顔面種族値600族の幼馴染に尻を狙われている 作:Mamama
Qチリの手持ちのナマズンの特性って『ちょすい』だったっけ?
A誠にごめんなさい
四天王とはその地方のトップトレーナー集団だ。チャンピオンに立ちふさがる最後の難関であると共に、チャンピオンに最も近い位置づけがされているエリート集団。
その一員に属するチリもまた、高名なトレーナーとしてパルデアで名を馳せている有名人なのだが―――。
「……なぁポピーちゃん、ウチどうすればえんやろ……」
ポケモンリーグのバトルフィールド、その片隅でポピーの足に縋りついていた。
「どうすればいいのかといわれてもポピー、よくわからないですよ」
本当に珍しく、挑戦者に敗北したチリは続く第二試合で挑戦者を蹂躙し尽くしたポピーに弱音を零し、ポピーは困惑しながらもチリの頭を撫でている。
「そういえば、チリちゃん。ちょうしがわるかったです? まけちゃうなんて……」
「ああ、うん。……みっともない姿、見せてもうたな」
「えーと、にんげんだれしもよくないときがあるってハッサクおじちゃんがいってましたの!」
「ははは、ポピーちゃんは大人やなぁ」
チリはようやく立ち上がり、ポピーの頭を撫でまわす。そこでようやく鬱屈とした気分が多少は晴れた。
「それで、どうしたんです? いまならこのポピーがそうだんにのってあげますの」
「うーん、でもちょっとポピーちゃんには早いかもな。もうちょい大人にならんと」
「ポピーのあしにすがりついておいて?」
「うっ……! 言うなぁ、自分。うーん、そうやなぁ……」
確かに先ほどの醜態は間違いなく無様なもので、ポピーの言葉は正しいものだ。とはいえ相談相手という意味では残念ながらポピーは不適合だろう。
何せ幼い。若いどころか幼い子供に複雑な情緒を理解しろと言われても難しいだろう。
しかし、だからこそチリの口は開きやすくなったのかもしれない。
無垢な子供はある意味で愚痴りやすい相手だ。それに付き合わされるポピーにとっては迷惑な話だろうが。
「……昨日のことなんやけどな―――」
少しばかり高揚感があったことは否めない。だってそうだろう。相手側が例え何も考えていないとしても、もしかしたらという気持ちが一欠けらも存在していないと言ったら嘘になる。
僅かに浮ついた雰囲気はすぐに吹き飛ぶ。
主にポケモンリーグ職員が使う社宅に一歩足を踏み入れた時、最初に感じたのは懐かしさだった。
ずっと昔、彼の部屋に遊びに行った時に感じた匂いと同じもの。リビングに通じる扉からひょっこり顔を覗かせた彼の顔は、一瞬だけ子供の姿にダブって見えた。
ずっと昔の思い出の中に浸かっているような、そんな気持ち。
勿論それは自らが作り出した都合の良い幻想で、すぐに子供の姿は消えて現実に戻される。
けれど、彼は変わらずそこにいる。幻ではなく、手を伸ばせばそこにいる。
『……なんや、おったんか』
『何言ってんだ? 俺がインターホン出ただろうが』
『ん、そうやったな』
『大丈夫か? 疲れてるんじゃねえか?』
もしかすると本当に疲れていたのかもしれない。彼が言った通り、インターホンに対応したのだからいるに決まっている。
それでもふわふわとしてどこか実感を伴わないのは、離れていた時間がそれほど大きかったということだろうか。それほどに現実味がない。
『大丈夫や大丈夫! ちゃーんと自己管理しとるから安心しい!』
自然を装って肩を叩く。手を通して、その温度が伝わる。
嗚呼、ちゃんと彼はそこにいる。幻ではなくて、本当にそこにいる。
そうして、昔の記憶の続きを見るのだ。
だから、今はそれで充分だ。
正直に言ってチリは自信を持って料理が得意だ、とは断言できない。
自炊派でパルデアの家庭料理は一通り作れるから平均以上という自負はあるが、特段料理を専門に学んできたわけでないから、ちょっとした不安はあった。
しかし彼の粗末な食事事情が味方をし、チリが出した料理は次々と美味い美味いと連呼する彼の胃袋に収まることになった。
チリもそんな彼の様子を見ながら少しずつ食事を摘まみ、家にあった酒類を開け始める。
話は弾んだ。手紙や通話のやり取りは幾度とあったが、落ち着いて話すことはなかった。
アオキの良くない影響を受けたのかいきなり仕事の鬼と化した彼は中々の多忙のようで、結局今日に至るまでお預けをくらっていたのだ。
話題はいくらでもある。
昔のこと、今のこと、未来のこと。
酒が入ったせいか同じ話題を繰り返し、意味不明なギャグで笑いつつ時間は過ぎて。
話が進むに連れ、飲酒量も増えて―――結果的に深酒した。
チリはアルコールに対する耐性が低いわけではないが、かといって特別高いわけでもない。
だらだらと駄弁っているうちに許容量を超えていることに気付かなかったようだ。
くらくらと頭が揺れる。
