Fate/DebiRion.   作:遥野みしん

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103.願望の煉獄

 カチ。カチ。……カチ。   

 

 薄暗い部屋で不規則にマウスのクリック音が鳴る。金髪の女がぼーっとしてパソコンの画面を見つめていた。女の目の下には隈が出来ており、その乾いた瞳には、画面の中の自分の姿と、そして流れていく文字の列が映っていた。

 

〇寝不足なの? 大丈夫?

 

 そんなコメントが目に入り、女は自分が配信中であることを思い出した。

 

「いや~、ごめんごめん。最近ちょっと不安になることが多くてさぁー……」

 

 誤魔化すように女は言うが、コメント欄には女を心配するコメントがたくさん書きこまれた。それを見て、女はほっとした。

 

 みんな、まだ、私を好きでいてくれている……。

 

 女は鷹宮リオンだった。

 

―――

 

 不謹慎かもしれないけれど、あの聖杯戦争は楽しかった。聖杯戦争が終わってからも、まだしばらくは楽しかった。でも、いつからかそんな楽しい日々に影が差し始めた。本当にこのままでいいのか、何かが足りないんじゃないか、と。

 あのころの私は、少しはしゃぎ過ぎていたのかもしれない。

 

 小娘……。

 

 最後にそう呼んでくれたあいつの声は、今思い出しても胸が苦しくなる。私だって苦しいのに……そう思っても、もうどうにもならなかった。

 

 あいつは……でびでび・でびるは、さよならも言わずに私の前からいなくなった。

 

―――

 

 コメント欄にこれ以上不安が広がらないように、鷹宮は言った。

 

「まあ、大丈夫っしょ。なんとかなるなる。それよりさぁ、今日は前話した通り凸待ちっていうのをやってみたくて。たまにはみんなとお話してみたいじゃん?」

  

 言いながら、鷹宮の目は変化する視聴者数や登録者数の方へと向かう。

 

 視聴者はでびるがいなくなったから減ったのか、はたまた私が2434くなくなったからでびるがいなくなってしまったのか……あるいは、視聴者が減ったから私が6666くなくなった?

 再びぼーっとし始めた鷹宮を着信音が現実へと引き戻した。鷹宮は半分冗談で声を荒げて言う。

 

「ちょっと! 掛けてくんなって言ったじゃん! 説明ちゃんと読んでよぉ」

 

 着信は鳴りやまず、まあいいか、と鷹宮は通話を受けることにした。

 

「こんばんは……鷹宮ですけど」

 

 鷹宮の言葉に応じる声はなく、場は無音になった。

 

「あー……ミュートなってない? ちょっと確認してもらって」

 

 そう言ってみるものの、やはり向こうから声は聞こえてこなかった。

 

「あの、ほんっとごめん。待ってる人もいるし、一回切らせてもらうね~」

 

 軽い口調で言って鷹宮は通話を切る。切った直後にまた同じ相手からかかってきた。鷹宮は躊躇いがちに通話ボタンを押した。

 

「……もしもし?」

 

 少しの間、声は聞こえてこなかった。しかし、次には鷹宮の全身が鳥肌立った。

 

 ハァ……ハァ……ハァ……とマイクにかかってくぐもる荒い息。その合間に、僅かにだが他の音まで聞こえてくる。鷹宮は通話を切った。

 

「ッスゥー……なんか息荒い奴いたなー」

 

 鷹宮は場を和ませるために苦笑する。配信の雰囲気が悪くなってないかと心配してコメントに目をやり、そして鷹宮は何が何だかわからなくなる。

 

「え……」

 

 コメント欄の雰囲気は全く悪くなっていなかった。それどころか、みんな笑っていた。鷹宮がみんなを笑顔にしようと何かおどけてみせたときと同じ反応だった。胸の内側がきゅっとなり、鷹宮は深呼吸する。

 

