顔面種族値600族の幼馴染に尻を狙われている   作:Mamama

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 可愛い幼馴染が毎朝起こしにきてくれる、みたいな使い古された幻想を妄信しているヤツなんて、流石に今時いないだろう。それどころか現実は悲惨なもので、俺の幼馴染の存在は目の上のたん瘤そのものだった。

 

まず第一に顔が良い。

幼いながらも中性的な色香があり、かつ活発な性格も相まって男女問わずにモテていたものだった。

この時点で幼い頃から陰キャの典型例であった俺とは相容れない存在だった。

 

第二に頭が良い。

天は二物を与えずというのは嘘っぱち。幼馴染は頭脳も明晰で、ガリ勉の俺をよそに『テストなんて授業聞いてれば満点取れるやろ?』みたいな態度で殺意すら湧いたものだった。

 

第三にバトルが上手い。

俺の大切な相棒であるイーブイは幼馴染のゴマゾウにコテンパンに打ち負かされて手酷い敗北を味わった。

大号泣した挙句に慰められるという恥辱を、俺は未だに覚えている。

 

正直に言うと当時の俺は幼馴染を嫌っている―――まではいかなくても苦手意識を持っていることは間違いない。俺にないものを全部持っていて気に食わない相手だったし、両親に『隣の子を見習いなさい』と耳にオクタンが出来るほど言われてきたのだ、クソガキの情緒であれば致し方ないだろう。

 

だが仲が悪いかといえばそういうわけでもなかった。

いっそのこと幼馴染の性根がひん曲がっていれば俺も思う存分嫌えたというのに、性格まで良いという隙の無さだ。

だから、嫌えなかった。嫌ってしまうと俺は本当に惨めになるって、子供ながら分かっていたんだと思う。

 

というか、俺のナイーブな感情など関係ないように幼馴染が俺に矢鱈と構いたがったから嫌う余地すらなかった。

当時の俺はカントーから引っ越してきたばかりで仲が良い友達がいなかったら、助かっていた側面もある。幼馴染の交友関係は広くて芋づる式に友人ができたから、そこは感謝している。

しかし他人のパーソナルスペースを粉砕して一気に距離を詰めてくるのはコガネ市民特有のものか、アイツの性格か。多分両方がイイ具合に化学変化を起こした結果だろう。

 

家が隣で物理的に距離が近く、親同士の付き合いもあったことから自然と顔を突き合わせることも増えて、当時コミュ障を拗らせかけていた俺がコガネで上手くやってこれたのはアイツのお蔭であることは認めざるを得ない。

 

良く分からない感情に振り回されつつ過ぎる日々は悪くないものだったが、別れの時間は意外に早かった。

ポケモンスクールに入学して数年、幼馴染は遠い異国に引っ越すことになった。

父親の仕事の都合で国外転勤をするのだとか。

パルデアという、当時の俺は聞いたことのない異国だ。

 

引っ越しを聞かされた幼馴染は荒れに荒れた。何せ隣に住む俺の部屋まで激しい泣き声やら怒鳴り声が聞こえてくるほどだった。次の日ポケモンスクールで会った時は目元が腫れあがっていて、コイツは一晩泣き明かしたんだな、と誰もが分かるほどだった。

苦手意識があるとはいえ、弱った状態を見て鞭を打つほど捻くれてはいない俺は幼馴染を元気づける為に奔走したものだった。

 

ウバメの森を探検したりスロットコーナーに入り浸ったり地下通路の怪しげなショップを見に行ったり。最後なんだ、これくらいの思い出くらいあっても良いだろう。

柄じゃないのに俺が先導して色んな場所に連れていって沢山の思い出を作ったものだった。

 

そして迎えた引っ越し当日。

最後の最後、車に頑なに乗ろうとしないどころかやっぱり行きたくない大号泣して駄々をこねる幼馴染に、見送ろうとした俺達は大層困らされた。

幼馴染のヤツ、俺の手首がねじ切れそうな強さで握ってきて一向に離そうとしやがらない。

 

『お前、いい加減泣き止めって。ほら、皆困ってるだろ?』

『だって、だって。……もう会えんなるって思って』

『ポケギアだってあるだろ? 偶には電話でもすれば』

『向こうじゃ使えんらしいし……』

『あ、そうなの?』

 

 ちょっとは落ち着いてきたと思ったら再び涙が溢れそうになってきて、俺は慌てた。

俺がこの場にいる大人共に目配せしても野次馬根性丸出しで見物しているだけで何の役にもたちやしない。あらあらとか言ってねえで仲裁しろ。俺の右腕の危機だぞ。

 

