オリ主が神里綾華お嬢様からいい感じの重たい感情を向けられるだけのお話   作:第一第二第三降臨者

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隊士と神里家

「では、久次郎さん。失礼しますね」

 

 キラキラとした笑顔がまぶしい。

 

「いえ、その、綾華殿…自分で食べれますので…」

「どうかご無理をなさらないでください。それと、私の事はどうぞ綾華とお気軽にお呼びください。敬語もいりません」

「は、はあ…」

 

 これは一体どういう事だろう?

 

 俺は今、混乱の渦中にいた。

 

 目が覚めると見知らぬ屋敷。誰かいないかと扉を開けると俺が助けた美少女と丁度鉢合わせになり、目を覚ましたことを喜ばれつつ『ご無理をなさらないでください』と笑顔で布団の中に押し戻された。

 

 そして始まったのは美少女による甲斐甲斐しいお世話の日々だった。医者を呼ばれ身体を診させてもらったり、身体の汗を拭いてもらったり。

 

 今は持ってきてもらった食事を、その美少女…神里綾華さんの手ずから俺の口に運ばれようとしている。

 

 ここにやってきて早数日が経過しており、その間は前述のとおり医者の世話になったり、神里家の当主という神里綾人というトンデモ和服を身に着けた長身イケメンと、神里家の家司のトーマという金髪イケメンに感謝の念を伝えられたりもしたが、正直すぐそばに美少女がぴったり張り付いて離れない状況に話がまるで入ってこなかった。

 

 むしろ神里綾人殿も非常に困っていたように思う。眉がちょっと下がってたし。

 

 トーマ殿に関しては常にニコニコしていて良く分からん。恩人殿!ってめっちゃ気さくに接してくれるので悪い人ではないと思うのだが。

 

 そして最も大きな問題は、この時神里綾人殿から信じられない話を聞いてしまったことである。

 

 俺が鬼殺をしていたのは、東京の都会から離れた田舎の地方だった筈だ。だからこそ、この神里家はその辺りの元豪族か何かなのだと思っていた…のだが。

 

 話を聞いてみれば、ここはテイワットと呼ばれる大陸にある国の一つ、『稲妻国』という場所らしいのだ。

 

 日本という国は聞いたことが無い、東京という場所の事も知らない。鬼殺隊についても寡聞にして聞いたことが無い。そんなことを神里綾人殿から聞かされ、俺は当たり前だが愕然とした。

 

 鬼滅の刃の世界に転生して、モブ隊士として生きてきたのに、今度は異世界転移?展開が謎過ぎて全く訳が分からん。

 

 ちなみにこの世界は元素と呼ばれる、魔力に近い力を持った魔法使いの様な存在がいるらしい。実際に見せてもらったが、綾人殿は当たり前のように何もない空中でボーリング程の水球を生み出して見せてくれた。水の無い空間でこれほどの水遁を…!?と驚いたのも無理はあるまい。

 

 確かに血鬼術のようにまがまがしい感じはしないし、本当に魔法のようなものだった。俺はソレで確信したのだ。今俺がいるこの場所は、異世界なのだということを。

 

 正直何が起きているのか全く分からない。状況が呑み込めない。何故俺は急に異世界に迷い込んでしまったのか。果たして元の場所に帰れるのか。

 

 そして、それはそれとしてこの綾華殿の無限お世話編はいつ終わるのか。

 

「あの、綾華殿」

「綾華と」

「…じゃあ綾華さんと」

「…」

「わ、分かった。綾華。綾華と呼ぶから、泣くのは辞めてくれ」

「…!はい!」

 

 涙目になったと思ったら、すぐに輝くような笑顔になった。ええい、なんだこの子は!可愛い!守れてよかった!

 

 …くそ、女には耐性無いんだよ俺は。前世は普通にモテなかったし、今世は鬼殺隊の隊士として労働に勤しんでてそんな暇なかったし。

 

 俺は何とか動揺を隠して、話しかけることに成功した。

 

「綾華…は、鬼という存在を聞いたことはあるか?」

「鬼…ですか?そうですね…お兄様の知り合いに、鬼族の方がいらっしゃったはずですが」

「…鬼族?」

「ええ。なんでも妖怪の血を引いた稀有な出自の方だとか。私は実際にお会いしたことはありませんが、お兄様が彼について話す時はいつも微笑んでいらっしゃるので悪い方ではないと思っております」

 

 なる、ほど。つまりその鬼は、どうやら俺の知る鬼とは全く違う存在らしい。俺は少し思案して、また尋ねてみた。

 

「それ以外に、人食い鬼とかについて聞いたことは?」

「人食い鬼、ですか?そのような言葉は、噂でも耳にしたことはありませんが…」

「人を食ったり、不死身だったり、太陽の光に当てないと絶対死ななかったりするんだが、聞いたことは…」

「そ、そのような恐ろしい存在、聞いたこともありません」

 

 神里家は稲妻国の中枢的な家系だとトーマ殿から聞いていた為、知っていてもおかしくないと思ったのだが…帰ってきた言葉は、まあ想定内のものだった。

 

