Fate/DebiRion.   作:遥野みしん

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12.柳洞寺跡

「あ、あ……、アーチャーに命じるっ、この階段が終わるまであてぃしをおぶへぇあ!」

 

 何か口走ろうとした椎名唯華の口をアーチャーが慌てて塞ぎ、ついでに首を絞めあげた。

 

「おい、冗談じゃないぞ。なぜ私のマスターはこれほどまでに愚かなのだ⁉」

 

「運がいいんだよ、運が」

 

 軽装のライダーはにっこり笑うとアーチャーの前に躍り出て、階段をとんとん拍子に上がっていく。

 

「くそ、元気いいなあいつ……」

 

 花畑チャイカは遠ざかっていくライダーの背を見上げ、額の汗を拭った。

 

 一行は山の中腹にある柳洞寺参道の石段を上がっていた。

 太陽は照り、椎名は重そうなスポーツバッグを肩にかけている。おぶってもらいたい気持ちはわかるけど……そう思いつつもチャイカは椎名から目を逸らした。

 

「椎名さーん、見てきたけど、もう少し行けばこの階段も終わりだよ」

 

 先に上を見てきたらしい、階段を駆け下りてきたライダーが椎名を鼓舞する。

 

「ナイス、ライダーナイスゥ!」

 

 椎名はアーチャーから解放されて息も絶え絶えだったが、その目にも再び光が宿った。

 

「ほら、バッグは僕が持ってあげるから、もうちょっと頑張って!」

 

 とライダーは椎名の肩からスポーツバッグを受け取った。

 

「うん、がんばるわぁ! もうほんっとライダー神! 天才!」

 

「なに、天才だと……⁉」

 

 アーチャーが目を疑うように椎名を睨む。

 

「だってそうやん。女の子が疲れてんのがわからんのは天才ちゃうよ、ただのアホw」

 

 椎名が吹き出すように笑って見せると、アーチャーは石のように固まってその場から動かなくなった。

 

「おお、門が見えたじゃねえかよ」

 

 チャイカの声を皮切りに、一同はペースを上げ階段を上がった。

 

 一同を出迎えた寺の門は上の屋根が半ば焼け落ちていて、残った柱も椎名の背丈よりも低いところで折れていた。

 

 椎名は門の前で立ち止ると、焦げついた屋根を見上げてじっと動かなくなる。それを他の三人は不思議そうに見守っていた。

 

「そういやお前霊能者だっけ? その設定まだ生きてたのか」

 

 チャイカがどうでも良さそうに言った。

 

「は? ちゃんと霊能者ですけど‼」

 

「でもこの山の魔力には気づかなかったじゃん」

 

 ……(-_-)

 

「あ、椎名さんまたその顔してる」

 

 ライダーが通り過ぎざま椎名を一刺しして門を跨いでいく。

 

「ふん、いい気味だ」

 

 アーチャーは酷く下卑た笑みを浮かべて椎名の横を通り過ぎていった……。

 

―――――――

 

 門を抜けると見えてきたのはまさしく廃墟と化した寺だった。

 

「こりゃあ、入るのは危険だな」

 

 チャイカの言うことももっともだった。

 目の前に建っている巨大な寺は柱があちこち折れていて、無事な柱も黒く焦げているのが見える。崩落しかかっている屋根が未だに持ちこたえていることが奇跡に思えた。

 

「ふっふっふ! こんなこともあろうかと」

 

 一同の注目を集め、椎名は肩にかけたスポーツバッグから空気の入っていない風船を四つ取り出した。

 

「これ、魔力を込めながら膨らませて!」

 

 そう言って椎名は三人に風船を配り始めた。

 

「はい、ライダー」

「え、うん」

 

「はいアーチャー」

「……」

 

「はいリーダー」

「なんか私のだけでかくないか?」

 

 困惑しながらも三人は風船を膨らませ始める。

 

 ライダーとアーチャーの風船はピンク色でバスケットボールほどの大きさになった。

 

「なにこれ、椎名さんそっくりでかわいい!」

 

 首を傾げてライダーは膨らんだそれをむんずと掴む。

 風船はぷっくりと膨らんだ椎名唯華の顔に短い手足が直接くっついているようなデザインだった。

 ライダーがその顔を左右から潰すように押し込むと、風船は手足をばたつかせながら苦悶の表情を浮かべ、キュー、キュー、と甲高い声で泣き喚く

 

「ちょ、やめて! おもちぃなをいじめんといて!」

 

「生きてるんだ⁉ すごいな~」

 

 ライダーはほっぺたをぷにぷにと弄る。褒められたおもちぃなはどや顔しながらライダーに好き放題されていた。

 

「魔術による疑似生命体か、なるほど我がマスターにしてはよくやる……」

 

 一方、アーチャーは自身が作ったおもちぃなと対面し、にらみ合っていた。

 

 おもちぃなは(-_-)んな顔でずっとアーチャーの顔を見ていたが、じきにふっと鼻で笑って顔を逸らした。

 

「こいつ、今私の顔を見て笑ったぞ! 許さん、破裂させてくれる!」

 

 アーチャーの手のひらは雷を纏い、その手がおもちぃなに向けられる……!