『遠距離ならエアメールとか』

『それは、する。……でもやっぱり会えんし』

『メールとか、ポケギアじゃなくても国際通話とか』

『それもする。……でも会えんやん』

 

 駄々っ子かよ。いや、駄々っ子そのものだわ。

 

『あー、分かった! じゃあ会いに行く!』

 

 俺がそう言うと囃し立てるような無責任な大人共。父親共は『よく言った、それでこそ男だ』みたいな顔をしていて死ぬほどイラついた。

 

『遠いし、いつになるか分かんないけど。絶対に会いにいくから。ほら、指切りげんまんな。嘘ついたらハリーセン飲んでやるからさ』

『……うん!』

 

 小指を絡めて、最後にようやく幼馴染は笑顔を見せた。ついでの俺の右腕も解放された。

なんやかんやで上手く話しは纏まり、ようやく走り出す車。

俺が手を振っているといきなり窓が開き、幼馴染は顔を出して俺に向かって叫んだ。

 

『―――約束、破ったら承知せんからな! キシ!』

 

幼馴染―――チリは涙目で笑いながら俺に向かって手を振っていた。

 

 

 

「―――ん?」

 

 がたんがたんという振動を感じ、俺はそこで目覚める。

カロス発パルデア行きの長距離列車、やることもないせいか俺はチリからの手紙を読みながら転寝をしていたらしい。

 

チリはパルデア地方の四天王になった。ジョウトだと遠方すぎて中々国外のニュースが耳に入ってこない。エアメールで唐突に暴露された時には俺もたまげたものだ。

小さい頃からバトルの才能という意味で片鱗というか、既に天稟を見せていたが四天王に就任したというのは俺の想像の範疇を越えている。四天王とはその地方のトップに君臨するトレーナー集団で、その名は重い。

 

そんなエリート街道を突き進むチリと違い、俺は各地方をプラプラと彷徨っている。

四天王には遠く及ばないだろうが、俺もバトルの腕には自信がある。

ポケモンバトルが強いというのはどこの地方に行っても通じるステータスで、俺のような根なし草でもなんとかやってこれている。

 

ただ、まあ流石に俺も腰を落ち着ける場所を見つけようという気にはなっている。時折届く両親からの連絡は大抵が俺の現状に対する意見やら指摘だ。それを煩わしいと思いつつ、心配をかけて申し訳ない気持ちがある。

だから、もしもパルデアという場所が俺にとって居心地のよい場所であれば、その土地に根を下ろすくらいの気持ちはある。

 

「うお、眩しっ……」

 

 山間部を抜けるのと同時、昇り始めた太陽の閃光に目がくらむ。

カロスを抜け、パルデアに足を踏み入れた瞬間だ。

昔の夢を見たせいだろうか、ちょっとした感慨を感じた。

 

「……元気かな、チリのヤツ」

 

 なんとなく口に出してみるが恐らく頗る元気だろう。受け取ったエアメールにはチリが写った写真が同封されていた。幼女に中年男性二人に毛根がバグったかのような豊かな髪の女性。

そんな彼らに囲まれて、チリは笑みを浮かべていた。

 

……幼い頃、チリに苦手意識があった。でもそれは昔の話。別れる頃には俺もちょっと悲しくなって、エアメールで異国での苦労話や愚痴なんかを聞かされて、コイツも一人の人間なんだなって分かった。それに結構時間も流れて、もうチリに対して思うことはない。

ただ、昔の友達に会いに行くってだけの話。

 

「しかし随分と髪伸ばしてるな。元々中性的な感じだったから似合っているが。イケメンはどんな格好でも髪型でも似合うから困る。……身長の方は俺に軍配が上がるようだが」

 

 チリに会ったら身長をネタに弄ってやろう、なんて考えながら俺は再び到着の時間まで寝ることにした。

 

パルデアのポケモンスクールは俺の常識の中にあったそれとはだいぶ違う。

巨大なスクールの建造物が街の役割を為すように聳え立っており、年齢問わず入学が可能なのだという。そして宝探しなる授業が存在し、俺がそれを聞いた時はカルチャーショックを感じたものだった。

 

少年どころか中年の域に達した男性が学生服姿で街を闊歩している姿に俺はぎょっとする。聞いてはいたものの、実際に目の当たりにすると遠い異国であることを感じさせる。

 

