俺の過去は散々だった。
金だ。金さえあれば全て解決していた。
父が病気で死んだのも、それは金さえあれば死なずに治せた。
母が塞ぎ込んでしまったのも金が無かったせいだ。
俺がずっと独りだったのは金が無かったせいだ。
その後、カジノで惨敗した俺は人買いに追われることとなる。
元々つるんでいだ奴らはすぐに俺を見捨てた。金の切れ目が縁の切れ目とはよく言ったものだ。
独りで逃げて、逃げて逃げて…たどり着いた先で彼女と出会った。
彼女の名はステラ。俺の誰からも不評だった下手くそな歌を、彼女は認めて褒めてくれた。その時、久しぶりに心が潤い、暖かくなった。きっと俺はここでステラに一目惚れしていたのだろう。
そんな最中に、彼女が囚われているヒューマンショップから1人の人物が現れた。
「気に入ったえ、わえの奴隷にするえ」
絶望だった。何せあの悪名高い天竜人様だ。もちろん必死に抵抗しようとしたが、既に人買いに追われた際に負った傷のせいで上手く抗えない。すぐにSPに取り押さえられ、俺は天竜人の奴隷になった。
「ついでにそこの女も連れてくえ」
やめろッ!と声を出す前に俺を捕らえていたSPに口を塞がれる。今は堪えろとSPは言う。何が堪えろだ。天竜人の奴隷となった彼女が辿る道は想像に難くない。
そうして俺達は何も抵抗出来ず、天竜人が治める国に連れていかれることとなった。
そこで俺は死よりも耐え難い苦痛を与えられる…
ことは無かった。
詰め込まれた屋敷はまるで貴族が住むような豪邸。豪華で栄養をしっかりと考えられた食事も与えられた。
これは夢だろうか。何度も顔を叩いたが目の前の光景は変わらない。
天竜人、ドラゴルド聖の望みはただ1つ。これから建てるコンサートホールで歌って踊り、この国を発展させること。
それから毎日の様に歌や踊りを練習する。恐らく世界中でもここより良い環境はそうそうないだろう。俺と同じく連れてこられた奴らもすくすくと、笑顔を取り戻しながら成長している。
その中にはステラもいた。
彼女は美しい。それだけで男達は彼女に寄っていく。ここでは結果を出せば出すほど給金を貰える。
1番金を持った男がダイヤモンドの指輪を片手にプロポーズした。
彼女は断った。
大きなショーで最優秀賞を取った男が彼女に持ちきれんばかりの大量の花を渡してプロポーズした。
彼女は断った。
その他にも、金が貯まった男共は次々と贈り物と共にプロポーズをして玉砕していく。
そんな中、俺は勇気を出せずにいた。
歌も下手。踊りも下手。当時はここで1番下手だっただろう。金も殆どなかった。
月が綺麗な夜。寝付けずにいた俺は、庭に寝転がりながら空を見ていた。何も考えず、無意識に昔から歌っていた歌を口ずさんでいた。
「素敵な歌ね」
心臓が跳ねる。
バッとはね起きるとステラがいつの間にか俺の隣に座り込んでいた。
「もっと聞きたいわ」
俺は彼女の要望に応えて歌った。母からも疎まれたこの歌。前までつるんでいた奴らからも殴られるほどに不評だった歌を、彼女は楽しそうにリズムに乗りながら聴いている。
自然と笑みが溢れる。
そんな時にふと、彼女が口を開いた。
「貴方は本当に楽しそうに歌うのね」
クスクスと笑う彼女に見惚れて頬が熱くなる。
この時の自分を今思い返すと恥ずかしくて、どうしようもなくて嫌になる。だがまあ忘れたいとは思わない。
他の男達が大金をはたいて贈り物をしている中、俺は庭に生えていた、白く美しい花を片手に勢い余って告白してしまったのだ。いくら美しいと言っても言わば雑草だ。
「フフフッ…フフフフフッ!!」
可愛らしく彼女が笑う。楽しそうに大きな声で笑う。その時の表情は何年経とうが忘れない。
「はい、喜んで」
この時俺は初めて、金で買えないものを見つけた。
「イッツアエンターテインメンツッ!!」
黄金が舞い上がる。それと同時に観客達が歓声を挙げる。
ここの舞台を見る奴らは皆満面の笑顔を浮かべている。
これも金では買えない。老若男女の屈託の無い、邪気の無い笑顔。
トップエンターテイナーともなれば収入は小国の全財産をも超える。だが今の俺には必要ない。
妻のステラとささやかな暮らしが出来ればそれでいい。殆どの収入は国の支援へと寄付している。
俺はこの国で、ドラゴルド聖に返し切れないほどの恩を受けた。それは生涯かけても返せないだろう。
信頼の証として貴重な悪魔の実をも分け与えてくださった。
俺はドラゴルド聖の期待に応えたい!ならば今俺が出来る最大限の恩返しを!ここ、GRAN・GOLDをもっともっと大きくしてみせる!
その為にも今日も俺はステラと歌い踊る。
「IT'S SHOWTIME!!」
一応pixivにも上げてみるえ