 凸に来る待機者は今、単なる文字の羅列として静かに並んでいる。メッセージには簡単な自己紹介が書かれており、鷹宮は問題のなさそうな相手を空気が変わることを祈って選ぶ。

 メッセージを送ると、相手は礼儀正しく「よろしくお願いします」と返した後で通話を掛けてきた。

 

「もしもーし……」

 

 少し警戒しながらも、それを誤魔化すように鷹宮の声は間延びしたものになった。相手もこれくらいの方が話しやすいだろう、と思ってのことだったが、相手はそれをはるかに超えるフランクさに話しかけてきた。

 

「姉ちゃん、姉ちゃん? まだ配信してんの?」

「え、お前……誰?」

「え? 姉ちゃんの弟だけど?」

 

 きょとんとしたのは鷹宮だけでなく、弟を名乗る相手も同じだったらしい。意味の分からない間が生まれたが、相手はとにかく、と続きを切り出した。

 

「それより母さんめっちゃ怒ってる。早く寝なって。すぐに配信を切らないとパソコン捨てるって」

「母さん⁉ いや、いやいや、だからお前は誰なんだって話ですけど」

「あーそう。配信やめないんだ。じゃ、母さん呼んじゃおうかな」

「ちょっと、は、はぁ!? 待ちなって」

 

 マイクから気配が遠ざかったのを感じ、鷹宮が呼び止めるが、すぐに母さん? は現れた。

 

「ちょっとリオン、いつまで配信してるの! あんまりうるさくすると赤ちゃんが起きちゃうでしょ!」

「いや、防音室だから大丈夫だし……じゃなくて、え、お母様なの? 私の?」

「あんた何言ってんの? また変なこと言って。夜遅くまで配信してるからそうなるの。わかったら早く配信を切って」

「何言ってんのはこっちのセリフでしょ! 嫌だね。絶対配信はやめないから!」

 

 鷹宮が語気を強くして言ったとき、イヤホンの向こうから、赤ん坊なのか、なにかよくわからない名状しがたい者の恐ろしい泣き声が聞こえてきた。

 

「ちょっ、うるせー! 泣き止ませてよ!」

「ああ! もう、だから言ったじゃないの。リオン、すぐに配信を切って!」

「嫌だってば!」

「ああそう、言うこと効かないならお父さん呼んできますから! お父さん起きて、リオンがまた夜遅くまで配信してる!」

 

 鷹宮が呼び止める間もなく母さん? がマイクから離れると、今度はお父さん? が気だるげな声で現れた。

 

「ったく、寝てたのに……おいリオン、入っていい――」

 

 鷹宮リオンは通話を切った。

 

 鷹宮は虚無の顔で画面のコメントを少し眺めた後、深いため息をついて机に突っ伏した。

 

「全っ然意味わかんなかった。あの家族面してくる変態達、いったい何……?」

 

 顔を上げてコメントを読んで見ると、やはりみんな笑っている。家族凸とかいうコメントは意味わかんないけど、楽しんでくれている……? ならよかった……。

 

 いや、と鷹宮は思う。全然よくない。私が楽しくない。辛いし、なんか淋しくて仕方ない。笑ってくれてるっていうより、笑われてる……。こんなのは嫌だ。

 

 鷹宮は顔を伏せると、目に涙を浮かべ、自分の体に両手を回して抱きしめた。嗚咽が漏れ、それでもなんとか泣き声が出ないように声を殺し、遅れて音声をミュートしてからは声をあげて泣いた。

 

 涙を肩口の袖で拭って顔を上げると、コメント欄でみんなますます笑っていた。どうやら鷹宮が伏せて自分の体を抱きながら震えているのを抱腹絶倒しているのだと思っているらしい。嗚咽は大声で笑わないよう声を殺して出たものに、涙も笑いすぎて出たものに解釈されていた。

 

 鷹宮は息をのみ、配信を切りたくなったが、凸待ちの待機欄に並んでいる名前を見て考えを変えた。

 

