Fate/DebiRion.   作:遥野みしん

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15.女子高生たち

 教室に入ってすぐ、鷹宮はクラスメイトたちの間に漂う緊張を感じ取り、自分の席を見て足を止めた。窓際に目を向けると緑は来ていないようで、少しだけほっとする。

 鷹宮は再び歩き出すと、席には着かずにその横に立ち、机に突っ伏して寝ている椎名唯華の肩をとんと叩いた。

 

「ん……まだ眠いわ。あと五十分」

「椎名さん」

「やめて。声掛けんといて。まだ眠いってちょっと。頼む、昼休みまでは寝かせてくれ……」

 

 そう言って再び静かな寝息を立てる椎名。鷹宮は椎名の髪から覗く小さな耳をぐいっと引っ張った。

 

「え、いたい……」

 

 哀愁漂う顔でゆっくりと身を起こした椎名が見たのは、笑顔で目許をぴくぴくさせている鷹宮だった。

 

「椎名さん、そこ私の席なんですけど」

「あ、そうなん? 久しぶりに来たら席替えしてたから空いてる席に座ったんよ。しっかし、うわぁ、リオンさん、お久しぶりっす!」

 

 いえーい! と椎名はハイタッチしようと手を向けるが、鷹宮の両手は背中で組まれたまま動かなかった。

 

「久しぶり? 最近会いませんでしたこと?」

「え? あ、あぁ、確かに会った。会った、ような……会ってないような……」

「はぁ?」

 

 椎名に一度殺されかけている鷹宮は笑顔を崩さずに椎名の目をじっと見つめるが、椎名はぷいと顔を逸らした。

 

「まあなに。ここではあれやから、場所移そうか」

 

 鷹宮から逃げるように席を立った椎名。

 

「まあ、椎名はこんな感じだっけ」

 

 と勝手に納得し、鷹宮も後に続いた。

 

―――――――

 

 屋上。朝のホームルームの時間とあって誰もいないそこは、静かに話をするのにちょうどいい場所だった。

 

 椎名は屋上に出るとさっそく地べたにぺたんと座り、お弁当を広げた。

 

「いやなんでだよ!」

 

 ツッコんだ鷹宮に椎名はのほほんとした顔で答えて

 

「やっぱ早弁なんだよなぁ。最近徹夜続きだから、朝ごはん抜かんとホームルームに間に合わへんくて」

 

 そうして呆れる鷹宮の前で手を合わせ、お弁当を食べ始める椎名。鷹宮は少しの間待っていたが、食べ終わるまで待つのも馬鹿らしいと本題に入った。

 

「それで椎名さん、なんで学校に来たわけ?」

「あむあむあむ……ん、それを言うならリオンさんはなんで学校来てん?」

「そりゃ将来のためでしょ。政治家の娘のエリート魔術師が高校中退なんて草も生えませんわ」

「わからん。聖杯ゲットで大金が手に入ったら、もう稼ぐ必要ないやん。え、まさか根源信者ぁ?」

「いえ、いえいえいえ……!」

 

 眠たげな椎名の視線を振り切るように、鷹宮は首を横に振った。

 

「私が欲しいのは充実した時間と、それに伴って送られる他人からの称賛、名誉です。あ、あとは、身を挺して私を守ってくれる見た目と中身の完璧な殿方さえいれば……」

 

 急にもじもじしだした鷹宮を胡散臭げに見つめて、椎名はお弁当の米を口いっぱいに頬張りむしゃむしゃ咀嚼する。

 

「って聞いてます⁉」

「あむあむ……んぅ、いや、何を聞かせたいねん。まあええわ、そんなの。それよりもあたしは、リオンさんが知っておいた方がいいことを知らせようと思ってわざわざ学校に来たんすよ」

「知らせたいこと?」

「そうそう」

 

 そうして椎名はゆっくりと口の中の物を飲み込むと、椎名にしては真面目な顔で言い放った。

 

「笹木の家が襲撃された」

 

 いったい誰が……? そう聞きそうになった鷹宮は一度口をつぐみ、深呼吸して尋ねた。

 

「笹木さんは、無事なの?」

「さあ? 家は炎上して今は跡形もないし、なんでか周囲一帯森になってるし、笹木は見つからんし……ひょっとすると死んでんとちゃう?」

「そんなこと……!」

 

 思わず険しい顔を浮かべた鷹宮だったが、眠たげな椎名の顔にどこか悲壮なものを見て、怒りを鎮める。

 

 そうだ、椎名さんは笹木さんの一番の親友、自分以上に傷ついてるに違いないのに、私が取り乱したってどうしようもない……。

 

「あたしの言いたいことわかる?」

 

 椎名の気怠い瞳は途端に重くなって、鷹宮の顔を覗き込んでくる。

 

「要はな、リオンさんはこの聖杯戦争、辞退すべきじゃない?」

「……唐突に何? 意味わかんないんですけど」

「わからん? 笹木のサーヴァントは古代ローマ建国の伝説的な王様。それが遅れを取ったんや。リオンさんのあのふわふわしたサーヴァントじゃ勝てっこないわ。それに、あたしとあたしの同盟相手のマスターとで笹木を襲撃したマスターに報復にも行った。マスターとサーヴァントは留守やったけど、家の中には人が何人も死んでるようなやばい礼装がごろごろ転がってたからなぁ。リオンさん、そんな雑魚サーヴァント連れてたら、むごく殺されちゃいますよぉ?」

 

 何も言えないでいる鷹宮を見て、椎名は続けた。

 

「なに、気にする必要ないですって。今回は運がなかった。リオンさんは魔術師としてはあたしより上かもしれんけど、サーヴァントがあれじゃ仕方ない。あんなん無理ゲーやって。あたしだったら速攻教会で保護で、そんでもって寝るもん」

「そう。よーくわかったわ」

 

 俯き、鷹宮が言う。

 

「え、わかってもらえた⁉」

 

 今まで自分の話を素直に聞いてくれた人がいなかったからだろう。椎名は意外なほど、パッと顔を明るくした。それに応えるように鷹宮もほほ笑んだ

 

「ええ、椎名さんは私を心配してくれてたってわけね」

「は、はあ? どこをどう聞いたらそうなるん」

「だって私が惨く殺されてれほしくないんでしょ?」

「それはそう。でも違うやん。違うんすよ。あーもう、どう言ったらいいのかなあ⁉」

 

 うわー! と椎名は頭を抱え込む。

 

「大丈夫。私と私のサーヴァントは最高のコンビだし、これからすっごく強くなれる。だから、椎名さんにはもうちょっとだけ見守っててほしいかな」

 

 少しだけ上目遣いで言ってみた鷹宮だったが、椎名は即答する。

 

「見るだけならええけど、守るのは嫌やな」

「あっそう」

「はぁ、まあ言うべきことは言ったし、あたしはもう帰る」

「あ、ちょっと待って」

 

 と屋上から出ていこうとした椎名を鷹宮は呼び止める。

 

「緑さんが心配してたから、会って少し話してあげてよ」

 

 なんてことはなく鷹宮は言ったのだが、椎名の反応は意外なものだった。

 

「緑……緑仙さんか。緑、ねえ……。どうでもええわ、あんなの」

  

 聞き間違いかと耳を疑う鷹宮を置いて、椎名は屋上から出ていった。

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