Fate/DebiRion.   作:遥野みしん

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VSおりコウ~滅願電脳遊戯~
56.リア凸


 ある晴れた日の午後、鷹宮リオンは胡散臭い神父が道に佇んでいるのを見た。

 

 うわ、絶対魔術関係者だよ……。

 

 でびると耳打ちし合いながらも、関わり合いになりたくないのでひっそりと横を通り過ぎようとした鷹宮だったが、物事は思うようには運ばない。

 

「失礼、君たち」

 

 背後から呼び止められ、嫌々ながら鷹宮とでびるは振り返った。

 

「突然呼び止めてすまない。私は君の御父上が遣わした魔術関係者だ」

「へ?」

 

 予想外の言葉に目を丸くする鷹宮に、神父はほほ笑みを浮かべて言った。

 

「申し訳ないが昼食がまだでね。細かい話は食事でもしながらどうかな?」

 

 

 神父に連れられやってきたのは中華料理店だった。その店の前で悪魔は渋い顔をするが、男は構うことなく店の中へと入っていき、笑顔で二人にも店に入るように促す。

 

「どしたのでびちゃん?」

「いや、まだそうと決まったわけじゃない……大丈夫だ。小娘、行こう」

 

 なぜかためらう悪魔を連れ、鷹宮が入店すると、待ち構えていた神父が問いかける。

 

「お二人はもう昼食はお済みかな?」

「いえ、まだですけど……」

「ふっ、それは素晴らしい」

 

 神父の顔に一瞬だけ浮かんだ邪悪な笑みに違和感を覚えつつも、素直に案内された席に座るでびリオン。間髪入れず、神父はウェイターに告げた。

 

「激辛麻婆豆腐を三つ」

 

 鷹宮とでびるの間に電撃が走った。

 

(小娘逃げよう、ここの麻婆豆腐は危険すぎる……)

(逃げるって言ったって、そんな……!)

 

 ウェイターの掛け声に素早く反応し動き出した料理人たちは熟練の手つきで調理の工程を踏んでいく。手慣れているものの料理に対する真摯さは失われていないようで、厨房から伝わるその熱量に鷹宮は冷や汗を流す。やっぱり帰るなどとはとてもじゃないが言い出せかった。それに……。

 

 鷹宮は歯噛みし目の前の神父を睨みつけた。神父の二人を見る視線には明らかな挑発が含まれていた。神父の目は言っている。

 

 まさか、逃げはしまい?

 

(でびちゃん、やるよ……!)

(お前……わかった。ボクも最後まで付き合うよ)

 

 二人が覚悟を決めたのを見て取り、神父はこの二人なら当然とばかりに満足そうに腕を組んだ。

 

「ところで、支援者として現状を把握しておきたい。一連の動画は爆発的な伸びをみせているようだが、ちゃんとでび様は強くなっていらっしゃるのか?」

「「でび様?」」

 

 神父の印象とはかけ離れた言葉に反応する鷹宮とでびる。神父はこほん、と咳払いし、

 

「あまり気にしないでもらいたい……」

 と濁した。

 

「あー、えっと……」

 

 鷹宮はでびると見交わし、でびるが?マークを頭にうかべているのを見て自分が話すことにした。

 

「実は、私たちはここまであまり戦えてなくて」

「ほう。いや、いい。理由は察しが付く。私も仕事として動画や配信を全て確認させてもらったのでね」

「あ、それはどうも……」

 

 そこで神父はふん、と鼻にかけて笑う。

 

「ちゃんとチャンネル登録もしたしスパチャも盛んに捧げているとも。当然の義務だろう? ……仕事として」

「「ん?」」

 

 違和感を覚えてでびリオンは首を傾げてお互いの顔を見交わした。

 

「ん? なにかね?」

「あ、いえ、献金感謝です!」

「これからもよろしく頼むぞ!」

「任せたまえ。君たちのためなら私の全てを差し出そうじゃないか……仕事として」

「あ、はい」

 

 でびるは魔力のパスを通じて鷹宮に語り掛ける。

 

(こいつやっぱりただのファンでは?)

(い、一応お父様の依頼で動いてくれてるみたいだし……仕事、なんじゃないの? 知らないけど)

(んなわけねーだろ!)

 

「と、とにかくあまり戦闘する機会がなくて、最後に戦ったときは全然ダメだったし……他のマスターに助けてもらったくらいですから」

「相手は誰だったかな?」

「え?」

「三人いたはずだ。誰だった?」

「えっとぉ……」

 

 誰だっけ? とでびるを見つめる鷹宮。でびるは上を向いて何かを思い出している様子で言った。

 

「でっかくて頭が三つあった! ……犬?」

「いや、犬じゃなくてケルベロスってあのマスターが言ってたような……あ、あと耳を頭から生やした和服の女性だったような……」

 

 それらを聞いて、神父は断言した。

 

「戌亥とこだな」

「「それ!」」

 

 そろって目を輝かせたでびリオンに神父は苦笑する。

 

「そうか。彼女が相手ならば仕方があるまい。だが、今ならばどうだ? 単純に数字だけを見てもあのころより登録者数は十倍以上、最近上げられた城内ツアーの動画など日本だけでない、世界中の人々が興奮している。可憐な少女が悪魔を連れて迷い込むのはこの世に存在しない城、それが世界的なファンタジーをモチーフとした城なのだから、人々の熱狂も理解できるというもの」

