Fate/DebiRion.   作:遥野みしん

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46.夢の欠片

 彼方で大樹は空を突き破った。

 それについて話しあっている最中にバーサーカーが振り返り、あらぬ方を見続けた。

 線路が伸びていく地平線。夜の世界の果てを。

 次いで、葛葉もそれに気づいて舌打ちする。

 

「どうしたのだ?」

 

 アーチャーが尋ねる。

 

「いや、何も」

 

 ヴラドは目を瞑る。一方葛葉は鼻で笑って答えた。

 

「おい、そいつの言ってたことは本当だったみたいだな」

 

 何も分かっていないような顔を浮かべる周囲に苛つき、葛葉は付け足した。

 

「脱出するかどうか揉めてたのも全部無駄だったんだよ。この世界はもう崩れる」

 

 なあ? と同意を求めた葛葉の視線の先には、ベンチの上で膝を抱え込んで丸くなる椎名の姿があった。

 椎名は顔を上げて「え、うん。まあ、な……」と明らかに聞いていなさそうな返事をする。しかし、椎名が顔を上げた際にその目から涙が零れたので、一同は静まった。

 

「おめえ、何で泣いて……」

 

 言葉を中断して葛葉は再び線路の延びる先を見やった。

 

 世界の果てには暗闇があった。この世のどこを探しても見つけられないような暗さが息づくそこは、次の瞬間には一瞬の断末魔を上げて消え去った。あとに残された世界では振動と星々の細く鳴く声が入り乱れ、それも静まったかと思えば、太陽は昇り、この作られた世界はポリゴンの波と化して太陽から逃げ去るように畳まれていく。

 

 駅がのまれる寸前、葛葉は椎名から目を離せないでいた。いつの間にか立ち上がっていて、泣きながら太陽の方へ手を伸ばす椎名を。

 

   〇

 

 これは夢だ。

 

 瞬きを繰り返し、鷹宮リオンは確信する。ここには葛葉と叶がいた。シスター・クレアがいた。緑仙がいた。花畑チャイカと椎名唯華がいた。社築に本間ひまわり。他にも、知らないはずなのによく知っている何人もの人たちがスタジオに集まっていた。

 

 それだけの《ライバー》が集まって何をしているかというと、信じられないことに動画の配信だった。

 

 パタパタと鷹宮の前にでびでび・でびるが飛んでくる。

 

「うん? どうした小娘、体調が悪いのか?」

「いや、別に悪くないし。っていうかでび、これはアンタの見せてる夢?」

「へ?」

 

 でびるはぽかんと口を開けて鷹宮を見つめた。じきにその口はニッと笑いを浮かべ、しかし無表情な瞳は虹色の光を仄かに発しだした。

 

「うふふ~、そうだと言ったら?」

 

 セリフとは対照的な感情のない声音。鷹宮はため息をついた。

 

「別にぃ? いいんじゃない? みんな楽しそうだし」

 

 まあ、あまりに突拍子が無くて現実味がないけど。と鷹宮は付け足す。

 

 聖杯は欲しいけど、人を殺したいわけじゃない。戦う相手だとしても、誰かの敵にはなりたくない。でも、聖杯は一つしかないから、でびるか自分が殺されるか、あるいは他の誰かを自分たちが殺す。その覚悟はできていなくても、最後にはそうなるはずなのだ。……そうなってもいいと思っていた。椎名の話を聞くに、私以外はもっと厳しい覚悟を持ってこの戦いに臨んでいるのかもしれない。そんな彼らがこんな風にみんなで配信するなんて……あまりにおかしくって笑えてしまう。

 

 葛葉と叶など向かい合って和やかに話をしているではないか。あの二人は誰かと対峙するとき、相手が自分に何かしてこないかと常に警戒していたはずだ。他者に対する恐れや不信感があると鷹宮は見ていた。それが、あんなに裏表なく楽しそうにするところなど、想像もできない。

 

 ああ、本当にみんな楽しそうだ。やしきずとひまわりさんがはしゃいでいる。花畑チャイカと椎名が馬鹿をやってみんなに迷惑をかけている……。その一挙一動に配信を見ている視聴者さんたちの笑いの感情が加わっていった。

 

 鷹宮はみんなの輪に入ろうと歩き出していた。

 

「この夢をずっと見ていたい?」

 

 でびでび・でびるの問いかけに、鷹宮は振り返って答えた。

 

「覚めない夢なら見たかったかも」

 

 そうして、ありえない一時の夢を楽しむことにした。




ましろ爻(ましろめめ)
 ……子供のころに偶然から異界へ足を踏み入れて以来、異界の扉を探し続けている。自分の姿をした誰かを殺して成り代わった記憶があり、自分が何者なのか実際のところよくわかっていないが、それはともかくとして今を楽しむ享楽的な一面も持つ。とある神父の招きに応じて聖杯戦争に参加する。

アリス(ナーサリー・ライム)
……広義のおとぎ話の概念が子どもの夢の守り手として英霊化した存在。本来はマスターによってその姿や能力を変えるサーヴァントだが、ましろのことが理解できなかったために児童小説『不思議の国のアリス』の主人公、アリスを模した姿を取っていた。
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