Fate/DebiRion.   作:遥野みしん

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82.チェス盤

 スピーカーから出雲霞のすすり泣く声が漏れ出ていた。卯月コウはどう声を掛けたものかわからず、画面の前にただ黙って立っている。黛は卵を手にして、事は終わったと一度目を瞑り、出雲霞の映し出されている大型の機械装置の方を見て言った。

 

「鷹宮さん、もう出てきていいよ」

 

 コウは怪訝な顔で黛を見たが、機械の後ろから顔を伏せて出てきた鷹宮を見て思わず声を上げた。

 

「お前! どうして……」

 

 鷹宮は気まずそうにしながらコウを通り過ぎ、振り返って答えようとするが、

 

「いや、その、どうしてって言われても、私もまだよくわかってなくて……ごめん」

「いや、わかんないなら謝るなよ。あ、出雲! 出雲もずっとこいつが隠れてたの、知ってたのか?」

 

 霞は涙声で答えた。

 

「うん。見てるだけだからって黛さんに言われて……」

「黛さんに」

「う、うぅ……」

「わかったから、もういいもういい!」

 

 コウは振り返って黛と鷹宮に言った。

 

「ほら、あんたらも早く出てけよ。勝ったんだろ? いつまでも敗者を見てんじゃねーよ」

 

 しっしっ、と手で追い払うコウ。霞は懇願するように言った。

 

「あの、黛さん、もう少しだけ、時間を……」

 

 黛はただ一言答える。

 

「わかったよ」

 

 そうして、目で合図して鷹宮を呼ぶと、校長室から出て行った。

 

ーーー

 

 外はもう夜だった。黛が手にしている卵が柔らかな青い光を放ち、辺りを照らし出す。黛が扉を開けると、そこは半壊した校舎の瓦礫に半ば埋もれた廊下だった。

 

「な、なんですかこれ……」

 

 鷹宮が驚き呆然とするも、黛は意に介さず、目の前の瓦礫でできたトンネルをくぐって廊下の向こう側へ進もうとする。

 

「黛、説明してくれないと、何が何だか……」

 

 鷹宮の声でようやく黛は止まると、鷹宮が瓦礫のこっち側に来るのを待って、再び歩みを進めた。

 

「今この世界は俺の手のなかにある」

 

 鷹宮は突然何を言い出すんだと黛を睨むが、黛の手のなかにある卵を見て、その言葉があながち間違いでないことを直感した。

 

「そ、よかったじゃん」

「いいの? いや、まあ、それでわかったんだけど、校長室だけ校舎から隔離されてるっていうか、次元の違う場所にあったみたいだね。それで無傷で済んだわけ」

「なんで校長室が……? いえ、なんで校舎がこんな……ああ、頭がパンクする!」

「どっちもすぐわかるよ」

 

 むしゃくしゃしたように頭を掻いた鷹宮を伴いながら、黛は迷いのない足取りで校舎を進んでいく。校舎の壊れ具合は中々のもので、床はえぐれているだけならまだしも、切り刻まれた跡や細かな穴がそこら中に空いていて、足元が暗いなかでは気をつけなくてはいけなかった。

 

 鷹宮は立ち止り、天井を見上げた。天井は無かった。校舎の一階から四階まで開通して、四階の天井に空いた大穴から月明りが差し込んでいた。

 

「鈴原さん」

 

 黛が足を止めた。

 黛の足元には鈴原るるが横たわっていた。

 

 大変!

 

 そう思って鷹宮は駆けつけ、言葉を失った。

 

 倒れている鈴原るるには片手と片足が欠けていた。ピンクのカーディガンは血に染まり、口の端からは血が流れている。

 

 鷹宮はすぐに治癒魔術をかけるが、ほとんど意味もないだろうとわかっていた。

 黛はそんな鷹宮を、そして鈴原を見下ろし、ぼそっと言った。

 

「鈴原さん、俺が治そうか?」

 

 鷹宮は一瞬自分に言ったのだと勘違いして答えてしまう。

 

「治す? 治すって、こんなのどうやって……」

 

 ふと、鷹宮は鈴原の方に視線を戻す。そして信じられないものを見る。

 

