Fate/DebiRion.   作:遥野みしん

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107.バッドエンドの先へ

 見えない虚空の斬撃が飛んでくる。ライダーは宝具でもある愛馬ブケファラスにマスターの花畑チャイカとともに騎乗し、何とか斬撃を躱すものの、距離を詰めることは出来そうになかった。

 

 いや、可哀想なのは僕らなんかよりも……。

 ライダーは地上の方を見やった。地上ではセイバーがマスターであるシスター・クレアを抱えながら剣持刀也に追い立てられていた。

 

 剣持は何か心情の変化でもあったのか、先ほどとは比べ物にならないほど乱雑に刀を振るっていた。セイバーはこちらに振るわれる剣持の太刀筋を見極めて斬撃の回避を繰り返すものの、集中力が必要なのだろう、疲労は徐々に顔に現れていた。

 

 

「ねえ、剣持先輩どうしちゃったんですか?」

 

 地べたにヤンキー座りしていた魔使マオが顔を上げて尋ねる。伏見ガクと夕陽リリは木に背中を預けて剣持の戦いを見ていたが、二人とも遅れて魔使の方に顔を向けた。

 

「さあ、本人に聞けばいいんじゃないですか?」

 

 と夕陽はテキトーに返答する。伏見は剣持の方を見て、ぼんやりと口にする。

 

「そういえば、前にもあんなことがあったような……?」

 

 夕陽は何かを思い出したか、伏見の方に体を向けた。

 

「あー、委員長のときとか。あんな感じに荒れてなかったですか?」

「あー……」

 

 二人は納得したような、少し困惑したような表情で剣持の方を見た。

 

「なんだよ。剣持アイツ……倒してもらいたかったのか?」

「まあ、委員長にしても、あの配信者二人にしても、何かしらの期待を抱いてたんでしょうね。その期待が砕かれて……と」

 

 夕陽が深いため息をつき、何やら一発の弾丸を取り出してじっと見つめ、言った。

 

「砕いたのは自分でしょうに……」

「刀也さんも業が深いっすからね」

 

 一拍置いて、夕陽が木から背中を離し、歩き出す。向かう先は戦闘の渦中にいる剣持の方だった。

 

「お、今度は何を企んでんだ?」

 

 伏見が声をかける。夕陽は振り返り、挑発するような笑みで言った。

 

「まあ見ててください。手出しするなと言っても、無理でしょうけど」

 

   〇

 

「さて」

 

 剣持はうつむいていた視線をあげて、敵の方に目をやった。

 

 空を駆けるライダーも、マスターを後ろ手に庇うセイバーも、剣持からあからさまに距離を取って警戒していた。どちらもその表情には余裕がなく、緊張感が見て取れる。

 

 剣持は面倒くさそうな足取りでセイバーの方へ数歩、足を進めたが、突然立ち止まって顔を上げる。

 

「リリさん」

 

 呼び掛けると、剣持の背後で返事があった。

 

「はい、なんですか?」

「いや、なんですか? はこっちのセリフなんだけどな。あなた今、自分が何してるかわかってます?」

「……ええ、そりゃもう」

 

 剣持の背後で、夕陽リリは軽く笑って肩をすくめた……剣持に銃口を突き付けた状態で。

 

「ちなみになぜ?」

 

 剣持の端的な問いに、夕陽は少し悩ましげに考え、答えた。

 

「場を整えるため、ですかね」

「場を?」

「はい。もうすぐ委員長が帰ってきますので……」

 

 そう言って夕陽リリは空に浮かぶ月を見上げた。まるで、月から委員長が帰ってくるとでも言いたげなその様子に剣持は思わず笑ってしまう。

 

「ははっ、貴方まで何を言い出すのやら。委員長なんてもうこの世にはいませんよ。無限は虚空の前では無力なんです。仮に……ありないとはいえ、かの実験を生き延びたという彼女の力でもって虚空の中を生き延びていたとしても……それでも、ですよ?」

 

 剣持は刀を鞘に納め、堂々と振り返って言った。

 

「僕の虚空は破れない」

 

 剣持は鞘に入った刀で夕陽の腕を払いのけると、身を沈め、返しの刀で夕陽の胴を狙う。

 だが、これは外した。夕陽はテレポートも交えてバックステップで距離を取ったのだ。剣持は即座にこれを追いかける。

 