「本間、ひまわり……さん」

 

 その名前を口に出しただけで少し心が軽くなった気がする。メッセージには「やしきずもいるよー!」と書かれていた。

 鷹宮は「お願いします」とメッセージを送る。通話が掛かってきて、鷹宮は応答ボタンを押した。

 

「あー……リオンちゃん、大丈夫? 本間ひまわりです……」

 

 ここのところ連絡を取り合えっていなかったからだろう、少し気まずそうにしながらも、本間ひまわりの声は鷹宮のことを気遣うものだった。それだけで鷹宮は泣きそうになった。

 

「うん。大丈夫」

 

 少し鼻をぐずぐずとさせて鷹宮はなんとか答える。

 

「そう、あの色々大変そうやったから……」

 

 言葉が続かず、ひまわりは少し笑った。その笑いには、これまでのことをちゃんと異常事態として整理しなおす健やかさがあり、鷹宮も笑いながら頷いた。

 

「やしきずもいるから呼んでいーい?」

「あ、もちろんです。じゃあせっかくですし、別部屋に移動しましょうか。権限をお渡しします」

「ほい。じゃ、やしきずもおいでー!」

 

 ひまわりが呼び掛けると、この場にもう一人、少し疲れてそうな男性の声が入った。

 

「ん、ああ。鷹宮、久しぶりだな。元気してたか」

「……うん」

 

 二人の声を聞いて鷹宮は懐かしい気持ちになった。二人の声はあのときから何も変わっていなかった。色々なことが悪くなっていく前の、あの楽しかった時期のまま……。

 

「二人とも、変わらないね」

 

 と鷹宮は口に出す。その声の寂しさを二人は気に留めながらもあっさりと答えた。

 

「そうか? 俺たちは色々あったけど……まあ、いつも色々あるからな。そういう意味では変わんないか」

「そうだねえー、色々あったかんねー……」

 

 二人の声はしみじみとした調子を帯びていた。きっと良いことばかりではなかったのだろう。そりゃあ、そうだよね、と思い直し、鷹宮は自分で恥ずかしくなる。

 

「あの……なんか、ごめんなさい、私……」

「いや、いやいやいや! リオンちゃんだって色々あったんでしょ? 今もほら、凸待ち頑張ってるじゃん!」

 

 頑張ってる……そうだろうか。減り続ける登録者に対して切羽詰まった焦りとヤケで始めてしまった配信だった。計画性もなく、当然のように荒らされてしまっている……。

 

「ほんとうに、そう見える……?」

 

 あ、面倒くさいこと言っちゃったかも……。言ったことを後悔し、内心で怯えながら鷹宮は相手の言葉を待つ。帰ってきたのはまっすぐな称賛だった。

 

「見えるよ! 見える見える! ファンの人たちとお話ししたいって言ってたの、すっごい尊敬する!」

 

 自分のテキトーな発言をしっかりと聞かれていて鷹宮はうろたえた。場が静まる手前のところで社が言葉を接いだ。

 

「まあ、とにかく、こうして凸待ちをしてくれたおかげでまた話せたんだ。俺は嬉しかったよ。ぶっちゃけ距離も開いてたしな」

「それはその、ごめんなさい……」

 

 鷹宮は少し迷ってから、別にいいやと諦めて続きを言った。

 

「でびちゃんと別れてから、なんか余裕なくなっちゃって」

「謝んなくていいって。でび様がいなくなってからも鷹宮は配信を続けてきたんだろ? 辛いこともあったかもしれないけど、楽しいこともあったから続けられたんじゃねえの? そういう話を聞きたいよ、俺は」

「うん、楽しい話をしよー!」

 

 二人の言葉に勇気づけられて、鷹宮リオンは怯えながらもぽつぽつと、でびでび・でびるがいなくなってからの楽しかったことを記憶の底から掬い上げていく。

 

