Fate/DebiRion.   作:遥野みしん

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21.代償

 ひろが唸り声をあげて大岩のような腕を振るう。バーサーカーは強靭な身体能力で躱していくが、誘導されていたらしい、いつの間にか屋上の縁に追い詰められていた。

 

 ひろは勝利を確信し、笑い声を夜空に響かせ巨大な拳を振り下ろした。

 

 轟音が鳴り響く。ビルの屋上はその一撃で陥没し、数多の破片が舞い上がった。

 

 葛葉は瓦礫の間を飛び移りながら頭上を仰ぐ。

 バーサーカーが翼を広げて空に立つ一方、ひろはスライム状の触手を分裂させてアンジュを包み込み、光り輝く翼で舞い上がってバーサーカーに対峙していた。

 

 葛葉もまた翼を拡げてバーサーカーの元に赴こうとするが、考え直してビルの陥没を免れた部分に落ち着くことにした。

 

 そして、その判断は正解だった。怒号を上げたひろの体は膨れ上がり、岩のような腕はどんどん巨大化しながらすさまじいスピードでバーサーカーに迫る。バーサーカーは固い腕を槍で受け流しながら下へと潜り込むが、そこをスライム状の腕が分裂しながら捉えようとする。

 

 バーサーカーは槍で柔らかな腕を切り刻んでいってひろの本体へ進もうと考えたようだったが、頭上にあったひろの巨大な腕がそのまま落ちてくる。バーサーカーは目を見開き、槍を大きく旋回させる。

 

 硬質な音の中に液体を含んだ柔らかなものの傷つく音がした。

 ひろの硬い腕を食い破って、暗い輝きを放つ杭が次々と生え出でたのだ。杭は旋回する槍の軌道に沿って広がっていき、ついには腕を内部から崩壊させた。腕を失い、悲鳴を上げながらもひろの体は巨大化を続けていく……。

 

 葛葉の掴まっていたビルのフェンスが軋む。葛葉が見上げると、飛び降りてきたらしいアンジュがフェンスの上部に右手を引っ掛けていて、体を引き上げたところだった。アンジュはフェンスの上に腰を下ろすと、葛葉を見下ろしてほほ笑んだ。

 

「おまたせ、待った?」

「てめぇ、あれどうすんだよ」

 

 葛葉が指差した先では、先ほどよりもさらに大きな腕を引っ提げたひろが暴れまわっていた。アンジュはふざけているのか、動き回るひろをカメラの画角に収めるように、指で作った四角形で追いかけていた。

 

「うーん、そうですね。今ひろは自分の身体に触れるもの全てを魔力に変換し、体を大きくするためのエネルギーとして使ってるみたいなんですけど、この理屈で言うと本当にどこまでも大きくなれるかも……?」

「な⁉ とめろや!」

「いえいえ、そんな一方的な戦いではないですよ? 身体が大きくなれば表面積も大きくなって作られるエネルギーも増えるとはいえ、その体を動かすエネルギーにはすぐに見合わなくなる。そうなったときが私たちの負け、ですかね」

 

 アンジュの言うとおりだった。バーサーカーもわかっていたのか、のらりくらりとした消極的な立ち回りを続けている。ひろは叫びながら巨大化を続けるが、動きは鈍くなる一方であり、切り落とされた部位も回復は遅くなっていく。

 

「終いだな」

 

 バーサーカーが告げる。ひろは絶叫し触手と化した幾本もの腕を一斉にバーサーカーに向けたが、バーサーカーはそれを片っ端から切り刻んでまっすぐにひろへと飛んでいく。

 

「そこまでにしてもらえますか」

 

 その渦中にアンジュはバーサーカーの前に両手を広げて立った。バーサーカーは興ざめするようにアンジュを見たが、じきに苦笑して槍を下ろした。

 

「余は構わんが、そちらの大男の方ではまだ戦う意思があるようだ」

 

 アンジュは振り返る。ひろは全身を震わせ、今にも突進しようとしているようだ。その目にはありありと戦意が見て取れた。アンジュはひろへと歩み寄り、その体に触れる。

 

「ひろ、もういいんだよ」

「駄目だ! まだ俺は、俺の強さを証明できていないっ。俺はお前の恋人だ、お前のことを誰よりも知っているんだ! こんな弱い俺ではアンジュを繋ぎ留めておくことができない……!」

 

 涙を流して再び戦おうとするひろに、アンジュは思わずはにかんでしまう。

 

「ああ、不安なんだね。わかるよ。あなたが思ってくれてるのはすごくわかる」

 

 そう言ってアンジュがひろを抱き寄せると、それに応えるようにひろの巨体は崩壊し、アンジュの両腕は等身大に残されたひろの体を包み込んでいた。

 

「私はそれで満足するから、あなたも私の満足で満足してほしい……駄目かな?」

 

 ひろは恥ずかしいのか、顔を背け、小さく頷いた。静かに涙を流すひろの頭をアンジュが抱き寄せる。

 

 葛葉の目はアンジュの右手にくぎ付けになった。ひろの頭を優しく包むその右手は、銀色に輝いている……。

 

 アンジュはひろと抱き合ったまま振り返り、葛葉とバーサーカーの方を見た。

 

「と、いうことで。私の任務は威力偵察だったけど、十分やれたよね?」

「ああ、あんたは十分やったよ」

 

 葛葉は疲れた顔で頷いた。バーサーカーも肯定するような表情を浮かべていた。

 

「それはよかった。じゃあ私たちは帰るとしますか。私たちに限ってもうこの聖杯戦争の妨害行為はしないと誓いましょう。葛葉さん、そしてヴラド・ツェペシュ……さん? 私たちのことを見逃してくれて本当にありがとう。また、どこかでお会いしましょう」

 

 アンジュが言い終わるのと同時にひろは背中の翼を巨大化させ、上空へと舞い上がっていった。

 

 残された二人はどっと疲れが押し寄せてきたのか一緒に俯く。葛葉が顔を上げ、バーサーカーの翼を見て言った。

 

「兄さん、その翼かっけーな」

 

 バーサーカーは相変わらず疲れた表情で葛葉を見て、言葉を返す。

 

「ふん、お前ならそう言ってくれると思っていたよ」

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