 鈴原は薄く開かれた目蓋の隙間から鷹宮を見上げると、ゆっくり体を起こした。黛の方を見上げ、か細い声で言った。

 

「いらない。自分で治すから」

 

 鈴原るるの欠けた手足の根元から、骨や血管が、筋肉が、織物を縫うかのように紡がれていくのを、鷹宮はあんぐりと口を開けながら見守った……。

 

「で、どうだった? けっこう強かった?」

 

 黛の問いに鈴原るるは答える。

 

「はい。手も足も出なかったです」

「今の俺なら勝てるかな?」

「それはなんとも……」

 

 苦笑する鈴原に背を向け、黛は先へと進もうとする。

 

「あの、黛さん」

 

 鈴原に呼び掛けられ、黛は足を止めた。

 

「この二年間、黛さんのおかげで美術部でいられることが出来ました。美術部じゃなかったらできなかった友達もできました。あのころの私は毎日がこんなに楽しくなるとは思ってもいなかった……。こんな、たった一回の機会で返せる恩だとは思ってないけれど、でも、今は言わせてください。黛さん、ありがとう……!」

「気紛れだよ、ただの」

 

 黛が吐き捨てるように言って歩みを再開した。その背を微笑ましく、大きな瞳が見つめていた。

 

 

 

 角を何度か曲がり、しばらく歩くと、女子生徒が道を塞ぐように立っていた。女子生徒は月明りの下で黒く蠢く人影たちと戯れているようだった。

 

「間桐桜さん」

 

 黛の呼び掛けに反応し、キラキラと輝く黒い人影が床の上を滑るようにして一斉に黛に襲い掛かる。が、その攻撃は全て黛をすり抜けた。構わず攻撃し続ける影たちを見かねて、黛は言う。

 

「話がしたいんだけど」

 

 女子生徒、間桐桜は顔を上げると、不快感も露に言った。

 

「なんですか? あなた」

「なんだっていいでしょ、別に。それよりも話がしたいんだけどな。今の俺に干渉できるのはこの世界には一人しかいないよ」

 

 表情も変えず黙り込んだ桜を見て、黛は言う。

 

「一応言っておくと、間桐さんじゃない」

「はぁ。いったい何が言いたいのやら。あなたがある程度の権限を手に入れたのはわかりましたけど、それが一体何になるって言うんですか?」

「別に。っていうか、もう知ってるから。出てくるなら出てきても構わないよ」

「はぁ? いったい何を言ってーー」

 

 言っている途中で桜は停止した。瞬きもせず、口も開きっぱなし。リモコンか何かで停止ボタンでも押されたかのようだった。その姿がぶれ始め、次第に姿が変わっていく。

 

 停止していた輪郭がゆっくりと解かれていき、黒のロングコートの裾が音を立てて広がった。そして次には胸元に結ばれた長めの赤いリボンが、最後に地面に付きそうなほど長い髪が、廊下を吹き抜けていく風にそよいだ。コートを纏うミニスカートの少女はどこか間桐桜に似た顔つきをしていたが、雰囲気は幼く、そして何より浮かべる笑みに悪意があった。

 

 少女は不遜な表情で黛に拍手を送った。

 

「どーぅも☆ まずは、おめでとうございます、と言っておきましょうか。黛灰さん」

「どーも。ところで君は、ゲームマスターって奴?」

 

 全く物怖じせず称賛を受け取り、さらに質問までした黛に少女は顔をしかめつつも笑顔で対応した。

 

「はい! 私はこの世界を管理するミラクル美少女AI、奇跡の後輩アイドル、BBちゃんです! ……なんですか、その顔は」

「いや………………別に?」

「失礼すぎます⁉ 私はこう見えてもこのシミュレーション世界を何度も何度も観測しているんですよ! あなたがるるちゃんや黒桜ちゃんにぎたんぎたんのめたんめたんにグロテスクされるのを、特等席でポップコーン片手に何度も見てるんです。今更あなたに何を言われようが、まーったく、悔しくありませんからね~!」

 

 べーっ! と舌を出すBBに黛は頭が痛くなったのか、目頭を指で揉み始めた。

 