 

 神父の口ぶりに鷹宮は気になって尋ねた。

 

「え、不思議の国のアリス、読むんですか?」

「内容は知っていたが、興味を持ったのはあの動画を見てから……いや、そんなことはどうでもよいのだ。とにかく、私の言いたいことはこうだ。今のでび様にはケルベロスと戦えるだけの力があるのではないか? 多くの人々がでび様に期待しておられる。人々が期待すればするほど、でび様には自然とそれに応える力が集っているはずだ。どうだね」

 

 神父に問いかけられたでびるはどうにもしっくりこないというように自分の手のひらを見つめた。

 

「ボクがあの化け物に……」

「ああ、私の計画としても、最終的にはそれくらいの強さがなくては困る」

「でも、私たち配信してただけで、他のマスターみたいに戦ってない……」

 

 肩を落とす鷹宮に、でびるも同調して目を伏せる。だが、神父は二人の不安を取るに足らないもののように笑った。

 

「何を馬鹿な。他のマスターたちが私利私欲のために殺し合いをしている間に、君たちはたくさんの人々に感動を届けたのだ。そこは胸を張るべきではないか」

 

 神父の言葉に二人は茫然と固まり、そして目をうるうると輝かせた。

 

「お前、悪役みたいな見た目してるけど、いい奴なんだな……」

「ごめんなさい。胡散臭い人だとばかり……!」

 

 二人の明け透けな言葉に眉を引きつらせながら、神父は続けた。

 

「あー……それででび様、強くはなられているのですか?」

「うん! 戦ったことないからわかんないけど、ボクはみんなの力で強くなってるよ」

 

 今度こそでびでび・でびるは自信満々に答えた。神父は頷く。

 

「それでは、既に動いている私の計画をお二人にお話しましょう」

 

 神妙な顔になった神父にでびリオンもごくりと息をのみ、一言も聞き漏らすまいと耳を澄ます。神父は言った。

 

「世界を股にかけて暴虐の限りを尽くす封印指定が取引に応じてくれた。仲間を引き連れてこの街に来るぞ……! 奴は魔術師の数人なぞ自分一人で皆殺しだと舐めてかかっているが、私の見立てではマスターたちとの総力戦ともなれば恐らく互角、戦いは泥沼と化すだろう」

 

 そこで鷹宮は存在しない眼鏡をくいっと中指で押し上げると、顔の前で両手を組み合わせて言った。

 

「つまり、私たちは戦いの間は隠れてて、みんなが消耗したところを一気に掻っ攫うってわけね」

「その通り」

「でびちゃん、どう思う」

 

 振られたでびるは顔の前で両手を組み合わせ、目を瞑ってたっぷり時間を取ってから答えた。

 

「うん、とってもいい作せ――」

「その通りです! あり得ません!」

「ふぇ?」

 

 でびるの時間をかけて作った顔が一瞬でふやけた。

 

「あまり私たちを舐めないでくださる? 私たちは正々堂々と他のマスターたちを打ち破ります。そのための苦労を貴方のような部外者に掻っ攫われては困るのです!」

「そ……そうだよ! こほん! あまり、ボクたちを舐めるなよ……」

 

 改めてキレのある顔を作ったでびるに睨みつけられて、神父は目を震わせて立ち上がった。

 

「ち、違う……! 私はそんなつもりでは……君たちに勝利を捧げられればと……」

 

 言い訳する神父をぎろりと悪魔の瞳は捉えて離さない、やがて神父は肩を落とし、静かに座った。

 

「どうやら私は自分勝手な好意を君たちに押し付けてしまったようだ……すまなかった」

「いえ、貴方の好意はありがたく思います。それで、その封印指定との取引は無かったことにはできないんです?」

「できない……」

 

 謝意をあらわにするためか目を瞑って顔を伏せる神父。では、と鷹宮は立ち上がった。

 

「早急に教会に知らせて対策を練らないといけませんので……」

 

 だが、店の外に出ようとする鷹宮を神父は呼びとめた。

 

「奴が来るまでにはまだ時間がある。席に着くのだ、鷹宮リオン」

 

 神父の言葉から圧を感じ、鷹宮は眉を寄せて振り返った。

 

「まだ何か……ハッ⁉」

 

 鷹宮は忘れていた。自分たちは今までなぜこの店で話をしていたのかということを。鷹宮の言葉を遮るように現れた店員は、素晴らしい営業スマイルで言った。

 

「激辛麻婆三つ。辛いのでお気をつけてお召し上がりください」

 

 そうして盆からテーブルに移される三つの皿。その上に盛られた真っ赤な物体はぐつぐつと煮え立つこともなくただそこに麻婆豆腐として在るだけだった。

 しかし、鷹宮の勘は全力で警報を鳴らしていた。あの赤色の艶々とした照りは静かに狂気を主張しているではないか……。

 

「ぴゃ、ぴゃぁぁぁぁァァァ……」

 

 鷹宮の口から情けのない悲鳴が漏れた。一方、でびでび・でびるは「うっまそー!」とスプーンを取るが、その目は白目を剥いている。明らかな現実逃避だった。

 

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