Fate/DebiRion.   作:遥野みしん

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32.開会式

「リーダー、これ……やばいです!」

 

「待て、焦るな椎名。マスターはもう一人いる! 奴ならば私たちのチームに入ってくれる……はず」

 

「はずぅ? もう終わりや! 4対2なんて無理だよぉ」

 

「いいか、気持ちで負けるんじゃない、弱さを見せれば奴らはすぐにでも隙と見て襲い掛かってくるだろう。メンチだ。メンチを切り続けるんだ! ほら、こころなしかチャイナ服の美少女が今怖気づいたんじゃないか?」

 

「ッスゥー……リーダー違います。ドン引きしてるだけですあれ!」

 

「なん……だと……!」

 

「くっ、あたしらだけじゃメンチが足りない……! アーチャー!」

 

「断る」

 

「ライダーも!」

 

「僕もいやかな」

 

「「そんな……」」

 

ーーーーーーー

 

「あれ、なんか向こう側の二人、メンチが弱くなってる。っていうか若干肩落としてない? 今ならやれるんちゃう?」

 

 笹木が離れたテーブルのマスター二人組を指差し言った。

 

「僕はパス。もうちょっと料理食べたいし」

 

 と緑仙は隣の席から持ってきたチョココロネにかぶりつく。鷹宮もまた、緑仙が持ってきたドーナツを手に取って無言でパクパク食べ始める。葛葉は自宅から持ってきたらしい漫画を開き、顔を上げるそぶりも見せない。

 

 状況は停滞し、その場の空気が弛緩しかけたとき、会場内の照明が落とされ、辺りは真っ暗になった。

 

 カシャン、と音がして、舞台上にスポットライトが当てられた。

 その光の中には真っ黒なゴシックドレスを纏う少女が立っていた。少女はマイクの前に進み出て言った。

 

「えー、みなさん、今日はあつまってくれてありがとうございます。主催者ましろのサーヴァント、アリスと言います。ましろはただいま身動きが取れず、この場に来ることが出来ないのですが……」

 

 アリスがそこまで話したとき、会場のマスターたちからヤジが飛んだ。

 

「ふざけるなー! 主催者が姿を現さないとはどういうつもりだー!」

 

「そうだぁー! 我々は危険を冒してここにいるんだぞぉー!」

 

「うわっ、えっ……や、ヤジやめてください! せいしゅくに! せいしゅくに!」

 

 あたふたしながらヤジをおさめようとするアリスだったが、そう簡単にはいかないようだった。

 

「嫌だね! 我々は騒ぎ続ける!」

 

「そうだぁ! 我々の口を閉ざしたければ、もっと美味しいご飯を! もっと高級なスイーツを持ってくるんだぁー!」

 

「わかりました、わかりましたからせいしゅくに!」

 

「ああ、できちゃうの? なんだよ、言ってみるもんだな」

 

「話早くて助かるわぁほんま」

 

 そうして花畑チャイカと椎名唯華は今まで振り上げていた拳をすっと下ろして席に着いた。

 

「なにあいつら……」

 

 遠くで見ていた鷹宮は不審なものを見る目つきで二人を見ていたが、笹木は平然とマシュマロを口へ放っていう。

 

「あいつらはああいう生き物やから、いちいち気に留めん方がええよ~」

 

「こほん、ましろはこの場に来ることが出来ないのですが、中継がつながっていますので、スクリーンにご注目下さい」

 

 仕切り直したアリスが舞台からはけると、その背後にあった白いスクリーンに映像が投射された。

 

 スクリーンにはぶかぶかの囚人服で手足を椅子に固定された兎の仮面の男が映されていた。画面は薄暗く、椅子に取り付けられた小さな照明が男の不気味な仮面を浮かび上がらせ、床に大きな影を作り出していた。

 会場のマスターたちが男の言葉を静かに待つ中、男は少し籠ってはいるが、女性のような高い声でしゃべり出す。

 

「やあみんな。僕はましろ。訳あってここから動けないんだけど……」

 

 ましろがそこまで話したとき、会場のマスターたちからヤジが飛んだ。

 

「ふざけるなー! 主催者が姿を現さないとはどういうつもりだー!」

 

「そうだぁー! 我々は危険を冒してここにいるんだぞぉー!」

 

「自分だけ安全な場所でうちらを見て楽しもうだなんて、許されていいはずがない! 居場所を公表すべきだぁ!」

 

 再び立ち上がった二人に加え、今度は笹木咲も酷い剣幕でヤジを飛ばす。

 

「えぇ……」

 

 鷹宮は立ち上がった笹木を見上げてドン引きし、アリスは「一人増えた!?」とショックを受ける。

 

「えぇ! ちょっと待ってよ。僕は本当にここから動けないから、居場所を公表したら詰みなんだけど⁉」

 

 ましろは抗議するように椅子に縛られた手足をバタバタと揺すって見せる。笹木はましろの言葉を聞いてにやりと笑った。

 

「ふ~ん、ああそう。お前、この城のどっかには居るんやろな?」

 

「うん? それはそうだけど……」

 

「わかったやよ……」

 

 そういって笹木は椅子を引いて席を離れ、クックッと笑いながら会場を出ようとする。ランサーはチョコフォンデュに浸したマシュマロ串を真っ白な歯で引き抜きながら一息に呑み込むと、席を立って笹木の後に続いた。

 

 笹木はホールから出ていきざまに振り返ると、スクリーンに映るましろに向かって喉を掻っ切るしぐさを見せつけ、

 

「見つけ出して引きずり出して、ぶっっっっ殺す」

 

