砂場の魔女 登場
「デアッ!」
真っ赤な巨人が、野太い掛け声とも走り出す。
巨人が走るたびに地面が震え、空間全体に衝撃が迸る。
メルヘンチックな風景であるこの空間において、筋肉隆々の巨人の姿は明らかに浮いていた。だが、そんなことはお構いなく巨人は眼前の敵へ目掛けて向かって行く。
巨人が敵だと見定めた相手。それは、不気味な化け物である。生物と言えるのかわからない風体であり、頭部には薔薇、背中には蝶の翅、脚は触手のように蠢いている。
一方、化け物は、巨人に対して怒り激昂していた。自分の縄張りに現れた人間を助けたばかりか、信頼している自分の手下たちを全て葬ったからだ。
無数の蔓を巨人へと飛ばす。けれども、巨人の勢いは止まらず、飛んできた蔓たちを弾き飛ばしながら化け物へと迫る。
「ダアアア――ッ!!」
そして、化け物の前に接近し、頭部目掛け勢いよく拳を繰り出す。巨人の剛腕から放たれた渾身の拳は、生えている薔薇ごと化け物の頭を粉砕した。
頭を失った胴体は、ふらふらしているが巨人は透かさず手先に気を集中させる。集められた気は、燃え盛るエネルギーへと変わっていく。巨人は、集まったエネルギーをボール状に固める。
「ゼリャアアアッ!!」
太陽のように燃え滾ったエネルギーボールを巨人は、化け物へと放つ。
頭を失ったターゲットにこの攻撃を回避することはできなかった。エネルギーボールが直撃した瞬間、化け物を跡形もなく焼却した。
化け物が焼き尽くされたことを見届けた巨人は、助けた人間を見る。人間の女性は、恐怖から解放され安心していたのか、すやすやと眠っていた。
ふとメルヘンチックな空間が歪み始める。空間の主がいなくなったことで維持できなくなっていたのだ。
みるみると風景が現実に戻っていくのを見た巨人は、全身に光を纏う。すると、化け物と互角の大きさえあった身体が段々小さくなっていった。やがて、巨人の姿は人間の少女へと変わった。
少女は元の路地裏に戻ったことを確認し、周囲を見渡す。近くに落ちている茨の模様の黒い物体を拾うと、眠っている女性を人が見つけやすいよう路地裏の入口へ移動させる。
少女は、学校カバンを手に取って叔父が待つ家へと帰るのであった。
◇
「行ってきまーすッ!!」
本日の天候は、快晴。雲一つすら無く、照り付ける太陽の光が輝かしい程であった。
「待ちなさい、。弁当、忘れているぞ」
カメラケースを肩に掛け、玄関のドアを開けようとした私を叔父が呼び止める。叔父は、黒スーツの上にエプロンという何とも言えない格好で弁当を持ってきた。以前、スーツ以外の服はないのか叔父に尋ねたことがあったが、いつも決まってこの格好の方が都合がいいとしか返さなかった。
「あ、いっけない!ありがとう叔父さん!」
叔父から、風呂敷に包まれたお弁当箱を受け取り学校のカバンへと詰め込む。再度ありがとうと伝え、今度こそ玄関から外に駆け出す。
バスに揺られること数十分、私は南凪自由学園に到着する。校門を抜けた先で不意にカシャッという音が鳴った。シャッター音に少し驚いた私が、音が鳴った方を向く。すると一眼レフカメラを手に持った金髪の少女が再びシャッターを切る。
「良い表情、いただきました!」
腕に赤い腕章を付けた彼女の名は、観鳥令。ここ南凪自由学園で新聞部に所属しており部長でもある。彼女が掲載するゴジップ新聞『観鳥報』は、個人の功績から隠しておきたい秘密までありとあらゆるネタが彼女の手によって掲載され一種の名物となっている。
「あ~~また部長にしてやられたぁ~~」
「ハハハッ。春野チャンは、隙が多いからね。観鳥さん、撮り放題さ」