 夕陽リリは撃つ気があるのかないのか、距離を詰めてくる剣持に銃口を固定したまま涼しい顔をしている。それが剣持には気に入らなかったのか、少しムッとしながら刀を振るおうとする。が、二人の間に突然何者かが飛び込んできた。

 

「へっへーん、ここでボク参上っ!」

 

 剣持の前に飛び込んできたのは魔使マオだった。魔使は空中で両手両足を元気いっぱいに伸ばし、剣持の視界から夕陽を隠しにかかる。

 

「いやぁ、剣持先輩もまさかボクが裏切るとは思って……ギャアッ!」

 

 剣持は構わず魔使の首元目掛けて刀を叩きつける。刀から伝わってくる感触に剣持は違和感を覚えた。剣持が両手で握る鞘に入った刀は、魔使の首にめり込んでいく。この感触は肉体を持った何かなどでは決してなかった。これは……紙?

 

 打たれた首を中心に、魔使の全身が曲がり、紙のようにひしゃげていく。その姿が明滅すると、魔使の姿は掻き消え、あとにはひしゃげたトランプが残されていた。トランプは地面に落ちると大量の白煙を吐き出し始めた

 

 白煙の中で剣持は目を細め、僅かな殺気に反応して振り返った。白煙の中で夕陽がしゃべりかけてくる。

 

「剣持さん、まだ自分の立場ってもんがわかってないみたいですね」

「立場? 何を言っている……?」

「あなた、けっこう追い詰められてるんですよ?」

 

 目の前に降り立った魔使二人を剣持は鞘に入った刀で殴りつけようとするが、また仕掛けがあると面倒だと思い直して抜刀し、虚空に消滅させた。同じように飛んできたトランプもまた、切り捨てて消滅させる。剣持は言った。

 

「寝言は寝て言うもんですよ。僕がどうしたら追いつめられるって言うんですか?」

「そうか。じゃあ覚悟しろよ、剣持」

 

 夕陽リリの声は白煙のなかに静かに発された。次いで魔使と夜見と思われる二人の声も。

 

「覚悟しろ剣持先輩!」

「覚悟しろー!」

 

 後の二人はともかく、夕陽リリの声にはなんだか嫌な予感がした。剣持は眉をひそめて周囲への警戒を強める。やがて、一発の弾丸が放たれた。

 

 剣持は刀を振るって弾丸を消滅させにかかる。が、妙な感触が手から、そして全身へと伝わってきた。今まで自分の体と同じように刀に満ちていた万能感のようなものがぷつりと途切れた。

 

 弾丸は、刀が斬り裂いた。……斬り裂いた? 虚空は? いったいどうなっている? 

 

 剣持は自らの握る刀へと目を落とす。

 

 シスタークレアのときとは明らかに違う。刀の質が変容している。何よりマズいのが……。

 

「へへ、捕まえましたよぉ、剣持先輩!」

 

 魔使が刀身を両手で挟むようにして抑えつけてくる。剣持は刀に虚空を纏うことができなくなっていた。

 

「なんだこれは」

 

 剣持は呟く。目の前で魔使が分裂し、刀を抑えていないフリーの状態の魔使が上着のポッケからトランプを取り出したのを見て、剣持はすぐさま抑えつけている手のひらごと強引に魔使の胴を刀で斬り裂き、返す刀でもう一人の魔使も斬り裂いた。

 

 でも、まだだ……と剣持は自身を落ち着かせる。刀にアクセスできなくなっただけで、虚空とのアクセスが切れたわけじゃない。だが、それでも刀とのつながりを他人に強引に断ち切られたのは剣持にとっては衝撃だった。

 

 剣持は怒りを隠さずに周囲に目をやる。

 夕陽は……いない? 剣持はハッとして顔を上げた。

 

「上か!」

 

 剣持向けて落下する夕陽リリは銃口を剣持の頭に向けていた。夕陽は口許で笑うと、その弾丸の名を告げる。

 

幻想ノ弾丸(ファントム・バレット)」 

 

 銃声が鳴る。剣持は上体を倒し、慌てて顔を逸らしにかかるが、間に合わず、弾丸の熱は剣持の左の眼球を穿っていった。

 

「がぁっ、くそがっ!」

 

 剣持は体を横に逃しながらも、歯を噛みしめて刀を振るう。夕陽は反応してテレポートするが、一瞬遅かった。肩口から胸にかけてを刀は斬り裂いていった。

 

 剣持はよろめき、血の流れる左目を抑えた。

 