パルデアに到着し、更に電車を乗り継ぎようやっとテーブルシティに到着した。

ここに来たのはチリの指示だ。俺はなんの予定も立てず順繰りに旅をしようと思っていたが、チリはそれに待ったを掛けたどころか待ち合わせの場所や時間に細かい指示を出し始めた。

 

別に俺としては現地に詳しいガイドがいると助かるから寧ろありがたいくらいだが、チリは四天王という多忙な立場だ。そんな時間があるのかと尋ねたところ、休暇を捻出するためアオキなる人物に一部の仕事を引き継いでもらうらしい。顔も知らぬアオキさんとやらに俺は合掌した。

 

指定された場所は飲食の屋台が並ぶ通りの少し外れ。そこに向かっていると、豊かな緑色の髪が俺の視界に入る。

長い後ろ髪はポニータの尻尾のように揺れていて、所在なさげに佇む横顔に懐かしい既視感を覚える。まだ待ち合わせの時間には30分以上の時間があるというのに律儀というかなんというか。

 

俺はちょっとした悪戯心から気配を殺してゆっくり近づく。

そして距離が数メートルになったところで、声を掛けた。

 

「チリ?」

「ッ!!」

 

 チリは俺が予想した以上に驚いていた。狼狽えるというか混乱したかのような態度で、そこらの屋台で買ったであろう飲み物の器を取り落とした。

チリはそれすら気づかないようで、勢いよく俺の方向に振り向いた。

 

「……キシ、か?」

「ああ。メールやら通話はしてたけど、会うのはコガネ以来だな」

「おまっ! 早すぎるやろ! ウチにもこう、心の準備ってもんが」

「いや、まあ俺も余裕を持って行動していたしな。手持ち無沙汰で待たせるのも悪いから声掛けたんだけど」

「……十分待たされたわ、ド阿呆……!」

 

 少し涙目になりながらも笑う姿に遠い日の思い出が蘇る。あの時と同じ顔だけど泣き笑う意味は昔と違う。

 

「悪いな。でも、これでハリーセンを口に放り込まれる事はなくなったわけだな」

「……覚えてるんやったら、もっと早くこんかい、ド阿呆……!」

「悪い悪い。……それにしてもアレだな、久しぶりにお前と会って思ったんだけど」

「……なんや」

「お前、完璧超人なのに背はあんまり伸びなかったのな」

「自分が伸びすぎなんじゃ、ド阿呆……!」

 

 チリが落ち着いた後はスクールを案内してくれた。何せそこらの大学の規模とは比較できないほど巨大なのだ。俺一人だけだと間違いなく迷っていたし、部外者の俺が大手を振ってスクール内を歩けるのもチリのお蔭だ。俺を引っ張って彼方此方連れまわされるのも随分と久しぶりのことで、パルデア初日としては随分の充実した一日になったと思う。ただ、少しばかり気になることもある。

 

「なぁ、チリ。今更聞くのもなんだけどさ」

「なんや?」

 

 スクール観光を終えて時刻は夕暮れ、スクールから離れながら俺はチリに聞く。

 

「スクールを案内してくれたのは凄い助かったんだけど、別に講師陣と顔を合わせる必要はなかったんじゃないか? いや、別にそれに不満があったとか、そういうわけじゃないんだけど」

 

 廊下ですれ違って挨拶をしたとかのレベルではない。校長室にまで行ってクラベル校長にまで挨拶しにいったくらいだ。特に美術担当にしてチリと同じ四天王だというハッサクは俺のことをじろじろと全身を舐めまわすように見たかと思うとしきりに頷いていて意味が分からない。

 

「ん? んー、それはアレや。やっぱりキシはまだ部外者やから挨拶しに行かんとな」

「そういうものか? いや、国が違えばそういうこともある、のか?」

 

 なんとなく釈然としないものを感じながらも俺は渋々納得した。

 

「にしても助かった。まだ時間あるか? 腹も減ったし、礼も兼ねて俺が奢るわ」

「自分、太っ腹やなぁ。チリちゃんが良い店知っとるから案内したるわ―――と、言いたいところなんやけど」

「ん?」

 

 チリの足が止まる。止まった先にあるのは誰でも使えるように整備されたバトルフィールドだ。

 

「ちょっと、その前に用事を済ませとこか」

「お前、まさか」

「トレーナー同士、目があったらやることは一つやろ?」

 

 にやり、と笑うチリに俺は乗り気ではない。バトルを行うことは吝かではないが、相手は四天王だ。

どう足掻いたって勝てやしない。流石にチリもフルメンバーの本気で来ないだろうが、そんなものは何一つとして安心材料にならない。

 

