典型的なラブコメ   作:ゆきのん

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弓道場にたどり着けません

「ところで、弓道場ってどこにあるんだろう」

 弓道場にむかって勢い良く走り出した僕は1分後にはもう立ち止まっていた。調子が良かったのは昇降口までであった。まあ、行ったこともないどんな形かわからない弓道場に行くなんて高校に関しては不可能と言ってよい無謀な行いだった。。香奈もなかなかひどいことをしてくれた。僕が知っているはずがないということを香奈なら分かっているはずなのに。彼女らしくない。

「それにしても、学校の敷地広すぎでしょう、どう考えても!」

 この学校は都市から離れた郊外に位置していて、学校の敷地面積がとんでもなく広い。その広さゆえに、なんでも海外の雑誌で取り上げられたこともあるらしい。この広いにもほどがある学校ができたのにはこの学校の理念が関係している。

「この高校って、設備だけは無駄に素晴らしいんだよな」

 この学校は新しい。たぶん今年で創立10周年だったと思う。創立を考えた人々は、現代によくいる形から入るタイプの人々だったのであろう。『総合大学に負けない高校』などというわけの分からないスローガンを立てて、ものすごい広い土地を買い取った。そして大きな校舎、サッカー場、野球場、プールなどの運動施設、さらには図書館、実験棟、海外交流施設などの文化施設などを建てまくった。他にも、普通の高校には存在するはずのないような施設もいろいろある。確かに総合大学っぽいかもしれない。しかしこれではちょっとしたアミューズメントパークなのではないだろうか。

 もちろん、そんな高校あったらみんな入学したいと思うだろう。県外から、または海外からこの高校にはたくさんの優秀な人が集まってくる。僕や香奈は特に優秀というわけではないけど、いわゆる地域枠というのをうまく利用してこの学校に入学することができた。いやー、こっそり二人でたくさん勉強したことを思い出して泣けてきちゃったよ。地域枠といっても、やっぱりそれなりの学力は必要だったからね。

「ほらほらほらーっ、あそこの外人さんたちなんてなんかパーティー開いちゃってるし」

 昇降口から見回す学校の敷地全体では放課後というだけあって様々な部活が活動したり、何をしたいのか分からない、パーティーをする外人のような人たちがいたりと大変活気に満ちてカオスな状況になっていた。

 そんな高校事情のために、僕は弓道場を探そうとして途方にくれていたのである。その辺の人に聞いたってどうせ分からないだろうしね。あまりに広く、学校の全体を把握できている人はごくわずかしかいないのだ。だから地味な部活に入るには、その部活の先輩に活動場所まで連れて行ってもらったりする必要がある。当然、成り行きで今弓道部に行こうと決めたばかりの僕のそばには弓道部の先輩なんていない。

 さてどうしたものかと、僕は再び、人の往来がある方になんの気なしに目を向けた。すると、なんだか怪しい1人の女の子が目の前を通りかかるところだった。明るい茶色の肩にかからないくらいの髪のこれまた可愛らしい女の子。ジャージを着ているのは運動部だからだろうか?そこまではいい。きっと部活で汗を流して青春するのだろう。

「あ〜っ!重いよう!1人でこんなに持てるはずないのに…‼︎香奈ちゃん、手伝ってくれるって言ってたのに、全然来ないし。ひどいよ!絶対後でなんかおいしいものおごらせてやるんだから!」

 でもその女の子は、ブツブツと僕の知人に対する可愛い呪いを吐きながら半泣きで、布につつまれたとても長い2メートル弱くらいの棒みたいな細いものを7、8本運んでいたのだった。

 はじめはあっけに取られたけど、どうやら僕の幼馴染の大内香奈が関わっているようだったので僕は声をかけて見ることにした。場合によっては、手伝ってあげた方がいいかもなとも思っていた。だって泣いちゃうくらい大変なんだもんな。僕自身、いつも香奈に気にかけてもらっているせいなのか。僕は困っている人を無視するなんてことはできないないのだ。それにこの女の子、香奈ほどじゃないにしても可愛らしいしね。この時点で僕は、自分が今弓道場にたどり着かなくてはならない、さてどうしようかと考えていたことを忘れていた。

「すごく重そうだけど大丈夫? というか香奈ちゃんって大内さんのことだよね? 大内さんなら、今日は日直で放課後まで残って日直の仕事やってるよ。入学してすぐだからちょっと手惑って時間かかちゃったんだけどね。 あのっ、僕で良かったらその棒? 運ぶの手伝うよ!」