身体が左右に揺れているのか、あるいはアルコールに頭が揺らされているのか定かではない。
ふと、唐突に嘔吐感がこみ上げる。むかむかとした不快感が身体の奥底からこみ上げてきて咄嗟にお腹をさする。
『……アカン、気持ち悪い』
『おま、絶対吐くなよ。いや、吐いても良いけどせめてトイレで吐け』
『……誰が吐くかいな。チリちゃんはトイレも行かんし嘔吐もせんわ』
『昔のアイドルみたいなこと言うなよ。……立てるか? 付き合わせて悪かったな。明日はお前も仕事なんだろ。そろそろお開きにしようか』
『泊めてくれへん? 家に辿り着けそうな気がしないわ……』
その台詞は何かを狙ったものではなく、心の底からの本音だった。こんな状態で外に放り出されても家まで帰れそうな予感がしない。
『そうだな。こんな酔っ払いを野に放つのも気が引けるし。……あ、でも寝床が無い。いや、まぁ俺が飲ませたようなもんだし、ベッド使っていいぞ』
『二人ぐらいギリ入るやろ』
『お前の寝ゲロの餌食になるリスクを考えたら床の方がマシだわ』
『……ほーん?』
その言葉には流石にイラっとした。こんな出来た可愛い子を捕まえて出てくる言葉がそれか、と自身のプライドを盛大に傷つけられた。酒が入って少しばかり気も大きくなっていたのかもしれない。
両手を伸ばす。きょとんとする彼の顔を両手で包んで、ぐいと近寄る。
『……おい、なんだよ。この近さに危険を感じるんだが』
にへら、と笑う。なんだかんだ言ってちょっとは意識してるんじゃないか、と胸がすく思いがした。
『なんやぁ、こんな美人に迫られてクラクラ来てるんか?』
『こんな青白い顔で迫られたら危機意識の一つくらい湧くだろ』
『はぁ? 照れとるんか? こんな顔真っ赤にして説得力ないわぁ』
『酒が入ってるからだろ』
この辺りから記憶が朧気だ。記憶はあるのだが、これまで以上にずっと続く浮遊感は夢を思わせる。
『なー、キシ』
『お、おう。なんだよ、つうかいい加減顔放せ』
『今、好きな人とかおるん?』
『修学旅行かよ。なんでそんな脈絡のない……いや、別にいないけど。今は仕事に慣れるので大変だし』
『ほーん、なんや勿体ないなぁ』
彼の顔は悪くない。精悍と言うには間が抜けた顔立ちだが身長は高く、昔の内気な性格も随分と改善された。
『お前の方は? オモダカさんと上手くやってんのか?』
『トップ? そらエエ人やけど……あ』
ずる、と滑る。顔面からテーブルに激突するのを防いだのはそれを受け止めたのは彼だった。咄嗟に動き、チリを横から抱き上げる形だ。
『お前、酔い過ぎだって。水持ってくるから……おい、止めろ抱き着くな。暑苦しい』
『んー』
『頬ずりすんな、気色悪い。そういうのはオモダカさんにやれ』
何か言っているが、良く聞こえない。全身に感じる心地よい暑さを堪能するだけで精一杯だ。
『キシに好きな人がおらんなら、付き合おっか』
『……は?』
顔を上げてみるとポカンとした顔が目に入った。思いもしなかったことを言われたかのような表情。
『お前、それは……。いくら酒の席だからって。……え? マジで? い、今こんな場所で言うのか?』
『なんやぁ? この場で言っちゃいかんかったんか?』
『言っちゃいかんというか……カミングアウトするにしてももっといいタイミングあっただろ。身の危険を感じるんだが』
『そらこれでも四天王やから世間からなんやかんや言われるかもしれんけど、身の危険は過剰やろ』
『四天王にはそういう問題もあるのか。……ああ、そうじゃなくて』
『……う゛』
いきなり動いたのが良くなかったのかもしれない。こみ上げる不快感に咄嗟に離れて口で手を覆う。
『アカン、吐きそう……』
『あ、馬鹿! リビングで吐くな! 飲み込め!』
『む、無茶言うなや……』
小走りでトイレに連れていかれ思う存分吐き―――そこでチリの記憶は完全に途絶えている。
「―――まぁ、そんな事があったわけやな。一部記憶が飛んどる部分があるけど」
「それで、そのおとこのヒトは?」
「なーんも。朝起きたら素知らぬ顔やし。……それでどうしたらエエもんかな、と」
朝起きるとチリはベッドに寝かされていて、既にキシが朝食を準備していた。
酔いもすっかり冷めて理性が戻ると沸き上がるのは後悔と羞恥の感情だ。
キシの方はいつもと同じような態度で、果たして昨日のことを忘れているのか或いは忘れた振りをしているのか、チリには判別出来なかった。
そうしているうちにチリも昨日の出来事が本当にあったことなのか疑問を感じ始めるようになった。
何せ嘔吐するほど深酒していたのだ、記憶が都合良く捻じ曲げられていてもおかしくはない。
「だいじょうぶですよチリちゃん! ポピーがそのカスをまっさつしてあげますから!」
「どこが大丈夫なん!? 殺意高すぎやろ!」