「……その割にスクール内じゃ一度もバトル仕掛けられなかったけどな」

「……あー、ちょっとバトルが好きすぎた生徒のせいでな、スクール内じゃポケモンバトルが出来なくなったんや」

「ソイツは一体どんなバーサーカーだよ」

 

 どう考えてもヤバい戦闘狂だ。誰かは知らないが間違っても近づきたいとは思わない。

 

「まーそれは今ええやろ。バトルやバトル!」

「―――面白そうな話をしていますね」

 

 はしゃぐチリからどうやって逃げたらいいものか頭を悩ませていると、背後から声を掛けられた。

落ち着き払った女性の声、振り向くとそこには豊かな黒髪の女性が一人。少しばかり浮世離れした雰囲気で、俺のセンサーがこの人は只者ではないとビンビンに警戒音を鳴らしている。

というか、チリがくれた写真に写っていた人だからこの人も四天王か。そりゃ只者じゃない。

 

「どうも、オモダカさん。……あ、こっちはキシです。ほら、前に話をした」

「ああ、幼馴染の。こんにちは、キシさん。私はオモダカ。パルデア地方のチャンピオンを務めています」

「ど、どうも。キシです」

 

 四天王かと思ったらまさかのチャンピオンだった。なんでこんなところにチャンピオンがうろついてるんだよ。チリといいフットワーク軽すぎだろ。そしてチリ、お前は何でチャンピオンに俺の事話してるの? オモダカ女史が一瞬捕食者の目になったんだけど。

 

「これからバトルを始めるのでしょう? であれば、私が厳粛にジャッジをしましょう」

「……」

 

 チャンピオンが審判を務めると言い出したポケモンバトルを一般人が断れると思う?

そんな事が出来るほど破天荒に育った記憶がない俺は渋々勝負を受け入れるしかない。

俺は覚悟を決めて両手で顔に気合を入れる。

 

「……やってやるよ。チリ! コガネじゃ俺が負けっぱなしだったけど昔の俺と同じと思うなよ!」

「―――へぇ、自分良い顔するやん。こらチリちゃんも本腰入れんとなぁ」

 

 俺は今しがたの発言を撤回したくなった。

 

バトルフィールドに向かい合い、お互いにボールを構える。野良バトルは数えきれないほど経験してきたが、ここまで緊張するのは久しぶりだ。

何せ相手は明確に格上だ。チリがどこまで本気でやってくるかにもよるが勝算は極めて薄い。

一つ光明があるとしたらタイプ相性だ。チリは昔から地面タイプのポケモンが好きで、四天王としての専門も地面タイプだという。昔の俺はチリに勝ちたいが為に水ポケモンを多く手持ちに入れていて、その影響か今でも手持ちの5体のうち3体は水タイプだ。

タイプ相性一つで勝ちを拾えるほど四天王が甘い存在ではないのは重々承知だが、今はそこに縋るしかない。

 

「―――行け、シャワーズ!」

「任せたで! ナマズン!」

「……」

 

 せめて俺のシャワーズが抜群を取れる地面単タイプを出してくれよ。

 

「では―――バトルスタート!」

 

 合図という名の処刑宣告を受けた俺に待ち受けたものは、やはりというか敗北でしかなかった。

 

 

 

 

「おま、卑怯だろ。テラスタルとか使いやがって……!」

 

 テラスタルとはパルデア地方特有のバトル要素だ。俺も知識として持っていたが、それを容赦なく使って俺を叩き潰してきたチリに戦慄を覚えた。

 

「いや、チリちゃんもテンション上がってな? 後テラスタルを使おうが使わまいが勝敗は変わらんかったと思うわ」

 

 俺の文句は返す刀で呆気なく両断された。

 

「いや、でもホンマ驚いたわ。自分、強いなぁ。いや、強くなった」

「……なんだそりゃ、皮肉か」

 

 数体チリのポケモンを落とすことに成功したものの、結果は惨敗だ。しかもトレーナーとしての力量をこれでもかと見せつけられたうえで、ぐうの音も出ない敗北。

 

「いやいや、皮肉やのうて本音やで? そら水タイプが手持ちに多かったけど、それだけで止まるほど柔じゃないつもりや。それを突破してきたってのは大したことやで」

「ええ、大したものです。敗北は敗北ですが、その中には諦めない気持ちと確かな研鑽が見てとれました」

「そ、そうですか?」

 