「あっはっはっはっ、ふふっ、あーっはっはっは!」

 

 女の笑い声に剣持は顔を上げる。剣持を笑い立てる夕陽リリの見た目は明らかに剣持よりも重傷だ。服の上から滲み、零れていく血を手で抑え、前かがみになって額から汗を流し、呼吸を荒くする。しかし、そんな状態を無理にでも吹き飛ばすように夕陽は笑っていた。

 

「あっはっは……先輩、これで終わりですよ。ファントムバレットはヒットした対象の存在の質を別次元のものに書き換える。バレてないと思ってたんですか? 虚空を用いるとき、剣持さんは身体感覚でもって、自分の体を操るように操作していた。つまり、身体を媒介にすることで本来安定とは真逆の性質を持つ虚空を安定して使えるようにしていたんですよね。その回路が今、滅茶苦茶になってるんです。虚空が身体にアクセスできない今の状態では、剣持さんは虚空を自由には扱えない。委員長どころかサーヴァントの一騎相手取ることも厳しいんじゃないですか? ねえ、どうなんです? 答えてくださいよ」

 

 剣持はそれを聞いて初めて自分の体のことを意識したらしい。自らの手のひらに目を落とし、ぐっと握って開いて……力なく手を下ろす。その手はわなわなと震え出し、再び握られた。

 

 剣持は叫んだ。

 

「くそっ、わかってたんだ! 加賀美インダストリアルと裏でこそこそ何かやってたんだろ⁉」

 

 夕陽は剣持がおかしなことを言っているかのように首を傾げた。

 

「おや、この弾丸の開発者が加賀美さんだと思ってるんですか?」

「そうに決まってる! 他に何があるっていうんですか⁉」

「色々あるでしょ。教団内にだって……まあいいです」

 

 夕陽リリは屈んでいた体を無理に起こし、胸を開くように伸びをして「痛っ」と顔をしかめた。

 

「さて、委員長が帰ってくるまでお話でもしましょうか」

「はっ、ふふ……委員長なら、帰ってきませんよ」

「お話をするって言ってんですよ。これは貴方のためでもあるんです。先輩……」

 

 最後の言葉を聞いて、剣持は納得してなさそうな顔をしながらも口をつぐんだ。夕陽は言った。

 

「いいですか、先輩。私には未来が見えます。いえ、たくさんの未来を見てきました。それを踏まえて、単刀直入に言わせて頂きます」

 

 夕陽はどう切り出そうか迷い、少しして目を伏せ言った。

 

「虚空教の掲げている理想郷計画は失敗します」

 

 剣持は表情を失いながらも、感情を押し殺し、静かにただ一言だけ言った。

 

「続けて」

 

 夕陽は頷いて応えた。

 

「確かに、貴方の理想郷は一度は完成しましたよ、ええ。貴方のこれまでの努力が実を結んで、ついに虚空教の国家は建国されたんです。まあ、そこまではよかったんですけどね……」

 

 夕陽は話したくなさそうにしながらも、ため息をついてゆっくりと続けた。

 

「博愛主義を謳いながら、貴方は秘密裏に製造を進めていた戦略核級魔術を用いて世界征服に乗り出した。最初は単に核を打ち込まれたと騒ぐ大国と虚空教との争いに過ぎなかった戦争は、いつしか貴方を恐れて逆らえない魔術世界と大国を中心とした科学世界との世界大戦の様相を呈し始めるんです。そのうち、虚空教は内部分裂し始め、戦争は貴方が大事にしていたもの全てを奪っていった。そうして、意気消沈した貴方は……世界を虚空に落とすことを選択する」

 

 どうですか、こんな筋書きは? 夕陽リリは少し斜に構え、試すように剣持に尋ねた。剣持は一蹴するように鼻で笑った。

 

「まったく、なんですか? 馬鹿馬鹿しいといわざるをえない。僕はただ、僕たちのための理想の国を作りたいだけなんですよ? 心の純粋な少女たち、そして少年たちだけの理想の国を。それがいったいどうしたら世界大戦になるって言うんですか。考えるならもっとリアリティのある面白いシナリオを考えてきてくれないと」

「そうですね」

 

 と夕陽は相槌をうち、月を見上げた。

 

「もっとリアリティがあって、面白いシナリオだったらよかったんですけどね」

 

