緑仙を背負う老人が家の玄関の扉を開けると、リビングの方で「おかえり~」と少女の声がする。
老人がリビングの方に進んでいくと、そこにはソファに寝っ転がりながらゲームをする笹木の姿があった。老人は笹木の横に緑仙を横たえさせる。
「おん? 緑どしたの~? 肩押さえて、汗めっちゃすごいやん」
「笹木ぃ~、緑仙って呼んでって言ってんじゃん。っていうか肩痛い……ナオシテ、ナオシテ」
「ちょ、待ってて。今いいところやから。あ、ちょ、嘘やそんな、まだ生きてるまだ生きてる……あぁぁぁぁあっ‼」
「いやうるさ!」
耳元で叫ばれた緑仙はたまらずごろんと背を向ける。
「はあ? このヌズハって奴煽りやがった! 許せねえよな⁉」
「いや、ちょっと……」
「ウチを煽った奴がどうなるか、思い知らせてやっかんなぁぁ!」
肩を押さえて天井を仰ぐ緑仙は、耐えるしかないか、と深呼吸をし始める。そんな緑仙を哀れに思いながらも、老人は庭の方へと向かった。
庭では笹木のサーヴァント、ランサーが槍を振り回していた。縁側に座った老人に気づき、ランサーは槍を止めて老人に話しかけた。
「老武術家よ、其方の目から見て我が槍はどうであるか? 今日もローマの輝きが零れ出ていよう……!」
まさか話しかけられるとは思っていなかったらしい、老人は眉をひそめて答える。
「あー……そうだな。お主の槍の一振りにはしっかりとお主の人生が刻まれておるよ、ローマ……か」
「その通り。
にやりと笑うランサーに対し、老人はどこかぎこちない作り笑いを浮かべるのだった。
「この味方のりりむって奴もやばい! 何言ってるか全然わからん!」
「笹木……はぁ、はぁ、僕の声、聞こえてる……?」
一方こちらは何も変わらない。笹木がヌズハに打ち勝ち、煽って勝ち逃げするまであと一時間と少し……。
〇
鷹宮と悪魔が帰宅し、携帯を見るとひまわりからメールが届いていた。
「今日は配信しないのー(*’▽’)??」
携帯を置いて、鷹宮はベッドに身を投げ出した。悪魔はここ数日の間に作られた自分のための小さなベッドにいそいそと潜り込む。
窓から射しこむ月明りから逃げるように、二人はベッドの上でそれぞれ壁へと身を寄せた。
「私たち、この先やっていけるのかな……」
鷹宮がぽつりとつぶやくが、悪魔は答えられず、部屋の沈黙は深まるばかりだった。鷹宮はうつぶせになり、枕に顔を押しつける。悪魔はちらりと鷹宮を見ると、気まずそうにしながらも、弱弱しく切り出した。
「なあ、ごめんな。お前はいい魔術師だから、相棒がちゃんとしたサーヴァントだったならもっと何もかもうまくいってたのに……」
そこで悪魔は言葉に詰まってしまう。鷹宮は枕から僅かに顔を上げて悪魔の方を見る。
「でびちゃん、そんなこと考えてたんだ」
「え、うんまあ……」
恥ずかしくなって悪魔は顔を背ける。鷹宮はほほ笑んで言った。
「私も同じこと考えてた。悪いのはでびちゃんじゃなくて、私かも……。今回のことでわかった。私、聖杯戦争を舐めてた。思っちゃったんだ、こんな化け物たちと戦えるわけないって。でも、英雄たちの活躍する世界って、きっとああいうのものじゃない? こんな私じゃどんなサーヴァントと組んだって怖気づいて足を引っ張っちゃう。勝てるわけない」
「小娘……」
今度は鷹宮が恥ずかしくなったのか、悪魔から顔を背ける形で仰向けになり、天井を見つめ始める。月の光と、街の光、それらは混ざり合って波となり、天井にゆらゆらとリズムを作り出していた。
「小娘、お前はよくやったよ。ボクのために身を挺して、時間もたくさん使って……でも、ボクはお前に何も返せてない。ボクじゃお前を聖杯戦争に勝たせてやれる気がしないんだ」
「でびちゃんもよく頑張ってたって。順調に出来ることが増えていって、ちょっとだけ希望が持てたんだもん、私。このまま強くなっていったら、ひょっとしたらって」
「……ボクもそうだ。お前とならやれるかもってちょっと思った」
鷹宮と悪魔はお互いの目を見合ってくすりと笑いあった。悪魔はベッドの上で立ち上がり、鷹宮に呼び掛ける。
「なあ小娘、楽しい話をしようよ。きっと僕たちはまだやれる。だからいつまでもこんな沈んでちゃ駄目だ」
「そうよね。楽しい話、楽しい話……でびちゃん、、配信は好き?」
「うん、配信は楽しい! 皆が一緒に楽しんでくれてるとボクももっと楽しくなれるからな!」
「そう。じゃあ、配信でしよっか、楽しい話」
鷹宮は起き上がると、再びスマホを手に取り、放っておいたメールに返信する。相手は待っていたかのようにすぐ返事を返してきたので、鷹宮は思わず笑ってしまった。
鷹宮は悪魔が横に来るのを待ってパソコンの電源を入れた。