 

「やめてぇ! おもちぃなは悪くない。おもちぃなは私のコピー人格だから、悪いのはあてぃし! 例えこの子が屑だとしても、この子に罪はないよぉ!」

 

「ならば貴様ごと貫くまで。受けるがいい、我が静かなる雷(静電気)を!」

 

 アーチャーの紫電がその指先から走る。椎名はとっさに目を瞑ったが、いつまでたっても覚悟した衝撃は来なかった。

 

「いや、お前ら人が必死こいて風船膨らませてんのに何やってんだよ……」

 

 呆れたようなチャイカの声。

 椎名が目を開けると、目の前には黒いシルクハットがふわふわ浮かんでいた。

 

 シルクハットはくるりと翻り、その持ち主の頭にかぶさった。髪の色も服の色も左右で白黒に分かれている不思議な少女は帽子を押さえてケラケラと笑う。

 

「こんれーな! お久しぶりです、椎名先輩!」

 

「うわぁ、こんれーな夜見! へーい!」

 

「椎名先輩、へーい! ついでにリーダーも……へーい!」

 

「……へーい……」

 

 ヨルミと呼ばれた少女が椎名、そしてチャイカとハイタッチを交わすのをアーチャーは怪訝な目で見つめた。

 

「……マスター、そこの淑女は?」

「ああ、これは夜見だよ。ほら夜見、挨拶して」

 

「こんれーな! ……じゃなくて、こんにちは! 私はアイドルマジシャンの夜見(よるみ)れなです。椎名さんとチャイカさんは昔所属してた組織の先輩方なのです。どうぞよろしく!」

 

「なるほど、協力者というわけか。私はアーチャー、神の雷を人の世にもたらした偉大なる天才だ。よろしく頼む」

 

 夜見はそれを聞いて首を傾げた。

 

「雷……電気? 電気、電気、電気……あ、わかりましたよぉ、エジソンさんですね⁉」

 

「なん……だと……‼」

 

 アーチャーは愕然とした表情で膝を着く。

 

「ぷぷー、間違われてやんのーw」と椎名に茶々を入れられた怒りで復活したが、その足元は頼りなく、ふらつきながも夜見に歩み寄ると、じろじろと眺めまわし、言った。

 

「失礼、ミス夜見。肌に触れても?」

 

「え、いいですけど……」

 

 夜見が答えると、アーチャーはその頬に手を伸ばし、優しく触れたと思えばにゅっと摘み、ぐいっと引っ張った。

 

「ひゃ、ぃいだだだだ!」

 

「おっと、すまない! 申し訳ないことをした」

 

 アーチャーはパッと手を放す。

 

「絶対わざとやろ!」

 

 椎名がツッコむ。夜見は頬をさすりながら言った。

 

「いやあ、まあ別に痛くないんですけどね」

 

「痛くない、か。君はおもちぃなとは違って疑似生命体ではないようだ。素材もかなり特殊なものを使っているようだが、遠隔で操っているのか?」

 

「その通りです! ちなみに本人は今マジックの公演中ですよ! この会話は脳みその隅っこの方でしています。マジックが失敗したら椎名先輩のせいですからね?」

 

「いや、そこはマジックに集中しろや……」

 

 椎名の言葉に夜見は照れたように笑った。

 

「なるほど。このおもちぃなも君のマジックか。確かに。凡庸なる我がマスターにこのようなものが作れるはずがないからな……ふっはっはっはっはっは‼」

 

「いや何がおかしいねん」

 

「まあまあ、落ち着いて」

 

 静かにこぶしを握り締めた椎名をライダーがなだめた。

 

「それで、椎名さん。夜見さんとおもちぃなを斥候にするってこといいの?」

 

 椎名は当然のことのように答えた。

 

「え、そりゃこいつら生贄……じゃなくて危険な場所の探索に持ってこいやし」

 

 ピー! ピー、ピー! おもちぃなたちが危機を感じ取ったのか、椎名から逃げるように夜見の背に隠れ、抗議の声を上げる。

 

「ちょ、駄目ですよぉ~、あなたたちも私もそういう役割なんですから……まったくぅ、疑似人格も困ったものですね、誰に似たんだか」

 

「え、夜見?」

 

「あら、いけないいけない。とにかく、斥候は我々にお任せあれ! 行きますよ、おもちぃなさんたち!」

 

 ピー! とおもちぃなたちは短い手で敬礼して夜見についていった。

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