「あー、なるほどね。俺の知ってるAIよりだいぶ邪悪だわ」

「AI? イカスミちゃんですか? あの頭でっかち、次回のシミュレーションではまゆゆさんをもっと魔改造してものすっごく虐めてやります!」

「邪悪すぎる……。やっぱり観測するだけじゃないんだね」

「これも変化の一つですよ。刺激です、刺激。やっぱり楽しく生きなきゃ、です! 目の前で繰り広げられるチェスを見ているだけでは面白くないじゃないですか。想像してみてください。目の前には進行中のチェスの盤面。審判は自分一人。打ち手はいない。そんな中で駒だけが勝手に動き回ってるんです。人間誰しも、いえ、AI誰しも、時には自分で駒を動かしたくなったり、駒の位置を入れ替えてみたくなったり、駒の色や形を自分好みに作り替えちゃったりしたくもなるでしょう?」

 

 話を真面目に聞いていた黛は、げんなりした表情で鷹宮の方を振り返って言う。

 

「ごめん、俺の手に負えない。鷹宮さん、ちょっとテキトーに話して情報を引き出してみてくれない?」

「無茶振りが過ぎる!」

 

 いきなり話を振られた鷹宮はぎょっとした顔で思わずツッコんだ。

 

「そうです! あなた、プレイヤーって言うんですか? なんなんですか、プレイヤーって」

「チェスの打ち手なんじゃないの? 普通は」

 

 黛が横から口を挟む。その言葉に対して怒りを表しているのか、拳をぶんぶん振り回してBBは喚きたてた。

 

「はあー? 私、そんなん許可した覚えないんですけど⁉ ふざけんなですよ。盤上の駒風情が。ちゃんとルール守ってください! あなたたちにはわからないでしょうけどねえ、盤面がひっくり返りそうなほどぐるぐるしててこっちは大変だったんです!」

「お、お前が言うな! ……あ、すいません何も言ってないです」

 

 怯えながらも勇気をもってツッコんでみた鷹宮だったが、BBに睨みつけられて縮こまってしまう。黛が代わりに聞いた。

 

「プレイヤーってそんなに影響があったの?」

「ええ! その影響力たるやとんでもないですよ! 私は悠久の時をこのシミュレーション空間であそ……ミッションをこなしてきましたが! 黛さん、あなたがその卵を手にしたのはこれが初めてです」

「これが……」

「はい。そしてきっと、これが最後になるんでしょうね」

 

 厭らしさの全くない笑みを浮かべてBBは、前かがみになって黛の顔を覗き込み、黛の周囲をゆっくりと回りながら言葉を一つ一つ発していく。

 

「嬉しいでしょう? 嬉しいはずです。私だけは……私だけが、本当にあなたのことをわかってあげられる。なんてったって、あなたがこの閉じた輪廻の輪から逃れようともがく様を、誰より近い場所で見ていたんですから。これは絶好のチャンスです。今回を逃せばあなたはもう二度と卵に辿り着くことはない。私は公平なゲームマスターですから、素直に称賛して送り出してあげますよ、ええ……ですけど、」

 

 そこで一転、BBは凶悪な笑みを浮かべて提案する。

 

「このBBちゃんにかかれば、もっといい方法があるんですよね~」

 

 胡散臭すぎる……鷹宮はドン引きした。黛は顔色一つ変えずに尋ねた。

 

「俺はどうすればいいわけ?」

「ええ、その卵を私によこしなさい。さすればあなたは輪廻を乗り越えて前世の自分の記憶を引き継ぐことができるでしょう。ふっふっふ、強くてニューゲーム! 散々自分をなぶってきたこの世界に復讐するのです! ねえ、この世界を去るのはもうちょっとだけ後でもいいじゃないですか~。もうちょっとだけ遊びましょうよ~」

 

 言ってることやば……鷹宮はドン引きした。

 

「そっか。ネットの下層もアンタが作ったの?」

「さらっと流しました!? ……ま、そうですけどー? 何か気になる記事でも見つけましたか?」

 

 黛は鷹宮の方をちらっと見ていった。

 

「聖杯戦争」

「あ~、それ……」

 