 剣持は目を細め、余裕そうだったその表情を崩した。わかってしまった。ため息をつくように吐かれた夕陽リリの言葉には、実際に体験して打ちひしがれた者の挫折や悲哀が、そして何より、祈りが込められていた。夕陽リリは月に……月ノ美兎に、その祈りを託すことを選んだのだ。剣持は震える喉で言った。

 

「そんな、そんなはずがない……僕は真の世界平和を……。純粋で、繊細な心を持った人々が、傷つかなくてもいい理想郷をこの世に実現するために、ここまで……」

「ええ、あなたの志は立派でしたよ、でもそれは側近の少年が暗殺されてから狂っていった」

 

 途端に剣持の表情が凍り付いた。夕陽は追い打ちをかけるように尋ねた。

 

「先ほどから本部との通信が取れないの、気づいていましたか?」

 

 剣持の手が震えながら耳の無線に触れた。剣持の表情がゆっくりと歪んでいく。

 

「彼が殺されて、復讐しないと誓えますか? 彼が世界から居なくなって、あなたは正気を保てると、自信を持って言えるんですか?」

 

 剣持は無線を外すと地面に叩きつけ、何度も踏みつけて破壊し、ついには頭を抱えて叫び出した。

 

「あ、あぁぁぁぁああああ‼ 未来人! なんとかならなかったのか⁉」

 

 未来人……その言葉に夕陽リリは笑ってしまう。

 

「へえ、やっぱり知っていましたね。ええ、最初は私も彼を助けようとしましたよ。それこそあなたに真実を打ち明け、一緒に彼を守ろうともしたんです。でも、どうしたって彼を守りきることはできなかった。いつもあと一歩というところで彼はあなたの手を離れていくんです。運命ってああいうのを言うんですね。だって、終いには聖杯戦争に参加して聖杯を手にするまでやったんですから。十分手は尽くしたんじゃないですか。私はあなたが狂うのを何度もこの目で見てきましたよ。長かったです、ここに来るまで」

 

 剣持は膝を着き、項垂れた。それを見て夕陽リリは幕引きを決意し、声を張り上げる。

 

「サーヴァントとそのマスターの方々、聞いてください! この男はもう虚空を好き勝手に使えません! 弱体化してるんです! 力を貸してください!」

 

 セイバーは一瞬クレアと顔を見合わせると、剣を構えて駆け出した。ライダーは即座に馬を走らせて剣持との距離を詰めてくる。

 剣持は歯軋りし、固く瞑っていた目を開ける。その虹彩は妖しい光を帯びていた。剣持は顔を上げて叫ぶ。

 

「来るなぁぁぁあああ‼」

 

 剣持を中心に風が吹き荒れた。木々が次々と消え、地面や空が、あちこち抜けたように消滅していく。地上にいる剣持を中心にして雲が渦を巻き始めていた。

 

「くそ、剣持……! お前力を暴走させたな!」

 

 剣持は地面に膝を着いたままで、爛爛とした暗い輝きを瞳に宿し、まっすぐに夕陽リリを見据えていた。

 

「もういい……愛想が尽きた」

 

 剣持は言う。夕陽は冷や汗を流し、苦しい笑みを浮かべて言った。

 

「貴方らしくないじゃないですか。堂々とやられるならまだしも、自暴自棄になるなんて。仮にも委員長に託された身でしょう?」

 

 剣持は言った。

 

「僕には……できなかった」

 

 剣持を取り巻く虚空が大きくなっていく。虚空は上へと広がり、空を呑み込み始めていた。剣持は他人事のようにそれを見上げながら、ぼそぼそと呟く。

 

「家長さんも、夕陽さんも、みんな最初からそのつもりで僕のそばにいたんですね。ほんと……クソだな」

「違う! そんなわけないだろ!」

 

 夕陽は自分で何を言ってるんだと思いながらも、怒鳴らざるをえなかった。剣持をここまで追い込んだのは自分だというのに、剣持に言われたことで傷つき、怒りのままに思わず声を上げてしまった。

 そんな夕陽を見て、剣持は少し救われたように笑い、言う。

 

「そんなわけない、か。そうかもしれないですね。確かに、あの楽しかった時間には価値があった。……でも」

 

 剣持の視線の先には壊れた無線機があった。剣持は自虐するような笑みを浮かべて言う。

 

「彼を必要としない世界なんて、何の価値もない」

 