 拍手をしながら手放しに褒められてちょっと照れた。多少のリップサービスは入っているだろうが、チャンピオンからの賞賛は心地よい。死ぬ気で抗った甲斐もあったものだ。まぁ、俺が死ぬ気で抗う羽目になった原因の半分くらいはこの人なんだが。

 

「……なんや、デレデレしおって」

 

 そして若干不機嫌になるチリ。何故コイツはこんな苛立っているのかと一瞬分からなかったが、オモダカ女史を見てピンと来た。確かに、もしそうであれば不機嫌になってもしょうがない。

 

「嫉妬か?」

「ハ、ハァ!? そんなワケないやろ!」

 

 こっそりとオモダカ女史に聞こえないように呟くと面白い反応を見せるチリ。これは当たりだ。

 

「どうかしましたか?」

「あ、いえ、なんでも。……それで、どうですか? オモダカさん」

「そうですね、バトルの腕前は中々。人格も問題なし」

「なら―――」

「ええ、そうしましょう」

「……なんか不穏な会話に聞こえるのは俺の気のせいか?」

 

 二人はそこで会話を止め、チリは良い笑顔で俺に一枚の便箋の手紙を差し出した。

 

「あれ、お袋の字……」

「そ、実はキシのお母さんともちょっと手紙のやり取りしとってな」

 

 読んでみ、と促されるまま俺は便箋を読み込んいき、文面が進むごとに俺は自分の顔が引き攣っていくのを感じた。

やれ放蕩息子が心配だ、やれ社会性を欠如して将来浮浪者にでもなるのではないかと実の息子をこれでもかと扱き下ろした挙句、アルバイトでもなんでもいいので扱き使ってやってくださいという文で最後だ。

 

「……オモダカさん、今日此処にいたのは偶然ですか?」

「さぁ? どうでしょう」

 

 なんでこんなところにいるのかと思ったらチリの手引きか。確かにバトルの運びから何か作為的なものを感じたが、まさか俺のような若造にチャンピオンが足を運ぶとは。

バトルで火照った身体が急速に冷えていくのを感じた俺は逃げ道を確保すべく周囲を見渡すが、オモダカ女史が目に入って俺は逃げることを諦めた。

 

「実はパルデア地方のポケモンリーグは人材を早急に欲していまして、チリさんの提案は渡に船でした」

 

 もう俺が働く体で話が進んでいるが俺は一言も了承したと言っていない。

 

「頼むわ。どっかの誰かさんはポケモンリーグの営業社員とジムリーダーと四天王を兼任してるくらい人手不足なんや。どの道旅をするにはまとまった金が必要やろ? アルバイトすると思って引き受けてぇな」

「えぇ……」

 

 今のお前の言葉で引き受けたくなくなったよ。その人良く生きてるな。

 

「アレは頑丈なので平気でしょう」

 

 そして容赦のないオモダカ女史。確かにチリの言う通り、これまでの旅費で俺の蓄えは大分減っているからどこかで纏まった金が必要なのは確かだが、こんなブラック企業の社長の元で働くのは勘弁願いところだ。

 

「あの、ちなみに拒否権とかは?」

 

 オモダカ女史は何も言わずににっこり笑った。せめてなんか言ってくれ。

チリの方はどこか不安そうな顔で、俺の事を見ている。そりゃ俺が断ったらチャンピオンの顔に泥を塗ったことになるから当然か。流石に四天王としての進退に関わるほどではないと思うが―――。

 

「……なぁ、チリ」

「な、なんや?」

「お前は、俺にどうして欲しい?」

 

 気乗りはしない。しかし、チリのことを考えると安易に断れない。だから俺はチリに判断を任せることにした。思考を放棄したと言い換えてもいい。

 

そして、ちょっと照れたような様子を見せながらも告げられた言葉に俺は肩を落として観念することになった。

 




【キシ】
チリ→地理→地理と歴史→レキシ→キシという安直なネーミング。
知的を装ったつもりの頭ポンコツ。というか全体的にポンコツ。

【チリ】
遠距離恋愛を拗らせた恋愛ポンコツ。
壁。
可愛い。

【アオキ】
三足の草鞋を履くエリート社畜。恐らくポンコツではない。
主人公の上司として仲良くオモダカ女史に扱き使われる模様。

【オモダカ】
ブラック企業の社長。
手持ちのポケモンやら戦術が悉く微妙なことに定評がある。

【ネモ】
別名ヒソカ。
スクール内のバトル禁止は独自設定。
バトル以外はポンコツ。
恐らく出番はない。




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