それだけ言って去っていった。

 

「うわぁ……ここ来ちゃうのか。こわ……」

 

 ましろは顔を青ざめさせて苦笑するが、しんとなった会場のマスターたちを見て早々に切り替えた。

 

「あー、そうそう、僕さ、このお城を作るのに魔力を使い切っちゃって。この椅子も仮面も魔力を回復させるアイテムなんだけど、実は今もお城の維持で魔力の消費と回復がいたちごっこでさぁ……動けなくなっちゃった☆」

 

 ましろはアハハハハハ……と大笑いするが、それに付き合って笑うマスターはおらず、会場にはさらに静寂が募っていく。

 

「まあでも、今出ていったマスターを見る限りはちょうどいいゲームバランスになったのかな? 僕はみんなの前に姿を表せないけど、ちゃんとこのお城にいて、それでいて動けずにいる。みんなはお城を探索して僕を探すのもよし、他のマスターと戦ってみるのもよし。このホールでパーティーはずっと続くから、好きに参加するのもいいよ。宿泊用の部屋も用意してるから、休みたくなったら巡回してるトランプ兵に声かけてよ」

 

 じゃ、楽しんでってねー。と手首を固定されたまま器用に手のひらを振ってましろの映像は終わった。

 

「あ、えっと。あたしから補足させていただくと、本当にお手紙の通りで、今回はマスター同士の接触を図る機会として私たちの陣営はこのお城を提供させていただきました。マスターさんたちにはこのお城で何をしていただいても構いません。お城には遊技場や図書館、広いお庭に温泉など、様々な施設がありますが、自由に利用していただけます。あ、あと、戦闘の意思のないマスターさんには護衛をお付けしますので、私やトランプ兵さんたちに声をかけてください。それでは失礼します」

 

 アリスはメモをポケットにしまうと、そそくさと舞台から退場していった。カシャン、と音がして、会場には明かりが戻り、いつの間にか舞台脇に並んでいた楽団がしっとりした音楽を奏で始めた。

 

「え、どうすんの?」

 

 少し唐突ではあったが、鷹宮は緑仙に尋ねる。

 

「どうって?」

 

 緑仙は思い当たる節がない様子で聞き返す。

 

「笹木さん、行っちゃったけど。仲間なんでしょ?」

 

「うーん、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない……」

 

「いや何言ってんだよ。仲間なんだろ、早く追いかけてやれよ」

 

 なぜか渋った緑仙に葛葉が冗談めかしたように言った。

 

「えー、でも」

 

 緑仙は気まずそうにアサシンを見る。

 

「仲間だと思うのなら追いかければいい……いちいちわしを見るな」

 

 アサシンに言われて緑仙は参ってしまったかのように肩を落とした。

 

「わかった、わかったよ。もう」

 

 緑仙は立ち上がり、席を離れようとするが、その前に鷹宮に向けていった。

 

「じゃあ僕は行くけど、鷹宮も来る?」

 

 鷹宮はちらりと葛葉の方を見る。葛葉は好きにしろとでもいうように肩をすくめる。鷹宮は一度口をつぐみ、少し恥ずかしそうに笑みを浮かべて言う。

 

「いやぁ~私たちは護衛を頼もうかなって」

 

「ふーん。じゃ、またあとで」

 

 でびるもね、と手を振って、緑仙とアサシンは会場を後にした。

 

「はぁ~。なんでこうなっちまったかなあ……」

 

 葛葉がため息をつき、頭を抱えてテーブルに突っ伏した。

 

「マスター四人で協力すりゃ、二人は確実に落とせたのに。あの笹木って奴、ほんっと……」

 

「まあまあ。葛葉くんはこのあとさ、どうするわけ?」

 

「あん? そうだな。勿体ねーけど、こうなったらそれぞれで動くしかねえだろ」

 

「オッケー。じゃ、あたしらはその辺で遊んでるわ~」

 

「「おい」」

 

 声を揃えてツッコむ葛葉とでびる。鷹宮は茶化すように笑った。

 

「ジョークです、ジョーク。私たちは護衛を付けて大人しくしてるから、葛葉くんは存分に暴れてよ」

 

 拍子抜けしそうなほどさっぱりとした言い様に、葛葉はため息をついた。

 

「護衛を付けてるとはいえサーヴァント数人がかりだと話になんねー。気を付けてくれよ?」

 

「わかってるって。でび行こ」

 

「あ、ちょっと……もうちょっと……」

 

 そこに在った料理を慌てて口へと詰め込む悪魔の足を引っ張って、鷹宮は席を立つ。

 

 一方、離れた席では……。

 

「俺たちも自由にするか」

 

「そうっすね」

 

「俺ちょっとトイレ行ってくるわ」

 

「了解です。あたしはここで食べてるんで」

 

 花畑チャイカは席を立つ。チャイカを見上げてライダーは言った。

 

「僕もついていくかい?」

 

「ああ、頼む」

 

 そうして二人は会場を後にする。残された椎名はアーチャーに話しかけた。

 

「アーチャー、どうしようなこれ」

 

「何がだ?」

 

「向こうもここに残ってるのは一組やろ? バトルになるんちゃう?」

 

「そうか? 私にはそうは見えないが」

 

「え?」

 

 そのタイミングで椎名は向こうの席を見たが、先ほどまで一組残っていたはずの葛葉とバーサーカーはどこにもいなかった。

 

 知り合いのいないパーティー会場に一人とか……。

 

「寂しいな……」

 

 椎名唯華はテーブルに突っ伏した。

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