Fate/DebiRion.   作:遥野みしん

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10.トランプ遊び

「スペードのエース、前へ。ハートの3から9までは回り込んで」

 

 ましろの言葉に応えて粛々と動くトランプ兵たち。囲まれているランサーは表情一つ変えないまま、出てくる相手全てに付き合って槍を打ち合わせている

 

「スペードのエースは交代。準備してたダイアの2,3,4,出ろ!」

 

 ましろの言葉によって満身創痍のスペードのエースが撤退し、ダイアの三枚がランサーの前に進み出る。悔しいが、笹木に出来ることは何もなかった。

 

(ランサー、もういいよ。うちはここを引き払う)

(お前の居場所こそ常にローマ……! ローマは何処であっても栄える定めに満ちているのだ)

 

 ランサーは笹木に応えるように槍を掲げる。戦況は不利に見えた。今もダイアたちがランサーに槍を突き刺そうと迫り、ランサーがそれを槍で薙ぎ払おうとしたが、ダイアたちの動きはフェイント。槍を透かしたダイアたちは一斉に三方向に散らばってランサーにとびかかる。

 

「ランサー!」

「案ずるな」

 

 ランサーはダイアの一枚に向けて槍を構えて突進し、強引に押し込んで退路を作った。隙のできたダイアにランサーは槍を突き刺そうとするが、ダイアの後ろからハートの奴らが槍を突き出して邪魔をする。ランサーはそれを弾くと、辺りのダイアを警戒するように槍を構えなおした。

 

 何とか危機は逃れた形だ。だが、すぐに三枚のダイアたちはまた何かを仕掛けようとじりじりと距離を詰めてくる。

 

「クローバーの7から10までは準備して。回り込んでるハートの部隊はもっと圧をかけろ!」

 

 笹木にとって絶望的な指示がましろからとぶ。ランサーの後ろに陣取るハートたちが槍を構えて距離を詰めてくる。それでも彼らはランサーの槍の届く距離には入ろうとしない、ぎりぎりの距離を保ちながら隙を伺っているのだ。恐らく、先ほどのような逃げ道はもう無くなったと考えてもいいだろう。

 

「そろそろ頃合いか」

 

 ランサーが呟く。ましろはこてんと首を傾けた。

 

「逃げるつもり?」

「我々はみなローマへと通じる道を歩むのみ……」

「ローマ? え、なんでローマ? 君はローマ皇帝か何かなの?」

「あ、ストップ。お前ふざけんな。その口を閉じろ。令呪使うぞ」

 

 笹木がランサーに向けて脅すように言うと、ランサーは振り返って何とも言えぬ表情をした。

 

「そんな表情をしても無駄だぞ。今後敵の前でローマ禁止な」

 

 笹木が取り合わずに言うと、ランサーはがっくりと項垂れた。

 

「此の世は無情……ローマにもその無情さはあったのだ、しかし、人の温もりもまた……」

「ええいうるさい! やれランサー」

 

 その言葉に反応したランサーが槍を地面に突き刺すと、緑色の光が波紋のように広がっていった。

 

「なんだ、この光……後退、後退だ!」

 

 慌てて玉座を下がらせようとしたましろだったが、遅いと判断したらしい。玉座から飛び降りると、忙しなく腕を動かしアリスの元まで大慌てて退避した。果たして、その行動はすぐに正解だったとわかる。

 

 ましろの方へ走っていた玉座を担ぐ四枚のJたちが、地面から突如として湧き上がった森に呑まれてしまった。

 

「うわ、やばぁ……」

 

 ましろは呟き爪を噛む。アリスは目を丸くして森を見つめていた。

 

 森の中から戦闘の音が聞こえてきたが、もはや先ほどのように指示は出来なかった。魔力反応からトランプ兵たちが次々と倒されているらしいことがましろとアリスには感知できるだけだ。

 やがて、森の中からランサーだけが歩いて来る。

 

「ずるいずるい、こんなのずるだぁ!」

「そうだー! ずるいぞー!」

 

 ぴょんぴょん跳ねて抗議するましろと、ましろを真似てその場で跳ねるアリス、笹木は森の中に隠れたまま大声で笑いたてた。

 

「お前ら馬鹿じゃねーの!」

「な、聞こえたよ⁉ 馬鹿だって!」

「ああ言ったよ。悔しかったら追いかけてきな。ま、どーせ無理だろうけどな。ひゃっひゃっひゃっ」

 

 悔しがるましろと爆笑する笹木、ランサーはこほんと咳払いをした。

 

「ましろ……か。お前には才能がある。私がお前に見たあの輝きこそまさしくローマのもの! どうだ、お前もローマ市民にならないか?」

 

 そうしてランサーはましろに手を差し出した。わざわざ上半身だけのましろに合わせ、膝を着いて。ましろはきょとんとした様子で自らに差し出された厳つい手を見上げていたが、くすりと笑って頭を下げた。

 

「お誘いは嬉しいけど、ごめん。実はぼく、笹木さんのことをけっこう意識しててさぁ。敵というか、よき敵でありたいと思ってるんだ」

「はぁ⁉ うちはお前のことなんかなんも知らないんですけど!」

 

 森の中から即座に入るツッコミにましろは苦笑した。

 

「まあ、覚えてないよねぇ。でもまあそういうことだから、ごめんね。ぼくはローマの仲間になれないや」

 

 ましろの答えを聞いて、ランサーは差し伸べていた手を下ろす。

 

「なるほど。その言葉にすらローマは息づいている、か……お前はそれでよいのかもしれぬ」

 

 ましろが首を傾げ、アリスと顔を見合わせている間に、ランサーは堂々と踵を返して森の方へ歩いていく。ランサーが消えた森には風が吹き、木々が揺れて音を鳴らした。その森の音が形を作って人の声を作るように、ランサーの声は聞こえてきた。

 

「生きていれば再び相まみえよう。そこでお前のローマを私に見せよ」

 

 言い終わると同時に風はぴたりとやんだ。ましろたちは苦笑するばかりだった。

 

「じゃあ、下半身は埋めようかな」

 

 そう言ってましろはスコップで地面を掘り始めた。

 

「え、じゃあましろの下半身はどうなるの?」

 

 不安そうにアリスが尋ねる。

 

「いや、大丈夫、ちゃんと生えてくるよ」

「えー、ここから生えてくるの? 気もちわる……」

 

 ましろの断面を凝視し出したアリスにましろは思わず吹き出した。

 

「ちがうよ。生えてくるのは上半身だって。僕の上半身に下半身は生えないよ」

「え……」

 

 アリスは今まさにましろの掘った穴に落とされた下半身を見つめた。ましろは鼻歌を歌いながら下半身に土をかけていく。

 

「じゃ、じゃあ、今私が話してるましろの上半身はどうなるの……?」

 

 アリスの質問にましろはスコップの手を止めた。

 

「アリスちゃん、世の中には知らない方がいいことだってあるんだよ……」

 

 瞳孔を開いたまま優しく言ったましろにアリスは何度も必死に頷くしかなかった。

 

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