「よし、ここは正々堂々サーヴァント戦といこうじゃねえか」
葛葉はそう言うと、勢いよく席を立ち、バーサーカーを伴ってカウンターを離れていった。
「どうするの?」
頬杖をついてライダーが笑いかけてくる。
くそっ、こいつ楽しんでやがる……! チャイカは纏まりそうにない思考を放棄した。
「こうなったらやるしかないのか……」
カウンターの向こうから出てきたチャイカ、そして後に続くライダーの前に、葛葉とバーサーカーが並び立つ……!
「頼むぜ、兄さん!」
「ああ……」
葛葉の声に応じて敵のサーヴァントが地を蹴り、一瞬で距離を詰めてその銀色の槍を振るう。
花畑チャイカに向けて。
「のぅわっ!」
チャイカは予想だにもしない一撃を仰け反ることで何とか躱すと、そのまま後ろにごろごろと転がって距離を取った。チャイカは息を整えながらも困惑する。
なんだ? なんで攻撃された? 正々堂々のサーヴァント戦は一体どこへ……?
その疑問に答える様に、相手の葛葉がサーヴァントに呼び掛ける。
「兄さん、気を付けてくれよ。見た目からしてやばい英霊だ」
「わかっているとも」
相手のサーヴァントは油断など絶対にしないと言うようにその鋭い眼光をチャイカに向ける。
「なっ⁉ おい、ちょっと待ってくれよ……!」
ギャグか? ギャグシーンなのか? みんなで俺を嵌めようってのか?
背後を見るとライダーはうつむいている……ように見えたが違う、腹を抱えて笑うのを必死に我慢してやがる……!
「そんな、違う……! 聞いてくれぇ!」
チャイカの懇願に興を削がれたような顔をして葛葉が耳を貸す。
「違うって、何がだよ?」
「いいかよく聞け。私はサーヴァントじゃない、マスターなんだ!」
はぁ? 葛葉とバーサーカーはチャイカの言葉が理解できないというように真顔になり、次いで馬鹿にするようにくっくっと笑いたてる。そのタイミングはぴったりと揃っていて、兄弟のようですらあった。
「騙されるわけねーだろ。そこのいたいけなマスターをサーヴァントと戦わせるつもりか? さてはおめぇ、相当な悪人か?」
「違う……俺は……!」
「準備はいいか? 女装したエルフの大男よ」
低く、底冷えするようなサーヴァントの声にチャイカは震えあがる。チャイカは助けを求めてライダーの方を見たが、ライダーはグッと親指を立てただけだった。
「くそぅ! やってやる……やってやるよぉ!」
またもや思考を放棄した花畑チャイカはファイティングポーズを取り、今度は自分から相手のサーヴァントに向かっていく。
「おら喰らえ! 花畑チャイカパァンチ!」
花畑チャイカは連続で拳を振るう。が、そのどれもがかすりさえしない。時には槍で防がれ轟音が響き渡るも、敵の構えはびくともしない。なんならチャイカの拳の方が痛いくらいだった。そして拳よりも、チャイカが想像より弱かったせいなのか、敵があからさまに萎えていくのがわかり、チャイカの心は傷ついていった。
こんなものか、とついに敵のサーヴァントが反撃に転じる……。
「ぐはああああああああ‼」
振るわれた槍に衝突し、チャイカはぐるんぐるん転がりながらライダーの足元まで吹っ飛ばされる。
チャイカの姿は余りに痛ましい、その一撃でチャイカのメイド服はびりびりに破れ、黒いロングソックスも破れて艶のある肌が
「あー、チャイカ、大丈夫……?」
ライダーは目を覆いながらも顔を赤くし、指の隙間から丸い瞳を覗かせる。チャイカは震えながら腕を持ち上げ、親指をぐっと立てると、
「アイルビーバック……」
そう呟いて腕がぽてんと床に落ちた。
「あ、なんだ。余裕そうだね」
ライダーはほっと息を吐くと、倒れたチャイカの前に進み出た。
「おいおいなんだよ、まだガキじゃねえか」
葛葉は挑発するように言い捨てる。ライダーは特に反論もせずに一言、愛馬の名前を呼んだ。己の宝具にもなっている、その名前を。
「
数多の雷とともに蹄の音を響かせ、虚空より巨大な黒馬が現れ出る。ライダーは黒馬の首のあたりを一撫でしてやると、その背にまたがった。
「さて、名乗りを邪魔する小うるさいリーダーも倒してくれたことだし、堂々と名乗ろうじゃないか!」
ライダーは腰に差した剣を引き抜いて告げる。
「我が名はアレクサンドロス三世。大神ゼウスの子にして東方世界と西方世界を結びつけし大王である。汝、名を名乗るがいい。我は道の前に立ちふさがる気概があるというのなら……!」
ライダー、アレキサンダーは剣を正面に掲げた裏で、なんてね、と舌を出して誰とも知らずにはにかむ。果たして、名乗りの効果はてき面だった。
「おい、アレクサンドロスって俺でも聞いたことあるぞ……ゼウスって、あのゼウスか⁉ これはやばいんじゃねーのか……!」
苦渋の面持ちで後ずさる葛葉。バーサーカーはそれを見て無理もないというように目を瞑る。
「東方……か」
「おや、東方は嫌いかい?」
バーサーカーが表情をわずかに曇らせたのを見逃さずに、アレキサンダーが問う。バーサーカーは静かに笑った。
「まさか。東方は好きだ。そして西方も大好きだとも。人間は東西に分かれたところで何も変わらぬ。みな自分のことばかり考えて人の足を引っ張り合う……蠅のように小うるさい屑ばかりだ……‼」
バーサーカーがその槍を床に突き刺すと、床から無数の
「ブケファラス!」
アレクサンダーが合図すると、愛馬ブケファラスは前足を浮かせて震わし、反動をつけて思い切り床に叩きつける。すると雷がブケファラスの蹄から四方に広がっていき、杭を粉々に砕いていった。バーサーカーはそれにも驚かずに落ち着いた調子で言う。
「余はヴラド三世。ワラキアの君主にして人より忌み嫌われし吸血鬼」
「吸血鬼?」
素っ頓狂に聞き返したアレキサンダーに、バーサーカーヴラドは左様と答える。
「吸血鬼、すなわち人の血を啜る怪物なり……ならばこそ、東であろうが西であろうが、血の通った
そうして、ヴラドは自嘲半分に笑いながらも鋭い牙を剥き出しにし、その翼を広げて宙へと舞い上がった。
「こりゃあ、訳ありっぽいなあ……」
頭上のヴラドを見上げるアレキサンダーは苦笑して頬を掻いた。