「流石、シャッターチャンスは絶対に見逃さない部長。私もまだまだ甘いなぁ」
かく言う私も新聞部に所属している。『観鳥報』には到底及ばないが、自分のネタで記事を組んで掲載している。まぁ、主な記事は動物をターゲットにしたもの。たまにペットの里親募集もやらせてもらっている。新聞部の活動は結構楽しく、珍しいものが良く撮れる。特に部長と一緒にでネタを探しに行った時も二重になった虹を撮影出来たりと幸運に恵まれる。
観鳥部長と楽しく談笑していると鐘の音が響く。
「やばッ!ホームルームに遅れる!!部長、また後でッ!」
「わかった。また放課後、部室で会おう」
部長と別れ、急いで教室に向かって行く。新聞部の活動で鍛えた足腰を生かし、風紀委員に怒られないような速さで走る。
いつもと変わらない、朝の一幕であった。
―――放課後。
日直の仕事を終えて、新聞部の部室に向かっていると、大きな資材を運んでいる都 ひなの先輩を見かけた。
ひなの先輩は、私と同じ中央区で暮らしている人でとても面倒見の良い人だ。身長が小さく、制服の上からだぼだぼの白衣を着ているためか見た目も相まって幼く見える。ただ、こう見えても『先輩』。つまり、高等部に在籍してる年上である。初対面の時は、思わず小学生だと勘違いして怒られたこともある。
ひなの先輩とは、部長を通して知り合った。先ほど言った通り、怒られはしたが本人は、よく間違われるから無理もないとあっさり許しくれた。
先輩が時折開催している子ども科学実験教室には教室のセッティングや資材運搬も手伝っている。
「ひなの先輩!荷物持ちますよ」
「春野か。すまない、助かる」
先輩が持っていた荷物を受け取り、科学部に向かって歩き出す。
「そうだ、春野。来週の土曜、また実験教室をやろうと思ってるんだが手伝ってくれるか?」
「もちろん良いですよ。そん時の写真、撮って新聞に掲載しても構いませんか?」
「良いっていつも言ってるだろ。毎度許可取らなくても良いんだぞ?」
「職業柄、許可取らないと気が済まなくって・・・」
そんなこんなひなの先輩と会話していると、科学部の部室へと到着する。
部室の入り口では、観鳥部長が誰かを待っているような素振りをしていた。
「あれ?観鳥部長!」
声をかけるとあっちもこちらに気が付いた。
「お、奇遇だね春野チャン。それにひなのさんも一緒か」
「よぉ、令」
どうやら部長はひなの先輩に用があったらしく、長引きそうなため今日の新聞の編集作業は無しとなった。
―――南凪区
予定が無くなり、そのまま家に帰るのも気が引けた私はネタになりそうな写真を撮るべく海浜公園へとやってきていた。南凪区は、神浜市の南に位置している。この区の特徴と言ったら海が近いことだろう。今いる海浜公園をはじめ、海水浴場がる。他にもアミューズメント施設もあり、かなり人気スポットが多い。
今まで犬や猫、鳥の写真を撮っていたため久々に魚の写真を狙おうと思っていたのだ。
辺りを散策し写真を撮っていると、カメラのレンズが人影を捉えた。
橋の歩道をふらふらと歩く人々。何かパレードが起きているのかと始めは考えていたがそんな予定は、発表されていない筈である。
何か嫌な予感を感じた私は、近くにあった自転車を拝借し急いで人の行列が出来ている橋へ急ぐ。
橋に到着すると先頭にいた人が橋の手すりを乗り越えようとしていた。
「待て待て待てッ!!何しようとしてるのッ!?」
咄嗟に飛び降りようとしていた人を羽交い絞めして抑えるもまるで誘われるかの如く、手すりへ向かおうとする。
その時、観鳥部長から電話がかかった。
「春野チャンッ!今どこにいるんだっ!?」