「だって、チリちゃんをこまらせるヒドイひと、ゆるせないです! だいじょうぶです、してんのうでとってもつよいポピーとカス、どっちにしんようがあるかだれでもわかりますの!」
「ああ、アカン! この子自分の武器をちゃんと理解しとる!」
飛び出そうとするポピーを必死に宥めるのにチリは大変苦労した。
そうした後、行われたのがチリに対する駄目出しだ。
「チリちゃんはとってもカッコいいですけど、かわいさがたりないとおもいますの!」
「うーん、そらこの恰好が色気ないことは分かっとるけど」
ワイシャツにパンツスタイルだ。これで色気を感じろというのも難しいだろう。
「スカート履くとか、もうちょい可愛めの服装にするとか、まぁ色々手段があるのは分かるけどなぁ」
別にスカートが履けないわけではない。履くのに少しばかり気合が必要な程度だ。
今のチリの恰好はああいう如何にも可愛いというか、そういうものはあまり自分に似合っていないだろうな、という思考の末に生まれたものだ。
「チリちゃんはほそみだから、スカートもとってもにあうとおもいますの。あとはムネをきょうちょうするとか―――あ、ごめんなさい」
「謝んなや、居た堪れなくなるやろ」
「だ、だいじょうぶですの! ほら、ポピーもぺったんこですから! ね?」
「抑えるんやチリ……! ポピーちゃんは悪気があって言っとるわけやない……! 子供に手を上げたらアカン……!」
幼い子供と同一視されたチリは沸き上がる破壊衝動と戦う為に理性を総動員する必要があった。
「―――ううむ、小生も彼女の手助けをしてあげたいが……しかし、こればかりは当人の問題。いやはや、悩ましいところです」
難しそうな顔でハッサクは腕を組んで唸る。
珍しくチリが敗北をしたと聞いてこっそり続く第二試合を見てきたのだが、挑戦者はあっさりとポピーによって敗れた。本来であればチリでも打倒が出来ただろう。チリが破れたのは本人のメンタルの部分が大きい、とハッサクは結論づけた。
「そういえば、彼はアオキの元で働いていると聞いたが」
「……ええ、まぁ」
聊か覇気に欠ける声でアオキが答える。
「小生も一度お会いしましたが……まぁ、少し言葉を交わした程度。人となりはどうなのですか、アオキ」
「どう、と言われても」
今度はアオキが悩まし気に唸る。
「……助かっています。事務業務に不慣れな部分はありますが、気配りが出来る方で」
「ほう」
「宝食堂のスタッフとも打ち解けています。まだ一月。それを考えれば優秀な人材でしょう」
「成程」
アオキは良くも悪くも飾らない性格だ。少なくとも誰かを明確に贔屓したりするような性分ではない。
であれば、アオキの評価は事実なのだろう。
「―――ただ」
「む?」
「……ああ、いえ。これは話すべきではない、ですね」
「何か問題があると?」
続くアオキの言葉はハッサクを不安にさせた。
「……」
「話したまえ、キシくんに何か問題があるのかね?」
自然と詰問するような強い言葉になる。鋭い視線を受けてアオキは逃れるように顔を逸らす。
「……問題。いえ、そういうわけでは。……しかし」
逡巡したのち、アオキはハッサクに向き合う。
「一月ですが、人となりは問題ないかと。ですが、その……危うい部分があります」
「それは具体的にどのようなことなのですか?」
「……言えません」
「アオキ」
流石にそれは通らないだろう、と続けようとハッサクは言葉を飲んだ。アオキの顔を見るといつも以上に頑なな顔だ。彼なりに事情があり言い出せないのだ。であれば、言い出せない理由とは何か。
「本人が抱える問題です。自分が、軽々に話していい内容ではありません。偏見を、生んでしまう」
「……分かりました」
ハッサクはそこで折れた。アオキがそこまで拒否するのであればいくら言っても無駄だろう。
しかし、一体何を抱えている。偏見を生んでしまうとは何なのか。もしや―――精神面で何か抱え込んでいるものがあるのか。
悩んでいた時間は長かったようだ。気づくとアオキの姿はなく、自分一人だけが取り残されていた。
「……確かめなければいけませんね」
お節介と言えばそうだ。当人達の問題に首を突っ込むのは正しくないだろう。
だから、これからのハッサクは四天王ではなく一教師として動くのだ。
ハッサクは未だにポピーとなにやら話をしているチリの姿を見る。
あれが、恋をした彼女の顔なのだろう。花が綻ぶように笑うチリの表情は、美術教師として筆を握りたくなるほど美しいものだった。
【キシ】
殆ど出番が無かった。
推敲する前はチリによる淫夢語録の餌食になりかけていた。
【チリ】
散々キシのトイレにゲロを吐いた。
彼女の掘り下げはもう少しあります。
【ポピー】
超強い幼女。
推敲する前はサスペンスドラマ好きとかいう意味不明なキャラ付けがされていた。
【ハッサク】
実はとても動かしづらい。
そもそも出そうとも思ってもいなかったが何故か出てきた。