 よし、これであとで香奈に報告すれば香奈の中での僕の株は上がるに違いない。しかもさっきの香奈の様子だと、このこと忘れてるようだったから後でいじれるかもしれない。まあ、忘れてるかもしれないということはこの子には伝えなくてもいいだろう。実際日直の仕事遅くなっちゃってたわけだし。かわりに僕がフォローすればいいだけの話だ。香奈はしっかりした子だけど、それでもたまにはうっかり忘れちゃったりする。それがまた、何とも言えないほど可愛い。昔から僕はかなのミスに突っ込むのが好きだった。いつもはそんなことしない分いっそう、ミスした時の動揺っぷりが激しいのだ。

「て、手伝ってくれるんですか?というか香奈ちゃん日直の仕事延びちゃってたんですかぁ。なら仕方ないかな。って、あーーーっ!!」

「危ない、危ない!はい、よっと。ほら僕がこのままこっち側持つから。」

 僕に話しかけられたせいで気が抜けたのか、その女の子が抱えていた棒を落としそうになったので僕はそれを支えた。

「すいません、ありがとうございます!助かります!弓道場までなんですけど、本当にお手伝いお願いしてよろしいですか?」

「あー、いいよいいよ何処へでも。男の方が力持ちなんだから気にしないで。って、弓道場!?弓道場に行くの!?」

 弓道場という言葉を耳にして、今まで自分がしようとしてたことを思い出した。そうだ。僕は弓道場に五時半までに行かなければならないのだった。

「どうしたんですか?なんかダメでしたか?ものすごい、弓道場って単語に反応してますけど」

「いや、僕も弓道場に行きたいと思ってたところでさ。弓道場の場所知ってる人に会えて良かったよ。タイムリーすぎて少しびっくりしちゃっただけ」

 そうだ。本当に驚いた。僕ってもしかして幸運に恵まれた男なのかもしれないと思った。だって、こんな広い学校で偶然、出会うことができてしまうくらいなのだから。

「あー、もしかして新入部員ですか?私も新入部員なんですよ!」

「まあ、そんなところかな。ところで、僕、部活始まる五時半までに入部届け出さなきゃいけないんだけど、間に合うかな?まだ入部届け出してなくてさ」

 とりあえずの自分の状況をその女の子に伝えてみる。

「五時半には間に合いませんよ!?ここから10分弱はかかります。弓道場って敷地の本当隅のほうにありますから。というか、まだ出してなかっったんですか?」

「うそ…。もう間に合わないじゃん!5時25分過ぎちゃってるよ…。今日までかけて悩んだりしなければ良かった!また怒られるよ!」

 返ってきたのは、死刑宣告と対して変わらないものだった。というかこのままでは今日中に入部できないかもしれない。しかし、彼女の次の言葉に僕は救われた。

「でも多分大丈夫ですよ。だってこれを弓道場に運び込まないと部活始められないですから。弓道場に今一緒に行ってその時入部届けを出せば、ギリギリセーフになると思います」

「えっ?そうなの!? なんかずるいような気もするけど…。はぁ〜、良かった〜、助かったのかな?」

 なんだかよく分からないこの棒は何やら旧道に必須の重要なものらしい。何はともあれ、部活が始まっていないということなら入部届けを出すことができる。

 僕の問題が解決可能とわかったところで僕たちはやっと弓道場に向かって歩き出した。

 その女の子と、学校生活はどうだとかあの先生は好きだ嫌いだととりとめのないことを話しながら歩いてしばらくすると、後ろの方から聞き覚えのあるしかしながらいつもと様子が違う声が聞こえてきた。

「ごめ〜〜ん‼︎あやねちゃん、本当にごめ〜〜〜ん‼︎あーっ、もうどうしよ〜!」

 友達との約束をついに思い出したのだろうか。とても、尋常じゃない位慌てた香奈だった。僕がいるということの認識すらできていないのだろう。隣のあやねと呼ばれた女の子に向かって一直線に走ってきた。まあ、香奈の中では僕はもうとっくに弓道場についているのだから仕方ないか。というかこちらの女の子の名前はあやねっていうのか。などと考えつつ、あれやこれやと、謝罪の言葉を口にしているなかなか見れないレアな香奈の様子を見守っていた。

 香奈が僕に気づいたのは五分くらいしてからで、僕に気づいた香奈はこれまたものすごい動揺した。「弓道場に行ったんじゃなかったの?」とか「なんであやねちゃんといっしょにいるの?」とかつぶやいていた。いつもと違う香奈は本当に可愛かった。

 

 

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