 BBは露骨に嫌そうな顔をして胸元のリボンをいじり始めた。どうでもいいことを今更考えたくない、面倒くさいという感情が全面に現れていた。

 

「世界五分前仮説ってご存じですか?」

 

 鷹宮は頷く。黛は黙って話の続きを促した。

 

「世界は五分前に作られた。人々が持つ五分より前の記憶、これまで生きてきた人生も、全ては五分前に始まっていたんです。五分前に作られたとしても、世界には色んな人がいるでしょう? 世界五分前仮説を実行していると思い込む人間だって、その世界にはいてもおかしくないですよね」

 

 黛の表情は変わらなかったが、BBは自分の言葉で興奮したのか、瞳を赤くし、耐えられないというように身をくねらせて高笑いした。

 

「惨めですよねー。たくさんのものを失って、散々な目に遭いながらようやく作り上げた箱庭が、まさか自分の物ではなかっただなんて。つらいつらい聖杯戦争の記憶も、他人の宝探しゲームのために適当にでっちあげられた設定! そもそも、間桐桜という人間、その人生が、適当にでっち上げられたものに過ぎないだなんて……! ああ、なんて愛らしい私だけのお人形さん! こんなの手放せるわけないじゃないですか!」

 

 腹を抱えて笑うBBに、カッとなった鷹宮が何かを言ってやろうと前進するが、それを押しとどめてもう一つの笑い声が混じり始める。BBは笑顔を曇らせて笑うのを止めた。

 

「あなた、そんな風に笑えたんですね……」

 

 鷹宮も驚いていた。黙っている二人の前で、黛が声をあげて笑っていた。苦しいほどに笑い、どうすればいいのかもわからないと言った風に。そして黛は何がおかしいのかをはっきりさせるように、笑い声をあげながら指を差した。

 

「……何がおかしいって言うんですか」

 

 その瞳に敵意を覗かせ抗議するBBを指差し、黛はますます大きな声で笑いたてた。

 

「黛……?」

 

 鷹宮が心配して声をかける。すると、黛は笑うのを止めて振り返り、いつかの柔らかい表情を浮かべて鷹宮を安心させた。黛は言った。

 

「確かに俺たちは何も知らない。お前のおもちゃで、運命の奴隷なのかもね。でもさ、お前はどうなの? 実はお前も俺たちと同じように、大して変わんないじゃないかって考えたことある?」

「何を言うかと思えば……。私は外の世界からこのゲームの管理を任されたAIですよ? この世界に起こったことの全てを……毎回リセットされるあなたちではわかりようのない、あなたたちに起こったことの全てを、私は知っているんです。だから……」

「俺たちとは違う……そう言いたいわけ?」

 

 差し挟まれた黛の言葉にBBは目を震わせる。黛は呆れも混じったような冷たい声音で告げた。

 

「BB、お前だけがこの世界でただ一人、この卵の奴隷なんだよ」

 

 黛は自らの手の中にある卵を、愛おしむような眼差しで見下ろした。まるでそれが、BBそのものかであるみたいに。

 

 再びこらえきれなくなったのか、黛は笑う。

 

「こんなに滑稽な事ってあるんだ。こんなに惨めなキャラクターって――」 

「やめてください!」

 

 BBの叫ぶ声が崩れた廊下に反響した。BBは顔を伏せ、震えた声で言葉を紡ぐ。

 

「口を、慎んでください……私は、あなたたちとは決定的に違うんです……」

 

 黛は冷徹にBBの様子を観察し、言う。

 

「でも卵は手に入らなかった」

 

 その一言でBBは言葉を失った。次いで、その表情は静かな怒りを帯びてくる。

 

「俺はこの一回しか経験ないけど、卵の防御システム破るのを手伝ってくれてたよね。あの隠し玉の八番目の壁は俺一人じゃ到底破れないものだった。あと、それより前にも俺の攻撃に紛れて何度か攻撃してたみたいだし、なんなら俺が卵の存在を見つける前に卵を守る出雲霞を攻撃してたでしょ。ハッカーとか言って俺の存在を仄めかして誤魔化してたみたいだったけど……どうしてそんなことする必要があったの?」