「部長ッ!今、海浜公園の大橋にいますッ!なんかたくさん人が集まって橋から飛び降りようとしてるんですッ!」
「なんだってッ!?観鳥さんも都先輩を連れてそっちに向かってる!到着まで何とか持ちこたえてくれッ!」
「そんなこと言われても・・・」
観鳥部長と話していると、後ろから勢いよく背中を押され橋から突き落とされた。
「アッ‥‥」
落下していく最中、私を突き飛ばしたであろう人々を見た。誰も生気を失った眼をしており瞳のハイライトが消えていた。首筋には変なシールのようなものが確認できた。
ゆっくりと私の身体は、落ちていく。
そしてそのまま謎の空間へと引き込まれていった。
――――謎の空間
橋から落ちていたはずの身体は、砂場に落ちていた。
「痛ッ・・・ここどこ・・・?」
辺り一面砂丘だらけ。周りには黒い柱が立ち並んでおり、所々遊具が突き刺さっていた。状況確認に辺りを見渡していると、突然地面が大きく揺れ動く。そして盛大な音を立て、地面から巨大な人型が現れた。
茶髪のロングヘアに黒いドレスと一見、お嬢様のような風格だが頭にバケツを被りシャベルが突き刺さっていた。これだけでも十分インパクトが強いが、それを差し引いても人型は砂のお城づくりに取り組んでいる姿が異様だった。
面食らっている私に気づいたのか、人型は作りかけの城を壊し咆哮を上げる。
「ズシャアアアア―――!」
「□▽★※◎◆♯ポッー!!」
人型の咆哮に呼応して、周囲にいた蟻のような生物が一斉に襲い掛かってくる。
絶対絶命に陥ったその時、何かが盛大に爆発する音がした。
「大丈夫かい?春野チャン」
「間に合ってよかった」
煙が晴れると、またまた面食らう光景がそこにはあった。
猫耳を生やしたひなの先輩。観鳥部長にいたってはサスペンダーにホットパンツ、ノースリーブのシャツを目を疑う格好をしていた。カメラがあれば間違いなく激写していたであろう。
「部長にひなの先輩…その恰好は一体…」
尋ねた質問に二人はバツの悪そうな顔をする。
「まぁ…これには分けあってね」
「そんなことより、どっか隠れてろ。危ないから」
そういうと観鳥部長はカメラをバズーカに変形させ人型目掛けて放つ。ひなの先輩も薬品の入ったフラスコを蟻もどきに投げつける。
戦いの光景に圧倒されていると怒った人型が、盛り上げた砂を崩し、雪崩のように浴びせる。
部長と先輩は回避するも私は間に合わず砂に飲み込まれてしまった。
「春野チャンッ!!」
「春野ッ!!」
―――砂の中
砂の雪崩に飲まれ、息苦しくなる中、懐から蒼く小さな石を取り出す。
(コスモーーースッ!)
砂の中で石を掲げ叫ぶ。
すると青と金の光に身体が包まれそこから蒼い巨人へと変身した。
―――空間内
「シュアッ!」
巨人が、蟻もどきたちを踏みつぶし人型の前に降り立つ。
「ズシャアーーー!」
巨人の姿を見た人型は、さらに激昂し巨人へと迫る。
「フッ!ハアッ!!」
駄々をこねるように腕を振り回す人型。しかし、巨人は滑らかな手つきで攻撃を捌いていく。
「ズシャアーーー!」
攻撃を受け流され、地面を転がる人型。足元の砂場から砂を掬い巨人へと投げつける。
「危ないっ!!」
令が叫ぶが巨人は砂を真正面に受け止める。そして全くの無傷のまま再び人型に組み付く。
「セアッ!フッ!!おりゃああッ!」
暴れる人型に巨人は掌底を叩き込み、吹っ飛ばす。
大き飛ばされた人型は、もはや満身創痍でよろめいていた。
「ハアアアーーーッ!」
巨人はゆっくりとエネルギーを右手に集約する。右掌をゆっくりと前に突き出しながら人型へ向けて光線を放った。
たちどころに人型は光に包まれると、戦意を喪失し手を止めた。
「魔女が‥‥」
「おとなしくなっただと…?」