 空に、そして剣持の周囲に拡がっていた虚空が剣持の頭上に凝縮し、ついには色のない巨大な球体が姿を現した。球体は全てを呑み込もうとしてすべての物を吸い寄せる……ブラックホールのようだった。

 

「くそ、こんなはずじゃ……」

 

 夕陽が歯噛みしていると、隣にクレアが降り立ち、尋ねてくる。

 

「夕陽リリさん、あの、このあとどうすれば……」

 

 夕陽は弱弱しい表情で黙り込んだ。剣持の頭上の球体は少しずつ大きくなっている。周囲の空気を吸い込んでいるのだろう。風はどんどん強くなっている。

 

 夕陽は球体を見上げてこの世界線を捨ててしまおうかと悩み始めていたが、球体の向こう、月が鏡のようになって、虚空を、そして世界を反射し出したのを見て、その表情を明るくした。

 

「クレアさん、この勝負、我々の勝ちですよ」

「え?」

「来るんですよ! もう間もなく、あの人が!」

 

 その言葉で、クレアもまたパッと明るい顔になる。夕陽リリの指差す先で、月の鏡はゆらゆらと揺らぎ、音もなく二つの影を吐き出した。

 一つは、制服を着た女子生徒だった。そしてもう一つは翼を持った角の生えた生き物で……。

 

「って、お前らかよ! おい嘘だろ⁉ 委員長は? 月ノ美兎はぁ⁉」

 

 落下した鷹宮リオンとでびでび・でびるにテレポートも交えて勢いよく走って詰め寄る夕陽リリ。二人はぐるぐると目を回しながらも口走る。

 

「失望しました。委員長のファン辞めます」

「あのクソムカデ女……いつか〇してやる……!」

 

 二人の物騒な言葉に夕陽は眉を引き攣らせながら「お前ら何があったんだよ……」とつい優しく二人を抱き起してしまう。

 

 二人は我に返ると、一度夕陽リリとシスタークレアを見て、次にお互いの体に腕を回してしくしくと泣き始めた。

 

「はぁ、終わった……」

 

 二人の傍らで夕陽はしゃがみ込み、空を仰いで嘆く。そんな夕陽リリを見て苦笑いを浮かべるも、シスタークレアは前に出て二人に言った。

 

「あの、委員長は? 月ノ美兎さんはどうなったんでしょうか?」

 

 二人はクレアの方を見ると、今までとは一転してサッと血の気が引いたような顔色になった。

 

「すいません、委員長は、その」

 

 鷹宮は言いよどみながらも告げた。

 

「委員長は、来ない……です」

 

 でびるは目を伏せる。きまずい雰囲気が辺りを支配した。夕陽リリは立ち上がると、二人に聞いた。

 

「お前ら、委員長には会ったんだな?」

「はい、会いました……でも賭けに私たちが勝っちゃって……」

 

 深刻そうな二人を見て、逆に夕陽は心が冷静になっていくのを感じていた。

 

「賭けねえ……」

 

 夕陽はその場でうろうろと足を動かし、言葉を探す。やがて足を止め、夕陽は言った。

 

「それってさ、委員長に託されたってことなんじゃないの?」

 

 二人はハッとしたように顔を上げた。

 

「確かに、そうとも取れるかも……でも」

「そうだよ、いくらなんでも僕たちにはあの女の代わりなんて……」

「もういいよ」

 

 と夕陽リリは二人の泣き言など聞いていられないとばかりに言う。

 

「もういい。もう、お前たちでも何でもいいからさ。とりあえずアレ、止められたりしない?」

 

 夕陽は無理を言ってるのを承知で力を暴走させる剣持を指差した。

 

「……無理っ!」

 

 思わず鷹宮は首を振った。

 

「無理無理無理! さっきは勢いで何でもできるって思えたけど、今ならわかる。あんなの絶対……」

 

 鷹宮の言葉は唐突に切られた。鷹宮は目を震わせながら、何かを疑うように一心に剣持を注視していた。変化を感じ取った夕陽リリが黙って待っていると、鷹宮はぽつりと呟いた。

 

「……いけるかも」

 

 これにでびるが反応した。

 

「あ、そういえば!」

 

 鷹宮は希望に浮かれた表情で腰のホルスターから何かを抜き取った。それは全体が白く、つるつるとしていてプラスチックめいた質感の、ピンクのハートの装飾されたピストルだった。

 

「……魔法少女のおもちゃかよ」

 

 夕陽リリが呆れ気味に言った。

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