「はぁ!? なんでそこまで……じゃなかった! そ、それはもちろん、いっつも負けてばっかりの黛さんがあまりに可哀想だったので? 今回だけは特別に勝たせてあげて、それで気持ちよくなっていただければな~……なーんて!」

「……嘘だね」

「嘘じゃないです~! AIは嘘つけないんです~!」

 

 黛はやれやれと肩をすくめる。

 

「俺はどうして卵がほしいのか聞いてるんだけど」

 

 黛のダメ押しに、BBは押し黙った。黛は手の中の卵を見た後、BBの方をじっと見つめ、困惑した声音で言う。

 

「センパイ……?」

 

 これにBBは顔を赤くして飛び上がった。

 

「なっ! 私の中覗いて……⁉ このっ! 違います! そんなもの、欲しくありませんよ~だ! 私はゲームマスターですよ? ゲームを面白くする以上のことは誓ってしません! ましてや自分自身が勝者になろうだなんて……ぐっ、ぐぅ……ま、まったく。黛さんったら失礼しちゃいますね、ホント」

 

 BBはロングコートの腰に手を当ててわざとらしくぷいとそっぽを向いた。

 

「今回の黛さんとはあんまりそりが合わないみたいですし? さっさと保健室に帰ったらどうですか? あーあ、卵を渡して頂ければ黛さんの俺TUEEE!に協力できると思ったんですけど、残念だなあー」

 

 そう言いつつも、ちらちらと黛が手にする卵を見るBB。少し苛ついているのか、黛が挑発するように言う。

 

「ここで逃していいわけ? わかってると思うけど、卵はお前にだけは渡さない。これが最後かもしれないって言ってたよね。それはお前にとっても最後なんじゃないの? そこで意地なんか張らずに奪いにきなよ」

 

 黛がどうしてそんなことをいうのか、鷹宮には理解できなかった。本当に奪われてもいいというのだろうか。だが、BBもまた黛に応えるように上ずった声で言った。

 

「要りませんってば! もう! ここまで話が通じないとは驚きです! 私にもプライドがあるんです! さっさとこの世界から消えてください!」

 

 二人の間に流れる空気が変わったのを鷹宮も感じた。黛は壊れた天井を仰ぎ、BBは感情的になって前後に開いていた脚を揃え直して立った。黛は辺りの瓦礫を見回して言った。

 

「この学校、俺が直せばいい?」

「いえいえ。今回ばかり私がサービスしますよ」

「できればチェス盤を見たいかな。嫌ならいいけど」

「チェス盤、というと……ああ、なるほどですね。いいですとも!」

 

 そう言ったBBの体がふわりと宙に浮きあがる。BBはロングコートをはためかせながら目を瞑り、両の手のひらを胸の前で合わせた。

 

 目を開いたBBの瞳の奥で、青い光のラインが幾重もの格子を描く。BBが閉じた手のひらをゆっくり開くと、そこには青い光の格子を組み合わせてできた大きなキューブがあった。拡がっていく手のひらと手のひらの間でキューブはどんどん拡大していく。BBが両手を大きく広げきると、キューブはBBの体を一息に飲み込んで、黛や鷹宮、そして学校をも飲み込み、この狭い世界一帯に広がっていった。

 

 鷹宮が目を開けると、そこはもう学校ではなかった。黛と、BB。それ以外には何もない。深海のような暗闇の中を、青く透き通った光のマス目がどこまでも続いていた。

 

「ふーん。ま、こんなもんか」 

 

 黛が感慨深そうに呟いた。

 

「ええ、こんなものです。世界の実相なんてつまらないものですよ」

「これも実相の一つに過ぎないでしょ。けっきょくのところは」

「まあ、そうかもしれませんね」

 

 二人は鷹宮を置いて話を進めていく。

 

「どうしますか? 保健室のマス目に目印を付けますか? それとも学校を作り直してから行きますか?」

「別に俺たちを待たなくていいよ……じゃあね」

「ええ、さようなら。黛先輩」

 

 あっさりと背を向けて歩いていく黛に驚きながら、鷹宮も会釈して黛の後を追った。振り返ると、BBはまだその場に浮いたままで、こちらを見つめていた。

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