人型はうなだれたまま、ゆっくりと光の粒になって消えていく。最終的には、黒い物体を残して完全に消えてしまった。
「あれがうわさの魔女を狩る巨人…!」
「折角会えたんだ。大人しく観鳥さんに撮られてちょうだいな!」
「シュワッッ!」
令がカメラを構えたその時、巨人は高速で飛び去り姿を消してしまう。
巨人が去った後、空間は元に戻り、橋の下にある河川敷にいた。
―――河川敷
巨人を取り逃した令とひなの。黒い物体『グリーフシード』を拾うも浮かない表情を浮かべていた。
「春野チャン…」
「令…気を落とすな」
小さい身体ながら令を慰めるひなの。そこに‥‥
「おーいッ!部長!先輩ッ!」
後輩の声を思わず二人は驚く。
「春野、無事だったんだな!」
「よかった。心配したんだぞッ!」
再会を喜び合う三人。ひとしきり喜び合った後、ひなの先輩は私に尋ねてきた。
「なぁ、春野。お前、なんで無事だったんだ?」
「それは、観鳥さんも気になるなぁ。教えてくれないかい」
「巨人が助けてくれたんです!」
「「巨人が?」」
「はい。砂の中から拾い上げてくれたんです」
私の返答に二人は訝しんだ。
「巨人っていうけど、名前ってあるのか?」
「名前なんてないですよ」
「嘘つけ。名無しの権兵衛なんて今時いるかよ」
詰め寄られる私は、あることを考えた。
「じゃあ、『ウルトラマン』なんてどうかな?」
「「『ウルトラマン?』」」
「そそ、とっても大きい巨人だからウルトラマン」
その返答にひなの先輩は納得がいったように頷いた。ただ、観鳥部長はまだ納得してはいなかった。
「それだけじゃあ、なんか物足りないなぁ…。観鳥さん的にはウルトラマンの後にコスモスなんてどうだい?」
「コスモス?」
「そう。秩序という意味を持つ言葉から取ったんだ。実際、春野チャンを助けてくれたんだ。悪い奴じゃないと観鳥さんは、そう思うよ」
私はその名前に魅力を感じ頷いた。
「よし、今日からあの巨人は『ウルトラマンコスモス』と名付けよう!」
和気あいあいとした中、私はひなの先輩と部長にあの姿について聞いてみた。
すると二人して急に黙り込んでしまった。少し、間を置くと二人は口を開く。
「春野、信じられないかもしれないけど、観鳥さんたちはね」
「『魔法少女』なんだ」
「‥‥―――ええええええッ!?」
こうして私は、日常の裏に潜む怪物『魔女』と戦う『魔法少女』と出会った。
だからこそ、想像もしていなかった。魔法少女との遭遇が大きく運命を左右することに
プロフィール
春野 勇奈
性別:女性
学校:南凪自由学園 中等部
出身地:神浜市中央区
部活:新聞部
家族構成:叔父
神浜市で都市伝説となっている巨人『ウルトラマンコスモス』に変身し、凶悪な魔女と日夜戦っている。
いつもは、パトロールを兼ねながら新聞のネタを探している。
ウルトラマンコスモス
勇奈が、小さな青い石『輝石』を掲げて変身する巨人。
基本は、青い姿のルナモードで戦うが、凶暴性が強い相手に対しては赤い姿のコロナモードで戦いに挑む。
●今回の敵
薔薇園の魔女
中央区の路地裏に結界を貼り、薔薇の養分となる人間を誘い込んでいた。コスモスとの戦闘では、蔓を使って戦った。最期はコロナモードのプロミネンスボールによって焼却された。
砂場の魔女
南凪区の大橋に結界を作って多くの人間を魔女の口づけで操り、結界に引きずり込もうとした。だいぶ力をつけていた為か、魔法少女である令とひなのを相手に引けを取らなかった。
コスモスとの戦闘では、砂場の砂をかけたり腕を振り回して襲い掛かったが、通用せず最後はフルムーンレクトを放たれ、沈静化。浄化され消滅した。