―――

 

「そういえば、お二人は魔術師なんですか?」

 

 話の途中で鷹宮はずっと気になっていたことを聞いてみた。

 

「え、なんでそう思ったの~?」

 

 ひまわりが苦笑しながら聞き返す。

 

「いえ、だって二人とも、でびちゃんの力を見ても驚いてないみたいだったたから……」

 

 ああ、それは……と社築が答える。

 

「鷹宮たちと引き合わされる前に葛葉からさらっと聞いてたから。そもそも葛葉がなぁ。今の配信者デビューした葛葉が隠してないから言うけど、アイツぽろっと自分が吸血鬼だって明かしたからな」

 

 鷹宮はいつか、ゲーム配信中に魔術のことを話してしまった時のことを思い出した。葛葉は確か、ぺらぺらと秘密事項を語った鷹宮を非難するようなコメントを打ってきたはずだった。

 

 アイツ、私には言っておいて……! ふつふつと葛葉に対する怒りが湧くが、鷹宮の表情はふっと緩む。この怒りは鷹宮にとって懐かしく、心地のいいものだった。配信者デビューした葛葉とはもう距離も開いて話すこともなくなっていた。鷹宮は聞いた。

 

「それを、お二人は信じたんですか?」

 

 ひまわりは相変わらずマイペースな調子で答えた。

 

「えぇ? 別に信じるとか信じないと考えたこともなかったけどなあ。へー、葛葉吸血鬼なんだーみたいな。でびちゃんが不思議なことしてるのを見て、あ、じゃあやっぱり葛葉も本当かーって改めて思いはしたけど、別にぃ?」

「別に驚くこともないだろ。聖杯戦争とか、魔術師とか、自分たちの日常とはレイヤーが違うっていうのはすぐわかるから。自分たちの生活に関係ないし、うん、どうしようもないし……」

 

 そこで社築は「ああ、すまん」と謝って言う。

 

「そういう、他人事っぽいのもよくなかったのかもな」

 

 これはたぶん、でびるがいなくなった理由だと思って謝ったのだろう。だが、そうじゃないと鷹宮は思っていた。

 

「あ、その、違うんです……!」

 

 声を荒げてしまった鷹宮は二人が息をのんだのを察して落ち着こうと息を整えた。

 

「……私たちを見てた多くの人は、きっと悪魔とか魔術とか、本当にこの世界に実在してるのかは割とどうでもよくて、それでもでびちゃんの、悪魔の力は日に日に強くなっていったから……だから、でびちゃんを見てくれている人の中ででびちゃんが生きてたのは確かだったのかなって。さ、最近は……そう思えるようになりました……」

 

 二人は聞き入っていたのか、しばらく声を発さなかった。やがてひまわりが言う。

 

「リオンちゃんも、そうなんじゃない?」

「へ?」

「だから、リオンちゃんもでびちゃんと同じってこと!」

 

 鷹宮はひまわりの言いたいことがいまいちわからず、無言になって考えだす。社築が説明する。

 

「要はさ、でびでび・でびるがみんなの中で確かに場所を占めて生きてたように、鷹宮リオンもみんなの中で生きてるってことだろ? それに意味があるかはわかんねーけど、そんだけだよ」

「そ、そうなんだ……」

 

 鷹宮はうつむき、頬を赤く染める。社築が言うように、それだけといえばそれだけだが、鷹宮には今までの自分が認められた気がして嬉しかったのだ。鷹宮が二人に礼を言おうとしたとき、唐突にひまわりが言う。

 

「じゃあ、そろそろお暇させておうかな。ちょっと長くいすぎたか? これ」

 

 これに鷹宮は動転して引き留めようとした。

 

「え、そんな……もうちょっとだけいいじゃん? 私、こんなに楽しいのって久しぶりなんだよ……? ねえ、お願い。お願いだから、もうちょっとだけいてくれない……?」

 