 人食い鬼がいない。それはつまり、俺の鬼殺隊としての使命が果たせないという事になる。

 

 …うーん、どうしよう、コレ。

 

 ぶっちゃけ、鬼がいないかもしれない世界に来れたのは俺にとっては普通にうれしい事だ。死ぬ危険がめっちゃ減るし、肩の荷が下りる。

 

 でも、同時に俺は、鬼一匹を倒すことでどれだけの数の人々が救われる事になるのかを知っている。俺がいくら一般モブ隊士とは言え、自分勝手に逃げ出していい職場ではないのだ。

 

 とはいえ、どうしようもないのが現実なのだが…はあ。

 

「…お兄様から聞きました。久次郎さんは、遠い場所から不慮の事故で来られたのだと」

「え?あ、ああ…そうだな。そうとも言える」

「帰りたいと…お思いになりますか?」

 

 丁度悩んでいた所を突かれて、俺は言葉に詰まった。

 

「…帰りたい、というよりも、帰らなければという思いの方が強い。こうしている間にも、沢山の人が亡くなってるんだ。俺が帰る事で一人でもそういう人が減らせるのなら、絶対そうするべきだ」

 

 鬼滅の刃が、俺にとって創作の物語のままだったらここまで悩んでなかった。でも実際に生きてみて、鬼に家族や恋人を殺され、地獄のような現実を生きる人々を目の当たりにしてしまっては、所詮は創作の世界の話だから、と割り切る事などできようはずもなかった。

 

「…教えてください。貴方の故郷では、一体何が起こっていたのですか?」

「そう、だなあ…まあ、教えてもいいか」

 

 本来なら絶対ダメなのだが、異世界でまで秘密にしておく必要もないだろう。

 

 俺は、自分の国に人食い鬼が存在しており、それを討伐するべく鬼殺隊と呼ばれる組織に所属し、日々鬼と戦っていた事を明かした。

 

「…そういう感じで、気が付いたらこの場所にいたんだ。多分俺が倒した鬼の血鬼術の所為なんだろうけど…」

「そんなことが…」

 

 沈痛な面持ちで顔を伏せる綾華殿に、俺はぎょっとした。

 

「だ、だけどほら。そのお陰で綾華殿を助ける事が出来たんだから、プラマイゼロっていうか、なんていうか…」

「ぷらまい?」

「差し引き無しってことだ。綾華殿みたいな可愛らしいお嬢さんを助けることができたんだから、結果良しだ。だろ?」

「…っ!?」

 

 あ、顔が真っ赤になった。リンゴみたいだ。あれ、俺何かヤバい事言ったか?焦って何も思い出せん。

 

「か、可愛いだなんて、そそそそんな…!」

「あ、あー…悪い。出会って数日の男にそんな事言われても、気持ち悪かったよな…」

「そ、そんな事ないです!その、全然大丈夫ですので!ただ、言われ慣れてなくて、驚いただけですので!」

「そ、そうか?ならよかった」

 

 それにしては真っ赤だが、まあ本人がそういうのだからよほど言われ慣れてなかったのだろう。

 

「こほんっ…わ、分かりました。そういう事でしたら、貴方が元の国に帰れるように私も微力ながら協力させていただきます」

 

 空気を変えるための咳ばらいを一つ挟み、綾華殿は俺をまっすぐ見てそう言った。予想外の言葉に思わず言葉を詰まらせる。

 

「それはありがたいが…綾華殿も神里家の顔役としての仕事や、事務があるんじゃないか?」

「私の事は綾華とお呼びください。…心配はいりません。私とて神里家の一員。忘恩の誹りを受ける訳には参りませんから」

「でも、俺も行き倒れた所を助けてもらったし…」

「その程度でこのご恩に報いることができたとは思っておりません」

 

 先ほどの慌てようからは一転、凛としたたたずまいでそう宣言される。そこまで言われれば俺もその気持ちを無下にすることなどできない。

 

「分かった。そういう事なら、ありがたく力を貸していただく。…でもタダ飯食らいになるつもりはないし、代わりに俺に出来ることがあったら何でも言ってくれ」

「はい、久次郎さん!」

 

 その後、綾人殿にも話が行き、俺は用心棒として神里家に雇われる事となった。

 

 しかし、仕方ないとはいえこんな可愛い子と同じ屋根の下で暮らすのか…ぶっちゃけ異世界生活よりもそっちの方が俺的には緊張する。

 

 さて、前世も含めて我ながら訳の分からない人生だが、これから先どうなる事やら…。




思った以上の読者さんに読んでいただいたようで恐縮です。
続きを書くつもりは無かったのですが、高評価していただいたのに書かないのも不義理かなと思い挑戦してみる事にしました。
恋愛小説はこれが処女作ですので、出来に関してはあまりご期待なさらないようお願いします。
不定期亀更新ですが、ソレでもよろしければお付き合いくださいませ。

それではまたお会いできる日まで かしこ
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