっと大丈夫だ。
僕がカルデアに残ってまでやることは、もう無い。
そろそろ僕も、冬木に帰る時が来たということだろう。
僕はカルデアの面々に最後に挨拶をして別れを告げていく。
カルデアの人々には、今まで美味しい料理をありがとうと感謝の言葉をもらった。
厨房担当だったサーヴァントとしては、とても嬉しい言葉だ。
そして最後の時が来て、僕がカルデアから去る時。
「さようなら、慎二さん。今までありがとう」
藤丸さんは笑顔で別れの言葉を言っていた。
それがカルデアで僕が最後に見たものになる。
眩い光に包まれた僕は、気が付けば冬木のアパートの部屋に戻ってきていたようだ。
カルデアでの記憶も、ギルくんに渡されたラピスラズリの首飾りもしっかりと僕の元にあるので、カルデアで過ごした今までの日々が夢だったということはない。
ようやく帰ってこれたと感慨深く思っていた僕に、聞き覚えのある声が届く。
「トリックオアトリート。おはぎを作ってくれなければ貴方に悪戯をします」
僕の部屋で椅子に座りながらそう言っていたのは、どう見てもサーヴァントの殺生院さんだった。
今はハロウィンじゃない上に不法侵入しないでほしいと言いたいところだったが、とりあえずおはぎを作って帰ってもらうことにしようか。
どうやら僕がカルデアに居なくてもサーヴァントの殺生院さんとの縁が切れた訳ではないらしい。
別にそこは切れていても良かったのに、と僕は思うよ。
冬木に戻った後の慎二の話を書くかもしれませんが、それは気が向いた時になると思います
いつになるかはわかりませんがその時は、またよろしくお願いします