 目に涙を潤ませて鷹宮が懇願する。二人は何か引っかかるような調子で言った。

 

「うーん、ひまも話したいけど……どうしよか、やしきず?」

「んー、それならそれでアリか? どうだろうな。メッセージも全然読まれないし。いや、これ以上長居すると……」

「あぁ……こりゃ、だめだね」

 

 二人の会話に何かいやなものを感じて鷹宮の表情は強張る。二人と話をして温かくなっていた胸の内側がどんどん冷たくなっていく。

 

「リオンちゃん、メッセージ読める?」

 

 ふいに聞かれて、鷹宮は慌ててメッセージ蘭に目を向けた。

 

 通知はたくさん来ていた。多くは待っている凸待ちを順番待ちしているファンの自己紹介だったが、社築からも何件か来ていた。

 

 社築の欄にカーソルを合わせて見ると、どうやら最初のメッセージに気づいてもらうために何度も催促のメッセージを送っていたようだった。

 鷹宮は文章を読もうとするが、続く二人の会話も気になってしまう。

 

「っていうかさ、ここで言ったらやばいかな?」

「やばい。今の時点でけっこうやばいのに、そんなん言ったら俺ら死ぬんじゃね? マジで」

「でもなあ、もうひま言っちゃいたい。こんなんリオンちゃんだけの問題じゃないって。言わなきゃだよ、これ」

「……そうだな。じゃあまあ、俺が言っとくわ。ひまわり帰っていいよ」

「はぁ? ちょっ、いやいや……それはちょっとひまのこと舐めすぎちゃう?」

 

 そして、二人はどういうわけか急に黙り込んだ。緊張感に耐え切れず鷹宮は尋ねた。

 

「あの、お二人ともさっきから何を話してるんですか?」

「あー、それなんだけどさ。鷹宮、この後も凸待ち続けんの?」

「え、それはもちろん……続けます」

 

 鷹宮には社築の息遣いの変化が通話越しにわかった。言いたくないことを言おうとしている……? 鷹宮は冷や汗を流し、自分の予想が外れてることを祈りながら社築の言葉を待つ。社築は言った。

 

「単刀直入に言うわ。鷹宮、お前この配信はもう切った方がいいよ」

「え? 何を言って……」

「今日は配信を切って何も考えずに寝てさ、それで明日また何かしたらいいんじゃないの?」

「待ってよ……だって、いきなり言われたってそんな……。え? どうしてそんなことを言われなきゃいけないの……」

「リオンちゃんさ、疲れてるんだよ」

 

 困惑し、二人に対して敵意すら見せ始める鷹宮を諭すように、ひまわり言った。

 

「だってさ、私たちと話し始めてからさ、コメント欄全然見れてないじゃん」

 

 ……あ。

 

 鷹宮はポカンと口を開け、その視線をゆっくりと、恐る恐るコメント欄の方に向けた。

 

 勢いよく流れる文字列。でびリオンで活動していた頃、話題が話題を呼んでとんでもない勢いで視聴者数は増えていった。

 でびるがいなくなってからその数は減ったとはいえ、鷹宮の足掻きともいえる奮闘によってまだ見てくれている人も多かった。きっと、その活動の初期に鷹宮を支えてくれた配信者が二人いたことを知らない人も多かったのだろう。

 

 要するに、突然現れた二人組の配信者が鷹宮に馴れ馴れしい態度でいつまでも話しているのだ。鷹宮は息が詰まり、思わずコメント欄から目を逸らした。

 

「リオンちゃんが楽しそうに話してれば、この流れが変わるかなって、粘ってみたんだけど……全然ダメだったみたい」

 

 詫びるようなひまわりの言葉に鷹宮はますます苦しくなる。一方で、これにコメント欄はどう反応するんだろうと気にもなり、鷹宮は再びコメントに目を向けた。

 

 コメント欄では、単に短く敵意を現したコメントのほかにも、自分のことを客観視しろと二人のことをわかったように上から目線でものを言う長文のコメントが目についた。鷹宮はそんなコメントを逐一読み続けた。くだらない、と思わなくはない。けれど、どうしてか、そんなコメントを読むたびに鷹宮の心のどこかが安心してしまうのだった。

 

 そしてついに、古参メンバーの決定的なコメントを目にした。

 

〇二人とも数字狙いだったんでしょ、お疲れ様。

 

 数字、狙い……?

 

 前々から違和感はあった。二人とも、どうしてこんなに親切にしてくれるのだろうと疑問に思うことはあったのだが、そのたびに鷹宮は二人の親切の理由を二人の人柄だったり、友だちに対する優しさだと思って納得していた。だが今、このコメントを見て全てが繋がった。

 

 今まで気にしたことはなかったが、確かに二人とも、でびリオンが伸びていく傍らで少しずつ数字を伸ばしていたような気がする。鷹宮リオンが聖杯を獲得してみんなが配信者になってからは、葛葉や叶とコラボし、花畑チャイカとも仲良くなり、でびリオン繋がりということなのか、魔界ノりりむ、卯月コウとさえも絡んで数字を伸ばしていたはずだ。

 

 私とは、今日まで連絡も取ってこなかったのに……。

 

 そうだ、やっぱり今日ここに来たのって……。

 

「リオンちゃん? おーい、大丈夫?」

「体調が悪いんじゃないのか? 無理すんなよ、休んだ方がいいってやっぱり」

 

 心配する二人の声も、もう鷹宮には裏があるように思えてならなかった。

 

「二人とも、もう、帰ってください」

 

 小さく絞り出された声は、確かに二人に届く。一瞬間を置いてひまわりが言った。

 

「はぁ? ちょちょ、ちょっとなにい……? なんでそうなっちゃったの?」

「うるさい! 二人とも数字狙いだったんでしょ! 友だちだと思ってたのに! ばか、もう帰ってよぉ……!」

「なぁっ、ちがっ、いや、でも、だってさ、うぅ……このっ……!」

 

 ひまわりは胸の内で暴れる様々な感情に振り回されているかのように、言葉を発そうとしては自制してやめるのを繰り返す。しかし、ついに吹っ切れ、涙声になりながらも声を張り上げた。

 

「ばーか! なんだよ、心配してきてあげたのにっ! 知らないよもう!」

 

 あ、待って……。

 

 引き止める間もなく本間ひまわりは通話から出て行ってしまった。呆然とひまわりのアイコンの消えた通話欄を見つめる鷹宮。自分から追い出しておきながら、取り返しのつかないことをしてしまったんじゃないかという恐怖、後悔に鷹宮は襲われていた。

 

 通話欄にはまだ社築が残っていた。鷹宮はぼそっと力のない声で言った。

 

「あの、ごめんなさい……そんなつもりじゃなかったんです……」

「ああ、わかるよ。でもまあ、今日のところは俺も帰るかな」

 

 思いのほか、さばさばとした社築の声に鷹宮は少し救われた気分になり、何かを言わなければと言葉を探すが、結局、謝ることしかできなかった。

 

「ごめんなさい……」

「今気にしてもしょうがないって。凸待ち、続けるなら応援する。けど無理すんなよ」

 

 それから社築は何かを言おうとしていたのか、もどかしい間があったが、結局何も言わずに通話から抜けてしまった。

 

 鷹宮はゆっくりと画面から顔を離し、イスに深く腰掛けた。薄目で天井を仰ぎ、その視界すらも腕で塞いだ。見れてなかったけれど、コメント欄はきっとすごい勢いで流れてる。たくさんの人が見てくれている。だというのに……。

 

 鷹宮の腕で塞いだ両目から、涙が零れて、頬を伝い落ちていった。

 

 どうして……どうして、こんなに孤独なんだろう……。

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